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BLの丘
誘われたその先に 2
2013-03-18-Mon  CATEGORY: 誘われたその先に
店内にいた全員が、和泉の怒鳴るような声に振り返った。
次の瞬間、「がしゃーんっ!!」と商品が落ちたことを表す衝撃音が響いた。
「羽衣(うい)っ?!」
複数の駆け寄ってくる足音は、店内にいた全員だろう。

和泉は咄嗟に片手を伸ばして、棚に戻すより、子供の頭の上に向かったかごを弾き飛ばしていたのだ。
いたるところにカラフルな持ち手のハサミが散らばっていく。
透明の四角いパッケージに包まれていた商品は、幸いにも女の子の体に当たることはなかった。

しかし、音の大きさにすぐにも泣きだしてしまった。
「茨木くんっ、どうしたのっ、何があったのっ?!」
惨状に店長の声が上がる。
女の子は連れだった男性の足に、「いーちゃーんっ」と縋っては抱きあげられていた。
「羽衣が?この子が何かしたんですか?」
「あー・・・」
どう説明しようかと悩んでしまった和泉だった。
放っておけば間違いなく怪我の一つもしていたはずだ。
だからといって、子供の手が届く範囲に陳列している店舗側にも責任はあるはずだろう。

「正直に言ってくださって結構ですよ。あなたがどこからか叫んだ声で、ここにはいなかったことは私が聞いていますから」
実に紳士的な人だなと感心してしまう。
店長も説明を求めていて、和泉は正直に口を開いた。

「実は・・・この上の棚の籠の中身が見たかったようで、下ろそうとしていたんです。下の台に上がって背伸びをすれば縁に手が届いてしまって。でも中に入っている商品は籠ごと子供が持てるような重さではないし・・・。最初は両脇抱えて下ろそうとしていたんですけれど、動かなかったようでのぼったみたいです。第一、商品がこれでしょう?身体の上に落ちたら・・・と思ったら・・・。走り寄った時にはもう傾きかけていて、それで勢いに任せて弾き飛ばしたんです」
和泉の説明を聞いては、男性は「なんてことを・・・」と驚いていた。
それから「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げてきた。

これには店長も安全性の問題に気づいたらしい。
籐のかごでは確かに中身が見えない。せめてプラスチックケースだったなら、中に何が入っているか知ることができた。
小学校低学年の平均身長を対象に設置された展示台は、こういった子供には危険になるのだと改めて教えられた。
『可愛く おしゃれに』は、完全に裏目に出た形だ。

「こちらこそ、配慮が足りずにご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございません。今後はこのようなことが無いように努めてまいりますので・・・」
「何があったの?」
店長の言葉の途中で、さほど慌てた様子もなさそうな女性の声が聞こえた。
電話のために中座していた女性だった。
「ママ~っ」
男性の腕の中から、両手を伸ばして抱っこをせがむ女の子は、そのまま移動してあやされた。
「羽衣が商品をひっくり返したんだ」
「まあ・・・」
「いえいえっ、そうではなくて・・・」
慌てて両手を胸の前で振った和泉と店長だったが、男性は「いえ、こちらの不注意ですよ。私が目を離したことにも責任がある」ときっぱり言い切ってくれた。

パートの女性がかき集めてくれた商品を見ては、パッケージに傷がついているものがあるのは、すぐにでも見分けることができた。
「姉貴、弁償として全部買ってやれよ。どうせ会社で使うだろう」
更なる発言にはこちらのほうが絶句させられる。
傷があるのはパッケージだけだ。これくらいなら少しの値引きで処分することができる。
中身に問題がないのであれば・・・と購入する客は少なくない。
しかも七色のハサミは30本近く入っていたはずだ。
怪訝な顔の一つも浮かべるかと思いきや、女性は呑気に商品を確認し、「あら、これ、この前の情報番組でやっていたものじゃない」と一つを手に取っていた。
「子供の力でも、厚紙でもなんでも切れるってやつでしょ?羽衣に使わせるのにもいいわね」
・・・なんでも・・・はさすがに無理だけど・・・という和泉の心のつぶやきは当然漏れることはない。

そして和泉が驚いていたもう一つは『姉貴』と呼んだことだった。
夫婦ではなかったのか・・・と思いながら二人を見比べると、言われてみればどことなく似たところがあるかな、と感じられる。
誰も声が発せない中で、女性だけがテキパキと物事を進めていた。
「全部買うのはいいけれど、この量じゃ持ち運ぶのが大変だから、そのかごごとくださる?生野、あなた、車まで運んでおいて」
長兄長女とは権力差があるとはきいたことがあるけれど、ここのうちも例外ではないらしい雰囲気だった。
「それで?買うもの、全部買ったの?」
「その前にこの事態だったんだ。でも今日はもう羽衣に選ばせるのは無理だな」
そんな姉弟の会話を聞きながら、泣きやまない少女を見つめた。
男性はどこかに置きっぱなしにしたカゴを取りに行く。
「とりあえずこれだけ」
「何よ、ぬりえと色鉛筆だけじゃない。まったくもう。あぁ、社員さん、そのかごの中に全部放りこんでくれればいいですから」
・・・親はどっちだ・・・という突っ込みも飲みこんだ和泉だった。

「じゃあ、羽衣も泣きやまないし、先に戻っているわ。ハサミは領収もらっておいてね。・・・みなさん、大変お騒がせいたしました」
どこまでもキビキビ動く人だ。
集まっていた全員に一礼したところで、生野と呼ばれた人と知り合いの人に気づいたらしく、「あら、藤井寺(ふじいでら)くんもいらっしゃっていたのね。みっともないところ、お見せして悪かったわね」とニコリと微笑んでから、来た道を戻って行った。
毒気を抜かれるとはこのことか・・・。

「社長、相変わらずだな・・・」
「とんだ疫病神だよ。門真(かどま)、悪いけど、またな」
「あぁ」
返事を聞く頃には男性はレジへと向かっていく。
騒動を起こした場所に長居するのは気分も良くないといった感じだ。

レジでは店長が対応していたが、和泉も最後のあいさつをする意味もあって並んでいた。
領収書の宛名のために取り出された名刺には 「高槻セレクトショップ」とある。
そこに印刷されていた肩書は「副社長」で彼の名前が「高槻 生野(たかつき いくの)」とあった。
失礼と分かりながら、和泉は目を見開いて見つめてしまった。
名刺と彼を・・・。

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ぼちってしてくれるとうれしいです。

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コメント

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不倫じゃなかった!
コメントけいったん | URL | 2013-03-18-Mon 10:53 [編集]
いやぁ~ん、姉弟だったなんて 略奪愛かと 勝手に勘違い。**(///▽///)**オハズカシ

和泉の咄嗟の判断で 羽衣ちゃんが怪我しないで済んで 良かったよね!

偶然に出会った2人が 徐々に関係を深める過程が好きです。
今回も ほんと楽しみヾ(◎⌒○⌒◎)ノ

今回の名前は 馴染みのある地名ばかり 関西(大阪)編なんだね~
ただ 女の子の「羽衣」に (@ω@)へ?
羽衣と言えば 「羽衣伝説」で 色々と諸説はありますが、関西では 滋賀県や京都府が有名らしいです。
でも よくよく調べたら高石市に その駅名が!

まだまだ知ら無い事が いっぱいだぁ~メモメモ、カキカキ((φ(・д・。)ホォホォ





けいったんさま
コメントきえ | URL | 2013-03-18-Mon 13:19 [編集]
こんにちは

略奪愛(爆)
あまり明かしたくないけれど、けいったんさまの思考には感心させられますね~。

ハイ、大阪です。
女の子の名前を探すのに苦労しました。
でも調べてくださっだなんて驚きです。
駅名、そこまで気付いてくださって嬉しいです。

同じ地名もたくさんあるから、どこ?と思うものも多いですよね。
まだあと数名出てきますので楽しみに待っていてください。
少なくとも、今現在で、あと2日は読める準備、整えておきました。
またね~
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