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BLの丘
淋しい夜に泣く声 62
2009-10-21-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
「え…?」
英人は何がなんだか訳が分からなかった。
これは夢?幻? どうしてここに榛名がいるのか、全く予期していなかった出来事に、英人の頭の処理能力はあっという間に限界を迎えた。
「こんな時間までどこで何をしていた」
ツカツカと歩み寄ってくる榛名から低い声が響いてくる。会社帰りを思わせるいつもの見慣れた格好。少しだけ髪形が崩れているようであったが、表情の全てを曝け出していることに変わりはない。
待っていた…というのだろうか。
鋭い視線の中にも疲労感が見て取れた。すぐそばにいる日野にも視線の一つも向けない。
「な…、え…」
英人が何一つ返す言葉を見つけられないで、ただ呆然と榛名の姿を視界に焼き付けている間に、車から降りた日野がスッと英人と榛名の間に入ってきた。

「ちょっと待って。こいつを怒らないでやって」
「おまえは?」
何者だと問い詰める榛名の鋭い視線を宥めるように、日野は榛名に向き合った。英人だけに視線を置いていた榛名の目が遮る者へと移され、いつものごとく威嚇するような榛名の視線を浴びても日野は怯まずにいた。
「昔の知り合い…っていったところかな。今日偶然こいつを見つけちゃって。…ボロボロで死にそうな顔をして歩いていたから気になって引き止めたのは俺だから。あなたが疑うような、やましいこと何もないから心配しないで。こんな時間まで付き合わせたのは俺で、こいつを責めるのだけはやめてやって」
日野は目の前に立った人物が英人とどういう関係であるのかを咄嗟に理解していたようだ。
日野がどこまでも気遣うように庇い榛名に説明してくれる姿に、英人は一つの声も出せなかった。
そしていまだに英人を守ろうと気にかける榛名の態度が嬉しいのに心苦しかった。

榛名は訝しげに日野の上から下までを舐めまわすように視線を這わせてから、英人に視線を投げ、何もないのかと確認をとるかのように返事を待っていた。『死にそうな』と言われたことで少しは罪悪感があったのか、日野の必死な説得に榛名は耳を傾け、英人が頷けば「分かった」と目だけで返事をし、それ以上日野を厳しい目で見ることはなかった。英人の言葉や仕草に信頼を置いてくれる榛名の存在がこれまでとは違った何かを醸し出していた。
「英人、おまえに話がある」
英人は名前を呼ばれビクッとしながらも、全ての覚悟はできている、と自分を奮い立たせた。この為に野崎は英人を探していたのだろうか。
改めて別れのあいさつに来てくれなくても良かったのに…と心の中で呟いた。顔を見たら余計に別れるのが辛くなるのに…。
全ては終わったはずだ。お金で全部納得させられて、書類一枚で清算される関係。何もわざわざ確認するようにこの場に足を向けてほしくなどなかった。

日野は振り向きざまに「待っててくれたんじゃん」と明るく小声で言ってくれたが、英人はとてもそんな気分になれなかった。
「じゃあ、俺はこれで」
榛名が英人に危害を加えないと分かった時点で、日野は榛名にもちょこんとだけ頭を下げて、帰ろうと足を踏み出そうとするのを榛名に止められた。
「待て。おまえに頼みたいことがある」
これには英人も日野も意図が掴めずに同時に榛名の顔を眺めてしまった。
「車を出してくれ。俺と英人を自宅まで送ってほしいんだ」
そう言いながら、榛名は手に出した財布の中から札を無造作に数枚引き出した。
要はタクシー代わりにしたいと言うことらしいが、差し出された金額を見て日野の方が目を剥いていた。
「え、あ、いや、構わないけど…。これは…」
受け取ることを躊躇う日野は、助けを求めるように英人の顔を見てきた。1,2枚の金額ならともかく…と日野は手を出せなかった。英人はすっかり慣れていたから万札が何枚か並べられるくらいのことを変とも思っていなかった。札には『福沢諭吉』の顔があるのが当たり前だと意識をすり替えられていたし、その価値も最近ではあやしい感覚になっている。英人のアパートの家賃が2ヶ月分は支払える『紙切れ』を、もらっておけば?と軽く流しただけで、それよりも、榛名が自分も連れて自宅に帰るということのほうが気になった。

「今、野崎に英人を探させているのだが、戻ってこないところをみると、まだ探しているか見捨てたかどちらかだろう。英人が会わずに済むのならその方がいい」
急ぎたいと言葉に含ませながら、榛名は強引に日野が着ていたシャツの胸ポケットに折り込んだ札を押し込んだ。給料袋かという金額を入れながら「英人が世話になった礼だと思え」と付け加えていたけど…。(カップラーメン代は確実に胸ポケットが膨らむほど高くない)

「あ、そうだ、野崎さん…」
思い出したように英人が呟くと、「会ったのか?」と榛名の整った眉がピクンと動いた。
英人は、俺じゃなくて日野が…と視線で言いかけた。
話の流れが掴めない榛名は疑問を瞳に乗せて英人を見据えたが、「車の中で聞こう」と英人と日野を促した。

「え、鍵、閉めてない」
「開けておけばいい。どうせ盗まれるようなものもないだろう。それに閉めればもし野崎が来た時におまえが戻ってきたと言っているようなものだ」
英人が部屋の施錠もしていないと慌てるのも無視して、英人は再び車の後部座席に身体を乗せられた。
英人よりも多少なり状況を把握したらしい日野が両手を上に向けて肩をすくめている。クスクスと笑みまで浮かべられるのはあまり気分の良いものではなかった。
榛名の言い分を理解できないでいるのは自分だけらしい。

どうしてこんな展開になっているのか訳も分からないまま、英人は榛名に問いかける隙も作ってもらえなかった。
走り出した車の中で、榛名が「悪かった」と静かに口を開いた。

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あぁ…すいません。また間違えて上げてしまいました。
下げてもFC2さんの方では残ってしまうのですね…。
今日、2話目、このまま残します…。
明日は期待しないで…(ガックリ(/_;))
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コメント

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コメントきえ | URL | 2009-10-22-Thu 07:05 [編集]
蝶丸様

おはようございます。
レス遅くなり申し訳ございません。

>やっと出会えましたね。 この瞬間を楽しみにしながら読んでいます。やきもきしながら、早く英人に幸せになって欲しいなって思ってます。
やっと会えましたよ…。
なんて長い一日だったのかと私もやきもきしていました。
榛名も自分の気持ちに気付いたので、これからの生活に何かと変化が出ると思います。
英人の幸せ…私も願っております。
一山越えたようですが、お話はまだ続くのでどうかお付き合いください。

拍手コメありがとうございました。
コメントきえ | URL | 2009-10-22-Thu 07:15 [編集]
MO様

おはようございます。レス遅くなりましたm(__)m

>続けて読めて、嬉しいです♪ 英人、野崎より先に千城に会えて良かったね。日野と一緒なのも、誤解されることなく、かえって良かったようですね。千城が英人に対して、最初に伝えた言葉が「謝罪」で良かったです。千城にとって英人は、決して失くせない愛しい存在なんでしょうね。鈍い英人も、もうすぐ気づきますよね?ますます更新が楽しみです♪いつも ありがとうございます。

昨夜は間違えてupして不貞寝した私です…。(旦那の帰りも待っていなかった…)
続きがなくて今どうしようかと思っているところですが…。
英人サイドではなかなか千城の気持ちも表現しにくいところがありますが、千城が想い焦がれているところは徐々に伝わっていくと思います。

日野は本当に良い仕事をしてくれていると思います。
きっと榛名のお気に入りにもなるはずですので、機会があったら今後も出していきたいです。(今回限りの登場の予定だったのですが、私が気に入った…)

楽しみにしていただいて本当にありがとうございます。
コメントいただけて嬉しかったです。
ぜひまたいらしてください。
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