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BLの丘
淋しい夜に泣く声 68
2009-10-26-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
英人が榛名のマンションで暮らし始めてから、榛名の帰宅はホテルに居た時よりも随分と早くなっていた。
もっともホテルに居た頃は榛名がどんな生活を送っていたのか詳しく知らない。このマンションとホテルの間を往復することもあったようだし、過去の覚えもないような男ともめ事を起こしてからはホテルに居ることが多かったようだが、部屋に寄らない日はどんな過ごし方をしていたのか教えられてもいなかった。

時々、取引相手との接待などで遅くなることはあったが、それも英人には事前に知らされていたし、新しく与えられた携帯電話にマメに状況が報告されていた。
それが今日は何の連絡もなくて、20時を過ぎた頃に夕食を先に食べていたほうがいいのかと、変な心配が湧く。榛名はなるべく規則正しい生活を英人に取らせていた。遅くになってからの食事は消化に悪いと幾度も教えられている。
空腹感はあったが、あともう少しで帰ってくるかもしれないと思えば、10分20分と待ち続けていた。
英人から榛名に連絡をいれることはまずなかった。仕事をしているということが分かるだけに邪魔をするようで嫌だった。
色々な状況が重なって予定通りにいかないことだってあるはずだ。
ただ待つだけの自分に時間を割かせるわけにはいかない。
ケータリングで届けられた食材を前にしながら、英人はキッチンで温めようかどうしようかと悩んでいた頃に榛名が帰宅した。

「遅くなった」
英人が夕食も取らずに待っていたことは、テーブルの上に並べられ手付かずの物で知らされる。
榛名は何か急いたように、着替えもせず、それらを順に皿に並べ用意すると、珍しく英人と並んで腰を下ろした。大概は向かい合って座ることが多かったから、なんだか違和感があった。

「神戸から話を聞いた」
食を進めながら榛名から告げられたことに激震のようなものが走った。
帰りが遅かったのは神戸と会っていたか、話をしていたからなのだと榛名の言葉は伝えてきた。
隠していたわけではないが、返事を先送りにしたことは事実で、昨夜だけでもかなりの心配をかけたことが榛名の態度から計り知れた。
もともと榛名は結果をすぐに求めるところがある。英人が黙ってしまったことはわだかまりとして榛名の中に残っていたようだった。
それに神戸がどこまで榛名に伝えたのかということも気になった。
昨日の話し具合は単刀直入に『別れろ』と言いはしなかったが、最終的に神戸が望むものはそこだろう。

英人は震えあがった。
まるで榛名が別れてもいいと言っているような態度にしか見えなかった。
「や…だ…」
掠れるような声と共に手にしていた箸がテーブルの上に転がり落ちた。

榛名は静かな口調を変えなかった。食べなくなった英人を責めることもしない。それだけのショックを受けていると分かっているのか、榛名も箸を置いた。
「おまえはどうしたい?行きたいと思っても言えなかったのか?そうさせたのは俺か?…今日、散々神戸に説教されてきた。英人が描くものが変わったと教えられた。俺は何を間違えた?おまえが望むものはなんだ?」
英人に対してはっきりと言わなかった言葉ですら、榛名には伝えていたようだ。

英人は震えながらプルプルと首を横に振った。
この腕を失うのだけは絶対に嫌だ…!
たとえ未来を潰されても、どれほどの泥沼に落とされてもただひたすら愛されていたい。
榛名の寵愛を受けられなくなった時こそ、本当の廃人になる予感がした。

瞳を濡らす英人を隣に座った榛名の力強い腕がかき寄せた。
「おまえがやりたいようにやればいい。仕事がしたいと言えばその口を紹介してやるし、世界を見たいと言うのであれば回ってくればいい。送り出してやる。だが必ず戻ってこい。俺がおまえをずっと待っていると忘れるな。本当ならば一瞬だっておまえを離したくない。だけどそれがおまえのためにならないと告げられれば俺は耐えてやる。おまえの将来を潰すくらいなら俺の人生を賭けてやる」

厚い胸の奥から響くような声が聞こえた。
充分なくらい愛されているのだと知ることはできた。
それでも2週間も離れるのは英人の心が耐えられそうになかった。すぐにでも心変わりをされるのではないかという恐怖がつきまとう。
少しでも離れている間に、野崎を始めとする様々な人間に引き離されそうだった。自分も神戸に言い含められるのではないかと脅えた。今の自分は簡単に右から左へと流される。榛名という掴まれるものがない世界が怖い。

「一緒…はダメなの…?」
「スケジュールは調整してみる。2,3日ならどうにかなるかもしれない」
ヨーロッパに呼び寄せるのに、2,3日という日程がどれだけ厳しいものなのか、英人でも知っていた。
自分の我が儘は榛名に無理をさせ、彼の負担を増やすだけだった。
「じゃあ、一週間だけ行く」
「一週間などで何が見て来られる?どれほどキツイ日程になるかおまえに分かるのか?俺は半年パリに留学していたが日本を回る様な簡単なものではない。見るべきところはおまえにとっては多すぎるはずだ」
神戸がいるのだからせめて要所だけでも見てこいと榛名は勧めてくれた。
この瞬間にも見放されるような恐怖が全身を逆撫でていった。

英人は「捨てないで」とだけ小さな声で呟いた。

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コメント

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そしてたとえ2週間といえど、離れたくない。
コメント甲斐 | URL | 2009-10-26-Mon 22:26 [編集]
監禁と言われようがぬるま湯といわれようが、その心地よい愛情に包まれる幸せを抱きしめて居たいんでしょね、英人君は。

会えない間に、自分が淋しいと感じることに加えて、誰かに取られてしまうのではないか、他に目がいってしまうのではないかという不安がありありと見えてとても不憫です。
行って来いなんて言われちゃうともうだめ~、捨てられたらどうしよーーーー
なのではないでしょうか。

千城さんは千城さんで、自分が縛り付けてしまうことで英人君が窮屈に思ったりせっかくの才能を伸ばしてあげられないことになったらと結構頑張って(やせ我慢して?)言ってる気もするんだけどな。
Re: そしてたとえ2週間といえど、離れたくない。
コメントきえ | URL | 2009-10-27-Tue 10:21 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> 監禁と言われようがぬるま湯といわれようが、その心地よい愛情に包まれる幸せを抱きしめて居たいんでしょね、英人君は。
千城に甘やかされたことで、英人は子供返りしちゃっていますね。
父に棄てられたという記憶もありますから、失うことに対しての恐怖心は人一倍みたいです。
たぶん千城とのラブラブな期間がまだ短すぎて自信も持てないみたい。
野崎にも過去を振り返る薄汚い言葉を浴びせられたばっかりだし…。

> 千城さんは千城さんで、自分が縛り付けてしまうことで英人君が窮屈に思ったりせっかくの才能を伸ばしてあげられないことになったらと結構頑張って(やせ我慢して?)言ってる気もするんだけどな。
ええ、きっと。
千城もまだまだ甘やかしたいんですよ。
でも英人のためと言われれば心を鬼にするしかない。
将来を見通す力は持っていますから、そのために努力しなければいけない時があることも理解しています。
今の千城は何もかも『英人のため』ですからね…。

コメントありがとうございました。
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