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BLの丘
想いを確かめて 2
2012-07-15-Sun  CATEGORY: 想いを確かめて
祖母は持ってきた花束を墓前に供えた。
父と自分が供えたものを、どこか邪魔にしながらも、気持ちだけは汲み取ってくれているようだった。
短い、手を合わせた時間。
千城は慌てもせず、祖母の気持ちが向けられるのを待っていた。
先程紹介された内容を、どのように受け取っているのだろうか…。
動揺は彼女にもあるはずだった。

英人は、今更恐れるものは何もなかった。
千城がそばにいてくれれば、すべてがうまくいく…。
そのことを過去の経験でも嫌というほど知らされていた。
不安を抱く身内のことですら…。優しく見守ってくれる榛名家の両親と、離れた父親の存在…。
自分は一人ではないと、再度確認させてくれる。
何よりも勇気づけてくれた人…。

千城は近くにあった、日本庭園の素晴らしい庵に招待した。
涼をとるようにと、抹茶と餡が混ぜ込まれた品は、祖母の好物でもあるだろう。
まぁ、それを差し出したのは、偶然というのかもしれないが…。
千城と英人は並んで座り、また湯沢は英人の隣に落ち着いた。
一人正面に座った祖母は、居辛さも感じているのだろうが、この状況の説明を求めてくるものである。
誰が最初に口をつけるか…といった中、誘われた祖母は状況を把握して、手を合わせて匙をとった。
続いて英人も一口目を頬張る。
緊張した面持ちを全員が抱え、甘さとほろ苦さを味わう中で、肝心の話題が千城の口から滑り落ちた。

「もっと早くにお知らせするべきでしたが…」

初めて聞かされた時、湯沢も動揺した。
右も左も分からないような息子を、世界を征服するような中へと押し入れられた事。
初めて出会ってから、多少の情報は仕入れていたかもしれないけれど、聞かされた現実は想像の域を越えていた。
英人が、”榛名”という名の中で、過ごしていけるのだろうか…。
“一般庶民”という括りが全く通用しない世界観。

父親として、何もできなかったが、これからは見守っていきたいからと、許した全て…。
理解してもらえているという安堵もあるのだろう。
千城は淡々とこれまでの経過を語った。
英人がすでに『暮田』の名字を捨て、”榛名”の一族として成り立っていること。
愛してやまない存在は、性別や過去を越えて、唯一の人として寄り添っていること。

もちろん、目を剥いたのは祖母だったが…。
「ひ、でと…っ、あなた…っ。朝子だって充分恥をさらしたのですよっ。あなたまで…っ。どこまで当家の血を汚せば…」
それは”男同士”…という付き合いを否定されることになるのだろうか…。
貶されて項垂れて、だけど毅然とした千城の態度は変わらず、声を荒げる祖母に向き合う。

「権力で物事をどうにかしようとは思いません。私と付き合うことで『暮田家』の血を汚すというのならば…、その発言だけで『榛名』も穢したことになりますよ。私はそれくらいでは動じませんが。英人は暮田家の名を汚しても”榛名”は汚さない。英人を生んでくれ、育ててくれたこれまでには感謝しています。どんな形であれ、英人と母を見てくれていたことに尊敬の意を表します。今後は全く関与されなくて構わない。ただ、そちらが英人に一切の財産を渡さないと言ったのと同じように、今後、英人が得る全てのものを放棄していただきたい。血縁はないと、言っていただいてほしいくらいです」
冷淡で、感情の一つもないような態度は、英人とて、久し振りに見るものだった。
出会ったばかりの頃、ビジネスを優先させた男を彷彿とさせる。
いや…、仕事を取り仕切る場所では、これが”普通”なのだろうか…。

『榛名』の名になったと改めて知ったとき、寄ってくる浅ましさを誰よりも千城の方が知るのだろう。
それだけのステータスがどこにでもはびこっていた。
千城は英人を暮田家から”他人”にすることで、守りにはいっていた。
完全に切り離し、頼る場をなくすこと…。

祖母は失言に気付いたのだろうか…。
地域社会に根付いた見栄を守るばかり。
一番大きいと言えるような組織の中に収まった孫は、何かの時に頼れるもの…。
その根を、千城は踏みつぶした。
決して、二度と、屈辱を味あわせないようにと、表向きの情など必要ないと手を振った。

それが…、その悔しさが伝わったのだろうか…。
「これは…?!この男は?!この男さえいなければ、朝子だって苦しむこともなかった…っ!!」
向けられる恨みは多々あっても良いはずだ。
英人だって恨んだ人生の過去がある。
今でこそ、少しは見直されているけれど…。
残される遺産…。そこに目が向いてしまうのは、人間の醜さなのだろうか。
「英人が望むなら一部を残しましょう。ですが、湯沢さんは一銭も受け取らないはずですよ。彼は父親であって、だが、父親ではない」

恨み辛み…。抱えたものはとても大きい。
千城の発言には英人を始め、全員が固まったのかもしれない。
望まれても湯沢にビタ一文渡す気はない、とは、過去の生活があるからだろうか。
さらに、湯沢の心理も突いている。
そんな情けない父親になるなと…。

「生きていく上での恥は見栄と違う。見栄を尊重されるならそれもありでしょう。お考えを改められるかどうかはこの際、どうでもいい。ただ、英人が『榛名』にいることだけは知っておいてください。危害を加えるものには、それなりの制裁を施しますので」

地域を重視した考えとは全く異なる。
権力は…と千城は言っていたが…。
守るべきものはどんな手段を使っても守り抜くのだと、その言葉が伝えた。
力関係はどうしたって違いすぎる。
生きていく世界が違ったことを祖母は知らされることになった。
同じように、湯沢も…。
息子は、息子ではない…。

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コメント

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あ~あ
コメントさえ | URL | 2012-07-15-Sun 00:13 [編集]
ばーちゃんちーちゃんを敵に回したよ~(>_<)
ちーちゃんはひーちゃんのことになるとおっかないよ~(=_=;)
しかも榛名家全員でひーちゃんを守るよ~。
誰も太刀打ちできないね…(;^_^A
No title
コメントけいったん | URL | 2012-07-15-Sun 00:27 [編集]
英人が知り合った頃を彷彿とさせる 冷淡で威厳に満ちた千城
やっぱ 千城は、こうでなくっちゃ!

冷たい視線で 身も心も凍っちゃうよ~
( =_=) ジィー彡ヒューヒュー彡ヒューヒュー彡[[[- -:]]]カキンコキン!...byebye☆

Re: あ~あ
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-15-Sun 08:38 [編集]
さえ様
おはようございます。

> ばーちゃんちーちゃんを敵に回したよ~(>_<)
> ちーちゃんはひーちゃんのことになるとおっかないよ~(=_=;)
> しかも榛名家全員でひーちゃんを守るよ~。
> 誰も太刀打ちできないね…(;^_^A

一番敵に回してはいけない人なのにね~。
英人はもう榛名家のものですからね。
全ての言葉の行先は一族だもん。榛名家ごと黙っていないでしょう。
ばぁちゃん、地雷踏んだな…。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-15-Sun 08:46 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 英人が知り合った頃を彷彿とさせる 冷淡で威厳に満ちた千城
> やっぱ 千城は、こうでなくっちゃ!
>
> 冷たい視線で 身も心も凍っちゃうよ~
> ( =_=) ジィー彡ヒューヒュー彡ヒューヒュー彡[[[- -:]]]カキンコキン!...byebye☆

そうそう、昔はこういう人だったんですよ。
いつの間にか甘々デレデレになっちゃったけど。
でもやっぱり他人には厳しい。
凛々しいお姿拝見!!って感じですね。
寒風吹きまくりの中にいますね~。
暖房~プリーズ プチ(。・・)σ【ON】
コメントありがとうございました。
千城さん
コメントちー | URL | 2012-07-15-Sun 08:55 [編集]
そうだ、こんなにキッパリとした人でした。
(保護者のアマアマなだけじゃなく)

英人もちゃんと考える子だった(笑)


おばあちゃん、自分の財産より大事なモノを永遠に失っちゃったね。
お金なんかより大事なモノだったのに。

私、英人のお父さんが好きなんですよね。
何でお父さん登場が秘かに嬉しいの(笑)
Re: 千城さん
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-15-Sun 11:24 [編集]
ちー様
こんにちは。

> そうだ、こんなにキッパリとした人でした。
> (保護者のアマアマなだけじゃなく)
>
> 英人もちゃんと考える子だった(笑)

もともとの性格はね~。
途中から横道にそれてしまって、そっちの印象が強くなっているかもしれませんが。
千城は物事を中途半端にすることを嫌いますので、ここもしっかりと判断しております。
英人はちゃんと考える…考えるのか?!
従っていくだけのような…。

> おばあちゃん、自分の財産より大事なモノを永遠に失っちゃったね。
> お金なんかより大事なモノだったのに。
>
> 私、英人のお父さんが好きなんですよね。
> 何でお父さん登場が秘かに嬉しいの(笑)

おばあちゃんも良く考えればわかることなのにね。
勢い発言はいけませんね~。
まぁ、英人が受けたことを思えば、最初っから千城はそのつもりだったのでしょうが。

お父さんをご支援してくださいましてありがとうございます。
いろいろあった親子も和解したし。
たまには出してやろうかなって感じでいます。
喜んでいただけて良かった~。
コメントありがとうございました。
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