都心の一等地にあり、その最上階ともなれば、貧乏人の英人はここに足を踏み入れることすら戸惑った。
どこかの公園を思わせるようなパシャパシャと水音を立てる噴水のような物まで供えられたエントランスで榛名はタッチパネルを操作してから英人を迎え入れた。
建物の脇に添い、外を見渡せるエレベーターに連れ込まれ、50階という最上階へと連れられて行く。
広々としたリビングは、バルコニーに出られる南側の半分以上を天井から床までをガラスで覆うという作りで、都心の不夜城とも言われる夜景を絵画のように映し出していた。
もともと単身者用に作られているのか、一つ一つの空間がとてつもなく広い。
リビング一つだって、英人が暮らしていたアパートの部屋の総面積を倍にしたってすっぽり収まりそうだ。
ただ通り過ぎてきただけだが、廊下沿いに3つの部屋があるのは扉の数で英人も知った。
窓の外に広がる景色を夢のように見つめていた英人の背後に榛名が寄った。
目の前のガラスが鏡のように、榛名の表情を写した。
「心配した」
背中をキュッと抱きしめられ、覆いかぶさってくる熱に、たった一日で榛名にどれだけの心配を掛けたのかと後悔した。
榛名は英人が部屋を飛び出してからずっとあそこに佇んでいたのだと言う。
「戻ってこなかったらどうしようかと思った。どうしようもないほどおまえに惚れている自分に気付いた。何もかも捨ててもいいくらいおまえを手放したくなくて、愛していると心の底から伝えたかった…。もう二度と離れるな」
英人は榛名の溢れるような想いを聞いた時、耳の鼓膜が破れて幻聴を聞いているのかと思った。
「愛している」
英人の脳髄にまで染み込ませるように、榛名は静かに優しくもう一度耳元で繰り返した。
幻聴ではないと言うように、榛名の声が繰り返して英人の耳に届いてくる。
…愛している…
英人はすぐそばにある、肩の上に乗った榛名の顔を振り返った。切なそうに悲しそうに辛そうに英人を見つめる瞳。
いつも見てきた自信過剰な強気な瞳ではなくて、慈しむように英人を守りたいと切実に訴える瞳に、英人は小さく首を振った。
「淋しがらないで…」
榛名が求めていたものが何であったのか、この瞬間に分かったような気がした。
与えられるだけではなく、榛名も欲しがっていたのだということに気付いた。
榛名が求めたのは榛名を頼り愛してくれる英人自身だった。英人が榛名を求めれば求めるほど彼は満足してくれる。英人が「榛名しかいない」と全身で訴え必要とする態度が、榛名に存在価値を持たせて彼に『生きる喜び』を感じさせた。
英人は身を翻すと、離れたくないと言うように榛名の背中に腕を回しぎゅっとしがみついた。その態度が榛名を『生かして』いるものだった。
「あのアパートは明日にでも解約の手続きを取らせるから、必要なものがあればここに運んでおけ。残したものは全て業者に片付けさせる」
英人は突然のことに驚き目を見張った。
「明日?」
「今日見た限り、特に持ち出すようなものはなさそうだったが…。ここなら野崎も来ることはできない。おまえに辛く当たることはもうないと思うが、あんなことの後で顔を合わせるのも嫌だろう?」
これは榛名の中ですでに確定事項になっていたようだ。
野崎がいつどこで英人に接触を持つか分からないと、榛名は言いたそうだった。
「俺、ここに住むの…?」
「他の場所がいいというなら探してやってもいいが、セキュリティだけは完全なところにしろ。少なくとも、あんな針金一本で開いてしまうような場所は絶対にダメだ」
…それに俺が通うのが大変になる…と榛名は付け足して、英人に有無を言わせなかった。
榛名の傍に居られることは確かに嬉しかったが、完全に甘えてしまう自分の立場もなんだかやるせないものがあった。
日付変更線を越えた現在、榛名が言う『明日』という時間にかなりの制限があることは分かる。どれほど榛名が急いでいるのかも理解できた。野崎のことを棚に上げても、榛名は英人を外に晒したくないらしい。
榛名の言うとおり、あのアパートから持ち出したいものなどほとんどなかった。いいところ、学生時代の思い出の写真くらいだ。
野崎に会わなくて済むという、一時的な『逃げ』も英人に追い打ちを掛けた。
榛名に確認をされるまでもなく、英人は頷く以外の選択肢を与えられていなかった。アパートを解約されれば嫌でも自分の身を雨風から防ぐ場所はなくなる。
「わかった」と素直に頷けば、榛名はとても満足したように英人を渾身の力で抱き寄せた。
「おまえの望みは何でも叶えてやる。俺はおまえの為なら何でもしてやる。忘れるな。俺がおまえの為に在ることを」
ガラス窓の外で誰に見られているのかも分からない状況でも、榛名は情熱を英人に与えることを惜しまなかった。
もっとも心配したのは英人くらいで、…。こんな高層階を視界に入れられる者もいるはずはなかったのだが…。
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どこかの公園を思わせるようなパシャパシャと水音を立てる噴水のような物まで供えられたエントランスで榛名はタッチパネルを操作してから英人を迎え入れた。
建物の脇に添い、外を見渡せるエレベーターに連れ込まれ、50階という最上階へと連れられて行く。
広々としたリビングは、バルコニーに出られる南側の半分以上を天井から床までをガラスで覆うという作りで、都心の不夜城とも言われる夜景を絵画のように映し出していた。
もともと単身者用に作られているのか、一つ一つの空間がとてつもなく広い。
リビング一つだって、英人が暮らしていたアパートの部屋の総面積を倍にしたってすっぽり収まりそうだ。
ただ通り過ぎてきただけだが、廊下沿いに3つの部屋があるのは扉の数で英人も知った。
窓の外に広がる景色を夢のように見つめていた英人の背後に榛名が寄った。
目の前のガラスが鏡のように、榛名の表情を写した。
「心配した」
背中をキュッと抱きしめられ、覆いかぶさってくる熱に、たった一日で榛名にどれだけの心配を掛けたのかと後悔した。
榛名は英人が部屋を飛び出してからずっとあそこに佇んでいたのだと言う。
「戻ってこなかったらどうしようかと思った。どうしようもないほどおまえに惚れている自分に気付いた。何もかも捨ててもいいくらいおまえを手放したくなくて、愛していると心の底から伝えたかった…。もう二度と離れるな」
英人は榛名の溢れるような想いを聞いた時、耳の鼓膜が破れて幻聴を聞いているのかと思った。
「愛している」
英人の脳髄にまで染み込ませるように、榛名は静かに優しくもう一度耳元で繰り返した。
幻聴ではないと言うように、榛名の声が繰り返して英人の耳に届いてくる。
…愛している…
英人はすぐそばにある、肩の上に乗った榛名の顔を振り返った。切なそうに悲しそうに辛そうに英人を見つめる瞳。
いつも見てきた自信過剰な強気な瞳ではなくて、慈しむように英人を守りたいと切実に訴える瞳に、英人は小さく首を振った。
「淋しがらないで…」
榛名が求めていたものが何であったのか、この瞬間に分かったような気がした。
与えられるだけではなく、榛名も欲しがっていたのだということに気付いた。
榛名が求めたのは榛名を頼り愛してくれる英人自身だった。英人が榛名を求めれば求めるほど彼は満足してくれる。英人が「榛名しかいない」と全身で訴え必要とする態度が、榛名に存在価値を持たせて彼に『生きる喜び』を感じさせた。
英人は身を翻すと、離れたくないと言うように榛名の背中に腕を回しぎゅっとしがみついた。その態度が榛名を『生かして』いるものだった。
「あのアパートは明日にでも解約の手続きを取らせるから、必要なものがあればここに運んでおけ。残したものは全て業者に片付けさせる」
英人は突然のことに驚き目を見張った。
「明日?」
「今日見た限り、特に持ち出すようなものはなさそうだったが…。ここなら野崎も来ることはできない。おまえに辛く当たることはもうないと思うが、あんなことの後で顔を合わせるのも嫌だろう?」
これは榛名の中ですでに確定事項になっていたようだ。
野崎がいつどこで英人に接触を持つか分からないと、榛名は言いたそうだった。
「俺、ここに住むの…?」
「他の場所がいいというなら探してやってもいいが、セキュリティだけは完全なところにしろ。少なくとも、あんな針金一本で開いてしまうような場所は絶対にダメだ」
…それに俺が通うのが大変になる…と榛名は付け足して、英人に有無を言わせなかった。
榛名の傍に居られることは確かに嬉しかったが、完全に甘えてしまう自分の立場もなんだかやるせないものがあった。
日付変更線を越えた現在、榛名が言う『明日』という時間にかなりの制限があることは分かる。どれほど榛名が急いでいるのかも理解できた。野崎のことを棚に上げても、榛名は英人を外に晒したくないらしい。
榛名の言うとおり、あのアパートから持ち出したいものなどほとんどなかった。いいところ、学生時代の思い出の写真くらいだ。
野崎に会わなくて済むという、一時的な『逃げ』も英人に追い打ちを掛けた。
榛名に確認をされるまでもなく、英人は頷く以外の選択肢を与えられていなかった。アパートを解約されれば嫌でも自分の身を雨風から防ぐ場所はなくなる。
「わかった」と素直に頷けば、榛名はとても満足したように英人を渾身の力で抱き寄せた。
「おまえの望みは何でも叶えてやる。俺はおまえの為なら何でもしてやる。忘れるな。俺がおまえの為に在ることを」
ガラス窓の外で誰に見られているのかも分からない状況でも、榛名は情熱を英人に与えることを惜しまなかった。
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愛の告白!
今日はいい夢がメ見れそうです☆
でも、英人の性格上、野崎の存在はかなりネックになっていますね。
守られる千城の将来を思うと、英人なりに成長して肩を並べる存在にならないと、すぐに不安にかられそう・・・。
次回も楽しみにしております♪
今日はいい夢がメ見れそうです☆
でも、英人の性格上、野崎の存在はかなりネックになっていますね。
守られる千城の将来を思うと、英人なりに成長して肩を並べる存在にならないと、すぐに不安にかられそう・・・。
次回も楽しみにしております♪
メグミ様
おはようございます。またいらしていただいて感謝いたします。
> 愛の告白!
> 今日はいい夢がメ見れそうです☆
良い夢が見られましたかね~???
やっとここまでたどり着いたよ…と思いながら、まだすんなりといかないお話でございます。
> でも、英人の性格上、野崎の存在はかなりネックになっていますね。
> 守られる千城の将来を思うと、英人なりに成長して肩を並べる存在にならないと、すぐに不安にかられそう・・・。
もう充分なくらい不安の中で溺れています。
どれだけ千城に言い含められても、身分違いということだけは英人の中で渦になっているようです。
今後もうまくかけていけたらなぁ…私も不安にさらされていますが…。
> 次回も楽しみにしております♪
ありがとうございます。また遊びに来てください。
コメントありがとうございました。
おはようございます。またいらしていただいて感謝いたします。
> 愛の告白!
> 今日はいい夢がメ見れそうです☆
良い夢が見られましたかね~???
やっとここまでたどり着いたよ…と思いながら、まだすんなりといかないお話でございます。
> でも、英人の性格上、野崎の存在はかなりネックになっていますね。
> 守られる千城の将来を思うと、英人なりに成長して肩を並べる存在にならないと、すぐに不安にかられそう・・・。
もう充分なくらい不安の中で溺れています。
どれだけ千城に言い含められても、身分違いということだけは英人の中で渦になっているようです。
今後もうまくかけていけたらなぁ…私も不安にさらされていますが…。
> 次回も楽しみにしております♪
ありがとうございます。また遊びに来てください。
コメントありがとうございました。
嵐が過ぎ去ってみれば榛名さんの本領発揮ですか。
即日アパートを解約し逃げ場をなくさせ、自分のテリトリーに囲い込む。
野崎氏も遠ざけ、ぶりーな蜜月を味わうと言う計画が頭の中にあるようで・・・。
英人には今まで辛いことが多かった代わりに、存分に愛される喜びを知ってほしいとおもいます。
だから、そんな時間を確保するために仕事の時間を削ってしまうことになっても、野崎氏には24時間働いて補ってもいいと思うのですが。。。
即日アパートを解約し逃げ場をなくさせ、自分のテリトリーに囲い込む。
野崎氏も遠ざけ、ぶりーな蜜月を味わうと言う計画が頭の中にあるようで・・・。
英人には今まで辛いことが多かった代わりに、存分に愛される喜びを知ってほしいとおもいます。
だから、そんな時間を確保するために仕事の時間を削ってしまうことになっても、野崎氏には24時間働いて補ってもいいと思うのですが。。。
甲斐様。
こんにちは。
本日は旦那が帰ってこないのでかなり気分がぶっ飛んでいる私です。
> 嵐が過ぎ去ってみれば榛名さんの本領発揮ですか。
そのようです。もともとわがままな人間ですからねぇ…。
> 即日アパートを解約し逃げ場をなくさせ、自分のテリトリーに囲い込む。
> 野崎氏も遠ざけ、ぶりーな蜜月を味わうと言う計画が頭の中にあるようで・・・。
(コイツの計画性は考え直したいくらいだ。もっと違うところに頭を使ってくれよ…。)
ほんの一日離れただけなのに、かなりしんどかったみたいです。ちーちゃんは…。
英人も榛名に言われれば逆らいようもありませんしね…、もう流れるままです。
> 英人には今まで辛いことが多かった代わりに、存分に愛される喜びを知ってほしいとおもいます。
英人は榛名の手によってどんどんと愛されていくと思います。
良くも悪くも溺れるだけです。
ご期待いただき本当にありがとうございます。
野崎、…働きます。きっと。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
本日は旦那が帰ってこないのでかなり気分がぶっ飛んでいる私です。
> 嵐が過ぎ去ってみれば榛名さんの本領発揮ですか。
そのようです。もともとわがままな人間ですからねぇ…。
> 即日アパートを解約し逃げ場をなくさせ、自分のテリトリーに囲い込む。
> 野崎氏も遠ざけ、ぶりーな蜜月を味わうと言う計画が頭の中にあるようで・・・。
(コイツの計画性は考え直したいくらいだ。もっと違うところに頭を使ってくれよ…。)
ほんの一日離れただけなのに、かなりしんどかったみたいです。ちーちゃんは…。
英人も榛名に言われれば逆らいようもありませんしね…、もう流れるままです。
> 英人には今まで辛いことが多かった代わりに、存分に愛される喜びを知ってほしいとおもいます。
英人は榛名の手によってどんどんと愛されていくと思います。
良くも悪くも溺れるだけです。
ご期待いただき本当にありがとうございます。
野崎、…働きます。きっと。
コメントありがとうございました。
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