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BLの丘
淋しい夜に泣く声 70
2009-10-28-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
ビクンッと身体が跳ね上がる。
「いやっ」
咄嗟に日本語で叫び離れようとした膝の上にトレンチを乗せられ抑えられた。
彼が何を伝えようとしているのか、その先のフランス語はまったく理解できなかったが、態度には恐怖を感じるものがあった。
『いつまで待っているの?今夜どう?』そんな意味だろう。
この国に来ても、どこか男を誘う雰囲気を持っているということなのだろうか。
簡単に傍に寄られる無防備さを改めて突き付けられたようで、昔の姿と重ね合わせた英人は自分の態度をとても嫌だと思った。
思ったのだが…。

華奢な英人の身体は簡単に押さえつけられている。突然のことに抵抗しきれない情けなさも混じり、身体が竦むと白い肌が更に青くなった。
時はすでに夜の時間帯になっている。外の景色は夕景から夜景に変わり、通りゆく車のライトがロビー内に差し込んでくる。
英人は隣に座り込んだ白人男性を恐怖の目で見つめた。青い瞳。ブラウンというよりも金髪の透けるような髪。
映画の中に出てくるような美男子は考えるように幾つかの英単語を並べたが、英人は意味を理解する余裕すら持てなかった。
返事もできずにいるのをどう思われたのか、他の客に気付かせないように、トレンチの下に隠した英人の下半身をそっと撫でた。
その仕草はあっという間だった。
硬い指先が太腿を撫で閉じられた両腿を割るようにスッと手が入り込む。テーブルの下で絡ませた足先で少し開かされる。
彼の長い脚がテーブルに当たり、乗っていたカップがカタッと音を立てたが気に留める周りの人間などいるはずもない。
まるで電車の中で痴漢をされているような静けさが英人をひんやりと包んだ。
腰に回った片腕が英人を引き寄せ、耳元で時間を告げられる。
彼の仕事の終わりの時間なのか待ち合わせの時間なのかは良くは分からないが、それまで待っていろということらしい。
英人はプルプルと頭を振り、拒絶の態度を見せたが、「淋しいんじゃないの?」と言うように慣れた手つきが体中をまさぐった。
榛名がいつまで経っても現れないことに対しての不安と人恋しさはあったが、榛名以外の人間に身体を委ねる気はない。

こんなところで長時間過ごすべきではなかったと後悔したが、声を上げたい喉ですらカラカラに乾いていた。まさかこんな所に自分と同じ性癖の人間が存在するとも思っていなかった。

「Ne le touchez pas!(触るな)」
突然ロビーから怒鳴る様な声が響いてきて、ウェイターの手が退いた。聞いたことのある声の張りだった。他の客や店員が一斉にこちらを見たくらいだ。
「英人、立て」
英人が振り返るよりも早く、日本語で命令される。
黒髪を額に落とし、2重襟のボタンダウンシャツにジャケットを合わせただけの軽装の榛名がウェイターを睨みつけながらこちらに向かってくるところだった。
「あ…」
「まったく。油断も隙もあったものではない」
速足で英人に近づくと、いまだに立ち上がれずにいた英人の腕を掴み、強引に立たせた。膝の上に乗っていたトレンチがテーブルに当たりながら転がり落ちる。
榛名はフランス語を並べると慌てふためくウェイターをそのままにカフェを出た。榛名のことだから脅すような何かを言ったのだろうが…。
榛名の荷物を預かり一部始終を見ていたボーイまでもが顔を引きつらせていた。

「こっちの人間には気をつけろ。やたらと手が早い奴がいる」
久し振りに会えた嬉しさと気の緩みで、英人は人前なのにも関わらず、「ふぇっ」と変な声を上げて泣き出してしまった。
そんな英人を見て、人目も気にせずにロビーのど真ん中で胸の中に抱き入れられた。
「遅くなって悪かった。今回のフライトは不運が重なり過ぎた」
すんなりといかない事情は榛名のせいではないのに気遣ってくれる気持ちに余計に涙が止まらなくなる。こんな場所で隠すこともなく自分を大事にしてくれる姿に、榛名の愛情をふんだんに浴びることができて英人の心は満たされていった。迷惑をかけるとも思い、歯を食いしばった英人は榛名の胸から顔を離した。早く部屋に戻って思う存分抱きしめてもらいたかった。

一時は見捨てられたのではないかと不安になった心の闇が溶けだしていく。榛名は約束を守ってくれる。そう染み込まされた瞬間だった。
来てくれないのではないかと疑ってしまった自分を恥じた。申し訳なくも思った。
そして何よりももっと強い人間になろうと心の底から決意した。
今の自分は榛名を不安にさせるだけだ。榛名こそが耐えてくれているのに、甘えっぱなしの自分があまりにも情けなかった。痴漢行為の一つも対処できないなんて…。

フライトの疲れもあったのだろうし、英人が部屋から出たくないと言ったこともあって夕食はルームサービスで済ませた。
榛名はフランスに滞在していたのは10年以上前だから言葉を忘れたと言いながらもしっかり会話を成り立たせている。
どこまでも頼りがいのある姿に益々惹かれるやら感心させられるやら…。
英人が榛名と一緒に居られる時間は3日間あった。だが泊まれるのは今夜と明日の夜だけで、3日目は夕方までしか共に過ごせない。1日目が夜に到着するというこんな状態では丸一日を有効に使えるのは明日だけだ。
その夜は、英人は離れていた期間を埋めるように榛名に甘え縋ったし、榛名も辛かった時を取り戻すかのように英人を愛した。
夜明けが来なければいいのに、と願った心は、やっぱりどこか甘えていたのだろうか…。
榛名の傍にいると、心がどんどんと弱くなるような気がした。

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コメント

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ヒーロー登場!ですね
コメント甲斐 | URL | 2009-10-28-Wed 11:36 [編集]
榛名さんやっと到着~
でも、英人君はやっぱり始めてのお使いで、お金をなくして途方にくれる幼子のようでしたね。
人前で大泣きしちゃうなんて。
そこがまたかわいくてお姉さん、ギュってしてあげたくなりましたよ。
あ、でもちゃんとしてくれる人がいるようなのでお呼びじゃなかったですけどね。
Re: ヒーロー登場!ですね
コメントきえ | URL | 2009-10-29-Thu 00:14 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> 榛名さんやっと到着~
> でも、英人君はやっぱり始めてのお使いで、お金をなくして途方にくれる幼子のようでしたね。
まさに…。
私の頭の中で言葉もたどたどしい3歳くらいの子供に脳内変換されています(笑)
迷子の係員が「ボク、お名前言えるぅ?」って聞いていそう…

> 人前で大泣きしちゃうなんて。
> そこがまたかわいくてお姉さん、ギュってしてあげたくなりましたよ。
> あ、でもちゃんとしてくれる人がいるようなのでお呼びじゃなかったですけどね。
いえいえ。ぜひしてやってください。
ついでにパパに「人前では慎んでね」って教えていただきたいです。
怖いもの知らずのカプです、こいつら(冷汗)

コメントありがとうございました。
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