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BLの丘
ふたり 4
2012-04-12-Thu  CATEGORY: ふたり
完全な失言に旭はまた「あ…」と黙りこむ。
あからさまにワタワタとする姿に、信楽は自分の気持ちをどこかに押し避けたように、旭に向き合ってきた。
一瞬見せた暗い表情がなくなり、またふわりとした笑みを見せる。少しだけ苦々しそうでもあったけれど…。
「君は正直な子だね」
「あ…、ぃゃ…」
この場合、『正直な子』は褒め言葉ととっていいのだろうか…。
「俺は伊吹の”嘘”を見抜けなかったから…」
信楽の発言に旭は驚かされる。
付き合う、とは本音を晒して気を許し合うものではないのだろうかと思っていたから、嘘をついて過ごすことが信じられなかった。

「嘘?!えっ、どうして?なんでそんなこと、する必要が?」
「君だったら相手に隠し事なんてしないんだろうね」
「隠したら疑われるだけじゃないですか」
「…そうだね…」
『正直な子』は率直に自分の意見を告げる。
信楽は笑みを浮かべていたけれど、過去を振り返っているのは確かだった。
『伊吹の嘘』と言ってはいたが、それは信楽にも思い当たるものがあるのだろう。
ふたりして騙し合った生活があったのかと、なんとなく見えてくる。どうしてそうなってしまったのかの疑問も浮かぶ。
「浅井さんも?我慢してたの?家事全部していたこととか」
伊吹は自ら語ってくれることはあったが、信楽は自分から言いそうにない雰囲気がある。
あとは旭が信楽に興味を持ちすぎていて、知りたいことがたくさんあったから口が止まらない。
伊吹を間に挟んだ関係だからか、そして柔らかな雰囲気の信楽の態度に親近感が生まれていた。

初対面で図々しいことを尋ねている感覚が旭から消えた。
信楽がどう受け止めたのか、無邪気な質問に困ったように口を開いた。
「そう…なのかな。あまり意識していなかったけど」
「無意識にできるってホントすごいですね~。俺なんかもう、やるの、嫌で嫌で~ぇ」
旭は信楽が答えてくれたことが嬉しくてはしゃいで、俯き加減だった表情が明るくなった。
人懐っこい性格を嫌うわけではないのか、単にこの場の会話としての大人の対応なのかは判断できないが、自分に視線を向けてくれることは喜ばしいことに違いない。
「高島君は一人暮らし?」
「そうなんですよ~。ワンルームなんですけどね。片付けがヘタなのか物が散らかりまくりで~。ベッドの上が生活拠点か?っていうくらい~」
信楽から尋ねられたことに、喜々として旭からは言葉が紡がれる。
何がおもしろかったのか、初めて信楽がククッと笑い声を上げた。
旭の過去の暴言(?)は、この瞬間にも旭の頭の中から抜け落ちた現金さだった。
「やりなれないと大変かもね」
「うーん。俺の場合、物を持ちこんでそのままにしちゃうから増え続ける一方なんです」
「あぁ、それはいけないな」
「やっぱ、そうですよね…。…なんか、浅井さんちってすごーく綺麗なイメージがあるんですけど」
「そんなことないよ」
「だって、浅井さんだってこんなにお洒落でカッコイイじゃないですか」
旭がずっと思っていたことをポロッと口にしてしまえば、信楽は、自身も認めているのか、ニコリと笑顔で「ありがとう」と返すにとどまった。
そこに自惚れが含まれていないのは、さりげなく返された一言と信楽の醸し出す雰囲気で感じてしまう。
驕らない態度にますます旭は惹かれた。

「俺、全然大きくならなかったし、何かあるとみんなに『可愛い、可愛い』って言われて…」
旭がぷぅと頬を膨らませて口を尖らせると、信楽が不思議そうに首を傾げた。
「嫌なの?不満みたいだね」
「嫌ですよ~。男なのに『可愛い』ってなんですか~っ」
「伊吹は喜んでいたけどね。タイプが似ているな、とは思ったけど、感想までは違ったか…」
「え?」
「まぁ、当然だよね」
旭の浮ついていた心が一瞬凍る。
『可愛い』と言われて喜んだ伊吹に惚れた信楽だったら、『可愛い』と言われて喜ぶ相手を求めるのだろうか…。
お互いにほとんど一目惚れに近い出会いで始まった関係だったとは、すでに伊吹から聞いた話。
もしかして自分は、一つの可能性を潰したのではないだろうか…。
「あ、でも…」
「ごめーん。急に社に戻らなきゃならなくなっちゃった」
旭が言いかけた言葉を遮るように、戻ってきた伊吹が急ぐ仕草を見せる。
それが信楽に対しての口実なのか、本当のことなのかの判断はできない。
「そう…。久し振りに話でもできるかな、と思ったんだけど…」
「本当だね。こんなところで会えるとも思わなかったし」
伊吹の完璧な営業スマイルが炸裂している。
普段の伊吹の人当たりの良さは旭も散々なほど見てきたが、このわざとらしさは不自然さを生んでいるくらいだった。
「高島くんも。わざわざ来てくれてありがとうね」
「あ、いえ…」
「じゃあ」
風のごとく、走り去っていく伊吹の背中を、旭と信楽、ふたりで無言で見送った。
残された空間のぎこちなさ。
旭が再び信楽と視線を合わせると、「それじゃあ俺もこれで…」と歩き出そうとする。
この時間は、あくまでも伊吹を待つ間の世間話でしかなかったのだと気付かされる。
焦りが旭を襲った。

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コメント

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あれ?
コメントちー | URL | 2012-04-12-Thu 03:41 [編集]
何か何かなんか!
旭の恋は、切なくなりそうな気配。

信楽さん、まだ伊吹が好きなのかしら。
好きよね、きっと。
伊吹も、信楽さんが嫌いになったのじゃなくて、甲賀とは魂の出逢いをしてしまっただけだから、信楽さんに逢うのが怖いと言うかなんと言うか・・・
信楽さんに戻る事はないと思いつつも万が一?みたいな。
まあ、甲賀にも信楽さんにも申し訳ないからとかもあるんだろうけど。

伊吹も信楽さんも不器用さんだな。
旭くん、君の素直な性格で信楽さんを癒してあげてね。ちょっと辛いけど。

Re: あれ?
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-12-Thu 07:04 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 何か何かなんか!
> 旭の恋は、切なくなりそうな気配。

切ない恋ばっかり書いている気がしなくもないですが…(汗)
旭はどんな恋をするのでしょうか。

> 信楽さん、まだ伊吹が好きなのかしら。
> 好きよね、きっと。
> 伊吹も、信楽さんが嫌いになったのじゃなくて、甲賀とは魂の出逢いをしてしまっただけだから、信楽さんに逢うのが怖いと言うかなんと言うか・・・
> 信楽さんに戻る事はないと思いつつも万が一?みたいな。
> まあ、甲賀にも信楽さんにも申し訳ないからとかもあるんだろうけど。

まだまだね…信楽としては繋がりをもっていたいんでしょう。
いつか…(←あきらめの悪い男 ←酷)
そう! 嫌いになって別れたわけじゃないって信楽も分かっているしね。
伊吹はまた、せまられるんじゃないかっていう脅え(?)みたいなのがあるんでしょうか。
早く忘れてくれ…的な何かね…。

> 伊吹も信楽さんも不器用さんだな。
> 旭くん、君の素直な性格で信楽さんを癒してあげてね。ちょっと辛いけど。

癒しになれるでしょうか。
固まっちゃっているような信楽の殻を破れればいいけど…。
コメントありがとうございました。

No title
コメントけいったん | URL | 2012-04-12-Thu 10:29 [編集]
伊吹好き~の信楽ですから 旭の可愛い外見はクリアでしょ!
でも 伊吹の びしょびしょダダ漏れの切ないくらいの庇護欲がな~い!
甲賀が側にいる 今の伊吹は全然違うけどね♪ダヨネェ(oゝД・)b

それが 吉と出るか凶と出るか!
ねぇ信楽さん、どうよ?
(ェ)さぁ?...∑ヾ( ̄0 ̄; )ノ オットッ! ...byebye☆

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-12-Thu 13:17 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 伊吹好き~の信楽ですから 旭の可愛い外見はクリアでしょ!
> でも 伊吹の びしょびしょダダ漏れの切ないくらいの庇護欲がな~い!
> 甲賀が側にいる 今の伊吹は全然違うけどね♪ダヨネェ(oゝД・)b

見た目はクリアしていると思います。
ただ、まだ伊吹に気をとられている信楽としては、目が向かないのか…。
あぁ、そうっ。庇護欲がありませんね~。
バシバシ突っ込んでいっている旭だし。

> それが 吉と出るか凶と出るか!
> ねぇ信楽さん、どうよ?
> (ェ)さぁ?...∑ヾ( ̄0 ̄; )ノ オットッ! ...byebye☆

信楽サンの心境はどうなんでしょうねぇ。
(ェ)さぁ? とかとぼけているときじゃありませんよ~~~。
コメントありがとうございました。

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