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BLの丘
乱反射 7
2012-10-13-Sat  CATEGORY: 乱反射
菓子折りを持って真室の兄に会えたのは、翌日のことだった。
ちょうど兄の休日になったということで、都合のよい展開にあつみと瀬見は、申し訳なさも漂わせながら会社帰りの真室に付いて伺った。
ファミリー向けの20階建てのマンションの10階。
3LDKの造りは広々と感じる。
今では広いが、かつては、兄と同室であり、姉が出て、両親もいなくなって、やっとそれぞれの個室が持てるようになったのだと喜ばしく語ってくれた真室だった。
常にそばにいた分、我が儘も甘えも、何もかもを吸い取った兄のようだ。
寝相が悪い弟の布団をかけ直す姿が、何故か思い浮かんでしまった…。
他人の家にお邪魔する戸惑いはあっても、人懐っこい真室に促されて最奥のリビングまで進む。
すでに香ばしい匂いが漂っていたリビングの隣、オープンキッチンに短髪の逞しい男が、前ボタンのシャツに腰巻の黒いエプロンをかけて調理していた。
その光景だけで、『一般家庭』に思えない神々しさがあった。
「あぁ、おかえり」
低い声は、最初に飛び込んだ真室に向けられたものなのだろう。
続いて入り込んだ二人の存在を認めて丁寧に会釈をしてくる。
肩幅のある骨格、鍛えられたような腕っ節、引き締まった体格は真室とは似ても似つかなかった。
威厳を漂わせる態度はいかにも『長兄』である。

あつみはその風格だけで怯んでしまった。
「あ…、あの…、真室…くんに…、と、一緒の…」
「このたびは大変お世話になります。お言葉に甘えてお弁当をお願いすることになりまして…」
隣で流暢に言葉を操る瀬見の、心臓に毛でも生えているかのような堂々とした振る舞いに声を失う。
畏まった二人に対して、頬を緩めた兄は、「そちらにお掛けください」とリビングのソファを促してきた。
それから真室に対して「お茶の用意を」と指示を出している。
すぐにもあつみと瀬見は手を胸の前で振った。
「いえいえ、お構いなく…」
それが意味を成さない社交辞令だとしても、やはり口から漏れるものであった。

煮込んでいたのか、焼いていたのか、火を止めた兄の若美(わかみ)が、改めてあつみたちの前に立つ。
薄いブルーのシャツは胸元のボタンが幾つかはずされ、腕に巻きつく長袖は数度折り返されていた。
エプロンを外し、スッとダイニングテーブルの椅子にかける仕草がなんとも自然だ。
真室が幼さを見せるとすれば、この男は完璧な『大人』だった。
今一度深く腰を折りこんでから、双方席について、改めて正面から向き直る。
「いつも真室がお世話になっております。奔放に育ってしまったせいで、ご迷惑をおかけしているのではないかと…」
会社の人間と会うなどはもちろん初めてのことなのだろう。
さりげなく普段の行動を探ってくるのは兄心でもあるのか…。
「そんなことはありませんよ。とても真剣に仕事に取り組んでいただいて、頼もしいです」
お世辞に捉えられるかどうかのところだが、見てきた日常はおだてるものではない。
兄の背後でフフ…と笑った顔は、…見なかったことにしておこう…。

世間話で数十分が過ぎた。
若美は料亭に勤務しているのだという。
「まだまだ修行の身です」という立場は、その世界の厳しさを物語っているようだった。
この世界に身を埋めて十数年。立ち振舞いの全てが、職につながっているような清々しさが表れている。
戸惑いの無い、潔さというものなのだろうか。
躊躇いがない分、凛々しさと自信が溢れている。
向上心があるからこその自信なのか…。
「厨房にいると、直接的なお客様の悦びって感じられないんですよ。お好みなどに合わせて作り、どれほどの満足がいただけたかと聞けるのはやはり嬉しいことなんです。私ごときの料理でも望まれてくれるとは、本当に喜ばしい限りで…」
「『ごとき』っ?!」
弟とは違って、どこまで謙遜する存在なのか…。
若美にとって”お弁当”の存在は、単なる実験台のようだ。
そうやって日々、自分の味を試したい、感想を聞きたい状況にあるとは、職人根性なのだろう。
人に喜ばれる職業というのを深く感じてしまった。

そんな中で、あつみは現金の入った茶封筒を若美に差し出した。
初期資金…というわけではないが、見合う弁当箱の準備金なども含めて、瀬見と共に一番大きい紙幣を二枚ずつ入れてある。
自分たちで探す弁当箱より、詰めやすい、扱いやすいもののほうが手間がないだろうと、お任せした形だった。
こだわりがない…といえばそれまで…。要するに食べられれば良い。
姿を現したことで、たぶん食量も想定できるだろう。
まぁ、いざとなれば、”お姉ちゃんの弁当箱”でも文句は言えないのだが…。

兄の手を通り越して封筒を奪い取った真室が、中身を確かめてはニンマリと笑顔を浮かべた。
ホクホクとした…という表現が正しすぎる…。
「真室~~~っ」と、咎めたい声も、兄貴の前では抑えられるものになった。
確認した若美が、一枚だけを抜き取って真室に渡している。
唇を尖らせた真室に、「先輩たちに感謝しなさい」と金の出所を考えさせていた。
そこには、若美自身の、自分の苦労は含まれていないのだろうか…。
やはり、支払金は真室に渡さずに、兄に渡すものだろうと深く教えられた気分だった。

その日、あつみと瀬見は、煮込まれたビーフシチューを味わって帰宅した。
和食の世界に身を置いても、創作意欲は際限がないようだった。
舌をうならせる一級品である。
見開いた目が閉じるまでに何秒かかったか…。
職人技でありながらほのかに香ってくる素朴な家庭の、優しさが混じっている…。

「休みであればいくらでもおもてなしができます。いつでもいらしてください」
弟を思ってのことなのか、仕事柄なのかの判断は付き難いが、温かな言葉に嫌味や抵抗感は感じられない。
人柄の良さが滲み出ているようで、今後の付き合いも考慮して、ふたりとも深々と頭を下げる。

これだけの手料理を日々口にしている真室を、心底羨ましい…と思ったのは胸の内にとどめて…。
少なくとも明日から、『家庭の味』が味わえるのだと思うと、自然と足が軽くなるのが不思議だ。
帰り道、あつみはボソっと「瀬見にちょっと感謝する…」と本音を漏らした。
きっかけがなんであったか…。少なくとも瀬見が由良を気遣って、他の席で食べるランチタイムを提案しなかったら巡り合えなかった出来事だ。
フッと口角を上げた瀬見も、「俺もおまえに感謝しとくわ」と突然の展開を受け入れている。
誘った相手のことか…。
意外性に富む企画室の中、一番の”意外”な出来事に巡り合ったのかもしれない。

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負けた…(←誰に?)

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コメント

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来た!
コメントちー | URL | 2012-10-13-Sat 01:01 [編集]
本日は、師匠との実況お送りいたします。

「師匠!お兄ちゃん、来ましたねっ!」
「来た来た。しかも、サブキャラには惜しいわ」
「うん、でも、せみちゃんはお手つきだしー」
「そうなの?」
「ちー的にはそうです」
「ふーん。それにしても、お兄ちゃん・・・」
「ちー、お兄ちゃん好きっ!」
「あんた、『お兄ちゃん』なら好きなんじゃ?」
「まあ、それは置いといて。背が高くがっしりで~」
「髪はスッキリ短くて」
「ギャルソンエプロンが似合って」
「男の色気満載でー♪」
「いやん、ボタン外してるなんてエッチ~」


妄想は続く・・・

その頃の王子達と騎士二人。

「由良あ♪今、僕ご飯作ってたのっ!エライ?」
『え、カップラーメン?』
「違うよ、ちゃんとしたご飯だよっ」
『俺も、食べたいな』
「じゃ、明日・・・あれ?由良?由良?もしもし?ゆーらーっ!」

長くなると踏んだ雄和、すかさずハギーにメール。

「俺たちのスイートタイムの危機なり。対処願う」

由良の後ろから回り込み、キスを仕掛けて電源オフッ!
由良を抱えて寝室へ・・・

ハギーと雄和の苦労は続く(笑)
Re: 来た!
コメントたつみきえ | URL | 2012-10-13-Sat 06:06 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 本日は、師匠との実況お送りいたします。
>
> 「師匠!お兄ちゃん、来ましたねっ!」
> 「来た来た。しかも、サブキャラには惜しいわ」
> 「うん、でも、せみちゃんはお手つきだしー」
> 「そうなの?」
> 「ちー的にはそうです」
> 「ふーん。それにしても、お兄ちゃん・・・」
> 「ちー、お兄ちゃん好きっ!」
> 「あんた、『お兄ちゃん』なら好きなんじゃ?」
> 「まあ、それは置いといて。背が高くがっしりで~」
> 「髪はスッキリ短くて」
> 「ギャルソンエプロンが似合って」
> 「男の色気満載でー♪」
> 「いやん、ボタン外してるなんてエッチ~」
>
>
> 妄想は続く・・・

師匠とちー様の脳内はどうなっているんだ?!
その脳みそ、半分だけでも分けていただけませんかねぇ。(←からっぽ作者)
このたびも脅しに負けました(←)
お兄ちゃん、出てこない予定だったのに~~~。
気付いたら指が…カタカタφ(..)φと動いているのです。
そして私好みの筋肉質な立派なお兄ちゃんに仕上がっていました。
毎日大きなお鍋とか振りまわしていて、全体的に締まっております。イヤン(/ー\*)

> その頃の王子達と騎士二人。
>
> 「由良あ♪今、僕ご飯作ってたのっ!エライ?」
> 『え、カップラーメン?』
> 「違うよ、ちゃんとしたご飯だよっ」
> 『俺も、食べたいな』
> 「じゃ、明日・・・あれ?由良?由良?もしもし?ゆーらーっ!」
>
> 長くなると踏んだ雄和、すかさずハギーにメール。
>
> 「俺たちのスイートタイムの危機なり。対処願う」
>
> 由良の後ろから回り込み、キスを仕掛けて電源オフッ!
> 由良を抱えて寝室へ・・・
>
> ハギーと雄和の苦労は続く(笑)

ハギー、今度は電源切ったのね(笑)
学習しておりますねぇ。
ラブビーム発射してふたりの世界に引き寄せましょう。
雄和も機械に強いんだから、一定の時間になったら自動的に電源が落ちるシステム、作動させればいいのにね。
「あれ? 画面、消えてる…」
「由利、電池が終わっちゃったんだよ。一晩充電すればいいから」
「一晩…?」
「出勤前には復活するから大丈夫」
「…う、うん…(由良と話ができない…とか思ってる)」
「…(雄和、自分の携帯も隠す)…」

コメントありがとうございました。
勝利の雄叫び!?ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ
コメントけいったん | URL | 2012-10-13-Sat 17:45 [編集]
真室の兄は、若美って名前で 和食の板前で 短髪、がっしり系の大人…作者の好みのタイプと、フムフム、ヵキヵキ_〆((・ω・*)

雰囲気は違っても 美形兄弟だなんて こんな息子を産みたかったわぁ(*⌒∇⌒*)テヘ♪

家庭訪問&兄との御対面で 更に 真室との距離が縮まった湯田川
しかし!湯田川も真室も まだ互いに意識してもない関係ですからね~
これからの展開を考えなくてはならない 作者のきえ様も大変だぁ!
オツカレ──㌧㌧(-ω-疲)p(q^o^ )㌧㌧──ッ...byebye☆

P.S.新庄が 家庭訪問の後 湯田川に 感謝の言葉を言うなんて 「裏読み」したくなっちゃぅ~
しゃべるな (ノ ̄ー ̄(; ̄X )ゝだってねぇ~もごもご… 

 

Re: 勝利の雄叫び!?ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ
コメントたつみきえ | URL | 2012-10-13-Sat 20:23 [編集]
けいったん様
こんばんは~。
家庭訪問、終わりました~。

> 真室の兄は、若美って名前で 和食の板前で 短髪、がっしり系の大人…作者の好みのタイプと、フムフム、ヵキヵキ_〆((・ω・*)
>
> 雰囲気は違っても 美形兄弟だなんて こんな息子を産みたかったわぁ(*⌒∇⌒*)テヘ♪

うちも欲しかった…こんな兄弟…。
別に由利由良でもいいけど…(ボソ)
すみません、すっかり私の好み(ちー様の好みとも言う←なんか似ているっぽいと勝手に付け足す)で成りたった兄です。

> 家庭訪問&兄との御対面で 更に 真室との距離が縮まった湯田川
> しかし!湯田川も真室も まだ互いに意識してもない関係ですからね~
> これからの展開を考えなくてはならない 作者のきえ様も大変だぁ!
> オツカレ──㌧㌧(-ω-疲)p(q^o^ )㌧㌧──ッ...byebye☆
>
> P.S.新庄が 家庭訪問の後 湯田川に 感謝の言葉を言うなんて 「裏読み」したくなっちゃぅ~
> しゃべるな (ノ ̄ー ̄(; ̄X )ゝだってねぇ~もごもご… 

ありえませんっ。ないないないない。
裏読みはけいったん様の頭の中に留めておいてください。
…そうです。この先、どうしたらいいのでしょう。
お知恵を拝借~~~。
真室、餌付けはできたんだけどなぁ…。
コメントありがとうございました。

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