この前の夜とは全く違った。
意地悪をされることもなかったし、キツイ言葉を吐かれることもなかった。
榛名はひたすら英人を絶頂の世界へと導いた。
前回だって快感を与えてくれるまでの優しさと巧さに驚かされたが、それが最後まで続いたのだ。
違ったことはもう一つあった。これまで一度も触れることがなかったのに、まるで恋人同士が交わすような熱い口づけを幾度も贈られた。
英人は何度も何度も爆ぜ、出るものだって尽きてなくなるほどだった。喘がされて、喉も痛くて、いくら啼いたのか振り返りたくなかった。
最後は、もうこの腕の中に堕ちてしまおうと思うくらい、憔悴しきってそのまま闇の中に落ちた。
身体だけはまさに『最高の夜』だった。
朝目が覚めた時、やはり榛名の姿はなかった。自分の身体も綺麗にされていた。
消えていたのは榛名だけではなく、元樹にもらったはずの名刺も見ることができなかった。
榛名が処分したことはすぐに分かった。
もう会えないのではないかという淋しさで、心臓が痛くなった。
昨夜の会話が頭の中に、交互に蘇った。
榛名から告げられた『身体ごと買ってやる』と、元樹に囁かれた『英人を大事にする』のふたつ。
…逢いたい…。大事にされたい…。
小さな頃からまともに親に相手をしてもらえなかった英人は、人肌をものすごく求めていた。
年を重ねるごとに、『寝る』という行為でそれを補ってきたが、改めて告白をされれば心まで満たしてほしいという願いが生まれる。
榛名は違う…。
どれだけ快感の波をもらって身体が満足しても、心の隙間までは埋めてくれない。
それでも逆らうことなどできなかった。榛名は何でも与えてくれた。
身を焦がすような快楽も、まともな明るい将来も。
必ずどちらかが捨てられるのだ。どちらを求めたらいいのだろう。
英人は分からずに泣いた。涙がとめどなく溢れて嗚咽が零れた。
元樹の愛を受けることはできないのだろうか。本当に彼は待ってくれるのだろうか…。
あれほどしっかりとした身なりをしていたのだ。相手に不自由もしていないだろう。
それに卑しい身分の自分を改めて知ったら、汚らわしいと嫌がられるかもしれない。
色々な思いが脳裏を駆け巡っていった。
その日は何も描く気になれなかった。身体が疲れ切っていたのもあるが、気分がとにかく落ち込み過ぎていて筆を取れなかった。
見るともなくテレビを見て、お昼には気分転換をしようと近くの公園にも出かけてみた。
寄り添う男女が仲良くお弁当を食べている姿を視界に入れてしまって、更に落ち込んだ。
不貞寝でもしようかと、部屋に戻るとちょうどルームキーパーの女性が清掃に来ていた時だった。
「あ、ごめんなさい」
思わず英人は扉を閉じようとした。
「いえ、大丈夫です。お入りなってください」
明るい声に促されるように部屋に入った。
いつも見る女性だった。この部屋の管理はこの女性に任されているらしく、他の人間は見たことがない。
利発そうでいつも明るい笑みを浮かべている。肩ほどまで伸ばした髪を後ろで一つに縛り、薄化粧を施しただけの慎ましい人だった。
決して英人の制作の邪魔をしないようにと、行動は常にテキパキとしている。
まるで英人の行動を観察するかのように見事にこなされる仕事には感心するしかない。
一日中この部屋に籠ることもあれば、今日のように不意に出かけることもある。その時間を見逃していないのだ。
彼女は最後にゴミ箱の中身を捨てていた。パラパラと紙片が落ちていく。
英人が書き損じたラフは大概丸められていて、切られることはない。
「ちょっと待って!」
英人は何かを見つけたかのように、彼女の手を止めていた。
にほんブログ村
よければポチッとしていってくださいナ…
今気付いたけど、この女性は、すっごく汚れたシーツとか見ているんですよね…。
私だったら間違いなく妄想の世界だ。
意地悪をされることもなかったし、キツイ言葉を吐かれることもなかった。
榛名はひたすら英人を絶頂の世界へと導いた。
前回だって快感を与えてくれるまでの優しさと巧さに驚かされたが、それが最後まで続いたのだ。
違ったことはもう一つあった。これまで一度も触れることがなかったのに、まるで恋人同士が交わすような熱い口づけを幾度も贈られた。
英人は何度も何度も爆ぜ、出るものだって尽きてなくなるほどだった。喘がされて、喉も痛くて、いくら啼いたのか振り返りたくなかった。
最後は、もうこの腕の中に堕ちてしまおうと思うくらい、憔悴しきってそのまま闇の中に落ちた。
身体だけはまさに『最高の夜』だった。
朝目が覚めた時、やはり榛名の姿はなかった。自分の身体も綺麗にされていた。
消えていたのは榛名だけではなく、元樹にもらったはずの名刺も見ることができなかった。
榛名が処分したことはすぐに分かった。
もう会えないのではないかという淋しさで、心臓が痛くなった。
昨夜の会話が頭の中に、交互に蘇った。
榛名から告げられた『身体ごと買ってやる』と、元樹に囁かれた『英人を大事にする』のふたつ。
…逢いたい…。大事にされたい…。
小さな頃からまともに親に相手をしてもらえなかった英人は、人肌をものすごく求めていた。
年を重ねるごとに、『寝る』という行為でそれを補ってきたが、改めて告白をされれば心まで満たしてほしいという願いが生まれる。
榛名は違う…。
どれだけ快感の波をもらって身体が満足しても、心の隙間までは埋めてくれない。
それでも逆らうことなどできなかった。榛名は何でも与えてくれた。
身を焦がすような快楽も、まともな明るい将来も。
必ずどちらかが捨てられるのだ。どちらを求めたらいいのだろう。
英人は分からずに泣いた。涙がとめどなく溢れて嗚咽が零れた。
元樹の愛を受けることはできないのだろうか。本当に彼は待ってくれるのだろうか…。
あれほどしっかりとした身なりをしていたのだ。相手に不自由もしていないだろう。
それに卑しい身分の自分を改めて知ったら、汚らわしいと嫌がられるかもしれない。
色々な思いが脳裏を駆け巡っていった。
その日は何も描く気になれなかった。身体が疲れ切っていたのもあるが、気分がとにかく落ち込み過ぎていて筆を取れなかった。
見るともなくテレビを見て、お昼には気分転換をしようと近くの公園にも出かけてみた。
寄り添う男女が仲良くお弁当を食べている姿を視界に入れてしまって、更に落ち込んだ。
不貞寝でもしようかと、部屋に戻るとちょうどルームキーパーの女性が清掃に来ていた時だった。
「あ、ごめんなさい」
思わず英人は扉を閉じようとした。
「いえ、大丈夫です。お入りなってください」
明るい声に促されるように部屋に入った。
いつも見る女性だった。この部屋の管理はこの女性に任されているらしく、他の人間は見たことがない。
利発そうでいつも明るい笑みを浮かべている。肩ほどまで伸ばした髪を後ろで一つに縛り、薄化粧を施しただけの慎ましい人だった。
決して英人の制作の邪魔をしないようにと、行動は常にテキパキとしている。
まるで英人の行動を観察するかのように見事にこなされる仕事には感心するしかない。
一日中この部屋に籠ることもあれば、今日のように不意に出かけることもある。その時間を見逃していないのだ。
彼女は最後にゴミ箱の中身を捨てていた。パラパラと紙片が落ちていく。
英人が書き損じたラフは大概丸められていて、切られることはない。
「ちょっと待って!」
英人は何かを見つけたかのように、彼女の手を止めていた。
にほんブログ村
よければポチッとしていってくださいナ…
今気付いたけど、この女性は、すっごく汚れたシーツとか見ているんですよね…。
私だったら間違いなく妄想の世界だ。
| ホーム |