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BLの丘
ふたり 5
2012-04-13-Fri  CATEGORY: ふたり
「あ、あっ、浅井さんっ」
咄嗟に声をかけてしまったのは何故なのか…。
手を伸ばして彼の上着の裾を掴んでしまったくらい引き止めたかったらしい。
驚いたような顔が振り返る。
「うん?」
まさか旭から声をかけられるとは思っていなかったといった感じで、でも話を聞いてくれようとする姿勢が見える。
「あ、あのっ、お時間あるんですか?良かったらもう少しお話を…っ」
「話?」
目をぱちくりさせながら見下ろしてくる視線に、旭ですら何の話がしたいのかと考えてしまうが…。
だけどここでこのまま、一時の暇つぶしで終わるのは嫌だった。
「え、と、…あの…、…その…、そうっ!部屋の綺麗な片付け方とかっ」
ますます疑問に思うのか、信楽の眉間が寄ってくる。
「あっ、じゃあ、俺でも簡単にできる料理レシピとかっ」
必死で縋る旭に、何か思い当たる点でも浮かんだのか、またふわりとした笑みを見せてくれた。
「高島君こそ、時間は大丈夫なの?仕事中なんじゃない?」
「大丈夫ですっ。多賀さんちの御用伺いの時間、ちゃんと取ってあるしっ」
「伊吹の代役か…。…うん、いいよ。会社に戻って無用な仕事を押し付けられても可哀想だからね」
信楽は一瞬複雑な表情を浮かべたが、突然逃げるようにして去ってしまった伊吹のことを思うのか、営業としての仕事を理解するところがあるのか、旭の声掛けに応じてくれた。
会社に戻りたくなくて一人で淋しく時間つぶしをするとでも思われたか…。
どう誤解されたとしても、その返事が聞けただけで、焦った旭の心がふわりと上昇気流に乗っていく。
無碍にしない信楽の優しさに触れた。

「さっきのカフェでいいかな?俺、あまりお店については詳しくないんだ」
「はいっ、どこでもっ」
信楽に誘われて(?)断る理由などあるわけもなく、元気いっぱいににこにこと笑う旭に、また優しそうな微笑みが舞い降りてくる。
見つめてくれる瞳が自分に向けられていると分かるだけで、心が弾んだ。
隣に並んで歩けるというだけで優越感に浸れた。振り返る人の多さにも感心した。
確実に視線を集めているのは信楽のほうだ。
「浅井さんって身長高いですよね。いくつくらいあるんですか?」
「うーん。180くらいじゃないかな」
「高いっ。どうりで見上げなきゃならないはずだ…」
「見上げる…って…。それほど変わらないでしょ」
「10センチ違えば変わりますよ~っ」
「コンプレックスをかかえちゃっているのかな」
「そ、そんなこと、ないですけど…」
先程の『可愛い』発言を引きずられていると感じて、途端に口籠ってしまう。
確かに気に入らない言葉ではあるが、信楽に言われれば受け止め方が違ってくると改めて思っていたりする。
旭の心情を理解するのか、クスリと笑われる。だけど決して馬鹿にするような笑みではなかった。
「ありのままの自分を受け入れられるようになれればいいんだよ」
励まされているのだろうか。宥められているのだろうか。
どちらにしても”重い”言葉のように感じられた。

「自分に自信を持て…ってことですか?」
「うん。まぁ、そうだね。…って、エラそうなことは俺も言えないけど」
「えーっ?!浅井さんが自信ないって、じゃあ、俺なんかどうしたら~…」
「高島君には高島君なりの魅力があると思うよ。気付かないだけじゃない?」
「是非教えてほしいものです」
旭の誘いは通じるだろうか。
しかし信楽はふふふと微笑んだだけだった。

旭は拗ねたい気分になる。
伊吹の魅力は旭だって知るし、それ以上に長年の付き合いで信楽は感じたものがあるのだろう。
まだ出会ったばかりで比べられても仕方がないが、比べられていると分かる雰囲気はいただけない。
それほど、信楽にとって眼中にない”魅力”なのだろうか…。

同じ店に入ってみれば、店員は顔を覚えていたらしく、少し驚き、だけど嬉しそうに(絶対に来店の喜びではないと旭は内心で呟く)出迎えてくれた。
それだけ見惚れる男なのだとしみじみ感じさせてくれる。
通された席で改めて真正面に整った顔を見れば、その華麗さに、満足になれそうな気分になった。
仕草の一つ一つが美しい。
信楽が注文するものと同じコーヒーを頼み、「ケーキは?」と問われて、「あ、さっき食べちゃった…」と伝えると、「あぁ、伊吹も好きだものね」と進められたらしい原因を辿ってくる。
今は、どうしたって行動の全てが伊吹に重ねられているらしい。
そのことが悔しいが責めることもできない。
だからといって伊吹のことを話題に出す気にもなれなかった。
今更…というのだろうか。信楽の口から『伊吹』という名前を聞きたくなかった。
別に、伊吹を嫌っているわけではないが…。
単に信楽に比較されているようで、自分に興味を持ってもらえるようなものがないようで、情けなくなるのだ。

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コメント

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頑張って
コメントちー | URL | 2012-04-13-Fri 03:41 [編集]
旭くん、可愛いだけじゃなく根性ある人だな、きっと。
伊吹が好きな信楽さんを好きになりかけてるよね?
伊吹が好きでも良いから付き合ってとか言いそうだ。
旭くん、頑張ってね。

そうそう、昨日私が思う伊吹みたいな人を見ました。背が高いからそこは違うんですけど(笑)
既婚者だしね♪

Re: 頑張って
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-13-Fri 07:28 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 旭くん、可愛いだけじゃなく根性ある人だな、きっと。
> 伊吹が好きな信楽さんを好きになりかけてるよね?
> 伊吹が好きでも良いから付き合ってとか言いそうだ。
> 旭くん、頑張ってね。

ビシバシ切りこんでいく子ですね~。
伊吹のことを好きでも、現在フリーだと知っているから、押せ押せなんでしょうか。
どんな形で信楽に伝えていくんでしょうねぇ。

> そうそう、昨日私が思う伊吹みたいな人を見ました。背が高いからそこは違うんですけど(笑)
> 既婚者だしね♪

おーっ。イメージは人それぞれですから(笑)
背は高かったのか~。
伊吹もすでに既婚者みたいなものですけどね。
コメントありがとうございました。

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