榛名の寝顔を見るのは二度目だった。
たくさん寝たから、おなかがいっぱいになっても眠気は襲ってこなかった。
榛名の腕に抱えられていることが何よりの喜びだったのに、榛名の寝顔を見るとその苦しむような表情に英人の方が悩まされた。
榛名はこの二日間でできるだけの仕事をキャンセルしていた。
持ちこめる仕事の大半をこの部屋に移し、こなして英人の看病に当たっていた。
ダイニングテーブルに移動する間に、目にした書類の山を見た時に、いかに自分が榛名に迷惑をかけたのかと思った。
だが榛名は一言も英人を責めはしなかった。それどころか、英人の気持ちを分かっていながら一人にしたことを榛名自身が後悔していた。
…何をしたって敵わない…。
どんなに些細な嘘をついたって、榛名には見破られる。
『従順でいろ。素直になれ』と幾度も榛名に言われた。
最初は榛名のいいなりになることが自分の生き方ではないと思ったが、今となれば世間を何も知らない自分は、導かれる方向を指し示す榛名の態度に従うことが最良の道なのだと気付かされた。
だけど、どれだけ身体を張ったって、榛名の心は手に入らないし、素直に甘えて最終的に見放されるのは自分だ。
榛名は英人に甘えるよう躾けたが、その手を失う時、自分が正気でいられる自信などあるわけがなかった。
眠っている時ですら神経質そうに寄せる眉にそっと指先を這わせた。
きゅっと結ばれた薄い唇にも触れてみた。
どれだけ長いこと、自分のために榛名を苦しませてしまったのだろう…。
自分の絵を褒められることはどんなことよりも嬉しかった。だけど…。
ただでさえ、今回のプロジェクトに英人の絵を起用するというのは、榛名グループにあるデザイン会社に影を落とすようなものだ。
そこに加えて、最終的にはその会社に英人を就職させようと策を練っていた。
もう充分だ…と英人は思った。
神戸が言った。
『たった一人に認められることが全ての始まりなんだよ』
榛名が与えてくれた功績は世間に知られて、たぶん今まで以上に就職活動はスムーズにいくだろう。
初めて榛名に出会った夜に、「おまえの将来に損はない」と告げられた。
たしかにその通りだった。
自分は榛名から離れなければいけない…。近くにいたらかならず愛して、彼の負担にしかならないから…。
そばにいてはいけない存在だと分かっている。
恋も愛も自分がもたらす感情は負担にしかならなくて、榛名を困らせるだけだと分かっていたから…。
彼には迎えるべき人生があって、その舞台に自分は用意されていない。
離れる時に恋心も消せばいい…。
今回のプロジェクトがスタートしたら自分は榛名の前から姿を消そう。就職先は自分で探せばいい。
英人は全てを悟ったように指先を動かした。
英人はまるで最後に触れるかのように、眠る榛名の唇に自分の唇を触れさせた。
『好き』と告白した答えなどいらないと思った。
もともともらえるべきではない答えだったから、はっきりと拒絶されなくて幸せだったのかもしれない。
生きていく世界があまりにも違いすぎて、答えを強請ることは榛名を追い詰めることにしかならない。
榛名に抱え込まれた腕の中で、小さく自分の身体を丸めながら縋るように身を寄せ眠った。
榛名と共に眠るのは今日が最後だ…と自分に言い聞かせて…。
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たくさん寝たから、おなかがいっぱいになっても眠気は襲ってこなかった。
榛名の腕に抱えられていることが何よりの喜びだったのに、榛名の寝顔を見るとその苦しむような表情に英人の方が悩まされた。
榛名はこの二日間でできるだけの仕事をキャンセルしていた。
持ちこめる仕事の大半をこの部屋に移し、こなして英人の看病に当たっていた。
ダイニングテーブルに移動する間に、目にした書類の山を見た時に、いかに自分が榛名に迷惑をかけたのかと思った。
だが榛名は一言も英人を責めはしなかった。それどころか、英人の気持ちを分かっていながら一人にしたことを榛名自身が後悔していた。
…何をしたって敵わない…。
どんなに些細な嘘をついたって、榛名には見破られる。
『従順でいろ。素直になれ』と幾度も榛名に言われた。
最初は榛名のいいなりになることが自分の生き方ではないと思ったが、今となれば世間を何も知らない自分は、導かれる方向を指し示す榛名の態度に従うことが最良の道なのだと気付かされた。
だけど、どれだけ身体を張ったって、榛名の心は手に入らないし、素直に甘えて最終的に見放されるのは自分だ。
榛名は英人に甘えるよう躾けたが、その手を失う時、自分が正気でいられる自信などあるわけがなかった。
眠っている時ですら神経質そうに寄せる眉にそっと指先を這わせた。
きゅっと結ばれた薄い唇にも触れてみた。
どれだけ長いこと、自分のために榛名を苦しませてしまったのだろう…。
自分の絵を褒められることはどんなことよりも嬉しかった。だけど…。
ただでさえ、今回のプロジェクトに英人の絵を起用するというのは、榛名グループにあるデザイン会社に影を落とすようなものだ。
そこに加えて、最終的にはその会社に英人を就職させようと策を練っていた。
もう充分だ…と英人は思った。
神戸が言った。
『たった一人に認められることが全ての始まりなんだよ』
榛名が与えてくれた功績は世間に知られて、たぶん今まで以上に就職活動はスムーズにいくだろう。
初めて榛名に出会った夜に、「おまえの将来に損はない」と告げられた。
たしかにその通りだった。
自分は榛名から離れなければいけない…。近くにいたらかならず愛して、彼の負担にしかならないから…。
そばにいてはいけない存在だと分かっている。
恋も愛も自分がもたらす感情は負担にしかならなくて、榛名を困らせるだけだと分かっていたから…。
彼には迎えるべき人生があって、その舞台に自分は用意されていない。
離れる時に恋心も消せばいい…。
今回のプロジェクトがスタートしたら自分は榛名の前から姿を消そう。就職先は自分で探せばいい。
英人は全てを悟ったように指先を動かした。
英人はまるで最後に触れるかのように、眠る榛名の唇に自分の唇を触れさせた。
『好き』と告白した答えなどいらないと思った。
もともともらえるべきではない答えだったから、はっきりと拒絶されなくて幸せだったのかもしれない。
生きていく世界があまりにも違いすぎて、答えを強請ることは榛名を追い詰めることにしかならない。
榛名に抱え込まれた腕の中で、小さく自分の身体を丸めながら縋るように身を寄せ眠った。
榛名と共に眠るのは今日が最後だ…と自分に言い聞かせて…。
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