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BLの丘
原色の誘惑 10
2012-08-21-Tue  CATEGORY: 原色の誘惑
「ユーリ、起きて。遅刻しちゃうよ」
由良の声で目が覚める。
肌に直接触れてくる布地の感触で、自分が全裸でいるのだと知った。
まぁ、由良と体を重ねた後は脱力感に襲われて、大概生まれたままの姿で転がっているものなのだが…。
それでも由良が起きれば自分も目覚めるはずなのに、今日はどうしたものか。
名残惜しくていつまでも由良に縋りついていた結果だろうか。

「うーん…」
「ユーリ。ほら」
裸の肩を撫でられてその温かさにゴロゴロと寄り添いたくなる。
「ユーリ」
声音には困ったものが含まれていた。
迷惑をかけているのだとは分かるのだけれど…。
やっぱり離れる淋しさが由利にははびこっているのかもしれない。
「由良…」
両手を伸ばせば抱きしめ返してくれる。
強請るようにくちづけを求めると、苦笑しながら軽く合わせてくれた。
甘えたくなる朝、”今日も一日そばにいるから…”と、これまでもおまじないのように繰り返された行為。
由良の力強さにいつも守られてきた。
「置いていっちゃうよ」
「やだ…。起きる」
半分抱き起こされる形で、由利は半身を上げた。
サラリと落ちていった肌掛けから、華奢な裸体が晒される。
抱き合う行為に入る時は、どちらともなく平気で脱いでいってしまうのに、由良だけがきちんと衣類を纏っている姿を目にすると、恥ずかしさが走った。
そう…。朝一緒に起きても、ふたりとも裸だったら抱かなかった感情を初めて感じた。
同じ体を持っているのに…。鏡に映したようなふたりは、改めてその姿を見ても抵抗も羞恥もなかったはずなのに…。
由利の持った戸惑いは、やはり由良に伝わってしまうのだろう。
「もう一回キスしてあげるから早く起きておいで」
チュッと音を立てて落とされたキスは、由良自身、ここから逃げだす口実だったのだろうか…。

由利は一人にされた部屋で、落ちていた衣類を身につける。
ダイニングに行くと、ほんのりと焼き色のついたトーストとスクランブルエッグがあった。
仕事がある日は、大概二人で並んで朝食の用意を済ませるのだが、眠りこけていた由利を気遣ってくれたのか、由良はギリギリまで起こしに来なかったらしい。
胸に抱えている小さなわだかまりを、まだ受け止めきれていない由利の心理状態を、理解しているからこそ…。
雄和のことを由利から言い出せはしなかったけれど、由良は充分なほど分かってくれている。
期待と不安を同時に抱えてしまっていること。
出会ったばかりの男に対して…。長年連れ添ってきた兄との関係についても…。

由良の態度はいつもと変わらなかった。
会社までも一緒に向かった。
冗談や日常の会話もポンポンと飛び出してくる。
普段では別々のエレベーターに乗るのに、この日は同じ箱の中に収まった。
周りの人にどう見られているのか、幾分緊張した空気が包むのに、由良は相変わらず気にした様子もない。
その姿勢が由利の心も和ませてくれる。
先に降りていく由良が、「じゃあね、ユーリ」と笑顔とキスを残して行った。
いたずら三昧である。
同乗していた人たちは、その状況を把握できずに、ただ呆然と一瞬の出来事を何が起こったのかと残された由利に視線を置く。
「もう…」
恥ずかしそうに俯いたただならぬ由利の色気に、一部下半身を押さえた人間がいたことは、由利は気付かなかったけれど。

噂はあっという間に広がっていく。
エレベーターの中での双子のキス事件は社内を駆け回り、その現場を見られた人間を羨ましいと言うものや、次回を虎視眈々と狙う奴だったり。
そんな由利と共にいる企画室も騒ぎの渦中にあった。
高畠が盛大な溜め息を、もう何度目か吐く。
「公衆の面前でチューしてる兄弟がどこにいるんだよ…」
「どんな感じなの?鏡に向かってキスしているイメージ?」
「(湯田川)あつみ、それ、キモイ…」
高畠と湯田川が冗談を交えながら、朝一番の出来事を繰り返す。
そんなに衝撃を与えるものだと思っていない由利は、昨日の雄和との出会いのほうが印象的で、日常的に繰り返される由良との出来事はどうでも良かった。
おかげでいらない言葉がポロリと零れた。
「べつに…。いつもしているもん…」
その瞬間、賑やかだった企画室の全員が黙り、妄想したのは言うまでもないが…。
今まで故意的に避けられていた双子が、陰で濃密な関係にあるとは誰が想像できたことか。

「ユ、ユーリ…?」
目を見開いた高畠が、「今、何を言った?」と確認を求めてくる。
兄弟で仲良くすることの何が悪いのか…といった感じで由利は答える。
「寝る前とか、起きた時とか…」
「「しねーよっっっ!!!」」
同時に反論されて、じゃあ、淋しい時はどうしているんだ…と内心で毒づいた。
それを思えば、そばにいてくれた由良の存在に改めて感謝するものが湧いたが…。

湯田川が思いっきり頭を抱えた。
「会社内で、作ってきた兄弟関係が崩壊しました…って?あの男のせいかよ…。由良の嫉妬も恐ろしいものがあるな…」
「それより、メンテナンス員、すげぇ、苦労しそう。絶対に当てつけられるぞ」
口々に言いたいことを言っている二人を放って、由利は仕事に向かう。
由良とは兄弟であって、恋人にはならないのだから。
きちんと顔を合わせたわけではないけれど、雄和に抱くものは由良に向けるものとは違っている。
お母さんのお腹の中から、ずっと一緒にいた人とは、裸で触れあって当たり前の存在なのだ。
チューだって、きっとこの世に生まれる前からしていたことだろう。
その考え方は、誰にも受け入れられなかった。
「文句は言わないけれど…。人前でのキスはやめたほうがいいぞ…」
高畠が理解できないものを見る目で由利をみつめた。
お腹の中と違って隠してくれる壁はない。
そんな時、由良から『今日のお昼は一緒に食べよう』とメールが入った。
続いて『羽後さん、また来社するって』と昨日からの確認事項があると伝えられればドキンと胸が跳ねあがる。
たぶん、故意的に合わせられた時間帯なのだろう。

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コメント

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・・・
コメントちー | URL | 2012-08-21-Tue 05:49 [編集]
ああ、ここにも天然ちゃんがぁっ。
そりゃ、兄弟はキスはしないと思うなあ。
いや、ウッカリそんなん見たら嬉しくてジックリ見ちゃうけど。

でも、お腹にいた時からしてたってわかる気がするなあ。

由良に彼氏が出来た方が大変な気がする。
あれ?いるんだったっけね(笑)
Re: ・・・
コメントたつみきえ | URL | 2012-08-21-Tue 06:56 [編集]
ちー様
おはようございます。

> ああ、ここにも天然ちゃんがぁっ。
> そりゃ、兄弟はキスはしないと思うなあ。
> いや、ウッカリそんなん見たら嬉しくてジックリ見ちゃうけど。
>
> でも、お腹にいた時からしてたってわかる気がするなあ。

兄弟はキスしないの?!えΣ (゚Д゚;)
…し、しないか…(←してたとか言わない…)
あ、いや、成人してはしないよね~(汗)
由利と由良はお腹にいた時から一心同体みたいなものです。
チューチューチュー♪(マズイ…また懐かしい歌が…)

> 由良に彼氏が出来た方が大変な気がする。
> あれ?いるんだったっけね(笑)

い、いたかしら…(とぼけ…)
由良に彼氏ができたら由利は泣いて泣いて泣き明かすでしょう。
だからこそ、先に由利に彼氏がいないと大変なのです。
由良ってその辺も分かってるんでしょうね。
可愛い弟のために色々策を練ります。
コメントありがとうございました。

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