いろいろと燻っていた頃、慰められるように高畠と湯田川に飲みに誘われた。
なんとなく断わっていた弁当のこともあったから、無下に出来ない。
それと同時に気遣われているのがなんとなしに知れた。
こんな連中にまで心配されるとは、かなりな重症な態度でいたのかと、情けなさすら浮かぶ。
「まあ、飲めよ」
いつもの居酒屋は、個室で余程大きな声を上げない限り近寄ってくる人もいない。
湯田川に進められるとはなんだか、悔しくもあるけれど。
その昔、後輩に手をかけたことを思うと、黙ってやり過ごしたい気分だ。
何があったのか、責めることをしない態度には、正直感謝した。
今更ながらに自分の身軽さを晒されるようだ。
「俺、新庄には感謝しているよ」
先に口を開いたのは高畠だった。
由良の恋人となる人。
隠すこともなく現状を告げてくる。
由良の背中を押したのは確かに自分で…。
「だからさ。おまえも正直になれよ」
その背中を押してくれたのは、誰より、おまえだろ。と。
何故に憶病になっているのか、信じられないといった風情だ。
そんな簡単に事を進められないのだとは、自分を取り巻く環境にある。
躊躇いつつ、大まかな事柄を伝えると、高畠に笑われた。
「"兄"ってさぁ。やっぱ、デカイよな…」
高畠の相手も、双子でありながら"兄"だった。
湯田川の相手も、守られてきた"弟"だ。
どこかで共通する話題になるのか。
そこからは愚痴の言い合い。
高畠は年がら年中連絡を密にする存在を疎ましく思いながら強気に出られない惚れた弱みを晒し。
湯田川は兄の存在に近づけない不甲斐なさを露呈し。
瀬見は、拒絶されるだけの立場に情けなさを認める。
「瀬見がそんなふうに悩むとは思わなかった」
湯田川の皮肉に「どんなふうだ」と苦笑でしかないものがこぼれる。
自信過剰に過ごしてきた過去は自分でも認めるもの。
いつだって考えるのは鳥海のことばかりだ。
この中では一番情けない存在なのかもしれない。
「今までのツケ、全部清算してこいよ」
湯田川の呆れに、もうとっくに清算した、と告げれば、「マジなんだ…」と妙に感心された。
自分のやるせなさを思うからなのか、グラスがどんどんと空いて行く。
高畠が何かを思ったように、「あの子…?」と問う。
カフェで出会った人とは簡単に理解できた。
それ以前に、ショッピングセンターで痴漢男に絡まれたことを覚えているだろうか。
改めて伝えれば、やはり忘れていたようだ。
「なんか、そんなことがあったよな…」
湯田川はへぇと状況を読みとろうとする。
「違う…。結構複雑だよ。彼は鳥海の兄の恋人。あんな子にまで叱責された…」
「友達…か?」
「あぁ。由良と本荘君のようなものかな。いつだって身近にいる」
「それ、一番、やっかい…」
でもそこを克服しないと先に進まない。
湯田川が口を開いた。
「正直、いい気味だと思ってる。俺、どこかでやっぱり瀬見を恨んでいたんだ」
それは真室を手にかけたことだろう。
罵ってくれるから、自分もこうやって反省し、新たな一歩を踏み出せるのだと思う。
正直に言ってくれるから、信用性も生まれた。
八竜と同じように、信頼できる存在だと思わされる。
「『いい気味』か…。そうだろうな…」
軽率な行動ばかりを繰り返した過去を疎む。
高畠は一つだけ言い置いた。
「由良はお前のことを信頼している。その信頼を崩さないでくれよ」
同じように自分も認めているのだと言われたら、そんな人間ではないと言いたくなる。
高畠自身、会社に貢献している人間だろう。
だが、近くに信用してくれる人がいるとは、自信につながるものでもあった。
…鳥海…。君は何を思って過ごしているのだろう…。
よぎるのは無垢な姿で甦る。
目の前にいる人たちのように、大事にしたい。
そばにいたい。
瀬見は苦いものを胸奥に押し込むように、グラスの中身を飲みほしていた。
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なんとなく断わっていた弁当のこともあったから、無下に出来ない。
それと同時に気遣われているのがなんとなしに知れた。
こんな連中にまで心配されるとは、かなりな重症な態度でいたのかと、情けなさすら浮かぶ。
「まあ、飲めよ」
いつもの居酒屋は、個室で余程大きな声を上げない限り近寄ってくる人もいない。
湯田川に進められるとはなんだか、悔しくもあるけれど。
その昔、後輩に手をかけたことを思うと、黙ってやり過ごしたい気分だ。
何があったのか、責めることをしない態度には、正直感謝した。
今更ながらに自分の身軽さを晒されるようだ。
「俺、新庄には感謝しているよ」
先に口を開いたのは高畠だった。
由良の恋人となる人。
隠すこともなく現状を告げてくる。
由良の背中を押したのは確かに自分で…。
「だからさ。おまえも正直になれよ」
その背中を押してくれたのは、誰より、おまえだろ。と。
何故に憶病になっているのか、信じられないといった風情だ。
そんな簡単に事を進められないのだとは、自分を取り巻く環境にある。
躊躇いつつ、大まかな事柄を伝えると、高畠に笑われた。
「"兄"ってさぁ。やっぱ、デカイよな…」
高畠の相手も、双子でありながら"兄"だった。
湯田川の相手も、守られてきた"弟"だ。
どこかで共通する話題になるのか。
そこからは愚痴の言い合い。
高畠は年がら年中連絡を密にする存在を疎ましく思いながら強気に出られない惚れた弱みを晒し。
湯田川は兄の存在に近づけない不甲斐なさを露呈し。
瀬見は、拒絶されるだけの立場に情けなさを認める。
「瀬見がそんなふうに悩むとは思わなかった」
湯田川の皮肉に「どんなふうだ」と苦笑でしかないものがこぼれる。
自信過剰に過ごしてきた過去は自分でも認めるもの。
いつだって考えるのは鳥海のことばかりだ。
この中では一番情けない存在なのかもしれない。
「今までのツケ、全部清算してこいよ」
湯田川の呆れに、もうとっくに清算した、と告げれば、「マジなんだ…」と妙に感心された。
自分のやるせなさを思うからなのか、グラスがどんどんと空いて行く。
高畠が何かを思ったように、「あの子…?」と問う。
カフェで出会った人とは簡単に理解できた。
それ以前に、ショッピングセンターで痴漢男に絡まれたことを覚えているだろうか。
改めて伝えれば、やはり忘れていたようだ。
「なんか、そんなことがあったよな…」
湯田川はへぇと状況を読みとろうとする。
「違う…。結構複雑だよ。彼は鳥海の兄の恋人。あんな子にまで叱責された…」
「友達…か?」
「あぁ。由良と本荘君のようなものかな。いつだって身近にいる」
「それ、一番、やっかい…」
でもそこを克服しないと先に進まない。
湯田川が口を開いた。
「正直、いい気味だと思ってる。俺、どこかでやっぱり瀬見を恨んでいたんだ」
それは真室を手にかけたことだろう。
罵ってくれるから、自分もこうやって反省し、新たな一歩を踏み出せるのだと思う。
正直に言ってくれるから、信用性も生まれた。
八竜と同じように、信頼できる存在だと思わされる。
「『いい気味』か…。そうだろうな…」
軽率な行動ばかりを繰り返した過去を疎む。
高畠は一つだけ言い置いた。
「由良はお前のことを信頼している。その信頼を崩さないでくれよ」
同じように自分も認めているのだと言われたら、そんな人間ではないと言いたくなる。
高畠自身、会社に貢献している人間だろう。
だが、近くに信用してくれる人がいるとは、自信につながるものでもあった。
…鳥海…。君は何を思って過ごしているのだろう…。
よぎるのは無垢な姿で甦る。
目の前にいる人たちのように、大事にしたい。
そばにいたい。
瀬見は苦いものを胸奥に押し込むように、グラスの中身を飲みほしていた。
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何か懐かしいなあ、この飲み会。
ね、師匠(笑)
あの頃は、あっちゃんと瀬見ちゃんはノーマルかと思ってました。
でも、丘の住人だしときえちんに言われたような?
そうかあ、瀬見ちゃんは鳥海くんに距離を置かれてるのね。何か良くない?
今までになかったパターンなような気がする。
あ、安住さんも時間かかったってたっけ。
悩め悩め。
かたくなになった仔猫ちゃんは厄介だけど、待ってるハズ。
頑張れ、瀬見ちゃん!
ね、師匠(笑)
あの頃は、あっちゃんと瀬見ちゃんはノーマルかと思ってました。
でも、丘の住人だしときえちんに言われたような?
そうかあ、瀬見ちゃんは鳥海くんに距離を置かれてるのね。何か良くない?
今までになかったパターンなような気がする。
あ、安住さんも時間かかったってたっけ。
悩め悩め。
かたくなになった仔猫ちゃんは厄介だけど、待ってるハズ。
頑張れ、瀬見ちゃん!
瀬見にとって 恋愛関係で悩むって 人生初じゃないの?
大人の男性が、今更 そんな悩みを抱えるなんて…
それまでの付き合いが どれほど 上辺なモノだったか知れますね。ε= (´∞` ) ハァー
悩みに悩んで 瀬見にとっては勿論、鳥海にとって 最良の答えを導き出しなさい!ソコノ(#`・ω・´)σ君ッッ!!!
瀬見、湯田川、高畠と 可愛いパートナーに振り回されているのが、
少し不憫で 少し可笑しくて 少し微笑ましいな♪
そんなに前の作品じゃないのに ちーさんが書いてる様に 懐かしく感じるねー(o ⌒∇⌒)oo(⌒∇⌒ o)ネェ
大人の男性が、今更 そんな悩みを抱えるなんて…
それまでの付き合いが どれほど 上辺なモノだったか知れますね。ε= (´∞` ) ハァー
悩みに悩んで 瀬見にとっては勿論、鳥海にとって 最良の答えを導き出しなさい!ソコノ(#`・ω・´)σ君ッッ!!!
瀬見、湯田川、高畠と 可愛いパートナーに振り回されているのが、
少し不憫で 少し可笑しくて 少し微笑ましいな♪
そんなに前の作品じゃないのに ちーさんが書いてる様に 懐かしく感じるねー(o ⌒∇⌒)oo(⌒∇⌒ o)ネェ
ちーさま、けいったんさま まとめレスお許しください。
> 何か懐かしいなあ、この飲み会。
そうですね~。
今日 また某待合室で過去作品を見ていたら、『虹(由良)』の時にすでに登場していたのね。
瀬見とあつみばっかりだったけど。
> 悩め悩め。
> かたくなになった仔猫ちゃんは厄介だけど、待ってるハズ。
> 頑張れ、瀬見ちゃん!
ちょっとばかり過去の話題になっちゃったかしら。
まぁ、そんなことがあったみたいよ ってことで(苦笑)
今までになかったパターン。
うーん、そうかしら。
焦らされたやつって誰がいただろう。
大概、我が家の息子は体から堕ちて(堕とされて)いくからなぁ。
> 瀬見にとって 恋愛関係で悩むって 人生初じゃないの?
>
> 大人の男性が、今更 そんな悩みを抱えるなんて…
> それまでの付き合いが どれほど 上辺なモノだったか知れますね。ε= (´∞` ) ハァー
その模様…。
初のことに、今までの手腕が全く意味のないものになってしまって慌てているんでしょうね。
ホントに、どんな人生送って来たんだか…。
さぁ、次の作戦は…と悩むのです。
> そんなに前の作品じゃないのに ちーさんが書いてる様に 懐かしく感じるねー(o ⌒∇⌒)oo(⌒∇⌒ o)ネェ
えぇ、私が覚えていませんもん(←自慢)
そんなに前の…でもないけれど一年前だからね。
(なぜか、『ちょうど一年前に この道を通った夜~♪』という曲が頭を通っていった…)
瀬見も振り回されるようになっちゃうんでしょうかね。
周囲「ありえねぇ… あの瀬見が…Σ( ̄□ ̄;)」
とか言われてそう…。
コメントありがとうございました。
> 何か懐かしいなあ、この飲み会。
そうですね~。
今日 また某待合室で過去作品を見ていたら、『虹(由良)』の時にすでに登場していたのね。
瀬見とあつみばっかりだったけど。
> 悩め悩め。
> かたくなになった仔猫ちゃんは厄介だけど、待ってるハズ。
> 頑張れ、瀬見ちゃん!
ちょっとばかり過去の話題になっちゃったかしら。
まぁ、そんなことがあったみたいよ ってことで(苦笑)
今までになかったパターン。
うーん、そうかしら。
焦らされたやつって誰がいただろう。
大概、我が家の息子は体から堕ちて(堕とされて)いくからなぁ。
> 瀬見にとって 恋愛関係で悩むって 人生初じゃないの?
>
> 大人の男性が、今更 そんな悩みを抱えるなんて…
> それまでの付き合いが どれほど 上辺なモノだったか知れますね。ε= (´∞` ) ハァー
その模様…。
初のことに、今までの手腕が全く意味のないものになってしまって慌てているんでしょうね。
ホントに、どんな人生送って来たんだか…。
さぁ、次の作戦は…と悩むのです。
> そんなに前の作品じゃないのに ちーさんが書いてる様に 懐かしく感じるねー(o ⌒∇⌒)oo(⌒∇⌒ o)ネェ
えぇ、私が覚えていませんもん(←自慢)
そんなに前の…でもないけれど一年前だからね。
(なぜか、『ちょうど一年前に この道を通った夜~♪』という曲が頭を通っていった…)
瀬見も振り回されるようになっちゃうんでしょうかね。
周囲「ありえねぇ… あの瀬見が…Σ( ̄□ ̄;)」
とか言われてそう…。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 同期の桜・・・、いいな。知った面々が顔を合わせるのってなんだかこそばゆい。みんなの恋愛かうまくいきますように。頑張れよー桜ども。
そう。同期なんですよね~。
部署は違っても仲良くできるのです。
過ごしてきた日時が同じだけあるし、事情も良く知るから、吐き出しやすいんでしょうか。
みんな恋人は可愛くてちょっと癖のあるヤツ(笑)
瀬見も頑張っていただきましょう。
コメントありがとうございました。
> 同期の桜・・・、いいな。知った面々が顔を合わせるのってなんだかこそばゆい。みんなの恋愛かうまくいきますように。頑張れよー桜ども。
そう。同期なんですよね~。
部署は違っても仲良くできるのです。
過ごしてきた日時が同じだけあるし、事情も良く知るから、吐き出しやすいんでしょうか。
みんな恋人は可愛くてちょっと癖のあるヤツ(笑)
瀬見も頑張っていただきましょう。
コメントありがとうございました。
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