2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
ふたり 17
2012-04-26-Thu  CATEGORY: ふたり
旭の背中を抱いてくれる腕は、泣き喚く子供をあやしているのと同じようだった。
全ての態度が伊吹と比べられているようで、悔しさは一層募る。
嫌われていないことは分かるのに、そこから先に進もうとしない信楽の心の辛さも感じる。
「旭…。俺はまだ誰とも付き合う気持ちはない、と言っただろう?あんなことをした上で詫びるのは間違えていると思うけれど…」
「嫌だっ。何がダメなの?俺じゃ何もしてあげられないの?あんな人のどこがいいのっ?」
ピクッと信楽の体が硬くなるのを感じた。
束の間の沈黙の後、ため息まじりに吐き出されるのは旭に問いかけてくるものだった。
「『あんな人』…って、伊吹のことか…」
伊吹を非難した旭の台詞に、旭が責められるのかと過る。
しかし、信楽の声音は嫌悪するものではなく、後悔するものである。
旭は咄嗟に出てしまった台詞に、信楽を過去の世界に向かわせてしまったと気付いて唇を噛んだ。
旭の腕が、『忘れてほしい』ともっと強く信楽にしがみつく。
旭と伊吹の仲を思えば、信楽は詳細を聞いていてもおかしくないと悟るのか、相変わらず信楽からは言葉が発されない。
追い打ちをかけているのは、昨日の今日で、連絡も無しに現れ、ひたすら寄ってくる旭の態度だった。
こんなふうに感情の変化をあからさまに見せれば、何事かあったのだと感ずるものもあるはずだろう。

「俺、絶対、ずっと信楽さんと一緒にいるっ」
「旭、未来なんて誰も予想できないんだよ」
「俺はしないっ。あんなふうに信楽さんを傷つけたり、苦しめたりすることはしないっ」
信楽からまた小さな吐息がもれた。
すがりつく旭の髪をそっと撫でながら、言い聞かせるような口調に変わった。
何もかもを知ったのだろうという態度。
「伊吹からどう聞いたのかは知らないけれど…。伊吹だけを責められるものではないんだ。過分に悪かったのは、たぶん俺のほうだよ…」
「え…?」
一方的に、新しい男を作って、更には暴言まで吐いた伊吹が悪者だと決め込んでいた旭には、信楽の言い分が理解できなかった。
顔を上げてすぐそばにある、辛そうな表情を見上げる。
疑問を投げかける瞳に、困惑した信楽がそれでも口を開いてくれた。
「俺は伊吹に何も言えなかった。それに感づいて伊吹も言わなくなっていった。勝手に勘違いして、伊吹を無言で縛り付けて、最後まで伊吹に”演じ”させていたんだ…」
「なに、それ…?」
「伊吹の性格もあったのかな。ここに引っ越しをさせたことで精神的な負担も増えたのだろうし、極力出会った頃の状態…というのか、雰囲気を作ろうとする姿に、『無理をするな』って言ってやれなかったんだ。見て見ぬふりを続けたのは俺だから…」
お互い気持ちを隠し続けて、溝が深まってしまった…。
その伊吹を解放させたのが、あの男なのだと…。

「けどっ、けど、信楽さん、俺にはちゃんと言ってくれるじゃんっ。思ったことだったんでしょ?『正直だね』とか『可愛いね』とか、お世辞なんかじゃなくて、それって信楽さんが本心で思って、それを俺に言ってくれたんでしょ?」
素直に心に宿ったものを表現してくれたのだと信じたい。
信楽は困った笑みを浮かべながら、「…あぁ…」と、自身に納得させるように首を傾げた。
「そう…だね…。…なんだろうね。…旭が何事にも真正面からぶつかってきてくれるからかな…」
本音を晒されたら、こちらも気を許して本音が零れる…といった感じなのだろうか。
旭は、一筋どころか二筋も三筋も光が差したような気分に見舞われた。
さっきまでの落ち込みが嘘のように晴れ渡っていくのだから、切り替えの早さは天下一品である。
「言って!俺にはそうやって何でも信楽さんが思ったこと、そのまま言ってっ。隠さないでよ、お願いだから…」
また信楽にぎゅっと抱きついて胸元に鼻先を擦りつけた。
誰に対してどんな態度を取る人なのかは知らないが、少なくとも伊吹との関係は失敗だった。本音を言い合える、新しい”付き合う”関係を築いていきたい。
「信楽さんのこと、好きなの…。俺も言うから…、俺は隠さないから…」
呟く声は確実に信楽に届いている。
ふぅっと信楽から息が漏れて、撫でてくれていた手のひらに優しさが加わってくる。
いや、今までも充分暖かかったけれど、ためらいが一つ取れたような…、旭を包みこんでくれるものが増えた気がした。
「うん…、旭はいつも正直な子だよね…」
「そうだよ。初めて会ったときにも、信楽さんはそう褒めてくれた…」
本当に褒め言葉だったのかどうかは謎だが、旭はそう受け取ることで信楽に心を開いてきた。
過去の過ちからの脅えがあったとしても、旭には戸惑わず向かってきてほしい願望が生まれる。
「君みたいな子には初めて出会って驚かされたよ。だからこそ、無垢な気持ちを傷つけたくないと思っていた…」
「そんなこと、思わないでっ。嫌だっ。信楽さんのそばにいたいよ~」
「…どうしようかな…」
ここまで言わせて、それでもまだ悩む信楽にもどかしさを感じる。
どんっとぶつかってきてくれる気持ちは持ってくれないのだろうか…。
過去のふたりのことはどうでもいい。今からのふたりのことを考えてほしい。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
関連記事
トラックバック0 コメント4
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
ジレッタイ
コメントちー | URL | 2012-04-26-Thu 04:30 [編集]
じれったい、焦れったい、ジレッタイ!
焦れったいよ、信楽さん。

どうしようかな?


じゃねーよ、あんたに必要なのは伊吹に会って話し合う事だよ。
そして、改めて旭と向き合って!

信楽さん、じゃないと保父さんにしちゃうから。大変だよ(笑)
Re: ジレッタイ
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-26-Thu 07:11 [編集]
ちー様
おはようございます。

> じれったい、焦れったい、ジレッタイ!
> 焦れったいよ、信楽さん。

すみませーん(笑)
もどかしいですよね。

> どうしようかな?

> じゃねーよ、あんたに必要なのは伊吹に会って話し合う事だよ。
> そして、改めて旭と向き合って!

言ってあげてください。
旭だけでは力が足りないようですので。
みんなでお説教♪
旭と新しい道に進めないよね。

> 信楽さん、じゃないと保父さんにしちゃうから。大変だよ(笑)

はい、とっても大変です(爆)
家事ばっちりできるしね~。
コメントありがとうございました。

No title
コメントけいったん | URL | 2012-04-26-Thu 09:37 [編集]
伊吹と信楽は、伊吹の諸々の事情もあって
”守られる者と守る者”との関係がありましたから。

でも 旭と信楽なら 対等な関係からの愛を築けると思うな。
伊吹と甲賀の様に・・・

信楽さん、あまり焦れ焦れな態度を取ると ちーさんから 後押しの蹴りを入れられるかもよ~ん♪
ゲシッヽ(^▽^)ノ┌┛Σ≡≡==(*゚□゚:;':┃...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-26-Thu 12:07 [編集]
けいったん様
こんにちは~。

> 伊吹と信楽は、伊吹の諸々の事情もあって
> ”守られる者と守る者”との関係がありましたから。
>
> でも 旭と信楽なら 対等な関係からの愛を築けると思うな。
> 伊吹と甲賀の様に・・・

伊吹の全てを引き受けた…っていう感じの信楽でしたからね…。
上下関係…みたいな何かを感じてしまっていたのでしょう。
そこで触れあえたら良かったけれど、お互い良かれと思ってやっていたことが全て負担に変わっちゃったんですよね。
甲賀は年下だったし…、コイツも正直に感情を表すしね(旭と同等だな…)
だからって甲賀と旭がCPになるには、我が強すぎてダメだろうけど…。
何もない関係から始まる旭と信楽なら、自然としたお付き合いができると思うんですけれどねぇ。

> 信楽さん、あまり焦れ焦れな態度を取ると ちーさんから 後押しの蹴りを入れられるかもよ~ん♪
> ゲシッヽ(^▽^)ノ┌┛Σ≡≡==(*゚□゚:;':┃...byebye☆

すでにちー様からはジャブとか入っていそうです。
続いて後押しが…(爆)
喜んで蹴っているし…。
コメントありがとうございました。

トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.