英人は再び眠りについた。
闇夜に落ちる寸前、どうしても喉の渇きに耐えられずに、声を上げるわけでもなく、小さく唇を開くと与えられるように合わせられた薄い唇の隙間から液体が流れ込んできた。
生きていくために絶対に必要な液体を与えられ、その潤いに『命』というものを感じた。
こんなことをしてくれるのは、英人が何よりも願い強請った人物でしかないと思うのに、その姿を視界に焼き付けることができなかった。
英人は寄せられる唇を求めて、何度も水分を欲しがった。
心にぽっかりと開いた穴が、流しこまれる液体で少しずつ埋められるような錯覚に陥った。
次に目覚めた時は、熱かった身体が嘘のようにスッキリとしていた。
いつから眠っていたのか、何の夢を見ていたのか、はっきりと覚醒しない頭が色々な事を思い浮かべる。
自分はまだ生きていたのか…とか…。
一時はこのまま死んでしまうと弱気だった心もどこかへ飛んでいた。
突然、ぐ~ぅと腹の虫が鳴った。
昨夜はみんなで会食をしたが、緊張して味わうどころではなかったせいだろうか。
朝食…、時間が分からないからもう昼食になってしまうのか(寝室が真っ暗なので時間の感覚がない)、とりあえず何か食べ物を持ってきてもらうよう頼まないと、榛名に怒られる…という頭が働いた。
榛名は思いっきり英人を甘やかしていたから、ルームサービスだってメニューに無いものでも頼めば作ってくれたが、英人はあらゆる方面のコックに負担をかけるようで申し訳なくて、そんな注文はできなかった。
だけど、まだどこかだるさのある身体は、固形物を飲み入れる体力まで回復していなくて、お粥を頼んでもいいのだろうかと思った。その反対側で、そんな注文をしたらそれこそ榛名に何を言われるのだろうか、体調管理がなっていないと小言を言われるのではないかと、色々な思いが錯綜した。
とりあえず、水でも飲もうとベッドから出ようとした。
床に足をついた途端、力が入らなくて身体を支えることが出来ずに、ガタンっと床の上に転がった。
…うっそ、…これまで熱を出した時、こんなに体力なかったっけ…?
熱にうなされていたことは覚えているが、これほど身体が弱っているとは思ってもいなかった。
しかもその時に気付いた。確か自分は寝る前、着替えるのが面倒でバスロープのままだったはずなのに、今身につけているのはパジャマだった。
いっぱい汗をかいたはずなのに、身体の表面はサラサラしている。
昨夜、榛名とは部屋の外で別れたし、抱かれた記憶もないし、つじつまの合わないことに茫然とした。
突然寝室のドアの開く音がして、英人は床の上でようやく身を起こした状態で、入ってきた榛名を振り返った。
スラックスを穿いただけで上半身は何も着ていない。シャワーでも浴びてきたのか、首にはバスタオルがかけられていた。
何故ここにいるのか…とか思う間もなく、榛名が英人に近づいてきた。
「何をしているんだ」
半ば叱りつけるように声を出しながら、でも気遣ってくれているといつも一緒にいた英人はすぐに分かった。
床に転がっていた身体を軽々と抱きあげられ、再びベッドへと戻された。
それから脇に腰かけた榛名が、大きな掌を額に乗せたり、首筋に指先を当てたり、手首をつかんだり…と、まるで診察でもするかのように英人の各部位に触れた。
冷たい指先の感触は夢の中でも見たな…と英人は漠然と感じた。
何事かと英人は戸惑いながらも、榛名にされるままになっていた。
「まだ熱が下がりきっていない。もう少し寝ていろ。水は?何か食べられるか?」
甲斐甲斐しく看病をされているようで、英人は驚きながらもどこか嬉しかった。
ちょっと熱を出したくらいで、こんなに丁寧で親切な扱いを受けたことなどなかった。はっきり言えば初めての体験だった。
「お水…」
何故か甘えてもいいような気になった。
…自分はまだ夢の世界にいるのだろうか…?……?
そんな気分になるほど榛名は優しく、そして英人は子供の頃、甘えたかったように時代を遡っていた。
ベッドサイドに置かれていたピッチャーからグラスに注ぐと、榛名は英人の身体を支えるように上半身を起こした。
グラスを口元に当てられ、英人はようやく喉の渇きが潤せる、とごくごくと飲みほした。
「もっと…」
榛名の胸にもたれかかりながらフッと息を吐き、続きを強請れば、嫌がる様子もなくまた口元にグラスを届けられる。
先程よりもゆっくりとしたペースで飲んでいる英人に榛名の後悔したような声が聞こえた。
「一昨日の夜、おまえを一人にするべきではなかった」
…おととい…?
英人は飲んでいたグラスから勢いよく顔を上げて榛名を見上げてしまったために、傾けられていたグラスから水が零れ、英人のパジャマの上に流れ落ちた。
榛名は慌ててグラスを離したが、時すでに遅く、英人の胸元にひんやりとした液体が刺さるように流れ込む。
「ひゃっ!」
びくっと身体を震わせ、悲鳴にも満たない小さな声が英人からあがった。
榛名が自分の首に巻いたままのバスタオルで英人の肌を拭った。
「突然動くな」
叱られるわけでもなく、呆れたようでもあり心配しているようでもある声を発しながら、榛名は着替えさせようとパジャマのボタンを外した。
首筋から胸元に流れる冷たい指先に、ゾクッとするものを感じた。
それはまぎれもないない欲望で、榛名との別れ間際に強請りたかった『甘え』だった。
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闇夜に落ちる寸前、どうしても喉の渇きに耐えられずに、声を上げるわけでもなく、小さく唇を開くと与えられるように合わせられた薄い唇の隙間から液体が流れ込んできた。
生きていくために絶対に必要な液体を与えられ、その潤いに『命』というものを感じた。
こんなことをしてくれるのは、英人が何よりも願い強請った人物でしかないと思うのに、その姿を視界に焼き付けることができなかった。
英人は寄せられる唇を求めて、何度も水分を欲しがった。
心にぽっかりと開いた穴が、流しこまれる液体で少しずつ埋められるような錯覚に陥った。
次に目覚めた時は、熱かった身体が嘘のようにスッキリとしていた。
いつから眠っていたのか、何の夢を見ていたのか、はっきりと覚醒しない頭が色々な事を思い浮かべる。
自分はまだ生きていたのか…とか…。
一時はこのまま死んでしまうと弱気だった心もどこかへ飛んでいた。
突然、ぐ~ぅと腹の虫が鳴った。
昨夜はみんなで会食をしたが、緊張して味わうどころではなかったせいだろうか。
朝食…、時間が分からないからもう昼食になってしまうのか(寝室が真っ暗なので時間の感覚がない)、とりあえず何か食べ物を持ってきてもらうよう頼まないと、榛名に怒られる…という頭が働いた。
榛名は思いっきり英人を甘やかしていたから、ルームサービスだってメニューに無いものでも頼めば作ってくれたが、英人はあらゆる方面のコックに負担をかけるようで申し訳なくて、そんな注文はできなかった。
だけど、まだどこかだるさのある身体は、固形物を飲み入れる体力まで回復していなくて、お粥を頼んでもいいのだろうかと思った。その反対側で、そんな注文をしたらそれこそ榛名に何を言われるのだろうか、体調管理がなっていないと小言を言われるのではないかと、色々な思いが錯綜した。
とりあえず、水でも飲もうとベッドから出ようとした。
床に足をついた途端、力が入らなくて身体を支えることが出来ずに、ガタンっと床の上に転がった。
…うっそ、…これまで熱を出した時、こんなに体力なかったっけ…?
熱にうなされていたことは覚えているが、これほど身体が弱っているとは思ってもいなかった。
しかもその時に気付いた。確か自分は寝る前、着替えるのが面倒でバスロープのままだったはずなのに、今身につけているのはパジャマだった。
いっぱい汗をかいたはずなのに、身体の表面はサラサラしている。
昨夜、榛名とは部屋の外で別れたし、抱かれた記憶もないし、つじつまの合わないことに茫然とした。
突然寝室のドアの開く音がして、英人は床の上でようやく身を起こした状態で、入ってきた榛名を振り返った。
スラックスを穿いただけで上半身は何も着ていない。シャワーでも浴びてきたのか、首にはバスタオルがかけられていた。
何故ここにいるのか…とか思う間もなく、榛名が英人に近づいてきた。
「何をしているんだ」
半ば叱りつけるように声を出しながら、でも気遣ってくれているといつも一緒にいた英人はすぐに分かった。
床に転がっていた身体を軽々と抱きあげられ、再びベッドへと戻された。
それから脇に腰かけた榛名が、大きな掌を額に乗せたり、首筋に指先を当てたり、手首をつかんだり…と、まるで診察でもするかのように英人の各部位に触れた。
冷たい指先の感触は夢の中でも見たな…と英人は漠然と感じた。
何事かと英人は戸惑いながらも、榛名にされるままになっていた。
「まだ熱が下がりきっていない。もう少し寝ていろ。水は?何か食べられるか?」
甲斐甲斐しく看病をされているようで、英人は驚きながらもどこか嬉しかった。
ちょっと熱を出したくらいで、こんなに丁寧で親切な扱いを受けたことなどなかった。はっきり言えば初めての体験だった。
「お水…」
何故か甘えてもいいような気になった。
…自分はまだ夢の世界にいるのだろうか…?……?
そんな気分になるほど榛名は優しく、そして英人は子供の頃、甘えたかったように時代を遡っていた。
ベッドサイドに置かれていたピッチャーからグラスに注ぐと、榛名は英人の身体を支えるように上半身を起こした。
グラスを口元に当てられ、英人はようやく喉の渇きが潤せる、とごくごくと飲みほした。
「もっと…」
榛名の胸にもたれかかりながらフッと息を吐き、続きを強請れば、嫌がる様子もなくまた口元にグラスを届けられる。
先程よりもゆっくりとしたペースで飲んでいる英人に榛名の後悔したような声が聞こえた。
「一昨日の夜、おまえを一人にするべきではなかった」
…おととい…?
英人は飲んでいたグラスから勢いよく顔を上げて榛名を見上げてしまったために、傾けられていたグラスから水が零れ、英人のパジャマの上に流れ落ちた。
榛名は慌ててグラスを離したが、時すでに遅く、英人の胸元にひんやりとした液体が刺さるように流れ込む。
「ひゃっ!」
びくっと身体を震わせ、悲鳴にも満たない小さな声が英人からあがった。
榛名が自分の首に巻いたままのバスタオルで英人の肌を拭った。
「突然動くな」
叱られるわけでもなく、呆れたようでもあり心配しているようでもある声を発しながら、榛名は着替えさせようとパジャマのボタンを外した。
首筋から胸元に流れる冷たい指先に、ゾクッとするものを感じた。
それはまぎれもないない欲望で、榛名との別れ間際に強請りたかった『甘え』だった。
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きえ | URL | 2009-09-29-Tue 10:00 [編集]
M様
いつもご訪問いただきありがとうございます。
>英人の健気さに泣けてきます(;_;) 榛名はどう思ってるのか榛名サイドも気になりますね☆
きっとM様に応援していただいて、英人も大喜びだと思います。
ご希望いただいて感謝なのですが、今度ばかりは榛名の心情を書く気力がありません…(*_*)
っていうか、わかんない、この男…(まるで他人様…)
榛名自身も英人をどう扱っていいのか分かっていない模様です。
とにかく感情のおもむくまま…って状態です。
だから余計に英人は振り回されているのでしょうね。
ぜひぜひまた遊びにいらしてください。
コメいただきありがとうございました♪
いつもご訪問いただきありがとうございます。
>英人の健気さに泣けてきます(;_;) 榛名はどう思ってるのか榛名サイドも気になりますね☆
きっとM様に応援していただいて、英人も大喜びだと思います。
ご希望いただいて感謝なのですが、今度ばかりは榛名の心情を書く気力がありません…(*_*)
っていうか、わかんない、この男…(まるで他人様…)
榛名自身も英人をどう扱っていいのか分かっていない模様です。
とにかく感情のおもむくまま…って状態です。
だから余計に英人は振り回されているのでしょうね。
ぜひぜひまた遊びにいらしてください。
コメいただきありがとうございました♪
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