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BLの丘
木漏れ日 44
2013-09-07-Sat  CATEGORY: 木漏れ日
また視点が変わっているのですが、誰…とはないので、雰囲気で読んでくださいm(__)m

家に帰ると鳥海の姿がなかった。
いつものように八竜は台所にいる母親に問う。
「鳥海は?」
揚げ物でもしているのか。パチパチと油のはねる音が聞こえた。
「森吉くんから電話があったみたいよ~。合コンだっていって出かけてった~」
「「合コン?!」」
思わず八竜と藤里から驚嘆の声が上がる。
単純な飲み会なら藤里と一緒にいることで認めたところはあったが、今回は目的すら違っているだろう。
だいいち、藤里が聞いていない話だ。
逐一報告を義務付けられていた鳥海は、こんなところでも隠し事なく状況を伝えていったようだ。
呑気な母親の声は続く。
「お母さんもね~。昔はいっぱい声をかけられたのに~」
今はまったくだ…と含まされる声に、その誘いがあったほうが問題だろう…とは音にされることはない。
のほほんとした母親の口調は危機感など全く思い浮かばせない。
それも母親が過ごしてきた世界感なのだろうか。
母親が危険な目にあっていない = 鳥海も危険なことはないと思われる思考はどうなのか…。

「森吉って?」
八竜が人物像を聞けば一瞬困った藤里の表情が見えた。
余計な心配はさせたくない思いか…。
でも正直に答えるところは、少なからず危険を予測しているのだ。
「このまえ、鳥海にいろいろとした人…。遊び人って言われているところもあるかも…」
その答えは、八竜を慌てさせるには充分だった。
決して悪い人ではないと言いたくなるのだけれど…。
似たような存在はすぐに八竜の脳裏をかけぬけた。
まさに、瀬見だ。
だからこそ、その後にやってくる悲しみを容易く想像できる。
泣いたやつが、何人いたか…。
「クソッ」
悪態をつく八竜に、すかさず藤里が咎めてきた。
一概に鳥海だけを責められないのだと。

「八竜さんが瀬見さんとのこと、反対したからじゃんっ。鳥海、自分の気持ち、どこに向けていいか分からなくなっちゃったんだよ。僕が八竜さんのそばにいるようになっちゃったから、鳥海は我が儘も言えなくなっちゃったんだ」
いままでは思うことを隠さずに口にして、八竜とささやかな諍いを繰り広げていた。
たったそれだけでも気分が晴れたところがあったのだろうか。
鳥海の気持ちを汲んで最初から認めていればふらつくこともなかったかも。
鳥海が控え目になったのは自分たちのせいだと言う。
昔のように駄々もこねなくなった。
いい子になった…。そんな単純なことではないのだと…。

少しでも思いを吐露して聞いてくれる人がいたなら、また感情の向け方は変わったのだろうか。
反論したいが、強い口調で言われるとそうなのかと返す言葉を自重した。
我が儘というより、感情の捌け口になれなかった不甲斐なさがはびこる。
なんでも不満を口にしていたような過去の鳥海は、最近見なかったと改めて気付かされた。
藤里に負担をかけると思うから、どこかで感情を押し込めていたのだろう。
家族と同じように人を気遣えるのは悪いことではないが。
成長をした…と喜べる状況ではない。
そばにいるからこそ、藤里は心配していた。
いつか、自棄になって自分を見失うのではないかと…。

同じ歳で見ているところが多いだけに、そういった思いは、気付きやすいのか。

八竜だって瀬見の人の良さは充分理解しているつもりだが、何せ、過去が悪すぎるのだ。
藤里は上辺だけの瀬見を見て誤解しているのだと言いたい。
鳥海の気持ちが傾きかけていることも承知しているから、友達として応援したくなるのも分かるのだが…。
自分たちが幸せの枠に収まれたように…、片割れにも同じことを望む。
人を思うことができる藤里の考えは聞いてあげたい。

鳥海が心の奥底で誰を頼りたいのかを友人だからこそ悟れているのだろう。
家族にも頼れなくなって、ますます孤独になっていく心情も。
言われなければ分からないほど、家族の間にある絆は強くても見えない。
その隙間を改めて晒されて気付かされる。
一人暮らしの孤独を見ていた藤里だから鳥海が揺れ動くのもすぐに察することができたのか。

「瀬見さんに連絡してよっ。あの人がそれでも動かなかったら僕も八竜さんと一緒に瀬見さんを罵るからっ」
鳥海が誰を求めるのか。
厳しい言葉は本音だ。
八竜が苦言を吐くよりも、もっと辛辣な言葉で責めたてるのだろうとは、少なからず見てきた性格で想像できる。
隠し立てをしない性格だからこそ、疑うものなどなかった。
先日藤里が直接会った人は、何を藤里に告げて、どんな期待を植え付けたのか。
たった短い間でも瀬見の良さを見出している。
更に何を信じてくれと訴えたのか。
たった一度だけのチャンスだと八竜も頷いた。
たぶんこれは、自分たちの友情も左右することになる。
瀬見がその程度の存在だと思わされる行動に出られたら、ここで見限るだろう。

藤里に押される形だったが、こんなことでもなければ、八竜は瀬見を一人の"男"として見ることはなかったと思う。
いつだって軽い存在で、他人事のようにやることなすことを見てきた。
つかず離れず、深入りもしなかった。
藤里がいたから、もう一度その人となりを見つめ返せる。

瀬見を呼び出すように電話をしては、鳥海が今どんな状況にあるのかを伝えると、すぐにも緊張が走ったのが知れた。
『鳥海…。飲んだら眠くなるよな…』
鳥海のことを良く見てきたことを伺わせる。
それは確認か…。
八竜も改めて現実を思い知らされる。

森吉という人間がどういった人かはしれないが、その場でその雰囲気を簡単に掴む人だとは、過去に見せられた写真だけでも悟ることができた。
瀬見に頼るのはなんとも悔しくても…。
瀬見に迎えに行けと煽ったのは藤里だ。
電話を切るなり、「八竜さんっ、僕たちも行くよっ」と怒鳴られる。
信頼していたとしても、やっぱり不安があるのは当然なのだろう。
全てを見届けるために動く。
今降りたばかりの車にまた乗るのだと言われたら従うしかなくなった。

八竜の吐息は心配と、弟を思ってくれることに対しての感謝か…。
藤里に逆らうことができないのは、惚れた弱みだとは認めたくないけれど、何より弟を思ってくれる全てが感じられるから受け入れられるもので。
鳥海を思うことも隠さなくていいと告げられているようでもある。
普通なら…、「いい加減にしろ」と言われそうだ。
藤里を大事にするのと同じように、鳥海も護りたい。
そこのやり取りを藤里は全部認めてくれていた。
だからこそ、繕うことがなくて、ありのままの自分でいられて…。安心できるのだと思う。
…こんなひとは、過去に、いなかったな…。
何故惚れたのか、居心地の良さで実感できた。

その居心地の良さは、鳥海も瀬見に対して感じたのだろうか。
そして"恋愛"というものに発展したのか…。
まだまだ子供だと思っていたのに。
そろそろ、幼い頃から繋いだ手を、誰かに委ねる時が来たのだと藤里に気付かされた。
鳥海が望む人のもとに…。
暗くて脅えた道は、明かりに照らされることで堂々と進めるようになる。

いつか…、やがて…。
覚悟していた日は、意外とあっけなく、あっという間に訪れた気分だ。

…鳥海が泣いたら絶対に許さない…。
そう思いながら、でも、泣かれても、『瀬見がいい』と言われたら、許すのだろう。

同じ思いを藤里にはさせないと誓いながら、瀬見にも同じことを求めた。

土下座でもなんでもしろよ。
その時瀬見の誠実さを認めてやるから…。

鳥海と瀬見の間を認めてやるから…。

握ったハンドルに、そっと触れてくる手の温かさがある。
「八竜さん…」
藤里の囁きは、自分がずっと隣にいるのだと告げてくるもので、鳥海を失うのではなく、飛び立たせるものなのだと教えてきた。

…あぁ、本当に俺は、良い伴侶を得たよ…。
改めて気付かされる。
八竜のことも鳥海のことも冷静に見てくれる人だ。

「帰りは藤里の部屋に行くか…」
それが何を意味するものか。
全てが丸く収まって、後ろめたさもなく満喫できる時間が訪れてくれることを望む。
その確認のために、アクセルを踏む足にも気合が入った。

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余談だからとりあえずupしとく…。
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