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BLの丘
乱反射 4
2012-10-10-Wed  CATEGORY: 乱反射
昼休みになるとあつみは、「萩生、今日は真室と一緒に行くから」と告げた。
珍しい出来事に萩生が不思議そうに振り返る。
「え?新庄は?」
由良がやってくることも頭にあるのだろう。あつみが居たから瀬見も堂々と居られたこと。
その雰囲気が読めないような男ではない。
「安心しろ。ちゃんと引き取ってやるから」
『由良とふたりで』と暗に含ませれば、苦笑を浮かべた。その奥に『まいったなぁ…』という照れが見事に表れているのだから…。
鼻の下が伸びている姿には声を無くして真室に近付いた。
その手には両手のひらで持ち上げるくらいの布製の巾着ポーチがあって、あつみは「ん?」と見下ろしてしまった。
真室は照れくさげに「僕、お弁当なんです…」と俯いた。
社員食堂はあくまでも”食事をする場所”であって、注文するのも持ち込むのも自由である。
持参していることが新鮮で(既婚者や女子社員には多かったが)驚いてしまった。
他の連中はすでに知ったことなのだろう。改めてあつみが反応してしまったことは、真室の中で困惑を生んだのだろうか。
それを払拭するように笑みを浮かべる。
「すげぇ。ま、早く行こうぜ」
真室の隣に並ぶと頭一つ分は違う小柄さを感じる。
背中に手を当てて促すと、照れた顔は弾けるような笑顔に変わった。
もともと人懐っこい性格のせいもあるのか、確かに室内でも人に馴染むのは早い。
嫌味がない素直な態度で接してくるから、受け入れる方も微笑んでしまう。

食堂に行くと先に着いていた由良と瀬見が並んで座っていた。
テーブルの上に何もないのは、自分たちを待っていた証拠だ。
気付いたふたりにスッと手を上げて、あつみは真室を連れて別の席に向かう。
話を聞いていなかったのか、由良は目を見開いている。更に瀬見が立ち上がってしまったのだから、ますます何事かといった感じだった。
後ろを続いてきた萩生が寄って、由良に事情を説明したのか、やはり怒ったような剥れたような、でも嬉しそうな笑みを見せた。

あつみに近付いてきた瀬見の存在に、真室が明らかな戸惑いを見せた。
「あの…」
「あぁ、こいつ、在庫管理室の瀬見」
四人掛けのテーブル席に、あつみの隣に真室を案内しながら、目の前に来た瀬見を紹介すれば、瀬見も心得たように「新庄瀬見です」とネックストラップをかざしながら自己紹介をした。
状況が全くつかめていない真室もぺこりと頭を下げて名乗る。
「真室、ちょっと待ってて。俺たち、買ってきちゃうから」
詳しいことは食べながら話すからと、真室に席を取らせておいて、あつみは瀬見と連れだった。
ふと視線を真室に戻せば、その原因となっている萩生の姿を追っているようだった。

「彼、お弁当なの?」
「そうなんだって。若いのに感心だよな…」
新入社員の頃の給料なんて高が知れていて、食費も馬鹿にならない、とは、経験上知ったことでもある。
だからといって、そこまで詮索するのは失礼な話だとも思った。
ふたりして、日替りの焼肉定食を手にして戻ると、真室は巾着の袋を開けないまま、テーブルの上に置いてチョコンと待っていた。
「お待たせ~」
「あ、いえ…」
瀬見がいるせいか、緊張しているのだと思えるぎこちなさが見える。
あつみの前に瀬見が座り、やはり戸惑った態度で、瀬見を見ようかどうしようかと俯き加減になっていた。
「こいつ、瀬見さぁ。由良の同僚の奴なのよ」
雰囲気を和ませるようにまずは紹介から入ると、「由良?」と疑問の声が上がる。
「あぁ、萩生の前にいる奴。まぁ、話すと長い話になるんだ~」
萩生を恋人とふたりきりにする…とはすでに伝えた話で、なんとなく理解してくれているのだろうか。
軽口をたたくあつみに、フッと口角を上げた瀬見が、「東根君も、ほら、食べよう」と弁当を広げるよう顎をしゃくった。
気さくに話しかける態度は、これまでも後輩を見てきたことで培われている。
瀬見の親しみのある口調に真室も少しばかり力を抜いたようだった。

真室がサッと取り出す弁当に、あつみも瀬見も視線を奪われた。
真っ先に見えたのが長方形の、可愛いキャラクターの描かれた三方をファスナーで開閉するバッグで、その下から二段重ねの弁当箱が飛び出す。
更にバッグの中から正方形の掌サイズのタッパーが二つ。保冷材で冷やされたサラダと果物が入っていた。
二段重ねの弁当箱が開かれれば、炊き込みご飯と分かるものと、おかずがバランス良く盛られたものが登場する。
煮物、焼き魚、からあげ…と、どこの幕の内弁当だ?!と思わず言ってしまいそうな品数の多さ。
「えぇっ?!すげっ、チョー美味そうっ!!」
圧倒されるあつみに、困ったような苦笑いが真室から漏れた。
きっとこれまでにもされた反応なのだろう。
小さく肩を竦める。
「うち、おに…、兄が調理師をやっているんで…」
「真室って実家暮らし?」
「実家…っていうか…。お姉ちゃん、結婚して出ていっちゃったし、両親は好きな陶芸をやるんだって引っ越していって…。だから今はお兄ちゃんと二人なんです」
先程言い直した言葉づかいも、すっかり普段のものに戻っている。
まぁ、それはいいとして、ついつい彼の生活に踏み込んだ質問が次々と続いてしまった。
気後れすることもなく答えてくれるものだから、あつみの図々しさはもちろん、瀬見も止まることがない。
そして知れた真相は…。

真室は三人兄弟の末っ子で、長兄とは9歳の歳の差があるそうだ。姉とは7歳差で、数年前結婚したらしい。
真室の就職を機に隠居生活になっていた両親は、趣味の陶芸に励むと、現在住んでいるマンションから郊外(正確には他県らしい)に引っ越して行ったとの事。
つまり、今は兄との二人暮らしなのだそうだ。
「ふたり分作るのも三人分作るのも手間は変わらないから、『真室はお弁当にしなさい』って言われて、持たされているんです。だから残り物…」
職人ともなれば、一人前、二人前とみみっちく作る方が、確かに手間だろう…。
しかし”残り物”の意味が分からないほどの見栄えの良さだった。
「持たされている…って…。手料理なんてとーんと離れている俺からすれば、羨ましいかぎりだけどな…」
あつみがボソッと呟くと、目の前でクスクスと肩を揺らしている人間がいる。
一人暮らしの”淋しい”発言を聞いた後だけに、何かツボにハマるものがあるのか…。
「せみ~ぃ」
苦々しい声を上げた隣で、まさかと思われる発言には、さすがにあつみも瀬見も絶句した。

「え~。じゃあ、お兄ちゃんに言って、お弁当作ってもらいましょうか?お弁当箱、用意してもらえれば、材料費のみでってことで」
ニコニコと語る可愛い存在は、兄に甘やかされ、我が儘が言える存在なのだと悟ることができた。

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キリ番が間もなくですね。
あっという間にやってきたようで驚いておりますが…。
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コメント

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また
コメントちー | URL | 2012-10-10-Wed 03:43 [編集]
お兄ちゃん付き(笑)
しかも、お姉ちゃんまでいるのかあ。
ふふふ。楽しい展開になりそうだなあ。
しかも、真室くん、可愛いし。
性格も素直で良い子みたいだなあ。
どうか、あっちゃんに堕ちませんように←ヒドイ

ターラーラーラー ラーラーラー(オーバー ザ レインボーで)

「もしもし?由良ぁ」
『ユーリっ。あのね、あのね、スゴいんだよ♪今、萩生と二人なの』
「えっ、本当に?何で、どうしたの?」
『それがさあ・・・』

ブチッ。こちらは、有無を言わさず強制終了。

「由利、お昼休みは短いんだよ?」
「ゆうわのばかぁ」


「師匠。例のあの子もコレクションに入れますか?」
「私は、お兄ちゃんの方が気になる」
「ちーもですっ。イケメンセンサーがピピッと」
「え、まさか、そっちも行く気?」
「いいえ、ちーの子分に行かせます(笑)」
Re: また
コメントたつみきえ | URL | 2012-10-10-Wed 07:13 [編集]
ちー様
おはようございます。

> お兄ちゃん付き(笑)
> しかも、お姉ちゃんまでいるのかあ。
> ふふふ。楽しい展開になりそうだなあ。
> しかも、真室くん、可愛いし。
> 性格も素直で良い子みたいだなあ。
> どうか、あっちゃんに堕ちませんように←ヒドイ

いや…、別に…、"お兄ちゃん"に反応してもらわなくていいです。
あつみはお兄ちゃんに会うことがあるんですかね。
真室は無邪気な、まだお子様って感じです。
由利や由良とも違いますからね。
あつみと瀬見の扱い方はどのようになるのでしょうか。

> ターラーラーラー ラーラーラー(オーバー ザ レインボーで)
>
> 「もしもし?由良ぁ」
> 『ユーリっ。あのね、あのね、スゴいんだよ♪今、萩生と二人なの』
> 「えっ、本当に?何で、どうしたの?」
> 『それがさあ・・・』
>
> ブチッ。こちらは、有無を言わさず強制終了。
>
> 「由利、お昼休みは短いんだよ?」
> 「ゆうわのばかぁ」

こっちも"ばか"扱いされてる(爆)
そんなこと言ったら恋人は傷ついちゃうよ。
つか、ふたりでご飯を食べていることまで報告し合うのか…。

> 「師匠。例のあの子もコレクションに入れますか?」
> 「私は、お兄ちゃんの方が気になる」
> 「ちーもですっ。イケメンセンサーがピピッと」
> 「え、まさか、そっちも行く気?」
> 「いいえ、ちーの子分に行かせます(笑)」

ちー様には子分が(笑)
もう写真いっぱいで整理が大変でしょう。
あ、スライドショーで見ているのか。
是非がんばってください。
コメントありがとうございました。
No title
コメントけいったん | URL | 2012-10-10-Wed 16:23 [編集]
兄に作って貰ったお弁当持参なんて 溺愛されてるのね、真室♪
ちょっと 筑穂が脳裏を掠めましたが…(。´・_・`)。oO(ぇ・・・)

まだまだ お話しは序章
誰が、どんな行動を起こし 誰が、どんな風になって行くのか 楽しみしております!


「ねぇ~ きえ様ってさぁ ちーさんと私が どれだけサブキャラを好きなのか 知っているはずだよね?」
「そりゃぁ もちろん!」
「そうだよね。なのに 真室に兄が居るって!それも 弟を溺愛して弁当を作っちゃう人なんて これが 喰らいつかないでおられましょうか!」
「そうだよね~♪」
「で、ちーさんの子分って?」

また やっちまったぁ~Il|li_| ̄|○il|li ガーンby作者

ウシシシ♪(`艸´*)(*`艸´)ウシシシ♪...byebye☆



Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-10-10-Wed 17:09 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 兄に作って貰ったお弁当持参なんて 溺愛されてるのね、真室♪
> ちょっと 筑穂が脳裏を掠めましたが…(。´・_・`)。oO(ぇ・・・)

あー。そうねぇ。
お弁当を持たせていたお兄ちゃん、いましたねぇ。
やっぱり弟おもいなところは…。

> まだまだ お話しは序章
> 誰が、どんな行動を起こし 誰が、どんな風になって行くのか 楽しみしております!

この先、何がおきるのでしょうか。
そうなのです。まだ始まりなんですよ。
状況説明をしている最中で…。

> 「ねぇ~ きえ様ってさぁ ちーさんと私が どれだけサブキャラを好きなのか 知っているはずだよね?」
> 「そりゃぁ もちろん!」
> 「そうだよね。なのに 真室に兄が居るって!それも 弟を溺愛して弁当を作っちゃう人なんて これが 喰らいつかないでおられましょうか!」
> 「そうだよね~♪」
> 「で、ちーさんの子分って?」
>
> また やっちまったぁ~Il|li_| ̄|○il|li ガーンby作者
> ↑
> ウシシシ♪(`艸´*)(*`艸´)ウシシシ♪...byebye☆

.・゜゜・(/□\*)・゜゜・by作者
やっちまったぁ~(←そのとおりです)
ちー様に言われた時、危機感を覚えました。
絶対にもう、次は…ス、とか、ピンとか…ないよ~。
私がオフになります。

サブキャララブはいいけど…。

繋ぎつけ方が素晴らしいよ、読者様…汗

極力兄上は出さない(←)方向で話を進めたいと思います。
コメントありがとうございました。

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