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BLの丘
ふたり 7
2012-04-16-Mon  CATEGORY: ふたり
穏やかだった時の流れに緊張が走る。
旭はまたしても、不要な発言をしてしまったのだと気付いた。
黙ってしまった信楽に「あ…」と後悔の表情を浮かべた。あからさまに表される旭の感情は、信楽にとって子供っぽ過ぎるものだろうか…。
伊吹が綺麗に感情を隠していく術を持つ人だとは旭も知っていた。
比べられたら…、伊吹には敵わないと真正面から言われてしまうのだろうか…。

信楽から目の前のコーヒーカップに視線を移す片隅で、ひとつの溜め息をついた姿が見えた。
「高島君は俺と伊吹がどんな関係だったのか知っているんだろう?その上で、ということかな。確かに”過去の関係”であるけれどね。でも申し訳ないけれど、しばらくは誰とも付き合う気にはなれない…」
信楽は旭の告げたい意味を汲み取っていた。
旭だけにとどまらず、かけられる声の多さも理解していて、だからこそ自惚れとまではいかなくても、恋愛ごとに簡単に結び付けられる。
失恋の痛手を負っているからなのか…。すぐに切り替えられない気持ちのことは理解できるけれど…。
全てを拒否してしまう態度に明るい未来を見出せないのかと問いたくなる。
「今はまだ…ってことですか?付き合うとか付き合わないとかじゃなくても、俺、もっと浅井さんのこと、知りたいです。そうやって少しずつ知って、最終的に決断してもらえるのでもいい。俺、今のこの時点で答えを出されたくないです」
旭の必死に縋る態度に信楽は何を思うのか…。
少しでも可能性があるのなら、そこに付け入りたい。
これは”営業根性”に似たものなのだろうか…。

「たまに会ってこういうふうに話をするだけでもいいです。だってまだ出会ったばかりでお互いに何も知らないし、俺のことも知ってほしいし、それで『合わない』って判断されるのだったらそれでも構わないです。でもこんな、知らないままで即断されるのは納得できないです。それとも、今の時点ですでにダメですか?」
食い下がる旭の態度に、信楽には困惑の色が映し出された。
…やはり、迷惑なのだろうか…。
「君の言うことは尤もだけれど、どの誰も恋愛対象にはならない」
「それって、多賀さんのことが忘れられないから?でも多賀さんはもう新しい人生を歩きだしちゃったんだし、浅井さんだって…」
「高島君」
静かに制されて、勢いで話しかけてしまった旭の口が閉じられる。
信楽は感情を露わにはしなかったが、困惑と共に怒りが含まれているのを感じるのは容易かった。
今度こそ、旭は一番突いてはいけない点を口走ったのだ。
「ありがとう。分かっているんだ。また別の問題が俺の中にあるんだよ」
信楽は冷静に、旭を責めることなく話を終わりにしようとする。
『別の問題』…。
さすがにそれを問う気力は、もう旭の中にはなかった。
見つめた信楽は苦々しそうに過去を振り返っているようだった。
癒しかけていたかもしれない傷を抉ったのは確かだった。
「あ…。すみません、俺、出しゃばり過ぎちゃって…」
「自分の気持ちを正直に言えるとはいいことだとは思うけれどね」
これまで数々の暴言を繰り返したはずなのに、相手を”褒める”ことを忘れない信楽を、やっぱり大人だなと感動する。
旭にはどこまでも沈着冷静な信楽の性格に、より一層惹かれている自分を認めざるをえなかった。
それなのに、この結果…。

沈黙が流れたことを、いい頃合いだというように、信楽が会計伝票を手にした。
「あ…っ、俺がっ」
「何言っているの。高島君に支払わせるなんて、俺の立場がないじゃない」
「でもっ」
「こういう時は大人しく『ごちそうさまです』って言える素直さも身につけたほうがいいよ。そう言ってもらえれば気分が良いから」
信楽の手に伸ばした旭をスッとかわされ、さらに諭される。
周りからの視線を考えても、そこは信楽のプライドでもあるのだろう。
『気分が良い』との発言には、これ以上信楽の機嫌を損ねないためにも、旭は言われた通り「ごちそうさまです」と小さく呟いた。
「ほら、笑顔で。その方がずっと可愛いから。…っと、あ…」
信楽も口走った言葉に、一瞬気まずさを浮かべたが、旭はもう今更だと開き直った。
何より、信楽にそう思ってもらえることは嫌ではない。
「いいです。浅井さんに言ってもらえるなら嬉しいですから」
旭の心境の変化を読みとったのか、最初と同じようにふわりと微笑んでくれた。
「君は本当に正直だね」
思ったままに言葉を重ねてしまうこと。
注意すべき点でもあるはずなのに、旭にはなかなか直せそうにないところでもある。

店の外で別れようとして、やっぱり旭は次の約束を欲しがっていた。
「もう会ってもらえませんか?メールとか、電話とか…、あの、そんなに深く考えないで…」
「その根性はさすが”営業さん”と褒めてあげるべきかな」
「う…っ」
フッと笑われて言葉に詰まる。しつこい相手…という意味に聞こえなくもない。
信楽が本当に旭を対象外と見ているのならともかく、少しでも可能性があるのなら、それまで潰してほしくはなかった。
一縷の望みでも残してもらいたい。
俯き、動揺と悔しさを滲ませると、頭上で小さな吐息が聞こえた。
「高島君には悪いけれど、伊吹の友達で…っていうことでいいかな?」
信楽の返事に、旭は内容を幾度も脳内で確認した。
それはつまり…、全く拒絶されているというわけではない…ということ?
「浅井さん…?」
「ただし、仕事中、言い訳を見つけてまで…というのは絶対にダメだから」
「今日みたいな…ってこと?」
「そう。勤務時間中はきちんと仕事をして。公私混同されるのは好きじゃない」
今日の場合、何時間過ごそうが、あくまでも伊吹は『勤務中』にあたるが、会社に言い訳までした信楽との時間は私事に当てはまる。
咎められるのは当然だった。
嫌な所を見せちゃったな…と思いながら、許可がもらえた旭は天にも昇る勢いで心を躍らせた。
「はいっ。約束しますっ」
元気な返事と、全身で表現される『ヨッシャーっ!!』には、クスクスと笑われてしまったけれど…。

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2012年上半期アンケートを貼りました。一日一回です。お待ちしておりまーす。
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コメント

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選べない
コメントちー | URL | 2012-04-16-Mon 05:46 [編集]
信楽さん、伊吹への思いは深く忘れがたいのか。
旭も頑張ってたね。
見た目が似てるから、ダメなのかもね。
(でも、好みだよね?信楽さん)


アンケート、してきました。
悩みますね。みんな、読みたい。
Re: 選べない
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-16-Mon 07:06 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 信楽さん、伊吹への思いは深く忘れがたいのか。
> 旭も頑張ってたね。
> 見た目が似てるから、ダメなのかもね。
> (でも、好みだよね?信楽さん)

まだまだ伊吹が絡んでくるんでしょうかね~。
『伊吹のお友達』…深い意味がありそうです。
(過去にもチロッと信楽と伊吹のことで書いているんですけど気付くかなぁ。←って、改めて私が気付いてまたこじつける気らしい…)
信楽は旭のことをどう思っていくのでしょう。

> アンケート、してきました。
> 悩みますね。みんな、読みたい。

アンケートは一日一回できますから、気分でポチってしてみてください(笑)
コメントありがとうございました。

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