勝沼と一緒に住み始めて、大月の生活は大きく変わった。
もちろん、他人が入りこんできたのだから当然のことなのだが、何故か明野は勝沼を不憫に思っているらしい。
その第一の原因は、大月が一切家事をしないことだった。
仕事に行っている間にハウスキーパーが入ってくるので、清掃面などはまぁ、いいとして。
それは明野も同じことだったから。
ただ、家に帰りついて、ふたりきりの時間でのんびりと夕食も食べられないことを気の毒に思ったようだ。
勝沼も学生だった時から、生活費はカツカツだったために、自炊はかなりできるほうといっていい。
もちろん、母親が作るような凝ったものは無理だけれど、その場しのぎの料理を生産することは容易かった。
外食でも良いが、家の中とは何かと精神的に落ちつくものだと、大月も認めないわけではない。
一応(←かなり強調)最低限の調理道具くらいは、使われることのないキッチンでもありはする。
あまりにも綺麗な状態(正確には箱に入ったまま)で保管されていた物体を発見したことを明野は打ち明けられ、苦笑で応対してしまった。
仕事柄か、勝沼と明野の間は、過去とは比べ物にならないほど、親密になっている。
「双葉くん、明日は大月を連れてうちに食べにおいで」
「えっ?で、でも…」
「大月が嫌がったら置いてくればいいから。食べ物がなくて泣くのは自分だって、あの子だって分かっているさ」
軽くいなされて戸惑いつつも、勝沼の興味の方が勝ったと言ってもいい。
明野と韮崎のプライベートの部分を見てみたかった。
大月は当然ながら知っているのだし、何より、移動はあっという間で苦になるようなものはない。
むしろ、両親の部屋に招かれるよりずっと気分は楽だ。
その話を聞いた大月は露骨に嫌な顔をしたが、断ることはしなかった。
さすが兄弟と言うべきか、幼いころから見ていたこともあって、明野と韮崎の料理の腕は知っている。
これまでは二人の邪魔をするのではないかと、また韮崎との関係が始まってしまってからは、後ろめたさもついて回って近づくことはしてこなかったのだ。
たった一度…で終わらないことも気づいていた。
韮崎と共にさっさと仕事を終わらせてしまった大月は、自宅で勝沼の帰りを待った。
たぶん明野もすでに帰宅していることだろう。
勝沼の帰り時間が一番遅いのは、仕事をきっちりとさせている証拠でもあるのかもしれない。
普段着に着替えてソファで寛いでいると、勝沼が帰宅した。
明野に"誘われた"現実があったから、普段より相当急いでの帰宅だとは容易く知れた。
勝沼にもシャワーを浴びてくることを促すと、「え、でも…」と戸惑いの声を上げる。
今更、この時間になって、ましてや"家族"での付き合いと割り切られての声掛けに、『上司』と思う方がおかしい。
そして訪れた上の階。出迎えてくれたのはエプロンをかけた明野だ。
部屋の作りはほとんど変わらない。
リビングから見えるキッチンでは、やはりエプロン姿の韮崎がいて、勝沼は絶句していた。
さすがにこの光景は想像を越えていたようだ。
そんな勝沼を勝手に長方形のダイニングに導いたのは大月だ。
『待っていれば食べ物は出てくる』…。
漂う良い香りは、間もなく完成の時を迎えるのだと教えてくれる。
途端に韮崎の厳しい声が飛んだ。
「大月、何を座りこんでいるんだ。盛りつけくらい手伝え」
「あっ、お、俺っ、やりますっ!」
勝沼の焦りを抑えたのは明野だ。
「双葉くんは座ってて良いからね。いくらなんでも大きな二人がキッチンに入ったら狭いでしょ」
絶対にそれはないだろう…とは思えるが、明野にまで尻を叩かれては大月も腰を上げざるを得なかった。
何よりここに呼んだ目的が理解できるからこそ。
"勝沼のためにできることを増やせ"と発破をかけられた気持ちはくみ取れる。
今までのようないい加減な付き合いでないのは、一緒に住んでいるからこそ、周りの人間も温かく厳しい目で見守ってくれる。
オロオロする勝沼のことは、今は明野に預けた方が無難だ。
会話は全て筒抜けで聞こえてくる。
「大月って、家で何か作ったの?」
「この前、トーストを焼いてもらったら炭になってましたね…」
「あれは双葉がスクランブルエッグ作りながらコーンスープも入れていたからじゃんッ」
「大月の家にあるのはポップアップトースターだろ?」
大月の文句に韮崎が呆れかえる。
失敗する理由が分からないらしい。
原因は勝沼がいらぬことに説明してしまった。
「食パンが上がってこないように押し続けていたんですよ…」
全員のため息が大月に突き刺さってきた。
韮崎が彩り良くスティック状の野菜とバーニャカウダ、ガーリックトーストを盛りつけていれば、隣で大月は、鍋からビーフシチューを積み上げてあった器に移そうとした。
しかし皿を持つこともせず、鍋から離れた位置まで運んでいくために、多くの液体が垂れている。
すぐ韮崎の叱責が飛ぶ。
「おまえはよそることもできないのかっ!」
韮崎の怒鳴り声にすぐさま反応するのはまたもや勝沼だった。
「に、韮崎さんっ、やっぱり俺がっ」
「働かざる者食うべからず。手を出したら大月は速攻で追い出すぞ」
脅迫めいたセリフには手も足も止まり口も閉じるというものだ。
こうして数日置きに繰り返されるようになった"食事会"は、大月の教育現場になり、また勝沼はレシピを教えてもらったりした。
もちろん暴露大会として賑わってもいく。
ふたりきりの時間を持つ時。
家族で触れあう時。
どこか希薄だった大月の人生は変貌を遂げていった。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
もちろん、他人が入りこんできたのだから当然のことなのだが、何故か明野は勝沼を不憫に思っているらしい。
その第一の原因は、大月が一切家事をしないことだった。
仕事に行っている間にハウスキーパーが入ってくるので、清掃面などはまぁ、いいとして。
それは明野も同じことだったから。
ただ、家に帰りついて、ふたりきりの時間でのんびりと夕食も食べられないことを気の毒に思ったようだ。
勝沼も学生だった時から、生活費はカツカツだったために、自炊はかなりできるほうといっていい。
もちろん、母親が作るような凝ったものは無理だけれど、その場しのぎの料理を生産することは容易かった。
外食でも良いが、家の中とは何かと精神的に落ちつくものだと、大月も認めないわけではない。
一応(←かなり強調)最低限の調理道具くらいは、使われることのないキッチンでもありはする。
あまりにも綺麗な状態(正確には箱に入ったまま)で保管されていた物体を発見したことを明野は打ち明けられ、苦笑で応対してしまった。
仕事柄か、勝沼と明野の間は、過去とは比べ物にならないほど、親密になっている。
「双葉くん、明日は大月を連れてうちに食べにおいで」
「えっ?で、でも…」
「大月が嫌がったら置いてくればいいから。食べ物がなくて泣くのは自分だって、あの子だって分かっているさ」
軽くいなされて戸惑いつつも、勝沼の興味の方が勝ったと言ってもいい。
明野と韮崎のプライベートの部分を見てみたかった。
大月は当然ながら知っているのだし、何より、移動はあっという間で苦になるようなものはない。
むしろ、両親の部屋に招かれるよりずっと気分は楽だ。
その話を聞いた大月は露骨に嫌な顔をしたが、断ることはしなかった。
さすが兄弟と言うべきか、幼いころから見ていたこともあって、明野と韮崎の料理の腕は知っている。
これまでは二人の邪魔をするのではないかと、また韮崎との関係が始まってしまってからは、後ろめたさもついて回って近づくことはしてこなかったのだ。
たった一度…で終わらないことも気づいていた。
韮崎と共にさっさと仕事を終わらせてしまった大月は、自宅で勝沼の帰りを待った。
たぶん明野もすでに帰宅していることだろう。
勝沼の帰り時間が一番遅いのは、仕事をきっちりとさせている証拠でもあるのかもしれない。
普段着に着替えてソファで寛いでいると、勝沼が帰宅した。
明野に"誘われた"現実があったから、普段より相当急いでの帰宅だとは容易く知れた。
勝沼にもシャワーを浴びてくることを促すと、「え、でも…」と戸惑いの声を上げる。
今更、この時間になって、ましてや"家族"での付き合いと割り切られての声掛けに、『上司』と思う方がおかしい。
そして訪れた上の階。出迎えてくれたのはエプロンをかけた明野だ。
部屋の作りはほとんど変わらない。
リビングから見えるキッチンでは、やはりエプロン姿の韮崎がいて、勝沼は絶句していた。
さすがにこの光景は想像を越えていたようだ。
そんな勝沼を勝手に長方形のダイニングに導いたのは大月だ。
『待っていれば食べ物は出てくる』…。
漂う良い香りは、間もなく完成の時を迎えるのだと教えてくれる。
途端に韮崎の厳しい声が飛んだ。
「大月、何を座りこんでいるんだ。盛りつけくらい手伝え」
「あっ、お、俺っ、やりますっ!」
勝沼の焦りを抑えたのは明野だ。
「双葉くんは座ってて良いからね。いくらなんでも大きな二人がキッチンに入ったら狭いでしょ」
絶対にそれはないだろう…とは思えるが、明野にまで尻を叩かれては大月も腰を上げざるを得なかった。
何よりここに呼んだ目的が理解できるからこそ。
"勝沼のためにできることを増やせ"と発破をかけられた気持ちはくみ取れる。
今までのようないい加減な付き合いでないのは、一緒に住んでいるからこそ、周りの人間も温かく厳しい目で見守ってくれる。
オロオロする勝沼のことは、今は明野に預けた方が無難だ。
会話は全て筒抜けで聞こえてくる。
「大月って、家で何か作ったの?」
「この前、トーストを焼いてもらったら炭になってましたね…」
「あれは双葉がスクランブルエッグ作りながらコーンスープも入れていたからじゃんッ」
「大月の家にあるのはポップアップトースターだろ?」
大月の文句に韮崎が呆れかえる。
失敗する理由が分からないらしい。
原因は勝沼がいらぬことに説明してしまった。
「食パンが上がってこないように押し続けていたんですよ…」
全員のため息が大月に突き刺さってきた。
韮崎が彩り良くスティック状の野菜とバーニャカウダ、ガーリックトーストを盛りつけていれば、隣で大月は、鍋からビーフシチューを積み上げてあった器に移そうとした。
しかし皿を持つこともせず、鍋から離れた位置まで運んでいくために、多くの液体が垂れている。
すぐ韮崎の叱責が飛ぶ。
「おまえはよそることもできないのかっ!」
韮崎の怒鳴り声にすぐさま反応するのはまたもや勝沼だった。
「に、韮崎さんっ、やっぱり俺がっ」
「働かざる者食うべからず。手を出したら大月は速攻で追い出すぞ」
脅迫めいたセリフには手も足も止まり口も閉じるというものだ。
こうして数日置きに繰り返されるようになった"食事会"は、大月の教育現場になり、また勝沼はレシピを教えてもらったりした。
もちろん暴露大会として賑わってもいく。
ふたりきりの時間を持つ時。
家族で触れあう時。
どこか希薄だった大月の人生は変貌を遂げていった。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
きえちん おはようございます
韮崎&野明キッチン(笑) 二人の料理なら安心してたべれるよね
大月 はやくパン焼けるようにね あっポンッて飛び出すトースターだったんだ
きえちん 急がないで のんびり綴って無理しないで下さい 笑顔
韮崎&野明キッチン(笑) 二人の料理なら安心してたべれるよね
大月 はやくパン焼けるようにね あっポンッて飛び出すトースターだったんだ
きえちん 急がないで のんびり綴って無理しないで下さい 笑顔
一緒に暮らし始めて 勝沼だけ負担が増えては駄目ですよね~
大月も出来る事から しなくては!
でも ここまで悲惨だと 教える方も大変だわぁ(笑)
韮崎のエプロン姿は、ソムリエの様なエプロンかな?
それなら 絶対に似合うよね♪
この料理の時にも垣間見える明野との関係、大月と勝沼も いつか こうなれたらいいね~(○ゝз・)b⌒☆
35話のコメント欄にも書きましたが、6月29日は 「BLの丘」ブログ開設日です。
その日 お時間に余裕がある方は、お祝いコメントを書いて貰えませんか?
無記名でも いいですよ~!
ただし お祝いの日ですので 誹謗・中傷コメントは固く固くお断りさせて頂きます。┏○))ペコ
コメ欄で 盛大なお祭りをして 一緒にお祝いしましょう♪v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
大月も出来る事から しなくては!
でも ここまで悲惨だと 教える方も大変だわぁ(笑)
韮崎のエプロン姿は、ソムリエの様なエプロンかな?
それなら 絶対に似合うよね♪
この料理の時にも垣間見える明野との関係、大月と勝沼も いつか こうなれたらいいね~(○ゝз・)b⌒☆
35話のコメント欄にも書きましたが、6月29日は 「BLの丘」ブログ開設日です。
その日 お時間に余裕がある方は、お祝いコメントを書いて貰えませんか?
無記名でも いいですよ~!
ただし お祝いの日ですので 誹謗・中傷コメントは固く固くお断りさせて頂きます。┏○))ペコ
コメ欄で 盛大なお祭りをして 一緒にお祝いしましょう♪v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
お兄様、嫁にやる弟の教育がおろそかだったことに
今更ながら気が付いたんですね
花嫁修業ねぇ。。。
いいえお兄様
大月くんはこのままでいいと思う
何にもできないお嬢さま、、、じゃなくてお坊ちゃまで
待ってれば食べ物が出てくるし
脱ぎ捨てておけば服がきれいになる
と思ってていいです(きっぱり)
だってなんか楽しそうじゃないですか勝沼が
大事に甘やかして何でもしてあげちゃうのも幸せーって感じです
とは言いながら、これから多忙になるであろうダンナに
内助の功も大事ですね
もうすぐ4周年なんですよね
ってことは『淋しい夜』と出会って4年になるってことですか
(しみじみ)
これからもずーっとついて行きたいので
末永くおつきあいさせてくださいませ
無理のない範囲での更新をお待ちしています
今更ながら気が付いたんですね
花嫁修業ねぇ。。。
いいえお兄様
大月くんはこのままでいいと思う
何にもできないお嬢さま、、、じゃなくてお坊ちゃまで
待ってれば食べ物が出てくるし
脱ぎ捨てておけば服がきれいになる
と思ってていいです(きっぱり)
だってなんか楽しそうじゃないですか勝沼が
大事に甘やかして何でもしてあげちゃうのも幸せーって感じです
とは言いながら、これから多忙になるであろうダンナに
内助の功も大事ですね
もうすぐ4周年なんですよね
ってことは『淋しい夜』と出会って4年になるってことですか
(しみじみ)
これからもずーっとついて行きたいので
末永くおつきあいさせてくださいませ
無理のない範囲での更新をお待ちしています
| ホーム |