【また 韮崎視点です】
そこが『研修』の会場なのだとわかることで、韮崎を踏みとどまらせていた。
そばにいた上野原の声が、かろうじて届いたと言っても過言ではない。
その声に、現実に戻された気分だ。
「もう一度・・・、ミーティングルームの確認をしてくれ。終わり次第、解散だとは、管轄する人間にはつたえてある」
最後の目的とした空間は意思疎通をはかるためのもの。
部署ごとに分けているのも、親近感を生ませるためのものであった。
上野原は戸惑いつつも、自分に与えられた仕事をこなそうと躍起になる。
見てくれる人は、見ていてくれる。
信頼や、期待、希望。常にそばにおいてもらっていたのだからこそ、と韮崎のためにありたかった。
その深意を分かっていながら、韮崎は無視することで日々を過ごしてきた。
自分の"駒"を作るために動いた数年。
社内に多いのは、敵であり、また、味方にできるものもいる。
采配に目を向けてくれる若手が多くもいた。今までの生活に波風を立てられたくない年配の数も比例するところか。
『甘くはない』と韮崎は現実を伝えていた。
机に座っているだけで給料がもらえる世の中は、とうの昔に終わっているのだと。
大月に厳しく当たったのはそれらを教えるためもあった。
実際、大月は予想以上の手早さで動いてくれたのだから、周りの連中に舌を巻かせるのはすぐだった。
それも、自然と培われた、"経営"としての能力の違いだろう。
埋もれさせるにはあまりにも惜しい人材でもある。
それなのに、当の本人は全く気付かず、男あさりを繰り返す日々だ。
自らの美貌を武器に、分かってけしかけているのだから、なお、たちがわるい。
研修時間が終わるまでイライラと過ごした韮崎に、声をかけられる人物など片手にも及ばなかった。
とにかく順序どおり、終わらせて、この場からの解放を新人だけではなく誰もが望む。
昼食時間を挟んで、午後の二時間ほどを部署ごとに過ごさせれば、日程は終了した。
ディスカッションの時間、韮崎たちは会場としてくれた館長などと、ささやかな打ち合わせと休憩をとる。
このあと、全員を見送れば、そこで業務は終了という段階だ。
学校でいうなら、放課後。
誰がどこで何をしようと関係ないのだが、面倒が起これば飛び出していく親心がある。
たぶん、韮崎にとって、それは自分を育ててくれた、生かしてくれた『御坂家』に対する恩なのかもしれなかった。
だれから言われたことではなくて、勝手に動いているだけのこと。
他の人間に対しては、社会的な立場から、遠巻きに注意する程度ですまされるものが、大月に関してだけは異なる。
別に同僚たちと飲み歩くことを咎めはしない。
しかし、大月についてまわる行動といえば、一線を越えたことにしかならない。
その危険性を分かっているのだろうか。
自分が上野原をもてあましたように・・・
全ての日程が済んだあと、同じく『総務部』としての中に存在していた韮崎は大月の腕を取っていた。
「もう、帰るだろう。送っていく」
「俺、予定あるんだけど」
同じマンションに帰るのに、送るも送られるもないようでありながら、あたりまえのこととと発せば、拒絶される。
このあとの"予定"など簡単に想像できるものだった。
「社長が待っているんだ」
はっきりとした言葉は、周りの皆に聞こえていた。
わざとらしくもある理由に、大月の眉間が寄る。
嘘 だとは見抜いているのだろう。
しかし、ここで反論してこないとは、韮崎の顔を立ててくれているからなのか。
「わかったよ。断ってくる。・・・でも、その穴埋め、あんたがするんだろうな」
抱く、抱かれる。
溺れていったのはどちらだったのだろうか。
魅惑的な笑みに返す言葉もなく、大月は背を見せていた。
誰かを守るため。何かを手に入れるため。
悪魔に魂をうったのは、誰なのだろう。
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頭が働く時って動くんだねぇ。
でもつかれたので きえちんはちょっと眠ります。
そこが『研修』の会場なのだとわかることで、韮崎を踏みとどまらせていた。
そばにいた上野原の声が、かろうじて届いたと言っても過言ではない。
その声に、現実に戻された気分だ。
「もう一度・・・、ミーティングルームの確認をしてくれ。終わり次第、解散だとは、管轄する人間にはつたえてある」
最後の目的とした空間は意思疎通をはかるためのもの。
部署ごとに分けているのも、親近感を生ませるためのものであった。
上野原は戸惑いつつも、自分に与えられた仕事をこなそうと躍起になる。
見てくれる人は、見ていてくれる。
信頼や、期待、希望。常にそばにおいてもらっていたのだからこそ、と韮崎のためにありたかった。
その深意を分かっていながら、韮崎は無視することで日々を過ごしてきた。
自分の"駒"を作るために動いた数年。
社内に多いのは、敵であり、また、味方にできるものもいる。
采配に目を向けてくれる若手が多くもいた。今までの生活に波風を立てられたくない年配の数も比例するところか。
『甘くはない』と韮崎は現実を伝えていた。
机に座っているだけで給料がもらえる世の中は、とうの昔に終わっているのだと。
大月に厳しく当たったのはそれらを教えるためもあった。
実際、大月は予想以上の手早さで動いてくれたのだから、周りの連中に舌を巻かせるのはすぐだった。
それも、自然と培われた、"経営"としての能力の違いだろう。
埋もれさせるにはあまりにも惜しい人材でもある。
それなのに、当の本人は全く気付かず、男あさりを繰り返す日々だ。
自らの美貌を武器に、分かってけしかけているのだから、なお、たちがわるい。
研修時間が終わるまでイライラと過ごした韮崎に、声をかけられる人物など片手にも及ばなかった。
とにかく順序どおり、終わらせて、この場からの解放を新人だけではなく誰もが望む。
昼食時間を挟んで、午後の二時間ほどを部署ごとに過ごさせれば、日程は終了した。
ディスカッションの時間、韮崎たちは会場としてくれた館長などと、ささやかな打ち合わせと休憩をとる。
このあと、全員を見送れば、そこで業務は終了という段階だ。
学校でいうなら、放課後。
誰がどこで何をしようと関係ないのだが、面倒が起これば飛び出していく親心がある。
たぶん、韮崎にとって、それは自分を育ててくれた、生かしてくれた『御坂家』に対する恩なのかもしれなかった。
だれから言われたことではなくて、勝手に動いているだけのこと。
他の人間に対しては、社会的な立場から、遠巻きに注意する程度ですまされるものが、大月に関してだけは異なる。
別に同僚たちと飲み歩くことを咎めはしない。
しかし、大月についてまわる行動といえば、一線を越えたことにしかならない。
その危険性を分かっているのだろうか。
自分が上野原をもてあましたように・・・
全ての日程が済んだあと、同じく『総務部』としての中に存在していた韮崎は大月の腕を取っていた。
「もう、帰るだろう。送っていく」
「俺、予定あるんだけど」
同じマンションに帰るのに、送るも送られるもないようでありながら、あたりまえのこととと発せば、拒絶される。
このあとの"予定"など簡単に想像できるものだった。
「社長が待っているんだ」
はっきりとした言葉は、周りの皆に聞こえていた。
わざとらしくもある理由に、大月の眉間が寄る。
嘘 だとは見抜いているのだろう。
しかし、ここで反論してこないとは、韮崎の顔を立ててくれているからなのか。
「わかったよ。断ってくる。・・・でも、その穴埋め、あんたがするんだろうな」
抱く、抱かれる。
溺れていったのはどちらだったのだろうか。
魅惑的な笑みに返す言葉もなく、大月は背を見せていた。
誰かを守るため。何かを手に入れるため。
悪魔に魂をうったのは、誰なのだろう。
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頭が働く時って動くんだねぇ。
でもつかれたので きえちんはちょっと眠ります。
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