甲賀は伊吹と信楽の関係のことを今更突いてくることはない。
送られてきた荷物の少なさには、その当時苦労したであろう伊吹の姿が映し出されたし、どこまでも見守ってくれる信楽の態度に少々の不満は覚えても、綺麗に切り離された存在であり、あくまでも”過去”のものだと認めてくれていた。
お互い付き合った相手なんて何人もいるのだろうし、奪う形になった甲賀に隠すものもない。
分かってはいても、それが甲賀に引っ越しをさせる焦りに変えさせた。
完全な形で、伊吹の私生活を、信楽の知らない場所に移したかったのだ。
住所を知らせたその時点で、伊吹が暮らす場所を信楽が知っているのだと…。
伊吹は反対もしなかった。
知り合いが勤める不動産屋に”ルームシェア”というかたちで手頃な部屋がないかと尋ねてみる。
営業で何度も訪れたことがあるところだったから話も世間話のように進んだ。
伊吹が本気で物件を求めていることを知って、改めて驚かれたくらいだった。
窓口にいた営業社員でもある背丈の大きくない男が目を見開く。まだ20代の男だが、伊吹を同年代としか思っていないのは、触れあう態度でなんとなく知れる。
この男も結構な”可愛い”部類に入るだろうと、伊吹は内心で思っていたが、もちろん本人に伝えることはない。
「多賀さんっ、口、軽すぎっ。冗談かと思ったっ。あー、紹介できる物件あるしっ」
仕事に一生懸命になる姿は心地良いくらいだが…。
同じ営業同士、弱みはあっても妥協したくない点はいっぱいある。
何枚も印刷された物件情報をカバンにしまっていく。
出すばかりの保険案内とは逆の流れだった。
「うーん。相手と相談してみるよ」
「うち以外の不動産屋で契約しないでくださいよ~っ」
伊吹がサラリと営業トークに近い口調を向ければ、切羽詰まったような声が響き渡る。
そこの余裕さは培ってきた年の違いか…。
「俺の紹介以外の保険契約、取らないでくれたらね」
「………」
かなり厳しいやり取りが社内で繰り広げられていたりする。
ふふふっと綺麗な笑みを浮かべたのは伊吹のほうだった。
もちろん伊吹としては冗談でもあったのだけれど。
どんな何があったとしても選ぶのは顧客のほうなのだ。事細かな説明はできても、最終的な決定権は相手側にある。
それは今の伊吹も同じことだろう。
ただ、今の伊吹の場合、面倒事を避ける甲賀を知るから、実権は伊吹にあるといってよかった。
つまり、伊吹の今後の営業に困らない運びにもっていくことができる。
こんなところまで仕事に結びつけてしまうのは悲しい性だったりするが…。
夜、家に帰って甲賀に物件の話をすれば、案の定、甲賀は「伊吹の好きにしていい」という反応だった。
職場から遠ざかるわけでもない、家賃も手頃なもので、近所にある生活圏は不便もない。
こういった細かいことを見るのは伊吹の得意分野といえるのか、反論する部分が浮かばない甲賀といった感じだ。
言ったところで、口で言い負かされるところもあると思っているのか、細かいことに口出ししてくる甲賀ではない。
そんなところも伊吹らしくいられる空間であった。
好きに生きられる場所がここにはある。
何も言われないのは、信楽との生活の二の舞を生むようで怖くもあったけれど…。
ただ、信楽と甲賀には明らかな違いがあった。
甲賀は不満をため込むことはない。
要所要所で感情をぶつけてくる甲賀には、伊吹のほうが安心してしまうくらい。
直接言われることは、痛くあっても嬉しいものなのだと知る。
想いを素直に打ち明けられること…。
伊吹と甲賀の引っ越しは時間をおかずに決まった。
伊吹の意見を全面的に取り入れたのは、甲賀なりのプライドもあるのかと思ってしまう。
そんなふうに無理をさせたくはないと伊吹は思うのだが、歳の差はどこかで考えさせるものを生むのだろうか。
引っ張っていってくれる力を持ちながら、委ねてくれる甘さは共に生きる”息”を感じさせてくれる。
上下などない。同じ時空を味わうもの。
3LDKのマンションだった。お互いのプライベートルームを持ちながら、寝室として一つの部屋を設けている。
甲賀は引っ越しと同時に今まで使っていたセミダブルのベッドを捨てた。
その代わりにキングサイズか?!と思うような大きなベッドを購入していた。
ここに伊吹の意見は加えられていないところが…。甲賀らしいと言えるのか…。
伊吹のプライベートルームにベッドを持ちこむことは許されなかった(もともと持っていなかったけど)。
どれだけ喧嘩をしても、肌を触れあわせれば仲直りができる…、というのが、甲賀の持論らしい。
どこまで正しいかは疑問だが、夜、離れて眠りたい伊吹でもなかった。
そばにいられる…。不思議と、それだけで幸せを感じてしまえるのだ。
喧嘩をするかどうかはともかく…。
喧嘩なんてしたくないのが伊吹の心境で、甲賀が逃げて行かないようにと構えてしまう時。
初めて信楽が抱えた感情が見えた気がした。
怖くて何も言えなくなる…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
送られてきた荷物の少なさには、その当時苦労したであろう伊吹の姿が映し出されたし、どこまでも見守ってくれる信楽の態度に少々の不満は覚えても、綺麗に切り離された存在であり、あくまでも”過去”のものだと認めてくれていた。
お互い付き合った相手なんて何人もいるのだろうし、奪う形になった甲賀に隠すものもない。
分かってはいても、それが甲賀に引っ越しをさせる焦りに変えさせた。
完全な形で、伊吹の私生活を、信楽の知らない場所に移したかったのだ。
住所を知らせたその時点で、伊吹が暮らす場所を信楽が知っているのだと…。
伊吹は反対もしなかった。
知り合いが勤める不動産屋に”ルームシェア”というかたちで手頃な部屋がないかと尋ねてみる。
営業で何度も訪れたことがあるところだったから話も世間話のように進んだ。
伊吹が本気で物件を求めていることを知って、改めて驚かれたくらいだった。
窓口にいた営業社員でもある背丈の大きくない男が目を見開く。まだ20代の男だが、伊吹を同年代としか思っていないのは、触れあう態度でなんとなく知れる。
この男も結構な”可愛い”部類に入るだろうと、伊吹は内心で思っていたが、もちろん本人に伝えることはない。
「多賀さんっ、口、軽すぎっ。冗談かと思ったっ。あー、紹介できる物件あるしっ」
仕事に一生懸命になる姿は心地良いくらいだが…。
同じ営業同士、弱みはあっても妥協したくない点はいっぱいある。
何枚も印刷された物件情報をカバンにしまっていく。
出すばかりの保険案内とは逆の流れだった。
「うーん。相手と相談してみるよ」
「うち以外の不動産屋で契約しないでくださいよ~っ」
伊吹がサラリと営業トークに近い口調を向ければ、切羽詰まったような声が響き渡る。
そこの余裕さは培ってきた年の違いか…。
「俺の紹介以外の保険契約、取らないでくれたらね」
「………」
かなり厳しいやり取りが社内で繰り広げられていたりする。
ふふふっと綺麗な笑みを浮かべたのは伊吹のほうだった。
もちろん伊吹としては冗談でもあったのだけれど。
どんな何があったとしても選ぶのは顧客のほうなのだ。事細かな説明はできても、最終的な決定権は相手側にある。
それは今の伊吹も同じことだろう。
ただ、今の伊吹の場合、面倒事を避ける甲賀を知るから、実権は伊吹にあるといってよかった。
つまり、伊吹の今後の営業に困らない運びにもっていくことができる。
こんなところまで仕事に結びつけてしまうのは悲しい性だったりするが…。
夜、家に帰って甲賀に物件の話をすれば、案の定、甲賀は「伊吹の好きにしていい」という反応だった。
職場から遠ざかるわけでもない、家賃も手頃なもので、近所にある生活圏は不便もない。
こういった細かいことを見るのは伊吹の得意分野といえるのか、反論する部分が浮かばない甲賀といった感じだ。
言ったところで、口で言い負かされるところもあると思っているのか、細かいことに口出ししてくる甲賀ではない。
そんなところも伊吹らしくいられる空間であった。
好きに生きられる場所がここにはある。
何も言われないのは、信楽との生活の二の舞を生むようで怖くもあったけれど…。
ただ、信楽と甲賀には明らかな違いがあった。
甲賀は不満をため込むことはない。
要所要所で感情をぶつけてくる甲賀には、伊吹のほうが安心してしまうくらい。
直接言われることは、痛くあっても嬉しいものなのだと知る。
想いを素直に打ち明けられること…。
伊吹と甲賀の引っ越しは時間をおかずに決まった。
伊吹の意見を全面的に取り入れたのは、甲賀なりのプライドもあるのかと思ってしまう。
そんなふうに無理をさせたくはないと伊吹は思うのだが、歳の差はどこかで考えさせるものを生むのだろうか。
引っ張っていってくれる力を持ちながら、委ねてくれる甘さは共に生きる”息”を感じさせてくれる。
上下などない。同じ時空を味わうもの。
3LDKのマンションだった。お互いのプライベートルームを持ちながら、寝室として一つの部屋を設けている。
甲賀は引っ越しと同時に今まで使っていたセミダブルのベッドを捨てた。
その代わりにキングサイズか?!と思うような大きなベッドを購入していた。
ここに伊吹の意見は加えられていないところが…。甲賀らしいと言えるのか…。
伊吹のプライベートルームにベッドを持ちこむことは許されなかった(もともと持っていなかったけど)。
どれだけ喧嘩をしても、肌を触れあわせれば仲直りができる…、というのが、甲賀の持論らしい。
どこまで正しいかは疑問だが、夜、離れて眠りたい伊吹でもなかった。
そばにいられる…。不思議と、それだけで幸せを感じてしまえるのだ。
喧嘩をするかどうかはともかく…。
喧嘩なんてしたくないのが伊吹の心境で、甲賀が逃げて行かないようにと構えてしまう時。
初めて信楽が抱えた感情が見えた気がした。
怖くて何も言えなくなる…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
甲賀は甲賀なりに 伊吹は伊吹なりに 互いの想いを大事にし 互いの意見を尊重してて いい感じ~♪
(´-ω-`)ウーン・・・だけど まだ 遠慮がある気がするなぁ
まぁ 時間と共に それも減って行くでしょうが。。。?
(○ゝω・)b⌒☆NE!...byebye☆
横レス、失礼(*_ _)人ゴメンナサイ
ちーさん、関西在住の私は、中々身軽に(体重&環境も含めて)東京まで行けないの~(泣)
それに ”BL関係”本は、家に置けないので どの作家様の本は買えない~!。゚(*ノДノ)゚。わ~ん
(´-ω-`)ウーン・・・だけど まだ 遠慮がある気がするなぁ
まぁ 時間と共に それも減って行くでしょうが。。。?
(○ゝω・)b⌒☆NE!...byebye☆
横レス、失礼(*_ _)人ゴメンナサイ
ちーさん、関西在住の私は、中々身軽に(体重&環境も含めて)東京まで行けないの~(泣)
それに ”BL関係”本は、家に置けないので どの作家様の本は買えない~!。゚(*ノДノ)゚。わ~ん
伊吹さん、可愛いなあ。
初めて恋したみたい。
あ、そんなもんでしたね。
けんかって、悪くないんですよね。
けんかして、仲直りしてけんかして。
繰り返していくと絆が深まります。
けんかできないのはダメなんだよ、
伊吹さん。だから、甲賀の意見は正しいと思います。
きえさま、伝言板代わりにして、ごめんなさい。
けいったんさま。
残念です。関西にお住まいでしたか。
私は、この道に連れてきてくれた人に隠し場所を教わりました。
でも、お気持ちお察しします。
初めて恋したみたい。
あ、そんなもんでしたね。
けんかって、悪くないんですよね。
けんかして、仲直りしてけんかして。
繰り返していくと絆が深まります。
けんかできないのはダメなんだよ、
伊吹さん。だから、甲賀の意見は正しいと思います。
きえさま、伝言板代わりにして、ごめんなさい。
けいったんさま。
残念です。関西にお住まいでしたか。
私は、この道に連れてきてくれた人に隠し場所を教わりました。
でも、お気持ちお察しします。
けいったん様
こんばんは。
> 甲賀は甲賀なりに 伊吹は伊吹なりに 互いの想いを大事にし 互いの意見を尊重してて いい感じ~♪
>
> (´-ω-`)ウーン・・・だけど まだ 遠慮がある気がするなぁ
> まぁ 時間と共に それも減って行くでしょうが。。。?
> (○ゝω・)b⌒☆NE!...byebye☆
いい感じになっているんですかね~。
まだまだのところはあるかもしれませんが、徐々に埋められていくと思います。
ふたりの努力を見ていきましょう(←)
> 横レス、失礼(*_ _)人ゴメンナサイ
> ちーさん、関西在住の私は、中々身軽に(体重&環境も含めて)東京まで行けないの~(泣)
> それに ”BL関係”本は、家に置けないので どの作家様の本は買えない~!。゚(*ノДノ)゚。わ~ん
好きに掲示板代わりに使ってやってください。
家の中にBL関係置けないって、なんだか分かります…。
とはいえ、私は、その辺に放置してますけどね。
(TVの横にBL小説が積み重なっていたりします…)
めげずに、PCの中で楽しんでください!!
頑張って書きます。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> 甲賀は甲賀なりに 伊吹は伊吹なりに 互いの想いを大事にし 互いの意見を尊重してて いい感じ~♪
>
> (´-ω-`)ウーン・・・だけど まだ 遠慮がある気がするなぁ
> まぁ 時間と共に それも減って行くでしょうが。。。?
> (○ゝω・)b⌒☆NE!...byebye☆
いい感じになっているんですかね~。
まだまだのところはあるかもしれませんが、徐々に埋められていくと思います。
ふたりの努力を見ていきましょう(←)
> 横レス、失礼(*_ _)人ゴメンナサイ
> ちーさん、関西在住の私は、中々身軽に(体重&環境も含めて)東京まで行けないの~(泣)
> それに ”BL関係”本は、家に置けないので どの作家様の本は買えない~!。゚(*ノДノ)゚。わ~ん
好きに掲示板代わりに使ってやってください。
家の中にBL関係置けないって、なんだか分かります…。
とはいえ、私は、その辺に放置してますけどね。
(TVの横にBL小説が積み重なっていたりします…)
めげずに、PCの中で楽しんでください!!
頑張って書きます。
コメントありがとうございました。
ちー様
こんばんは。
> 伊吹さん、可愛いなあ。
> 初めて恋したみたい。
> あ、そんなもんでしたね。
> けんかって、悪くないんですよね。
> けんかして、仲直りしてけんかして。
> 繰り返していくと絆が深まります。
初めて恋した…って、たぶん、本当に、初めて恋しているんです。
だから喧嘩も怖いんでしょうね。
ウブだなぁ。
絆、深まっていってほしいですね。
> けんかできないのはダメなんだよ、
> 伊吹さん。だから、甲賀の意見は正しいと思います。
ちー様、いいとこ、つきますねぇ。
そう。喧嘩しないとねぇ(推薦するわけじゃないけど)
伊吹も今までとは違うなにかを感じとると思います。
> きえさま、伝言板代わりにして、ごめんなさい。
>
> けいったんさま。
>
> 残念です。関西にお住まいでしたか。
> 私は、この道に連れてきてくれた人に隠し場所を教わりました。
> でも、お気持ちお察しします。
お好きに~~~。
ちー様の隠し場所ってどんなところですか?(←ちょっとした疑問)
皆様どうやって隠しているんだろう…。
つか、どうしてこの道に入ったのか、そこから疑問形だったりしますが…。
皆様の過程を知りたくなりました。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> 伊吹さん、可愛いなあ。
> 初めて恋したみたい。
> あ、そんなもんでしたね。
> けんかって、悪くないんですよね。
> けんかして、仲直りしてけんかして。
> 繰り返していくと絆が深まります。
初めて恋した…って、たぶん、本当に、初めて恋しているんです。
だから喧嘩も怖いんでしょうね。
ウブだなぁ。
絆、深まっていってほしいですね。
> けんかできないのはダメなんだよ、
> 伊吹さん。だから、甲賀の意見は正しいと思います。
ちー様、いいとこ、つきますねぇ。
そう。喧嘩しないとねぇ(推薦するわけじゃないけど)
伊吹も今までとは違うなにかを感じとると思います。
> きえさま、伝言板代わりにして、ごめんなさい。
>
> けいったんさま。
>
> 残念です。関西にお住まいでしたか。
> 私は、この道に連れてきてくれた人に隠し場所を教わりました。
> でも、お気持ちお察しします。
お好きに~~~。
ちー様の隠し場所ってどんなところですか?(←ちょっとした疑問)
皆様どうやって隠しているんだろう…。
つか、どうしてこの道に入ったのか、そこから疑問形だったりしますが…。
皆様の過程を知りたくなりました。
コメントありがとうございました。
| ホーム |