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BLの丘
待っているよ 1
2012-05-30-Wed  CATEGORY: 待っているよ
「兄貴~っ、飯食ってる時間、ねぇっ」
住宅街にある一戸建ての家の中、築二十年を過ぎた”台所”と呼ぶにふさわしい場所に、詰襟の学生服を腕に抱えた野太い声が響いた。
二階からドタバタと駆け下りてきた足音は、そのまま洗面所に向かい、身支度だけを整えて出ていく気だ。
すでに台所からの続き間である、居間にある座卓に朝ご飯のおかずを並べていた津屋崎筑穂(つやざき ちくほ)は、「あぁぁ?!」と唸り声をあげた。
長男である筑穂がこの家の家事を担うようになったのは、両親を三年前に事故で亡くしてからだ。
筑穂は起きたままの恰好でまだ着替えてもいなく、ボサボサの髪の毛は、癖もあって絡まったままだ。
当時24歳だった筑穂は、大学を卒業してから働き始めて、まだ若造と括られていた時代だった。
いや、働き出して5年しか経っていなければ、今でも周りから見たらまだまだ…と言われてもおかしくない立場である。
津屋崎家は男三人兄弟の家族だった。長男の筑穂、次男で高校三年生の穂波(ほなみ)、中学一年の嘉穂(かほ)と続く。
27歳、17歳、12歳と齢が離れていたため、弟たちの面倒は昔から見てきた方だ。
筑穂自身が母親に似て、面倒見が良かった性格もあった。成長過程で、本当に兄弟か?と違いを見せられたのは大学に入った頃だ。
背の順に並んだ時、常に一番前にいた小学校中学校時代だった筑穂だったのに、穂波は一番後ろに立つ。
嘉穂にいたっては、中学校に上がったばかりだというのに、すでに筑穂に並ぼうとしている。
特に弟たちの相手をしたかったわけではないが、これといって真剣に部活動に励むこともなく、また運動を得意としなかった筑穂は体を鍛える、ということから遠ざかっていた。
汗水流すより、よちよちとした弟たちの成長を見ている方が楽しかった。
それに比べて、穂波はバスケ部で活躍し、嘉穂もサッカー部で走りまわっている。
学業や部活動に励むことを悪いとは言わないが…。何故ここまで差が出る体格なのか疑問も浮かぶくらいだ。

両親が亡くなった時、まだ幼い弟たちを抱えて、集まった親戚は保険金を目当てに引きとると言ってきた。
だが、独り立ちした筑穂がそこに含まれることはない。家族がバラバラになることを何よりも嫌がって、筑穂は「自分で育てる」と言い張った。
幸いにも両親が残してくれた家もあって、住む場所に困りはしない。
穂波も嘉穂も、住み慣れた家を離れたくないと泣き喚いた。
兄弟愛を小さい頃から見ていたからなのか、「何かあったら頼ってきなさい」と言うに留めて、遠くから見守ってくれている。
その気持ちに感謝し、だけど迷惑はかけたくないと筑穂なりに頑張ってきた。
兄の頑張りを知るからなのか、穂波も嘉穂も手を煩わせるような態度に出てくることはなくて助かっている。

「穂波~っ、朝練行くのに、すきっ腹じゃ動けないだろ~っ」
「ほわっれ、いはん~っ」
時間がないと言いたい声は、歯ブラシを咥えているらしい。
「ちょっと待ってろっ。詰め込んでやるからっ」
この際、温かいご飯だ、おかずの見栄えが悪いだとかも気にせず、弁当箱を取り出すと、無造作に突っ込んだ。
今朝のおかずは焼き鮭だったからちょうど良かった。
朝練の前に食べる時間があるかどうかは疑問だが、お腹を空かしてひもじい思いはさせたくない。朝練が終わったあとに食べる時間くらいあるだろう。
家でもものすごい勢いで胃の中に収めていくのだから…。
これでもかとぎゅうぎゅうに白米を押し込み、その上に鮭と梅干を乗せ、ひじきの煮物もそのまま突っ込んだ。お弁当用の仕切りカップなどこの家にはない。
汁がご飯と混じるだろうが、それもいい味だろう。
コンビニでもらった袋に、やはりコンビニの弁当についていたプラスチック製のスプーンを放り込み、玄関まで持っていく。
「悪い、兄貴」
ビニール製のスポーツバッグを肩にかけ、カバンを手にして今にも出て行こうとしている穂波は、顔を洗った時に濡れたのだろう。伸びてきた前髪がまだ濡れたままでいる。
急いでいるのに、筑穂を待って、大人しく受け取ってくれた。
物や食べ物など、無駄にせず大事にしろとは、亡くなった両親の教えだ。仕事をしながら好きなことをさせてくれて、嫌な顔一つ見せない兄に、穂波は身勝手さを感じるのかもしれない。
「気をつけて行けよ。事故にはあうなよ」
出て行く前に、必ずかける言葉だった。
当たり前だと思っていた生活が元に戻らないと痛感したのが両親の死だった。
あの時と同じ辛い思いはしたくないし、ささやかな一言の重みをいつも思う。
筑穂は最後に両親に何と言ったのか、どんな会話があってどんな態度を取ったのか、全く思い出せなかった。
夫婦で旅行にでも行って来い、と貯めた給料で送り出したのは筑穂だった。
一泊だというのに、大量に作られたおかずが鍋の中に残っていた。
そのことを、「そんなことしなくてもいい」と迷惑そうに言ったかもしれない。出掛ける直前まで、家族のことを思ってくれた人だったのに…。
「兄貴も。残業とかだったらちゃんと連絡、ちょうだい」

この歳にして、家族に言い合う人たちがどれだけいるだろうか。
家で待つ存在。
周りの人間に呆れられることも多いが、津屋崎家の連絡の取り方はかなり頻繁だった。
飛び出していく穂波を見送り、フッと笑みを浮かべた後で、「あーっ、嘉穂のやつ~っっ」と、穂波が立てた騒音にもめげずに眠っている末っ子を起こしに、筑穂は階段を駆け上がった。

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新連載始まりました~。
兄弟、もう一匹、紹介までたどりつかなかった…(汗)
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コメント

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新しいの来たぁ
コメントちー | URL | 2012-05-30-Wed 05:10 [編集]
新連載ですね。

もしかして、三兄弟でグチャグチャするんですか?
末っ子は中学生だから、いや、だからこそかしら?

保険金があるなら学資金も何とかなるもんね。(きっと、伊吹がきちんと加入させたはず←あれ?)

お兄ちゃんに彼氏ができてアタフタするのか、はたまたお兄ちゃんを巡って下二人がバトルのか、お兄ちゃんが下二人の恋路を邪魔するのか。
またまた、毎日楽しみです。
Re: 新しいの来たぁ
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-30-Wed 07:18 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 新連載ですね。
>
> もしかして、三兄弟でグチャグチャするんですか?
> 末っ子は中学生だから、いや、だからこそかしら?
>
> 保険金があるなら学資金も何とかなるもんね。(きっと、伊吹がきちんと加入させたはず←あれ?)

新連載、始まりました~。
今年の初め、『新しい家族』を思いついたころ、やはり同じくどちらを書こうかと悩んだものです。
また兄弟愛?!……まぁ、家族愛ではありますが。
あまり書くとネタバレだからなぁ。(←ある程度あらすじがあったほうがいいですかね。私は意外性を楽しんでしまうので多くを語りたくない派なんですけど…。つか、地雷がない人なのかも???)

伊吹、こんなところでも活躍(爆)

> お兄ちゃんに彼氏ができてアタフタするのか、はたまたお兄ちゃんを巡って下二人がバトルのか、お兄ちゃんが下二人の恋路を邪魔するのか。
> またまた、毎日楽しみです。

実は…すでにヒントっぽいものがどこかに書かれているんです。
気付く方、どれくらいいるか、また、見る方がいるのかしら…っていうところですけど。
いろいろなパターンがありますねぇ(笑)
どちらに転んでも面白そうです。
これこそ、連載できそうだ(いえ、スピンオフは期待しないでください)
コメントありがとうございました。

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