2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
あの日の夢 5
2012-11-20-Tue  CATEGORY: あの日の夢
そう。燕はどうしたって、自分が必要とされている状況に弱かった。
望まれれば応える。せめてもの、自分のそばにいてほしい思いが強くて相手に従ってしまう。
それを繰り返した過ちが山ほどある過去を認めながら、縋ってしまう弱さを持っていた。
耳元で吐かれる言葉を、どうにか拒絶したいとも思うのに、勇気が持てない。
自分を拘束してくれる…つまりはその人のものだと思わせてくれる台詞が、嬉しく感じられてしまうのだから…。

『今、どこにいる?』
電話機の向こうの声は、燕を縛り付けてくるものとなってしまっていた。
「あ…、がっこ…」
『K大だったな。何時に終わる?迎えに行く』
素直に答えたことが幸いしたのか、少しばかり五泉の声音が穏やかになったような気がした。
矢継ぎ早な質問と五泉が下した決定に、拒絶は許されないものだというような雰囲気が漂ってきていた。
当たり前だが、目の前の二人の『3P』なるものは却下である。
まぁ、都合良く断れる理由づけにもなっていたけれど…。
いつ、学校の情報まで与えたのかも疑問だが、この男に隠し事ができない現状が、逆に理解されている錯覚に陥らせた。
そして、答えたことには、小さな望みが隠されていた。
「5時には…」
『もしかしたら…』という、過去とは違うのではないかという期待である。
五泉が燕の状況を確認してくれる、あたりまえのことなのに、それすらも燕には甘い囁きに響いた。

五泉は『分かった』と短く答えた。
『正門脇で待っている。分からなかったらこの番号に電話しろ』
連絡手段をすでにとった五泉に、二の句もつげない…。

自分の意思など全く無視して、あっというまに切れた電話に、黙っていた二人が口を開くのは時間の問題でもあった。
「何?結局新しい相手が見つかったのか?」
「でも三条さん、すぐだし~」
ひどい言われ様なのだとは理解できている。
その悔しさもあったから、見返してやりたい思いも浮かんでくる。だから余計に慌てて相手を探そうとするのだろか…。
『頸城五泉』という男がどこまで本気で言っているのか、確かめるために一度会うのもいいのではないかと…。

指定した時間、校外に出れば、場違いとも思える、黒の横も縦も大きな外国車が停まっていた。
車になど詳しくなかった燕は、通り過ぎる人たちの視線だけで、その貴重さを味わう。
オフロードも平気で走れるのではないかと思えるような、四角いボディのがっちりとした車だった。
『まさか』…それこそ、まさか、と思いながら、他に停まっている車はないかとキョロキョロとしてしまう。
すると突然、左側の運転席ドアが開いて、男が道路に降り立った。
シャツにジャケットを合わせた男はサングラスをかけていて、その表情の全ては見られなかった。
「ツバメ」
聞き覚えのある声が響く。
以前見た時よりもずっとカジュアルな格好で、名前を呼ばれなければ気付かないだろう。
こんな形で現れられるとは思っていなかった燕は、周りの視線も気になって、すぐにその答えに応じていた。
何せ、目立ち過ぎている。そこにある視線のほとんどが自分たちに向けられているのだ。
燕の存在自体、少々有名になっているところもあって、これ以上注目は浴びたくない。
「来い」
命令口調ではあるが、雰囲気は電話で聞いていたほどの威圧感は伺えなかった。どちらかといえば穏やかさすら醸し出されているほど。
半ば小走り気味に近寄ると、五泉は燕を車道側のドアに案内した。
…そっか、左右逆なんだ…と気付いたのは左ハンドルを見た時だった。
周囲を確認した上でドアを開けてくれて、燕はステップのある車高に手をかけた。
それを五泉が腰を力強く持ち上げてくれて、シートに座ればドアを閉めてくれる。
こんなふうにエスコートされたことがなく驚いているうちに、サッと車体を回り込んだ五泉は乗り込み、慣れた動きで車をスタートさせた。

「何故連絡してこなかった?」
静かな語りかけだったが、開口一番の詰問に、どう答えようか黙ってしまうと、「まぁ、いい」とそれ以上の時間をかけず引き下がった。
一度寝ただけの相手に考えることがあったのだと思ってもらえたのだろうか。
明らかな目的を持って走り出した行き先を、燕はこの時間からいきなりホテルだろうか…と不安になって聞いてみた。
「あ、あの…、どこへ…?」
「俺の家だ」
「家っ?!」
「何だ?ゆっくり話をするのに最適な場所だろう」
チラッと燕を見た五泉の口角が少しだけ上がって、笑みを浮かべる。
家に案内する…ということは、次からは自宅に呼び出そうと考えているつもりなのか…。
結局は同じ、『都合の良い存在』になりそうな予感に、淡い期待が霧散していくのを感じた。
「おまえの家は?大学がここだと、住まいもこの周辺か?」
話ぶりは世間話をしているようだった。こんなところに威圧感は見受けられない。
少しだけホッとできる部分でもあったけれど…。
一度会っただけの人間に、どうして自宅を教えなければならないのか…。
まだ何も知らないことだらけだというのに…。
またの燕の沈黙の回答に、こちらも五泉はそれ以上問うてくることはなかった。
五泉が何を考えているのか想像もつかない。
不安だけが燕を包んでいく。
少なくともこの後、何が行われるのかだけは、漠然と想像ができた。
呼ばれる理由なんて、そんなものだろう…。

少し走ったところで燕の電話が鳴った。音からしてメールなのだと判断出来る。
「遠慮せずに」と言う五泉に甘えて、画面を開けば名立からで、『ハマーに乗ったのが燕って本当か?』という先程の出来事の確認だった。
「ハマー?」
逆にこちらのほうが疑問で、思わず声に出てしまえば、フッと隣で笑ったのが分かった。
「おまえは車には詳しくなさそうだな」
別に馬鹿にしているわけではないのは、口調から感じられることだったし、ある意味、燕の知識の確認も含んでいた。
「あ…、うん…」
「この車だ。車種は様々あるからボディは全てが同じではないが。軍用型もあるしな」
「軍?!」
自分の生活では無縁のような言葉が漏れれば、素っ頓狂な声があがってしまう。
パッと見た感じだけでの判断だが、燕には国産車より大きい、一般道を走っていても違和感もない形に見えた。
「これは全く関係ない。種類があるってことだ」
「はぁ…」
実際には『H2』というモデルであると教えられたのはその直後だった。

20分も走らずに五泉の家だという、高層マンションに辿り着いた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
関連記事
トラックバック0 コメント14
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
イッツミー
コメントちー | URL | 2012-11-20-Tue 07:36 [編集]
ハマーか。あの日本にはでかすぎだろうって感じの車ですよね?
まあ、似合いそうだけどさ。

燕、何か後ろ向きだなあ。
もしかしたら、その命令口調な男が君の運命の人かもよ。
(お兄ちゃんが良いなあとかは思って・・・)

Re: イッツミー
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 08:53 [編集]
ちー様
おはようございます。

> ハマーか。あの日本にはでかすぎだろうって感じの車ですよね?
> まあ、似合いそうだけどさ。

そう、デカイ車(笑)
個人的に大好きな車です。
アメリカの捜査官のドラマで、大好きな主人公さんが乗りまわしていました。
それでファンに♪(←なんて単純な…)
近所で見かけると叫んでます。

> 燕、何か後ろ向きだなあ。
> もしかしたら、その命令口調な男が君の運命の人かもよ。
> (お兄ちゃんが良いなあとかは思って・・・)

この子ねぇ。
なんてネガティブなんでしょう。
まぁ、過去があるからねぇ。
この強引な男、なにしてくれるんだか…。
またお兄ちゃん(爆)
出す予定はあるんですけれど、どんな役柄でしょうかね。
コメントありがとうございました。
強引な男って好き?
コメントけいったん | URL | 2012-11-20-Tue 09:11 [編集]
海の中の流れに任せて漂うクラゲの様に 
男達の間を プカ~プカ~と生きるしかない燕

五泉の強引な誘い?御呼出し?で ご自宅訪問~♪
(* ̄ω ̄)へぇ…
ゆっくり話しをする為にねー、自宅にねー…

ねぇ知ってる?
クラゲって 海から掬いあげると 干からびて死んじゃうんだよ。
~~~⊂§ クラゲ~~~...byebye☆


 
Re: 強引な男って好き?
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 10:01 [編集]
けいったん様
こんにちは。
私は人によって…だなぁ。強引な男。
行動とかって、同じことされても、好きな人がやるといいのに、嫌いな人がやると嫌なんだよね。

> 海の中の流れに任せて漂うクラゲの様に 
> 男達の間を プカ~プカ~と生きるしかない燕

ほんとうにプカプカ~だね。
あっちに流れ、こっちに流れ…。
波の動くままクラゲも揺られて…。

> 五泉の強引な誘い?御呼出し?で ご自宅訪問~♪
> (* ̄ω ̄)へぇ…
> ゆっくり話しをする為にねー、自宅にねー…

いきなりご自宅訪問です。
さて何を話すのでしょうか。(話ねぇ…)
しかし、強引な五泉と、従うばかりのツバメちゃんは…。

> ねぇ知ってる?
> クラゲって 海から掬いあげると 干からびて死んじゃうんだよ。
> ~~~⊂§ クラゲ~~~...byebye☆

けいったん様、すっごく危険なことをここに書いてくれましたね(本当に冷汗)
先見の目という言葉は、けいったん様のためにあるんじゃないですか?!
擬人法…(でいいんだっけ?)ばっちり。
さすが師匠です。
コメントありがとうございました。
No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 10:10 [編集]
~余談~

ちょっと読み返してしまって…。

今回の文中でメールの場面。
メール『ハマーに乗ったのが燕って本当か?』
燕の心の声「ハマー? 俺、外人に乗ったことはないけど…」
(騎乗ちだと思い浮かべる燕)
さすがです…とか思ってしまった…。
きっと、いつの出来事のことだろう…と振り返っていたはず。
(まさか車の名前だったとはねぇ…)

No title
コメント甲斐 | URL | 2012-11-20-Tue 10:37 [編集]
1話読んで、うわっ、好きだなーと思いました
後ろ向きで自虐傾向のある流され気味の子
明るくてかわいい子、健気な子
双子ちゃんみたいなほんわかした甘めのお話好きですけど
こういうビター風味の壊れかけた子も応援したくなるんですよね
大好物です
この強引でオレ様な五泉もいい
ひとめぼれ?だったのか何か因縁があったのか
これからどうつながっていくのか毎日楽しみにしています
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 13:02 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 1話読んで、うわっ、好きだなーと思いました
> 後ろ向きで自虐傾向のある流され気味の子
> 明るくてかわいい子、健気な子
> 双子ちゃんみたいなほんわかした甘めのお話好きですけど
> こういうビター風味の壊れかけた子も応援したくなるんですよね
> 大好物です
> この強引でオレ様な五泉もいい
> ひとめぼれ?だったのか何か因縁があったのか
> これからどうつながっていくのか毎日楽しみにしています

好き、言ってくださって嬉しいです。
ここまでネガティブではなかったかもしれませんが、暗かったのは英人でしたね。
あれにも反応いただいたことを良く覚えております。
そうか…この手のが好きなのか…φ(..)メモメモ
話は次から動き出すと思います。
相変わらず前置きが長くてすみません。
壊れかけた子とオレ様の行く末は…(・・?)ハテ?
コメントありがとうございました。
(p*・ω・`*q) きゃぁッ♪
コメントけいったん | URL | 2012-11-20-Tue 16:18 [編集]
きえ様!
私のコメの中に 地雷を置いてましたか!

ごめんなさ~い♪
地雷→凸⌒凸⌒凸⌒(*。Д。)アレェ~~~...byebye☆
Re: (p*・ω・`*q) きゃぁッ♪
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 17:10 [編集]
けいったん様
こんばんわ~。

> きえ様!
> 私のコメの中に 地雷を置いてましたか!
>
> ごめんなさ~い♪
> 地雷→凸⌒凸⌒凸⌒(*。Д。)アレェ~~~...byebye☆

地雷って言うか…。
たぶん何気なく書かれたんだろうなぁって思っています。
でもあまりにも当たりすぎていて、私のほうがビビったんですよ~っ。
読者様の視点って本当に鋭いなぁって。
何もお気にせず、どんどんと言っちゃってください。
それを聞いては進路変更するかもしれませんので(←?!)
コメントありがとうございました。
捜査官
コメントnichika | URL | 2012-11-20-Tue 17:24 [編集]
ウワ~っごっつい車ですね。これ乗りこなすのって
がたい(身体?)が良くないと・・・
CSIでしょうかね。ホレイショー
Re: 捜査官
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 17:39 [編集]
nichika様~~~~っ(←興奮まっくす)
こんばんは…

> ウワ~っごっつい車ですね。これ乗りこなすのって
> がたい(身体?)が良くないと・・・
> CSIでしょうかね。ホレイショー

わかっちゃぅのぉぉぉぉ?!
ぴったんこかん○んです。
ケインっ♪
っか…、いつもnichika様とここでお会いしているような…。
ブログに来たらnichika様がいた…って感じです。(私の動きを見られているのかなぁ)
CSI談義できちゃいますよ~♪
氏がブラジル行った時なんか、それだけで次の旅行先をブラジルにしたかった私でした。
(あ、余談はいい…?)
すっごい興奮して、お返事しました。
コメントありがとうございました。
(あー、夢の中で出会いたい…ボソ)
やっぱりー
コメントちー | URL | 2012-11-20-Tue 20:12 [編集]
ホレイショだったんだあ。
私も好きです、ホレイショ。
でも、デルコが一番好きなんです。ふふふ。

後、NY編も好きですねー。
あそこで働きたいなあ。マックに冷静に話されたい。
キャーキャー。

きえさんもにっかたんも、見てたのね。
うふー、嬉しい。

そして、甲斐さんだあ。
わあ、スゴーイ。過去作品には甲斐さんのコメントがたくさんですよね♪
うふー、こちらもまた嬉しいなあ。
Re: やっぱりー
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 20:47 [編集]
ちー様
こんばんは。

> ホレイショだったんだあ。
> 私も好きです、ホレイショ。
> でも、デルコが一番好きなんです。ふふふ。

いやん♡
みなさん見ているのね。
私、二番手はカリーなの(←え?)
(でもホレイショと五泉はちがうよ~。年齢はもちろん。イメージはともかく♡ ←ダメだ。イカれてる…)

> 後、NY編も好きですねー。
> あそこで働きたいなあ。マックに冷静に話されたい。
> キャーキャー。

NYも好き~♪
NYはダニーです。
あと、なぜかシドが好きだった。(マニアックだなぁ)

> きえさんもにっかたんも、見てたのね。
> うふー、嬉しい。

過去、見ていたのはDVD化されていますよ。
一枚に3話押し込んで、全シリーズで30枚くらいあるんじゃないですかねぇ。
一番多いのはやっぱりマイアミですけど。
(今見たらNYはたったの2枚しかなかった…)

コメントありがとうございました。
No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-11-20-Tue 21:05 [編集]
拍手コメs様
こんばんは。レス遅くなってすみませんでした~。

> 燕ちゃん、幸せになって欲しいな~!

我が家は基本的にハピエンのはずなんですけれどねぇ…。
そこまでの過程がなんというか…。
なるべくサクサクっと進めたいと思います。
乞うご期待(←)
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.