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BLの丘
乱反射 33
2012-11-08-Thu  CATEGORY: 乱反射
バスルームから出て、真室だけを自室に促す。さすがにこの時は、タオル一枚で歩く気にはなれなかった。
真室の疲れた体は誰よりもあつみのほうが知っていた。
ぐったりと横になる姿は、想像以上に疲れさせてしまった結果だろう。
部屋に寝かせて…。気は後れるのだが、向かわなければいけない先がある。
廊下の先にある、リビングに明りが灯っているが、願うことなら若美には自室にいてほしかった。
全ての物音で同居人の存在を感じてしまう。良くも悪くも…。
またもや水分が欲しい状況だった。また、音が聞こえたなら、挨拶の一つもするべきだろう。
諦め半分、開き直り半分、欲しい物質に向かうのは、なにより真室のため…。
あつみの願いは虚しく、リビングに足を踏み入れると、リビングのソファに座って、何やらカタログとか書類を見ている姿が写り込んだ。
新店への準備として、ここのところ忙しい身なのだとは、あつみも重々承知している。

カチャッと開くドアの音に、ゆっくりと視線が向けられる。
後ろめたさはもちろんあったけれど…。
まるで日頃の挨拶だと言わんばかりに、「あ、おかえりなさい…」とあつみから声が吐き出された。
若美も気にした様子もない雰囲気で出迎えてくれて、「あぁ、ただいま」と普段と変わらない話をする。
そう…。今更お互いの関係なんて知り過ぎていて、隠すこともないはずなのだ…。
詮索…されているのかもしれないけれど、態度にも雰囲気にも微塵と出してこない姿は、本当の意味で『大人』なのだろう。
客にもこんな雰囲気のものがいるのだろうか。
黙る…は、口の硬さもあらわしてくれる。人の良さ…。信頼性…。

『ふたりのことだから…』と以前言われた。
そこにどんなことがあるのかは、頭の中に留める、という雰囲気で収められている。
あつみはまっすぐにキッチンの冷蔵庫に向かい、求める水分の入ったボトルを手にする。
なんとか会話の糸口を探そうとした結果か…。
あまり居座りたくない思いも交錯していたけれど。黙っているには苦しい。
その時、時間が合わずに会話が少ない中だったと、思いついたように感謝の言葉が漏れた。
「あの、今日もごちそうさまでした」
お弁当のこともあったし、夕食のことでもある。
若美はこんなに夜遅くの帰宅でありながら、翌朝にはしっかりと三人分の弁当を揃えてくれるのだから…。
どこに睡眠時間があるのかと、こちらが心配してしまうくらいだった。

あつみが頭を下げることに、「いえ…。食べきりましたか?」と食事の量を問われてしまった。
誤魔化すこともできずに正直に声は流れていく。
「えと…。すみません、煮物と汁物が残ってしまって…。タッパーに戻して冷蔵庫の中なんですけれど…」
「いえ、いいんですよ。無理して食べられてお腹を壊されても困るし。後で確認しておきますね。あつみさんも早目におやすみください」
さりげなく、この空間から追い出される仕草を取られる。
待っている真室を思うのだろうか。
これまでの出来事に何一つ触れてこない精神状態には感服するところでもあるけれど…。
居心地の良さなのか、悪さなのか…。
そして思う。
リビングで待っていたのは故意的なのだと。
無言で確かめられる、あつみの行動。
後ろめたさが募っても、必ず顔を出してくれる真摯さ。
真室の事を考えては、恥も外聞もなく求めるものを追うのかと。
この場所に現れたあつみに、どこか満足を得ていたようだ。
なにがあっても怖気づかないだろうと…。
見抜かれたもの。

自分で考える若美の時間を邪魔したくもない。
喉を乾かせた真室を待たせたくもない。
『早目におやすみください』と、粋なはからい、とも言える、若美の言葉に甘えてしまう。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ…」
ペットボトルを持ったあつみを、温かい目で見送ってくれる、その包容力は、改めて感心させられるのだった。
あつみが戻っていく場所を知っている。
何があったのかも全て知っても、縁にも触れてこない、大人的な態度には、教えられるものも多いのかも…。

ベッドで半分眠りについていた真室に冷たい水をあてると、思い出したように目覚めてきた。
「あ…、お兄ちゃんと…?」
過去の秘密の会話のことを思うのだろうか。
不安げな瞳を唇で塞いでしまった。
もう黙ることなど何もない。
「『おかえりなさい』って挨拶してきただけ。大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかは分からないけれど…。
兄弟間で何かの亀裂が入ることはないのだと安心させる。
真室に飲ませたペットボトル。
その扉の向こうで、動く音が聞こえた。若美が、バスルームに向かったのだろう。

そして気付く。
回しっぱなしだった洗濯機のこと…。

…えーと、シーツが…。

だけどもう部屋から出ていく気にもなれなかった。
すでに脱衣所…というか、バスルームを使用している若美の姿も分かるから…。

開き直って明日の朝、取り出そうと思った。
疲れたのはあつみも一緒。
そして迎えた朝。
ベランダに堂々と干されたシーツを見た時には、もう何も言えなかった。
見なかったふりをしたかった。何もないふりをしてくれる兄は、弟の世話のこれまでと変わらないような…。
…いや、そこまで気遣ってくれなくていいけれど…。

毎朝、朝食と弁当を用意してくれるけれど、若美の出勤時間はかなり遅い。
一応、乾燥機にかけたとしても、天日に干したかったのだろうか…。
そんなに早起きしなくていいのに…と、何度思ったことか…。
見送る兄の存在に後ろめたさが浮かぶものの、相手側には微塵にも負担とは思われていない。
そして、それは、次の時、当たり前のように、真室の部屋に、”備品”として用意されているのだから…。
簡単に部屋に入らせている真室は、すでに慣れたことなのだろうが…。
やっぱり、時間と場所は考えるべきだ…と、幾度となく振り返ったあつみだった。

まもなく、若美が出で行くとは分かっていても…。
一度抱いては、我慢できる存在ではなくなる。
追い出すわけではなかったけれど…。
そのことを若美もわかるようだ。呼びこんだだけに。

一カ月後。
勤めた場所を辞めるのだと報告を受け、ずっと懸案していた場所が現実のものになるのだと打ち明けられた。
あつみにしてみたら、分かっていてもあまりにも早い判断だったのではないかと思うほど。
それほど、前から準備していたのだろう。
職場をやめたとしても、まだ決めなければならない様々なことがある。
腰を据えて徹底的にこだわり抜きたいのだとはあつみでも知れた。

今までとは違って、忙しい割に、家にいる時間が多くなる若美だった。
多数の業者も出入りしている。
全ては今後の若美のためだと分かるし、そこが、安心して打ち合わせられる場所だと分かるから、帰宅時に来客があったとしてもあつみも真室も口出ししなかった。
真室は、少しばかりの淋しさも浮かぶのだろうか…。

話を邪魔しない態度をみせている真室に、そっと囁いてしまう。
そこで呟かれるのはいつもと同じ。
「真室のそばには俺がいつまでもいるから…」
抱きしめた細い体の眦に、小さな涙が浮かんでいるのを感じても、悔しさもまじるのか、抱きしめ続けるしかない。
兄とはずっと、遠くに離れてしまうわけではないのだと…。
そして、自分が、一番真室の近くにいる人なのだと思わせたくて…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-11-08-Thu 01:19 [編集]
若美の夢は 着々と進んでいる様ですね。
家を出るのも もうすぐなんだ。

あつみとマム
気兼ね無く二人の時間を過ごせて嬉しい?
それとも
何処までも 優しく包容力のある人が居無くなって淋しい?

末っ子のマムにとって 若美は 途轍もなく大きな存在ですから…
あつみ~、責任重大だね♪
(*・_・*)ヾ(・ε・ ) 任せたぞ!...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-08-Thu 07:06 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 若美の夢は 着々と進んでいる様ですね。
> 家を出るのも もうすぐなんだ。

ぬかりなく物事を進めていますね。
あつみたちのことを思うところもあるのでしょう。
同居、大変だからね~。

> あつみとマム
> 気兼ね無く二人の時間を過ごせて嬉しい?
> それとも
> 何処までも 優しく包容力のある人が居無くなって淋しい?
>
> 末っ子のマムにとって 若美は 途轍もなく大きな存在ですから…
> あつみ~、責任重大だね♪
> (*・_・*)ヾ(・ε・ ) 任せたぞ!...byebye☆

あつみ、本能のままに生きている時ではなくなりますよ~。
真室は淋しくなるかもしれないけれど、あつみを信じようね。
何かあればお兄ちゃんはすっ飛んで帰ってくるでしょう。
それともお姉ちゃんと一緒にチョコチョコと見回りに来るのでしょうか。
あつみのがんばりを期待します。
コメントありがとうございました。
初めましてです
コメントnichika | URL | 2012-11-09-Fri 22:19 [編集]
今年に入りBLにはまりました。webでも読めると知らず乙女ロード書店を知人に教えてもらったりして。。。
でもこちらを知ってもう感激!!! 切ないのもあるけど楽しい

シーツ・・・確かにそっとしてほしいような。。。バレてるけど

コメントの存在に気が付かずもったいない事をしてました
なんか和みます。
また楽しみにします、寒くなりましたがスピンオフでも好きです。
Re: 初めましてです
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-10-Sat 07:07 [編集]
nichika様
おはようございます。

> 今年に入りBLにはまりました。webでも読めると知らず乙女ロード書店を知人に教えてもらったりして。。。
> でもこちらを知ってもう感激!!! 切ないのもあるけど楽しい

見つけてくださいまして嬉しく思います。
拙い文章ですけれど、楽しんでいただけたら何よりです。
私も最初にネットで読めること知った時は感激したものです。
まさか自分が書くことになるとは…(汗)

> シーツ・・・確かにそっとしてほしいような。。。バレてるけど
>
> コメントの存在に気が付かずもったいない事をしてました
> なんか和みます。
> また楽しみにします、寒くなりましたがスピンオフでも好きです。

温かく見守ってくれているお兄ちゃんでしたね。
ありがたいような、困ったような…。

コメント欄にも目を向けていただけてうれしいですね。
みなさんにもっともっと頑張ってもらいたいところです(←)
nichika様もお体にお気付けください。
コメントありがとうございました。
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