マンションには勝沼が先に帰りついていた。
ダイニングテーブルの上に数々のオードブルが用意されて、香ばしい匂いを家じゅうに撒き散らしている。
間違っても勝沼が作ったのではない見た目の良さは、どこか懐かしかった。
「え？母さんが？」
勝沼に何を言われたわけではないが、先に問いかけてしまうと「そう」とあっさり返って来た。
「あと、どこ産とかのワインも持ってきてくれた。『お仕事お疲れさまでした』って。…本当は大月に会いたかったんじゃないの？挨拶、しに行っとく？」
一人で出迎えてしまった勝沼の居心地の悪さはなんとなしに分かるが、遠く離れて暮らしているわけでもあるまいし、この年になって『会いたかった』もへったくれもないだろうと内心でごちる。
第一、明野のところから順に降りてきたことを考えれば、大月がまだ帰っていないことも知った上ではないか。
「別に、いいよ、今更…」
それに、年末年始の一番忙しい時期、届けてくれるのはいつものことだった。
次は大晦日の蕎麦で、おせち料理、おしるこ、雑煮と続くのだろう。
一人暮らしの頃は実家に帰っていたこともあったが、明野と韮崎も顔を出すのは一瞬で、たぶん今年は同じ行動を大月もとることになると想像できる。
大月のそっけない返事に勝沼は少々たしなめる態度に出た。
「そばにいてくれるってありがたいと思うけどね…」
勝沼は大学進学と同時に実家を離れている。
時々帰省することは知っていたが、常に親がそばにいた大月にとっては、半分羨ましいものでもあった。
その影には、勝沼なりの苦労が滲んでいるようで、大月も心情が理解できるようになっただけに、それ以上の発言は避けた。
大月の気持ちがくみ取れるのか、勝沼も無理強いしてくることはない。
「大月、風呂沸いてるけど。…一緒に入る？メシの支度する必要ないし」
勝沼が大月の上着に手をかけてくる。
明日からしばらくのんびりと過ごせることを思うと、枷も外れやすいのだろうか。
大月自身、抵抗する理由はなかった。
心の中に湧いたのは、浮足立つものに近い。
勝沼のやりたいようにやらせて、ネクタイまで取られる。
ダイニングの椅子に簡単に掛けるだけにして、バスルームに連れられた。
柚子の香りが漂っているのは入浴剤を入れたからだと知れる。
今となっては恥ずかしがる気持ちもどこか剥げ落ちていて、二人とも裸になるのはすぐだったし、お互いを洗いあったりもする。
大月は自分とは違ったしっかりとした筋肉の付き方が好きで、なぞりまくっては苦笑され、また心配もされた。
すぐそばにいるのは勝沼なのに、やはり引っかかる過去はあるのか…。
ふたりで入っても狭さも感じさせないバスタブに向かいあわせで座って温まる。
セックスに関しては、基本的に自由にさせているのも、勝沼を思うからこそ…、というのは自分勝手な言い分かもしれないが、全てを許している証拠でもある。
お互いの信用がなければ成り立たないセックスプレイは、新たな興奮も運んできてくれる。
新しい一面を見られることを含めても…。
勝沼の右手が伸びてきて、大月の胸の小さな粒をつまんだ。
「大月って、左右対称だよな」
まるで誰かと比べられているようで、少しムッとした大月だ。
「形の違う人ばかり見てたってこと？」
勝沼は自分の失言に気づいたようで、「いやいや」と慌てた様子を見せる。
「そういう意味じゃなくてさ。なんか、初めて出会った時のことを思い出したっていうか…。あの時も風呂だったけど、あまりにも堂々としていたなぁと思って…」
今年の終わりに、勝沼もこれまでを振り返っていたのだろうか。
自分の魅力というものを知っていた大月は、それを武器に渡り歩いていたため、隠すこともしなかった。
今更言われることではないだろうと大月は眉をひそめた。
しかし勝沼が思うことは違うらしい。
「この休み中にさ、人前に出られないくらい、非対称にしない？」
そんな体では入浴施設の利用は無理だろう…と。
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ダイニングテーブルの上に数々のオードブルが用意されて、香ばしい匂いを家じゅうに撒き散らしている。
間違っても勝沼が作ったのではない見た目の良さは、どこか懐かしかった。
「え？母さんが？」
勝沼に何を言われたわけではないが、先に問いかけてしまうと「そう」とあっさり返って来た。
「あと、どこ産とかのワインも持ってきてくれた。『お仕事お疲れさまでした』って。…本当は大月に会いたかったんじゃないの？挨拶、しに行っとく？」
一人で出迎えてしまった勝沼の居心地の悪さはなんとなしに分かるが、遠く離れて暮らしているわけでもあるまいし、この年になって『会いたかった』もへったくれもないだろうと内心でごちる。
第一、明野のところから順に降りてきたことを考えれば、大月がまだ帰っていないことも知った上ではないか。
「別に、いいよ、今更…」
それに、年末年始の一番忙しい時期、届けてくれるのはいつものことだった。
次は大晦日の蕎麦で、おせち料理、おしるこ、雑煮と続くのだろう。
一人暮らしの頃は実家に帰っていたこともあったが、明野と韮崎も顔を出すのは一瞬で、たぶん今年は同じ行動を大月もとることになると想像できる。
大月のそっけない返事に勝沼は少々たしなめる態度に出た。
「そばにいてくれるってありがたいと思うけどね…」
勝沼は大学進学と同時に実家を離れている。
時々帰省することは知っていたが、常に親がそばにいた大月にとっては、半分羨ましいものでもあった。
その影には、勝沼なりの苦労が滲んでいるようで、大月も心情が理解できるようになっただけに、それ以上の発言は避けた。
大月の気持ちがくみ取れるのか、勝沼も無理強いしてくることはない。
「大月、風呂沸いてるけど。…一緒に入る？メシの支度する必要ないし」
勝沼が大月の上着に手をかけてくる。
明日からしばらくのんびりと過ごせることを思うと、枷も外れやすいのだろうか。
大月自身、抵抗する理由はなかった。
心の中に湧いたのは、浮足立つものに近い。
勝沼のやりたいようにやらせて、ネクタイまで取られる。
ダイニングの椅子に簡単に掛けるだけにして、バスルームに連れられた。
柚子の香りが漂っているのは入浴剤を入れたからだと知れる。
今となっては恥ずかしがる気持ちもどこか剥げ落ちていて、二人とも裸になるのはすぐだったし、お互いを洗いあったりもする。
大月は自分とは違ったしっかりとした筋肉の付き方が好きで、なぞりまくっては苦笑され、また心配もされた。
すぐそばにいるのは勝沼なのに、やはり引っかかる過去はあるのか…。
ふたりで入っても狭さも感じさせないバスタブに向かいあわせで座って温まる。
セックスに関しては、基本的に自由にさせているのも、勝沼を思うからこそ…、というのは自分勝手な言い分かもしれないが、全てを許している証拠でもある。
お互いの信用がなければ成り立たないセックスプレイは、新たな興奮も運んできてくれる。
新しい一面を見られることを含めても…。
勝沼の右手が伸びてきて、大月の胸の小さな粒をつまんだ。
「大月って、左右対称だよな」
まるで誰かと比べられているようで、少しムッとした大月だ。
「形の違う人ばかり見てたってこと？」
勝沼は自分の失言に気づいたようで、「いやいや」と慌てた様子を見せる。
「そういう意味じゃなくてさ。なんか、初めて出会った時のことを思い出したっていうか…。あの時も風呂だったけど、あまりにも堂々としていたなぁと思って…」
今年の終わりに、勝沼もこれまでを振り返っていたのだろうか。
自分の魅力というものを知っていた大月は、それを武器に渡り歩いていたため、隠すこともしなかった。
今更言われることではないだろうと大月は眉をひそめた。
しかし勝沼が思うことは違うらしい。
「この休み中にさ、人前に出られないくらい、非対称にしない？」
そんな体では入浴施設の利用は無理だろう…と。
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