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BLの丘
待たせるけれど 2
2012-06-22-Fri  CATEGORY: 待たせるけれど
「バイト?」
突然話しかけたことに、キョトンと見上げてくる表情は、年上なのだろうがそんなことを思わせない可愛さが浮かんでいた。
忙しい合間なのに、きちんとこちらの話を聞いてくれる姿勢は人の良さを表している。
「君、そこの高校の子だろ?この時間に寄ってるって朝練か何かあるから?…ガッコ、頑張っているところなんじゃないの?…どっちにしても父さんと二人でやってる店だから…。人を雇えるような余裕はうちにはないよ」
やんわりと断ってくるのは、バイトよりも学業に専念しろと言いたいからなのか…。
引き離される感じがして、穂波は即座に「家に少しでもお金、入れたくて…。うち、親いないから…」と口を開いていた。
ますます訝しそうに見上げてくる視線は、穂波の言葉を半分信じて、でももう半分は疑ってかかっているものだった。
「あのさ…。本当に働きたいんだったら、ちゃんと君くらいの子を雇ってくれる場所があるでしょ。うちじゃお金なんか払えないから」
間違った発言をしたのだと気付いたのはすぐのことだった。
『働く』に中途半端な意見は持ち込ませない。
それは、自分たちがやっていることにプライドがあるからだろう。
その気合と言うか根性というか、そんなものが感じられるのも穂波を惹きつけるものになった。
「別に…、いい加減な気持ちとかじゃなくて…。知りたいんです。あなたみたいに生き生きと働ける環境…」
「それって将来に向けてってこと?」
「そ、うなのかな…。兄貴は進学しろって言うし、でも俺、その意味が分からないし。…早く働きたい気持ちはあるけれど、今の俺、なんにもないし…」
「そういうのは自分で探すんだよ」
「だから俺、ここで…」
「はーい、ストップ。とにかく、うち、雇えないから」
あっさりとかわされ、その他の客の手前もあって、長居はできなかった。

それでも穂波は明るい表情と声を忘れられなくて、たびたび通う日が続いた。
一度話しかけてしまえば、顔も覚えてくれているし、雑談にも付き合ってくれる。
穂波が抱いている感情も、それとなく伝わっているところもあったようだ。
一番最初に伝えた『親がいない』という家庭事情が、店員の気を引いていたのかもしれない。
後々知った話、筑紫野浮羽(ちくしの うきは)というこの人も、早くに母親を亡くしていたのだという。
父がやっていたこの店を手伝いだしたのは、まだ最近の話らしい。
そうやって頑張って働く人に、余計に惹かれていく気持ちがある。

浮羽と親しくなれば当然のように、その父親とも話をするようになった。
家庭環境、将来のこと、親身になって話を聞いてくれる姿は、父親がいたらこういうものなのだろうかと錯覚を生んでくる。
朝練に出向く前の僅かな時間、穂波が考えている真剣な態度に、また、哀れみもあるのか、商品として出せない失敗作を隠して入れてくれた。
『手に職を』…。
その考えは、浮羽よりも父親の職人根性のほうに気に入られたのかもしれない。
さらに芽生えたのは、ここで、浮羽と一緒にこの店を継げていけたらいいな、という思い。
穂波には、初めて見た時の浮羽の爽やかな笑顔が忘れられずにいる。
毎日を精一杯生きる姿勢は、目指していた人の姿でもあった。
『目指している人』…。
もちろん兄の筑穂のことだったのだが。
だからこそ、『兄のために』と思う気持ちも強い。

パン屋の朝は早かった。
本当はもっと早く、開店前の制作時間に向かいたかったが、働けない環境は兄に心配をかけるだけだと、踏みとどまった。
朝練の前に立ち寄る、本当に僅かな時間、粉の配合、発酵具合、焼くタイミングとか、まるで料理番組のように順をおって見せてくれた。
その間の苦労ももちろんあるのだろうが、仕上がっていく全てを見ても、穂波が気を取られるものばかりだった。
この道に進みたいと強く思った時、やはり穂波の心の中で渦を巻いたのは、兄から寄せられる『期待』だった。

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コメント

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パン屋親子
コメントちー | URL | 2012-06-22-Fri 16:54 [編集]
やっぱり、良いな。
職人気質な父ちゃんに、パン屋になろうとしてる息子。

そして、イキイキして生きたいと望むホナ。波長がバッチリだ。

パン屋さんも最初はキッパリ断ったのが良いですね。
そして、惹かれていくんだな、二人ともさあ。酸っぱいね、青いなあ。
オヤジか(笑)

ホナ、兄ちゃんを見てたからこそなんだよね。兄ちゃんにも気持ち伝わるから、頑張ってね。
No title
コメントけいったん | URL | 2012-06-22-Fri 18:28 [編集]
穂波視点での サイド・ストーリーですね。

穂波の心の葛藤、浮羽への思慕が、ひとつ ひとつが分かって来ました。

断られても パン屋に 日参した様に 筑穂にも 時間を掛けて話せば きっと理解してくれるよ。
だって 兄弟だもん!

僕の顔を食べれば 元気が出るよ~!
モグモグ~ヽ(#)^●^(#)ノアンパンマン ♪...byebye☆
Re: パン屋親子
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-23-Sat 07:47 [編集]
ちー様
おはようございます。

> やっぱり、良いな。
> 職人気質な父ちゃんに、パン屋になろうとしてる息子。
>
> そして、イキイキして生きたいと望むホナ。波長がバッチリだ。

父とお客さん、意気投合していたところはあったようですね。
第二の息子だ~♪

> パン屋さんも最初はキッパリ断ったのが良いですね。
> そして、惹かれていくんだな、二人ともさあ。酸っぱいね、青いなあ。
> オヤジか(笑)
>
> ホナ、兄ちゃんを見てたからこそなんだよね。兄ちゃんにも気持ち伝わるから、頑張ってね。

まだ青いです(笑)
最初はね、突っぱねちゃうところもあるんでしょうが、徐々に歩み寄りが…。
お兄ちゃんに並ぼうと頑張る姿は、お兄ちゃんにも認めてもらえることでしょう。
まぁ、将来、見えているんですけどね(汗)
コメントありがとうございました。

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-23-Sat 07:54 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 穂波視点での サイド・ストーリーですね。

いつか書こうと思いながら悩んでいたモノです。
兄弟物語…になってる…。

> 穂波の心の葛藤、浮羽への思慕が、ひとつ ひとつが分かって来ました。
>
> 断られても パン屋に 日参した様に 筑穂にも 時間を掛けて話せば きっと理解してくれるよ。
> だって 兄弟だもん!

お兄ちゃんも物分かり、悪い人ではないですからね。
ちゃんと話しあって、穂波が希望すること、憧れることを理解してくれるはずです。

> 僕の顔を食べれば 元気が出るよ~!
> モグモグ~ヽ(#)^●^(#)ノアンパンマン ♪...byebye☆

食べちゃうのか~。
喰っちゃえ、穂波~♪(←許可おりてるよ~)
(え?!)
コメントありがとうございました。

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