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BLの丘
春が来てくれるなら 13
2013-05-02-Thu  CATEGORY: 春が来てくれるなら
言っていることが矛盾しているのは大月自身が理解している。
勝沼を断った時点で、その穴埋めを韮崎にほのめかした。
帰宅時にどこに寄るのか・・・ それを尋ねられて突っぱねるのはおかしな話だろう。
本気でその気などなかったと。
だが、韮崎としては、面倒事に巻き込まれない安心感もあるのだろうか。
無駄に抱けば危機感も増すというもの。

そんな関係も、どうでもよくなってきた。
送られる車の中で瞼を閉じる。
少しずつ冷静になっていく思いに、勝沼の存在が写り込んできた。
どこまで本気かは分からないが、寄られることは嫌ではない。
今の環境から逃げたい現実があいまって逃げ道を探していることも自覚している。
韮崎にすがりながらも、彼には全てを預けられない事実が存在する。
韮崎は"明野"のものだと分かっているから・・・
虚しさが、改めて心に広がっていた。

駐車場に車を止めたところで、偶然か、故意か、明野に出迎えられた。
「お帰り」
にこやかに声をかけてくれる姿は、大月に良く似ていた。
兄弟だから当然なのか。
背格好も顔かたちもなにもかも・・・
それが大月を悔しがらせるところでもある。
少し年をとれば、こうなるのだろうかという見本のような気がする。
あと幾年早く生まれたら、韮崎を手にすることができたのだろうか、という、バカバカしい考えまでよぎった。
韮崎がさりげなくカバンを手渡す光景を視界に収めながら、大月は足早にその場を去って行った。
「あ、大月っ」
何かを言いたそうな明野を振り切って、エレベーターに乗り込んでいた。
あんな光景を見せられては、一人になりたくないと思ってしまう。

ふたりの行方を理解できるからこそ、どこかに出かけたかった。
勝沼と過ごすことができたなら、こんな考えは思いもしなかったのか。

ふと、一度聞いた番号がよみがえってくる。
それはたった一枚の名刺で、誰にも配られているものであったのだけれど。
そんなものは、調べればいくらだって手に入れられる代物だ。
個人情報を明かさないところは、所詮、その程度の存在なのだろうか。
まあ、それでもいいけれど、とすさんだ気持ちが見え隠れした。

コールした先はすぐに繋がった。
『ハイ、勝沼です』
よそ行きの声に何故か笑みが浮かんでしまう。
仕事先の電話に休日でも答えてくれることが、感心できることでもあった。
「あー、御坂だけど・・・」
『えっ?御坂さん?!どうしたのっ』
そう、一度は断った存在。
その人から連絡がくればどうしたのかと焦るのが人の心情というものだろう。

「悪い・・・。今夜、会えねぇ?」
それが何を意味するのか、分からないほどウブではないだろう。
韮崎との関係性を、それとなく知ってもいる。
自分の立場も分かりながら、声をかけてきてくれた人。
何も知らなければ、ただの行きずりだが、勝沼は知りすぎるほどに知って、だけど近づいてきた。
脅えなどないはず・・・。

韮崎の意のままに連れ去られた場所と理解できるのか。
『どこ?』
応じてくれる返事に会社近くの店を指定した。
どこから来るのかは分からないが、その周辺なら行き慣れた場所でもあるだろう。
『了解っ。じゃあ、一時間後でっ』
満足げな声を聞いて電話を切る。

身支度を整えて部屋を出ようとした。
会社では見せないあでやかな姿は、夜の街に繰り出す時の定番。
一見は社会人には見せない、学生時代のそのものを纏わせている。
いつまでも"学生"と印象づけた点かもしれない。
裏表がはっきりと出ていて・・・

その姿を改めて目に入れた時、瞠目したのは、勝沼だったのだろう。
分かるから、大月も、頬を上げていた。
狩りをする姿、そのものだ。

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