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BLの丘
契りをかわして 28
2012-04-03-Tue  CATEGORY: 契り
夕方から雨が降り出した。こんな日は甲賀の帰りも早い。
信楽の元での生活では家事なんてほとんどすることはなかったが、甲賀との暮らしではそういうわけにもいかない。
比べては悪いが、信楽がいかに丁寧にきっちりと家事をこなしていたのか、改めて教えられるところでもある。
幸いにも甲賀は細かい性格ではなかったから、部屋の隅にほこりが溜まっていても気にかけることもなく、伊吹も伸び伸びと生活が送れていた。
「甲賀、夕飯作ってくれるかなぁ…」
会社の事務所に戻り、残務処理を手掛けていた伊吹は、パソコンに向かいながらふと呟いた。
どちらが何の家事をする、などと決められているわけでもなく、気付いた方がやればいいといった具合だ。
甲賀が先に帰っていれば、当然夕食は作ってくれるだろうという甘えが過る。
今の生活になって、家計を逼迫させていたのは食費だった。
その体がものをいうのだろうが、甲賀の食事量は半端なく多かった。食べっぷりの良さは清々しく思えるところでもあったが…。
甲賀が自炊していたのも納得できる。信楽のようにお洒落な料理が出てくることは、まずないが…。そして伊吹自身も作れたりしなかったが…。
信楽に会ってしまったせいだろうか。彼の手料理がなんだか懐かしかった。
手軽にできる料理でも習いたいものだ…とまで思ってしまう。
あとは甲賀に食べさせてやりたい思いだろうか…。
とはいえ、どちらにとっても喜ばしい話ではないだろう。
甲賀は信楽に住所が知られた、ということだけで、引っ越しまでしてしまったくらいだし、信楽がまだ伊吹への想いを残していることを改めて知ってしまった。
仕事以外の理由をもって信楽と付き合い続けるのは得策ではない。

そろそろ仕事を切り上げようかという頃、甲賀から電話が入った。仕事柄、すぐに電話に出る伊吹を知って、メールなんていうまどろっこしいことをしてくる甲賀でもなく、話はその場で解決する。
『伊吹、まだ会社?』
「うん。でも今から帰る」
『今、近くにいるから、待ち合わせて何か食って行かねぇ?』
この時間帯、お互いに脳裏に浮かぶのは同じ話題のようで思わず苦笑が漏れた。
ふたりして、どう横着をしようか考えているところも似ている。
意外だったのは甲賀も家に帰っていなかったことだった。
「甲賀、仕事してたの?」
『してた。ちょっと事務所に寄ったから遅くなっちゃったんだよ』
甲賀の発言には、今から家で調理をすることの面倒くささが表れていた。
お互い働いている者同士、たまにはこんな日があってもいいとは思えることだ。
外回りのおかげで、伊吹のほうがはるかに多くの”安くて美味しいお店”情報がある。それを甲賀と共有するのも悪くない。
仕事帰りという甲賀の格好も想像できた。
スーツで暮らす伊吹にとって、あまり近寄りたくない姿ではあったけれど…。
「わかった。じゃあ…」
待ち合わせ場所を指定して、伊吹も会社を後にした。
思っていたよりも雨の降り方が激しくて、伊吹はこの中を歩き回るより、さっさと家に帰ってしまいたい気分に見舞われる。
だけど夕食を用意する手間を考えると悩める選択肢だった。
伊吹が真っ先に思い浮かべた、甲賀でも満足できる安くて美味しいお店まで距離がある。
スーパーの総菜コーナーでいいじゃん、と脳裏を過ったのはその時だ。
信楽は惣菜なんて買うことはなかったから、すっかり頭から削げ落ちていた。
慌てて甲賀に連絡を入れれば、甲賀も理解を示してくれる。早く家に帰りたいのはどちらも同じようだ。
物の考え方が似ているというのは、非常に過ごしやすい。
憂鬱になりそうな雨の中、再確認できた相性の良さに、伊吹の心は少し晴れたようだった。

スーパーで買い物をして重い荷物になっても甲賀が持ってくれる。
一緒に買い物に出ることなんて滅多にあることでもなく、改めてその便利さに感動していた伊吹だった。
何かあったときには甲賀に頼むのが一番良い。何より、頼りにしているのだ、と思わせることができたから。
このあたりは人をおだてて上手く使う伊吹の性格の勝利といったところか…。
従順な犬のようで可愛くも感じられた。
「今って色々な惣菜が売られているんだね。スーパーなんてあまり来なかったから知らなかった…」
「伊吹ってばどんな生活送っていたわけ?」
数多くの商品から迷う伊吹を見て甲賀が驚く。
信楽を全面的に頼って生活していたことを今更知らない甲賀ではなかったが、その内容まで詳しく語ったりなどしていない。
食材を買いに訪れていた甲賀とは知識量が違いすぎていた。
「べつに…。普通だけど…」
「普通、ねぇ。まぁいいや。昔のことは聞かないでおいてやる」
「言わないでおいてやる」
「そうしてくれ。伊吹と別れる原因になるようなことはゴメンだからな」
半分口調に冗談を含ませた会話をしながら、最終的に確認し合ったのはお互いの想いだった。
甲賀の隣にいる…。そのことがひどく心地よくて、一瞬でも信楽と比較してしまった自分を恥じていた。
過去はあくまでも”過去”なのだ。個人が変わるわけでもない。

外に出るとより一層降り方が強くなったようだった。
「これじゃ、ずぶ濡れだな。伊吹、帰ったら先に風呂に入っちゃおう」
「そうだね。甲賀もその格好じゃあね…」
「人を汚いものみたいに見るなよっ」
「そんなふうに見てないから~」
じゃれあいながら家路につく。ありのままの自分を受け入れてくれる甲賀が嬉しかった。
毎日が楽しいと思えるのは甲賀がいるからこそ…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-04-03-Tue 11:21 [編集]
伊吹~~Σ(-◇-;)
大切な存在なんでしょ、甲賀は!

フラフラ~禁止だからね!
No!( ̄乂 ̄)No!...byebye☆


Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-03-Tue 14:25 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 伊吹~~Σ(-◇-;)
> 大切な存在なんでしょ、甲賀は!
>
> フラフラ~禁止だからね!
> No!( ̄乂 ̄)No!...byebye☆

まだフラフラしているのか~、伊吹~っ…って感じですね。
いや、大丈夫です。
強い甲賀に守られるでしょう。知るでしょう。
(早く終わりにしないとちー様に怒られそうで…笑)
そして繋ぎとめてくれないとねぇ、甲賀も。
がんばれ甲賀(←私が応援してどうするっ)
コメントありがとうございました。
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