またまたリクエスト返答編です。
こちらもちょっとした小話にしてみました。
******
飯塚福智(いいづか ふくち)は、会社帰りに家の近くのパン屋に立ち寄った。
夕刻ともなれば、腹を空かせた学生で賑わい、その時間帯を過ぎるとタイムセールが始まる。
店が閉店されるまでの僅かな時間。
残り少ない商品で商売をするのは職人気質の威厳が許さないのか、ここの主は店を閉めようとしてしまう。
そのわずかな時間に、福智は潜り込むのだ。
ドアを開けると来店を告げる鈴が鳴り響いた。
すでに外の看板は電気が落とされているから、来るのは常連客だと中に居る人も理解している。
「いらっしゃ…って、福智さんかよ…」
愛想の良い笑みも、福智を視界に入れた途端、見慣れたものに変わった。
図体ばかり大きい、元バスケット選手は、でも彼処に幼さが抜け切れていなくて、思わず笑みが浮かんでしまう。
店先にいるのは穂波だけ。
ここの主たちは、翌朝の仕込みなのか後片づけなのか、奥に引っ込んで物音をたてているようだ。
「穂波(ほなみ)~ぃ。おまえ、仕事する気、あんの?筑穂、聞いたら泣くぞ」
福智は極端に変わる次男に苦言を呈する。
福智の恋人筑穂の弟が、大学進学を拒否してパン屋になると言いきってから数カ月。
ずっとアルバイト(修行の身はタダ働きらしいが)している店は、たかが高校生にして将来を決めてしまったお相手のご実家だ。
一生懸命に取り組む姿に、頑なだった兄 筑穂の気持ちも諦めの境地に達したのか。
何かにつけて、守りに入る兄弟は、少しずつ離れ始めた。
そのことに一番安堵していたのは福智自身だったけれど。
なにも筑穂だけが特別ではない、と常々思う。
筑穂が大事にする家族があるから、その姿を見て、その絆の深さに惚れたのだといつも思わされる。
同じように、自分も含めてもらいたいと…。
家族が集まったとして、だけど、福智が絶対に譲れないものとは、間違いなく筑穂自身だろう。
常に守ることに使命をかけてきた人。
他のふたりは守られる中で生きている。
筑穂だけは、無防備のままだ。
それを守り抜いていきたい。
口調を崩した穂波を見やれば、自分の咎められるべき態度を感じとるのか、一応(←強調)「残り、少ないですけど…」と、家族の好きそうな総菜パンをトレーに乗せていく。
福智が選んでいるのではなくて、穂波が選んでいるのは、食べる家族の好みを知っているからだ。
悔しいが筑穂の喜ぶ顔を想像したら文句も言えない。
…ぜってー、こいつ、永遠のライバルだわ…。
兄弟に嫉妬して、どうする…と思いながら、しかし、身を寄せ合って生きてきた人たちの間に入るのは一筋縄ではいかなかった。
福智も、『筑穂が大事にした全部を見守る』…、そう思うから、穂波の過ぎるくらいの行動も大目に見てやれる。
自分ばかりが筑穂を好き過ぎる気がするが、肝心なところで弟は離れていき、筑穂もきちんと自分に目を向けてくれるのだから、それで満足しようと思っている。
嫌でも離れていく年齢になるだろう。
穂波が袋詰めしてくれている時に、新しい客を告げる音が鳴り響いた。
こんな時間に…?
穂波はもちろん、福智も振り返ってしまう。
スーツを着込んだ年上の男…きっと30代の後半か…は、まっすぐにレジカウンターまで寄って来た。
「遅くなって悪かった。頼んでおいたブレッド、もらえるかな」
仕草の全てがスマートな男は、急いでいるようで財布をすでに取り出している。
会話だけですぐに常連客だと分かった福智は、場所を譲ろうと横に体をズラした。
穂波が首を傾げるのと同時に、奥に引っ込んでいた穂波の恋人…この店の跡継ぎ…が顔を出してくる。
「岡崎さん、いつもありがとうございます。これ、夕方焼いたやつだから、明日の朝はちょっと焼く程度で香ばしくなると思いますよ」
切られていない食パンの大きいサイズを、やっぱり大きい袋に入れてすぐに会計処理を済ませた。
僅かに言葉を交わしただけで、男は魅惑的な笑顔を残して去ってしまったが…。
残された人間は呆然と、颯爽とした男を目で追いかけていた。
「う、浮羽(うきは)さん…?」
明らかな動揺の声は、確実に嫉妬心を表していた。
まだまだ世間を知らない子供には、好きな人も奪われるような恐怖心が湧き起こったって仕方がない。
自信に満ち溢れた姿は、強烈なインパクトとして、福智にも宿ってしまったのだから、穂波が不安になるのも当然だと思った。
それを浮羽は笑顔で吹き飛ばしてくれるが。
「ただのお客さんだよ。ホナ、心配しないで」
今更浮気の心配はない…ということだろうか。
客商売をしていれば多少のナニカはありそうだが、思いあう気持ちがあれば、眼中にも入らないと相手に伝えるところがちょっとうらやましかった。
筑穂は無意識に懐いていくタイプだ。気が気ではない…。
にほんブログ村
ポチっとしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
時間切れ…。後半に続く…。
こちらもちょっとした小話にしてみました。
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飯塚福智(いいづか ふくち)は、会社帰りに家の近くのパン屋に立ち寄った。
夕刻ともなれば、腹を空かせた学生で賑わい、その時間帯を過ぎるとタイムセールが始まる。
店が閉店されるまでの僅かな時間。
残り少ない商品で商売をするのは職人気質の威厳が許さないのか、ここの主は店を閉めようとしてしまう。
そのわずかな時間に、福智は潜り込むのだ。
ドアを開けると来店を告げる鈴が鳴り響いた。
すでに外の看板は電気が落とされているから、来るのは常連客だと中に居る人も理解している。
「いらっしゃ…って、福智さんかよ…」
愛想の良い笑みも、福智を視界に入れた途端、見慣れたものに変わった。
図体ばかり大きい、元バスケット選手は、でも彼処に幼さが抜け切れていなくて、思わず笑みが浮かんでしまう。
店先にいるのは穂波だけ。
ここの主たちは、翌朝の仕込みなのか後片づけなのか、奥に引っ込んで物音をたてているようだ。
「穂波(ほなみ)~ぃ。おまえ、仕事する気、あんの?筑穂、聞いたら泣くぞ」
福智は極端に変わる次男に苦言を呈する。
福智の恋人筑穂の弟が、大学進学を拒否してパン屋になると言いきってから数カ月。
ずっとアルバイト(修行の身はタダ働きらしいが)している店は、たかが高校生にして将来を決めてしまったお相手のご実家だ。
一生懸命に取り組む姿に、頑なだった兄 筑穂の気持ちも諦めの境地に達したのか。
何かにつけて、守りに入る兄弟は、少しずつ離れ始めた。
そのことに一番安堵していたのは福智自身だったけれど。
なにも筑穂だけが特別ではない、と常々思う。
筑穂が大事にする家族があるから、その姿を見て、その絆の深さに惚れたのだといつも思わされる。
同じように、自分も含めてもらいたいと…。
家族が集まったとして、だけど、福智が絶対に譲れないものとは、間違いなく筑穂自身だろう。
常に守ることに使命をかけてきた人。
他のふたりは守られる中で生きている。
筑穂だけは、無防備のままだ。
それを守り抜いていきたい。
口調を崩した穂波を見やれば、自分の咎められるべき態度を感じとるのか、一応(←強調)「残り、少ないですけど…」と、家族の好きそうな総菜パンをトレーに乗せていく。
福智が選んでいるのではなくて、穂波が選んでいるのは、食べる家族の好みを知っているからだ。
悔しいが筑穂の喜ぶ顔を想像したら文句も言えない。
…ぜってー、こいつ、永遠のライバルだわ…。
兄弟に嫉妬して、どうする…と思いながら、しかし、身を寄せ合って生きてきた人たちの間に入るのは一筋縄ではいかなかった。
福智も、『筑穂が大事にした全部を見守る』…、そう思うから、穂波の過ぎるくらいの行動も大目に見てやれる。
自分ばかりが筑穂を好き過ぎる気がするが、肝心なところで弟は離れていき、筑穂もきちんと自分に目を向けてくれるのだから、それで満足しようと思っている。
嫌でも離れていく年齢になるだろう。
穂波が袋詰めしてくれている時に、新しい客を告げる音が鳴り響いた。
こんな時間に…?
穂波はもちろん、福智も振り返ってしまう。
スーツを着込んだ年上の男…きっと30代の後半か…は、まっすぐにレジカウンターまで寄って来た。
「遅くなって悪かった。頼んでおいたブレッド、もらえるかな」
仕草の全てがスマートな男は、急いでいるようで財布をすでに取り出している。
会話だけですぐに常連客だと分かった福智は、場所を譲ろうと横に体をズラした。
穂波が首を傾げるのと同時に、奥に引っ込んでいた穂波の恋人…この店の跡継ぎ…が顔を出してくる。
「岡崎さん、いつもありがとうございます。これ、夕方焼いたやつだから、明日の朝はちょっと焼く程度で香ばしくなると思いますよ」
切られていない食パンの大きいサイズを、やっぱり大きい袋に入れてすぐに会計処理を済ませた。
僅かに言葉を交わしただけで、男は魅惑的な笑顔を残して去ってしまったが…。
残された人間は呆然と、颯爽とした男を目で追いかけていた。
「う、浮羽(うきは)さん…?」
明らかな動揺の声は、確実に嫉妬心を表していた。
まだまだ世間を知らない子供には、好きな人も奪われるような恐怖心が湧き起こったって仕方がない。
自信に満ち溢れた姿は、強烈なインパクトとして、福智にも宿ってしまったのだから、穂波が不安になるのも当然だと思った。
それを浮羽は笑顔で吹き飛ばしてくれるが。
「ただのお客さんだよ。ホナ、心配しないで」
今更浮気の心配はない…ということだろうか。
客商売をしていれば多少のナニカはありそうだが、思いあう気持ちがあれば、眼中にも入らないと相手に伝えるところがちょっとうらやましかった。
筑穂は無意識に懐いていくタイプだ。気が気ではない…。
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時間切れ…。後半に続く…。
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久々のフクちゃん!
で、で、ウッキーにホナ。
そしてそして・・・吉良さん?
うわ、パン屋さんに来るんだね。
あ、嫁に言われて来るのかな?あそこ、かかあ天下(笑)
いや、足繁く通ってるのを知り焼きもち焼くとか?
きえちん、ありがとう。
後半、楽しみにしてます。
後半は、筑穂兄ちゃん出るかな?
あの中学生達も・・・ふふふ。
で、で、ウッキーにホナ。
そしてそして・・・吉良さん?
うわ、パン屋さんに来るんだね。
あ、嫁に言われて来るのかな?あそこ、かかあ天下(笑)
いや、足繁く通ってるのを知り焼きもち焼くとか?
きえちん、ありがとう。
後半、楽しみにしてます。
後半は、筑穂兄ちゃん出るかな?
あの中学生達も・・・ふふふ。
けいったん | URL | 2013-10-06-Sun 15:54 [編集]
岡崎…(*。*) オヨ?
Σ(゚Д゚ノ)ノオオォッ、吉良ですか♪
千種に 「帰りに寄って来てね♪」と、お使いを頼まれたんだよ、きっと!(笑)
何しろ この夫婦は かかあ天下でしたもんね_(゚ω^* )b♪
さて 今作品のメインとなる 筑穂と福知夫婦はは、今は どんな感じなのでしょうか?
シッカリ者だけど淋しがり屋の嫁と 深い絆に結ばれた弟たちに 嫉妬心を持ちながらも 寛容になろうと 必死に頑張ってるダンナ
ムフッ、中々 良いではありませんか!(*´・ω-)b ネッ!
今日はひなちゃん、いえ 日生くんの和紀との休日も 見れて 幸せな一日です。
すーさん、( ≧▽≦)b Good Job ですぅ~♪
土・日曜日は、まとまった一人の時間が取れなくて ゆっくりBLの世界に浸れないのが 辛い。+゚(pωq)゚+。エーン
Σ(゚Д゚ノ)ノオオォッ、吉良ですか♪
千種に 「帰りに寄って来てね♪」と、お使いを頼まれたんだよ、きっと!(笑)
何しろ この夫婦は かかあ天下でしたもんね_(゚ω^* )b♪
さて 今作品のメインとなる 筑穂と福知夫婦はは、今は どんな感じなのでしょうか?
シッカリ者だけど淋しがり屋の嫁と 深い絆に結ばれた弟たちに 嫉妬心を持ちながらも 寛容になろうと 必死に頑張ってるダンナ
ムフッ、中々 良いではありませんか!(*´・ω-)b ネッ!
今日は
すーさん、( ≧▽≦)b Good Job ですぅ~♪
土・日曜日は、まとまった一人の時間が取れなくて ゆっくりBLの世界に浸れないのが 辛い。+゚(pωq)゚+。エーン
みなさま、こんにちは~。
私も土日祝と、動きが制限される立場にあります。
もうちっと書きたかったんだけれどね…
千種と吉良なんて忘れていたけれど(←)ちーさまが思い出させてくれました。
腐レンジャーの皆さまも常日頃大変なご様子。
見レンジャーになってもおかしくないです。
私も精一杯…。
どうぞ、ご無理だけはなさらずに。
適当におとずれてくださいね。
私もまさか、こんなに長くなるとは…。
思っていることと書くのはつくづく違うのですね。
少しでも読者様に伝わったらいいです。
…慌てるとろくなことないし…。
私こそ、また来ますね~。
コメントありがとうございました。
私も土日祝と、動きが制限される立場にあります。
もうちっと書きたかったんだけれどね…
千種と吉良なんて忘れていたけれど(←)ちーさまが思い出させてくれました。
腐レンジャーの皆さまも常日頃大変なご様子。
見レンジャーになってもおかしくないです。
私も精一杯…。
どうぞ、ご無理だけはなさらずに。
適当におとずれてくださいね。
私もまさか、こんなに長くなるとは…。
思っていることと書くのはつくづく違うのですね。
少しでも読者様に伝わったらいいです。
…慌てるとろくなことないし…。
私こそ、また来ますね~。
コメントありがとうございました。
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