改めて向き直ったところで、日野が「ところでさ」と質問を瞳に乗せてくる。
「何を食べたわけ?何も減ってないようにしか見えないんだけど」
彼が出勤前に一通り出していってくれた食品がそのまま手付かずで残っているのを見回して、クイと首を傾げて見せる。
英人が飲み掛けていた缶ビールと以前から封の開いていたチョコレート菓子以外、いじられた形跡はなく、呆れながら確認をされた。
英人は悪いことをしてしまったような気持ちになり、視線を反らして俯いてしまった。
榛名にも食生活については口うるさく言われていたから、何も口にしていないことを責められている気分になった。
「それともこんなのではお口に合いませんでしたか?」
泣き崩れていたことをあえて話題に出さず、冗談まじりに明るくからかわれて、沈んだ気分が浮上した。
カップラーメンにお湯を注いでもらって、二人で遅い夕食を共にしながら、これまで話したことのないお互いのことを少しずつ語り合った。
同じ年と聞いたから余計に心を許すところがあったのかもしれない。日野の気さくな性格も英人の心を開かせた。
日野は幼い頃に両親を亡くし、ずっと親戚の家で育てられてきたのだという。愛情を注いでもらえなかったという、似たような境遇もあったし、英人の過去を知っているという点もあり、打ち解けるのは早かった。
英人はこの数カ月、秘密裏に過ごしたホテル内での出来事も少しだけ打ち明けた。決して人に言うことのなかった恋愛相談(?)は、重苦しく沈んだ英人の心を少しだけ軽くした。日野はただ黙って英人の話を聞いてくれていた。アドバイスも何もなかったけど、『打ち明けられた』ということが英人の暗い気持ちを晴れさせてくれた。
無論、生活空間の違いに驚かれてはいたけど…。
雰囲気が暗くなることもなく、まるで天気の話でもするように淡々と会話が進む。
「店に顔を出すのでもいいし。気分転換にでもたまに遊びにくれば? 仕事中の『客』との会話はしなきゃいけないものだから話に付き合えるよ。こうしてうちに寄っていってくれても構わないから」
社交辞令でも声を掛けてもらえれば、一人ではないのだという心強さがうまれる。ただでさえ日野の性格は頼れるところがあったから、英人は居心地の良い空間をもらえたような気になった。
食事を終え、長々と話に夢中になった後で、日野は送ってやると言って、英人を外に連れ出した。
すぐそばで野崎に監視されているようでビクビクするのを笑顔で宥められる。野崎のいる位置を確認しているだけに日野の行動は堂々としていた。
エレベーターで2階まで下りて廊下を突っ切り、最後は非常階段を使ってエントランスがあるところと反対側に出た。日野に連れられるがまま、マンションの敷地の外へ出ると、その先にある駐車場に停めてあったミニバンに乗せられた。
本当に野崎を誤魔化せているのかどうかは分からないが、今はこのまま去ってしまいたかった。
日野は走り出してからもしばらく周りに気を使っていたようだが、特に問題ないと判断したのか、英人のアパートに直接向かい出した。
アパートに辿り着くと、明りまで点けっぱなしだったのが見て取れる。どれだけ数時間前の自分が茫然自失の状態だったのか、恥ずかしさに顔が赤くなりそうだった。
車から降りて開けられた窓越しに、日野にお礼とお詫びの言葉を述べた。
結局この場所に戻ってくるしかなかった嘆かわしさはあるものの、出て行った時ほどひねくれてもいなかった。
日野は少し心配そうな顔を向けたけれど、英人が笑えば分かったように頷いてくれた。
「たぶん、野崎って人がここに来るのは時間の問題だと思うよ。だけど、何を言われてもあんな風になっちゃだめだからな」
日野に出会った時のことを振り返られ、英人はもう大丈夫と返事をするしかなかった。
自分でも身に染みているのだと思う。
榛名に教えられたことを振り返り、進むべき道を探す。日野が話してくれた危険極まりない世界。生きるというよりも生かされていた過去に戻りたくないという、僅かながらも持ち合わせたプライド。
野崎が英人を探している理由が分からないから何とも言えないが、もう厳しいことを言われてもあれほど落ち込むことはないような気がする。
「うん。分かってる」
「何かあったらいつでも来ていいから」
「ありがとう。本当に今日は…」
命を救ってもらったような感慨深いものがあって、英人はまた涙がこぼれそうになっていた。
…自分は運が良かったんだ…
「もう、泣くな」
困ったように日野に苦笑され、英人は静かに頷いて日野を送り出そうとした。
背後でどこかの部屋のドアが開く音が聞こえた。それから聞きなれた声がした。
「英人」
少し尖ったような声。呼ばれたのは自分の名前で…呼んだのは……。
まさか…と思う気持ちよりも早く、顔が後ろを振り返る。
いるはずのない人間…、榛名が鋭い視線を走らせながらも、物悲しそうな瞳を湛えてそこに立っていた。
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あれ?!誤解が解けるはずが…(汗
↓こっちだけでいいですからどうかポチッとしていってくださいナ…m(__)m
「何を食べたわけ?何も減ってないようにしか見えないんだけど」
彼が出勤前に一通り出していってくれた食品がそのまま手付かずで残っているのを見回して、クイと首を傾げて見せる。
英人が飲み掛けていた缶ビールと以前から封の開いていたチョコレート菓子以外、いじられた形跡はなく、呆れながら確認をされた。
英人は悪いことをしてしまったような気持ちになり、視線を反らして俯いてしまった。
榛名にも食生活については口うるさく言われていたから、何も口にしていないことを責められている気分になった。
「それともこんなのではお口に合いませんでしたか?」
泣き崩れていたことをあえて話題に出さず、冗談まじりに明るくからかわれて、沈んだ気分が浮上した。
カップラーメンにお湯を注いでもらって、二人で遅い夕食を共にしながら、これまで話したことのないお互いのことを少しずつ語り合った。
同じ年と聞いたから余計に心を許すところがあったのかもしれない。日野の気さくな性格も英人の心を開かせた。
日野は幼い頃に両親を亡くし、ずっと親戚の家で育てられてきたのだという。愛情を注いでもらえなかったという、似たような境遇もあったし、英人の過去を知っているという点もあり、打ち解けるのは早かった。
英人はこの数カ月、秘密裏に過ごしたホテル内での出来事も少しだけ打ち明けた。決して人に言うことのなかった恋愛相談(?)は、重苦しく沈んだ英人の心を少しだけ軽くした。日野はただ黙って英人の話を聞いてくれていた。アドバイスも何もなかったけど、『打ち明けられた』ということが英人の暗い気持ちを晴れさせてくれた。
無論、生活空間の違いに驚かれてはいたけど…。
雰囲気が暗くなることもなく、まるで天気の話でもするように淡々と会話が進む。
「店に顔を出すのでもいいし。気分転換にでもたまに遊びにくれば? 仕事中の『客』との会話はしなきゃいけないものだから話に付き合えるよ。こうしてうちに寄っていってくれても構わないから」
社交辞令でも声を掛けてもらえれば、一人ではないのだという心強さがうまれる。ただでさえ日野の性格は頼れるところがあったから、英人は居心地の良い空間をもらえたような気になった。
食事を終え、長々と話に夢中になった後で、日野は送ってやると言って、英人を外に連れ出した。
すぐそばで野崎に監視されているようでビクビクするのを笑顔で宥められる。野崎のいる位置を確認しているだけに日野の行動は堂々としていた。
エレベーターで2階まで下りて廊下を突っ切り、最後は非常階段を使ってエントランスがあるところと反対側に出た。日野に連れられるがまま、マンションの敷地の外へ出ると、その先にある駐車場に停めてあったミニバンに乗せられた。
本当に野崎を誤魔化せているのかどうかは分からないが、今はこのまま去ってしまいたかった。
日野は走り出してからもしばらく周りに気を使っていたようだが、特に問題ないと判断したのか、英人のアパートに直接向かい出した。
アパートに辿り着くと、明りまで点けっぱなしだったのが見て取れる。どれだけ数時間前の自分が茫然自失の状態だったのか、恥ずかしさに顔が赤くなりそうだった。
車から降りて開けられた窓越しに、日野にお礼とお詫びの言葉を述べた。
結局この場所に戻ってくるしかなかった嘆かわしさはあるものの、出て行った時ほどひねくれてもいなかった。
日野は少し心配そうな顔を向けたけれど、英人が笑えば分かったように頷いてくれた。
「たぶん、野崎って人がここに来るのは時間の問題だと思うよ。だけど、何を言われてもあんな風になっちゃだめだからな」
日野に出会った時のことを振り返られ、英人はもう大丈夫と返事をするしかなかった。
自分でも身に染みているのだと思う。
榛名に教えられたことを振り返り、進むべき道を探す。日野が話してくれた危険極まりない世界。生きるというよりも生かされていた過去に戻りたくないという、僅かながらも持ち合わせたプライド。
野崎が英人を探している理由が分からないから何とも言えないが、もう厳しいことを言われてもあれほど落ち込むことはないような気がする。
「うん。分かってる」
「何かあったらいつでも来ていいから」
「ありがとう。本当に今日は…」
命を救ってもらったような感慨深いものがあって、英人はまた涙がこぼれそうになっていた。
…自分は運が良かったんだ…
「もう、泣くな」
困ったように日野に苦笑され、英人は静かに頷いて日野を送り出そうとした。
背後でどこかの部屋のドアが開く音が聞こえた。それから聞きなれた声がした。
「英人」
少し尖ったような声。呼ばれたのは自分の名前で…呼んだのは……。
まさか…と思う気持ちよりも早く、顔が後ろを振り返る。
いるはずのない人間…、榛名が鋭い視線を走らせながらも、物悲しそうな瞳を湛えてそこに立っていた。
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あれ?!誤解が解けるはずが…(汗
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こんばんわ☆
誤解は解けるのか・・・?!
すごく気になります~☆
それにしても日野君!
とってもいい人でよかったです~♪
千城さんとも心を通わすことが出来ますように。
誤解は解けるのか・・・?!
すごく気になります~☆
それにしても日野君!
とってもいい人でよかったです~♪
千城さんとも心を通わすことが出来ますように。
メグミ様
おはようございます。up早々お越しいただいたようでありがとうございます。
> 誤解は解けるのか・・・?!
> すごく気になります~☆
現在、千城自身がナイーブになっていますからねぇ…
英人次第ってところでしょうか。
もともと英人には甘いので、泣きつかれればノックダウンです。
> それにしても日野君!
> とってもいい人でよかったです~♪
ええ。彼は素晴らしい!!(私が言うのもどうかと思いますが…)
あとでご褒美を与えたくなりました。
まだまだ活躍してくれると思います。ご期待ください(笑)
コメントいただきありがとうございました。
おはようございます。up早々お越しいただいたようでありがとうございます。
> 誤解は解けるのか・・・?!
> すごく気になります~☆
現在、千城自身がナイーブになっていますからねぇ…
英人次第ってところでしょうか。
もともと英人には甘いので、泣きつかれればノックダウンです。
> それにしても日野君!
> とってもいい人でよかったです~♪
ええ。彼は素晴らしい!!(私が言うのもどうかと思いますが…)
あとでご褒美を与えたくなりました。
まだまだ活躍してくれると思います。ご期待ください(笑)
コメントいただきありがとうございました。
きえ | URL | 2009-10-21-Wed 07:24 [編集]
S様
おはようございます。
拍手コメ残していただきありがとうございました。
>こんばんは☆英人が幸せになるといいなぁ。すれ違いが切ないです。続き楽しみにしています。
千城編を書いたことで余計にすれ違っているように私も感じてしまいました。
でもようやくご対面なので、長い一日が終わろうとしています。
話自体はまだまだ続くのですが…
皆様が楽しんでくれていることが、私の励みになっています。
コメントいただきありがとうございました。
おはようございます。
拍手コメ残していただきありがとうございました。
>こんばんは☆英人が幸せになるといいなぁ。すれ違いが切ないです。続き楽しみにしています。
千城編を書いたことで余計にすれ違っているように私も感じてしまいました。
でもようやくご対面なので、長い一日が終わろうとしています。
話自体はまだまだ続くのですが…
皆様が楽しんでくれていることが、私の励みになっています。
コメントいただきありがとうございました。
ああこれで、千城サイドの話の終わりに繋がったわけですね。
このあとの千城さんの出方が見ものです。
謝罪、心配、愛しく想う心情の吐露、そして独占欲と嫉妬っというものがどろどろに混じりあってしまいそう。
日野さんは、年の割にはいろいろな人生をみてきているのでしょう。
同じ歳でも、見た目以上に英人よりずっと大人(老成している?)だとおもう。彼に経験を語らせれば何本かお話ができませんか。
っで、置いてきぼりの野崎氏はいつ気がつくのでしょうね。
ぬかったと、自分のミスを猛省することでしょう。
このあとの千城さんの出方が見ものです。
謝罪、心配、愛しく想う心情の吐露、そして独占欲と嫉妬っというものがどろどろに混じりあってしまいそう。
日野さんは、年の割にはいろいろな人生をみてきているのでしょう。
同じ歳でも、見た目以上に英人よりずっと大人(老成している?)だとおもう。彼に経験を語らせれば何本かお話ができませんか。
っで、置いてきぼりの野崎氏はいつ気がつくのでしょうね。
ぬかったと、自分のミスを猛省することでしょう。
甲斐様
こんにちは。またお越しいただきましてありがとうございます。
> ああこれで、千城サイドの話の終わりに繋がったわけですね。
はい。ようやく繋がりました。
英人から見る千城はまた別物なので、少しギャップがあるかもしれません。
> このあとの千城さんの出方が見ものです。
> 謝罪、心配、愛しく想う心情の吐露、そして独占欲と嫉妬っというものがどろどろに混じりあってしまいそう。
た、たいして変わらない気が…。
これを千城サイドで書いたらまた違った楽しみがあったのだろうな…と私も思いますが、なんといっても世間知らずで鈍感な英人なので…。
でも少しでも書けていけたらな…と思います。
違いは確実に英人に伝わっているはずです。
> 日野さんは、年の割にはいろいろな人生をみてきているのでしょう。
> 同じ歳でも、見た目以上に英人よりずっと大人(老成している?)だとおもう。彼に経験を語らせれば何本かお話ができませんか。
できます!!必ずものすっごいお話の数々が控えているはずです。(書く気力はありませんが…汗)
> っで、置いてきぼりの野崎氏はいつ気がつくのでしょうね。
> ぬかったと、自分のミスを猛省することでしょう。
たぶん、この人も日野に諭されそうな気がします。
いつまでも付けられて気分のよいはずのない日野は堂々と向かうはずです。
出て行ったはずのない所から現れた日野に「もう帰ったよ」みたいなことを言われて千城に連絡を取るも、つかず…。改めて行ってみたアパートはカラッポ。
千城に見捨てられたと後悔の嵐が吹き荒れるのではないでしょうか。
千城に捨てられるとは『榛名』から捨てられるのも同然ですからね…。
コメントいただきありがとうございました。
こんにちは。またお越しいただきましてありがとうございます。
> ああこれで、千城サイドの話の終わりに繋がったわけですね。
はい。ようやく繋がりました。
英人から見る千城はまた別物なので、少しギャップがあるかもしれません。
> このあとの千城さんの出方が見ものです。
> 謝罪、心配、愛しく想う心情の吐露、そして独占欲と嫉妬っというものがどろどろに混じりあってしまいそう。
た、たいして変わらない気が…。
これを千城サイドで書いたらまた違った楽しみがあったのだろうな…と私も思いますが、なんといっても世間知らずで鈍感な英人なので…。
でも少しでも書けていけたらな…と思います。
違いは確実に英人に伝わっているはずです。
> 日野さんは、年の割にはいろいろな人生をみてきているのでしょう。
> 同じ歳でも、見た目以上に英人よりずっと大人(老成している?)だとおもう。彼に経験を語らせれば何本かお話ができませんか。
できます!!必ずものすっごいお話の数々が控えているはずです。(書く気力はありませんが…汗)
> っで、置いてきぼりの野崎氏はいつ気がつくのでしょうね。
> ぬかったと、自分のミスを猛省することでしょう。
たぶん、この人も日野に諭されそうな気がします。
いつまでも付けられて気分のよいはずのない日野は堂々と向かうはずです。
出て行ったはずのない所から現れた日野に「もう帰ったよ」みたいなことを言われて千城に連絡を取るも、つかず…。改めて行ってみたアパートはカラッポ。
千城に見捨てられたと後悔の嵐が吹き荒れるのではないでしょうか。
千城に捨てられるとは『榛名』から捨てられるのも同然ですからね…。
コメントいただきありがとうございました。
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