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BLの丘
待たせるけれど 5
2012-06-29-Fri  CATEGORY: 待たせるけれど
誰かに寄り添いたい気持ちは以前から持っていたのだと思う。
親の手前があるのか、客を相手にする仕事だからなのか、誤魔化してきた感情の部分は多大にあった。
母親がいないから…という点でも、父親に負担をかけたくない気負いのようなものも見えていた。
そこは本当に、誰かに似ていて、穂波の心を締め付けた。
無理はさせたくない。もう一人の”同じようなひと”を作りたくない…。

こちらから擦り寄れば、ちょっとした窪みに水が染み込んでいくように、穂波の存在を感じ取ってくれる。
その隙間を、穂波は狙っていたのだろうか…。
穂波自身、誰かのために、誰かと共に…と思うことはこれまでなかった。生きてきた人生を振り返っても、長いものとは当然言えなくて、兄にしたら「ガキの分際で何言ってやがるっ」と目くじらを立てられそうだ。
それでも抱いた感情を大事にしたい。
自分の想いを隠して生きるようなことはしたくない。
その気持ちは、我慢し続ける兄に気付かせ、代弁するかのように穂波の中で大きくなった。
伝えたいことのほうが大きいのか…。

愛するからこそ…。愛してもらっているからこそ…。
自由な空間を自分にも兄にも、なにより、愛した人にも…。
抱きしめた腕から少しだけ力が抜ける。
覗きこむように見た、濡れた瞳に、不安があったことを察知する。
「我慢しないで…」
そっと囁いて、穂波の脅えたように向かう唇を、浮羽は静かに受け止めてくれた。
触れる温かさに、もっと熱いものが欲しくて、舌先を差し込むと、答えるように絡ませてくれる。
体験がそれほどあるわけではないけれど、誘ってくれる大人の上手さなのか、穂波は溺れるように貪りついた。
縦横無尽に動く舌を、うまく官能点に導き、どこがいいのか教えてくれる。
ぬちゅっと音がした後、現実に戻されたように、浮羽が穂波の動きを止める。
「ホナ…」
「ダメ…?…俺…」
そっと擦り寄せた腰が性欲を表して浮羽に伝わって、戸惑いを大きく伝えてくる。
この歳の反応としては理解できることもあるのだろうか。
だけど穂波は、一時的な感情とか、軽薄な態度で臨むつもりはない。
浮羽に対して、どれだけの愛情があるものなのか…。冷静にさせてくれるところは、先に伝えてはいけない”欲”なのだと判断させてくれた。

この場ではあまりにも厚かましいことなのだと穂波も感じて、腕の力を弛め、距離を持つ。
今、優先するべきことは、父の安静であり、一刻も早く浮羽の気持ちに余裕を持たせること。

どこまでも穂波から回されてくる思いに浮羽は何を感じたのだろうか。
「早く、お父さんのところへ…」
穂波の言葉に、弾けたような驚きが浮かんでいた。
穂波は分かっていても無視した。気付かせて、こちらに神経を向かわせるのは、悪い…。
今は自分より、家族へと思いを向けてほしいという気遣い…。
「ホナ…」
送りだす、その一瞬は、亡くした人へ何もできなかった後悔も混じるのだろうか…。
同じ後悔を浮羽には味あわせたくなかったから。
もう一度、今度は浮羽のほうからすりよってくる。
互いの痛みを分かち合うものとして受け入れてくれていた。
穂波はそっと囁いた。
「待ってる…。待たせるのかな…。いつか絶対並べるように、何でも学ぶから…」
「いいのかな…。でも待っていたい…。ホナ…」
淋しい場所に入り込んだ卑怯な手なのかもしれないけれど、ふたりを結びつける強さにもなっていた。

浮羽の父が、ただの過労だったとはその後、連絡をもらって、少しホッとした穂波だった。
きちんと病院に連れていって、問題がないと言われて帰ってくれば、浮羽の気も抜けると言ったところだろう。
電話口で、一人で店を開くのもどうか…と不安視する浮羽に、「できることがあれば、俺が手伝ってやるから」と咄嗟に声が漏れる。
品数が少なかったとしても、あの店の開店を待っている客がいることは、利用客として、同じ高校の生徒として、良く知っていることだった。
「でも、ホナ、学校が…」
「朝練は自由参加なの。その時間だけでも手伝わせてよ」
一人より二人…。勇気づけられるものが浮羽の中に湧くのか、躊躇いながらも認めてくれた。
二日とたたずに店主は復活したが、その後もたびたび穂波が朝練をさぼる日は続いた。
一日おき、二日おき…といった感じで、頻度は顧問に咎められるものでもなかった。
お父さんが作り上げるパン、浮羽が作っていくもの、間で穂波も手を出していく日々が、何とも楽しかった。

「待たせるけれど、いつか一緒にこのお店を継ごう…」
店の裏、見送ってくれようと出てきた浮羽を抱きしめた穂波の言葉に、浮羽も頷いてくれる。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-06-29-Fri 12:25 [編集]
穂波の浮羽への思いを知れば知るほど、大野城や福智の筑穂への思いと重なり合うものが...

それにしても ここまで 筑穂と浮羽が似ているとは!
穂波の ブラコン度は 凄いものだったんだね~(過去形が ちょっと悲しい)

待たせる身の歯痒さと 待つ身の健気さ
今 二人の間には 揺ぎ無い 信頼と愛

筑穂兄には 辛いだろうけど、こんな二人を引き剥がせる事は出来ないでしょうね。
゚+.(*´・ω・)b~~~~~~~~~~d(・ω・`*)゚+.運命だょ...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-29-Fri 13:08 [編集]
けいったん様
再びこんにちは~。

> 穂波の浮羽への思いを知れば知るほど、大野城や福智の筑穂への思いと重なり合うものが...

Σ (゚Д゚;)す、鋭すぎな…。
あー、いやー、別に大野城と福智が思っていたことを代弁させているわけではありませんよ~。
受け目線、タチ目線…ってことでもなく…。
でも結果的に、なんか、そうなってるし…(汗)

> それにしても ここまで 筑穂と浮羽が似ているとは!
> 穂波の ブラコン度は 凄いものだったんだね~(過去形が ちょっと悲しい)

(プッ)過去形…。そうですね。
ってことは、穂波と筑穂だったら…(←妄想中)
(悲しかったのか…)
穂波はあこがれも混じっているのかもしれませんね。
だって生まれた時に10歳のお兄ちゃんは本当に良く色々と構ってくれたんだもん。
スポーツはできなくてもお勉強ができて、遊んでくれて…、おやつも譲ってくれて…。
恋心を抱いても…(←え?!)

似すぎているオーラを放っていたから穂波は食いついたんじゃないでしょうか。

> 待たせる身の歯痒さと 待つ身の健気さ
> 今 二人の間には 揺ぎ無い 信頼と愛
>
> 筑穂兄には 辛いだろうけど、こんな二人を引き剥がせる事は出来ないでしょうね。
> ゚+.(*´・ω・)b~~~~~~~~~~d(・ω・`*)゚+.運命だょ...byebye☆

短い間でも感じる思いがあったのでしょう。
兄、諦めるしかないよね(え、諦める? 愛しい弟を見送る兄になるのか~)
時間を重ねて将来を誓い合ったふたりです。
パン生地コネコネしながら、愛もこねこね…。
そこはやっぱり運命~スリスリヽヽ(* ̄- ̄)~~赤い糸~~( ̄- ̄*)ノノスリスリ

コメントありがとうございました。
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