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BLの丘
淋しい夜に泣く声 94
2009-11-25-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
眠気など吹き飛んでしまった英人は、日野の手前、一度榛名から手を離した。名残惜しかったのはあるが、二人だけの空間ではない。
とりあえず、散らかった残骸を片付けてしまうからと言い訳を立てて、日野と共にリビングを片した。
榛名には、英人からではなく日野から問いたい気持ちもあるのだろうが、英人が後で話しをすると雰囲気を見せれば気遣ってくれているのか、特に日野を責めるような態度は見せなかった。
片付ける間に榛名は残した仕事を書斎でやりとりしていたようだ。全てのドアが開けっぱなしで、会話の一つも聞き逃さないとする点には感心というより呆れるしかない。
一応榛名には、日野に危害が及ばないようにこの部屋に連れてきたのが英人の意思であると英人と日野から訴えておいた。それらを踏まえても日野にキツク当たるのは筋違いと判断したようだった。
全てを日野が来る前の状態に戻したところで、日野はようやく任務を終えたように、「帰る」と言いだした。英人と榛名が玄関まで見送りに出た時、日野は榛名に面と向かって立った。
「旦那さぁ…。少なくても今日だけはこいつ、すっげー甘やかしてやって。でないと、変な疑いは持つし、そのうち仕事でも重大なミスを犯しそうだよ。全然余裕ないの。旦那がどんな気持ちか言い聞かせてやってよ」
榛名が意味を理解しようと考え言葉を返せずにいるうちに、日野はさっさと玄関を出ていってしまった。
余計なことは言わないと言ったはずの日野なのに、英人にしてみれば最も告げられたくない内容だった。もともと榛名を丸めこむ術は英人にないが、ここまでの経緯に少しばかりの言い訳をこれまで考えていた。それが今の日野の言葉で全てが泡のように消えた。今更言い訳の一つも浮かばない状況に追いやられた。
日野は明るく「じゃあね」なんて帰っていってしまったけど、残されたこの剣呑とした空気はどうしたらいいんだろう。

「英人、どういうことだ?」
日野が出て行くと同時に榛名の低い声がした。帰って来てからずっと溜めていた不満が噴出しているかのようだった。
いくら日野に信頼をおいていたとしても、英人と共に過ごした時間に嫉妬しているのは明らかだ。
そこに加えて日野が残した言葉は昨夜に何かあったと榛名に捉えられてもおかしくないようなものだ。
問い詰められるのは覚悟していた。だが日野の発言は予想外だったし、相変わらずどう順序だてて榛名に説明したらいいのかは英人の頭では組み立てることができない。

黙ってしまった英人に、榛名は唐突に英人の来ていたシャツのボタンを外した。
「あ…」
素早く胸元が肌蹴るほどまで広げられ、突然触れられた素肌に英人の肌がビクッとなる。
「何の間違いもないなら全て見せられるだろう?」
玄関脇にあるシューズクローゼットに背中を押し付けられ、玄関ドアと榛名のついた片腕に挟まれ、英人は逃げ道を失った。榛名の行動は素早く、彼の瞳を見つめ返した隙に肩が露わになる。

まだ玄関だ。バスルームまでは少しの距離がある。
帰国したばかりの榛名が身を洗いたいのも知っているし、英人だって榛名の手に堕ちる前に身繕いくらいしたい。
だけど今のこの状況はバスルームに移動する余裕すら持たせていなかった。
二人の間には『疑念』という薄壁が張ってしまった。榛名は英人と日野の関係を疑り出したし、英人は疑られたことで嫌われるのではないかと不安が増していた。
僅かにでも出来てしまった溝に大きな戸惑いを見せたのは英人の方だった。
心の奥底から榛名に縋りたいと思っている気持ちとは裏腹に、この場で心身ともに剥き出しにされることに脅えてしまった。
単純に英人を責め立てる榛名の態度に脅えたことと、この場で裸にされることに抵抗を覚えた上での反応だったのだが、一瞬でも拒むことを見せた態度は当然榛名に日野との間違いがあったと思わせた。
まるで榛名がいない間にとりあえず日野が宥めておいたという意味に榛名は受け取っている。

榛名が英人をこの場で脱がしてしまおうとするのは、確認行為の一つかもしれない。隠すことは何一つないけれど、洗い流していない身体はどこか汚れたような感覚のあった英人には抵抗のあるものだった。
そして何よりも、疑われたことが悲しかったし、『玄関』という場所で非日常の行動を起こそうとする榛名に恐怖心があった。

榛名の手を止めてしまったことに、榛名の怒りが見えた気がした。
「俺は英人が過ごしてきた全ての過去を水に流してやるくらいの度量は持ち合わせていると思っている。だが、この先は無理だ。たとえどれだけおまえが頼る人物でもおまえが肌を触れ合わせるのは赦せない」

他の誰とも肌を合わせることはない、と英人は言いたかった。だけど喉の奥が張り付いたようになって声の一つも発せなかった。
悪循環だ…。なにひとつ上手くいかない…。
英人の指先が動くことに抵抗と捉えられ、声を出せなければ肯定していると思われる。
あれほど触れたいと思っていた肌が目の前にあるのに、どうして素直に縋ることができないのだろう…。

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