フランスから戻って半年が過ぎた。神戸は正式に英人を雇用すると発表した。
時の流れの速さを思い知らされる。榛名と出会ってすでに1年が経過していた。
榛名と出会ったばかりの頃、榛名グループ内にある企業に就職させようとしていた榛名の思惑とは変わってしまったが、むしろ榛名とプライベートな関係を築いてしまった現在は神戸に引き取られて良かったような気がする。
オフィス内で過ごすよりも、撮影スタジオや屋外ロケなどに時間を費やす方が多かった。神戸が故意的に英人を外に連れ出しているのは英人でも理解できた。
デスク上で作り上げる世界は過去の英人でも学んでいるが、外の世界は経験が浅いからそれを見せたがっている。
榛名も海外出張などが重なって、この2カ月ほどはすれ違いばかりだ。
一人で眠るベッドの広さに涙を流したこともあったが、榛名の声を聞かなかった日は一日もなかった。
この一週間、榛名はまたニューヨークに出向いていた。
海外に行くたびに榛名は「英人のスケジュールの都合をつけろ」と神戸に迫っていたが、神戸が譲ってくれたことは一度もない。
仕事をするという意味では、榛名の無茶が聞き入れられるはずがないのは分かっていても、どこかで期待する英人自身がいかに甘えているのかを思い知らされた。
神戸は仕事をする上では榛名にも容赦しなかった。一歩間違えば権力で叩き潰される立場にあっても、そこはこれまでに築きあげた信頼関係があるのだろう。強気な姿勢は崩れることがない。もちろん榛名だって理不尽な態度で神戸を追い込むことなどなかった。
神戸のスケジュールは数カ月先まで埋まっている。
芸能人などを相手にして、そのスキャンダルなどで予定変更させられるなど突発的に起こることにも対処しなければならない。
のんびり榛名の都合に合わせて英人に長期休暇を与えてやる余裕などないと言いたげだった。
一人淋しく過ごす夜がどうにもつまらなくて、英人は日野の勤めるバーに足を向けた。
明後日には榛名が戻ってくる予定だが、前回の海外出張の時も天候不順で帰国が一日伸びたことを思えば確実に会える保証などない。
カウンターに座りアルコールの強いカクテルを頼んでみたものの、日野は作ってくれずにすっぱいジュースのようなものを出された。
「客の注文に応えてくれないの?」
「そんなもの飲ませて帰したら俺が殺されるから」
皮肉を混ぜて日野に上目遣いで訴えてみればサラッと小声で返されてしまう。
以前一度、榛名の出張中に英人が「酔いたい」と言うのに任せて飲ませたらあっという間に眠りこけてしまい、日野が自宅に連れて帰ったことがあった。それが榛名にばれた時に激しい怒りを買った。
タクシーに乗せても家まで無事にたどり着けない状況になられては大変だと日野は酔わせてはくれないのだ。
「もう二度とこの店に来ない」
頬を膨らませて唇を尖らせれば、ククッと日野に笑われる。
「お好きにどうぞ。だけど他の店に行けば旦那に益々怒られて外出禁止令でも出されるよ」
日野は榛名の性格を良く理解していた。それにどういうわけか二人には見えない繋がりがある。
アヤシイ意味ではなくて、日野も英人を大事にしてくれているからいらない報告までされてしまう。
他の店に出入りする気はもちろんないが、この辺りは情報の流れが早いのでそんな行動を起こせば日野の耳に入るのは時間の問題だし、それを榛名に伝えるのは日野の義務みたいなもので、日野は暗に英人の行動範囲を狭めるだけだと伝えた。
「もうっ!なんなのっ、ふたりして。いつまでも子供じゃないんだからさ」
「子供よりも悪いよ。あんた、危機感ないじゃん。旦那と一緒になってから余計に無防備になった。常に守られているとどっかで感じているんだろ?傍に居てくれる時はいいけど、こうして一人でいる時は半端なく狙われやすいって覚えたほうがいい」
言葉の端々に危険を感じさせられて英人のほうが縮こまる。
笑いながら冗談のように日野は話したがその言葉の深さは英人にもよく伝わった。
こうしてただジュースのような酒を煽っているだけでも声をかけてくる客は後を絶たない。
さりげなくかわし、日野も手伝ってくれるからこの場に居られるが、彼の力添えがなければ飢えた狼の餌食もいいところだ。
中には強引に腕を引っ張るやつもいる。
全てを理解すれば強気だった気持ちも萎えていくばかりだった。
「ごめん…」
「何か悩んでいること、あるんだろ?」
その気はなかったが、改めて日野に言葉にされたことで、わだかまっていた心の奥底が蠢いた。
自分は榛名と一緒に居たい。でも仕事もしたい。埋められない時間差に余裕をなくしていた。
常に一緒にいることは無理だと理解していても離れる時間がながくなるほど自分に自信がなくなる。
人肌が恋しい…。
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時の流れの速さを思い知らされる。榛名と出会ってすでに1年が経過していた。
榛名と出会ったばかりの頃、榛名グループ内にある企業に就職させようとしていた榛名の思惑とは変わってしまったが、むしろ榛名とプライベートな関係を築いてしまった現在は神戸に引き取られて良かったような気がする。
オフィス内で過ごすよりも、撮影スタジオや屋外ロケなどに時間を費やす方が多かった。神戸が故意的に英人を外に連れ出しているのは英人でも理解できた。
デスク上で作り上げる世界は過去の英人でも学んでいるが、外の世界は経験が浅いからそれを見せたがっている。
榛名も海外出張などが重なって、この2カ月ほどはすれ違いばかりだ。
一人で眠るベッドの広さに涙を流したこともあったが、榛名の声を聞かなかった日は一日もなかった。
この一週間、榛名はまたニューヨークに出向いていた。
海外に行くたびに榛名は「英人のスケジュールの都合をつけろ」と神戸に迫っていたが、神戸が譲ってくれたことは一度もない。
仕事をするという意味では、榛名の無茶が聞き入れられるはずがないのは分かっていても、どこかで期待する英人自身がいかに甘えているのかを思い知らされた。
神戸は仕事をする上では榛名にも容赦しなかった。一歩間違えば権力で叩き潰される立場にあっても、そこはこれまでに築きあげた信頼関係があるのだろう。強気な姿勢は崩れることがない。もちろん榛名だって理不尽な態度で神戸を追い込むことなどなかった。
神戸のスケジュールは数カ月先まで埋まっている。
芸能人などを相手にして、そのスキャンダルなどで予定変更させられるなど突発的に起こることにも対処しなければならない。
のんびり榛名の都合に合わせて英人に長期休暇を与えてやる余裕などないと言いたげだった。
一人淋しく過ごす夜がどうにもつまらなくて、英人は日野の勤めるバーに足を向けた。
明後日には榛名が戻ってくる予定だが、前回の海外出張の時も天候不順で帰国が一日伸びたことを思えば確実に会える保証などない。
カウンターに座りアルコールの強いカクテルを頼んでみたものの、日野は作ってくれずにすっぱいジュースのようなものを出された。
「客の注文に応えてくれないの?」
「そんなもの飲ませて帰したら俺が殺されるから」
皮肉を混ぜて日野に上目遣いで訴えてみればサラッと小声で返されてしまう。
以前一度、榛名の出張中に英人が「酔いたい」と言うのに任せて飲ませたらあっという間に眠りこけてしまい、日野が自宅に連れて帰ったことがあった。それが榛名にばれた時に激しい怒りを買った。
タクシーに乗せても家まで無事にたどり着けない状況になられては大変だと日野は酔わせてはくれないのだ。
「もう二度とこの店に来ない」
頬を膨らませて唇を尖らせれば、ククッと日野に笑われる。
「お好きにどうぞ。だけど他の店に行けば旦那に益々怒られて外出禁止令でも出されるよ」
日野は榛名の性格を良く理解していた。それにどういうわけか二人には見えない繋がりがある。
アヤシイ意味ではなくて、日野も英人を大事にしてくれているからいらない報告までされてしまう。
他の店に出入りする気はもちろんないが、この辺りは情報の流れが早いのでそんな行動を起こせば日野の耳に入るのは時間の問題だし、それを榛名に伝えるのは日野の義務みたいなもので、日野は暗に英人の行動範囲を狭めるだけだと伝えた。
「もうっ!なんなのっ、ふたりして。いつまでも子供じゃないんだからさ」
「子供よりも悪いよ。あんた、危機感ないじゃん。旦那と一緒になってから余計に無防備になった。常に守られているとどっかで感じているんだろ?傍に居てくれる時はいいけど、こうして一人でいる時は半端なく狙われやすいって覚えたほうがいい」
言葉の端々に危険を感じさせられて英人のほうが縮こまる。
笑いながら冗談のように日野は話したがその言葉の深さは英人にもよく伝わった。
こうしてただジュースのような酒を煽っているだけでも声をかけてくる客は後を絶たない。
さりげなくかわし、日野も手伝ってくれるからこの場に居られるが、彼の力添えがなければ飢えた狼の餌食もいいところだ。
中には強引に腕を引っ張るやつもいる。
全てを理解すれば強気だった気持ちも萎えていくばかりだった。
「ごめん…」
「何か悩んでいること、あるんだろ?」
その気はなかったが、改めて日野に言葉にされたことで、わだかまっていた心の奥底が蠢いた。
自分は榛名と一緒に居たい。でも仕事もしたい。埋められない時間差に余裕をなくしていた。
常に一緒にいることは無理だと理解していても離れる時間がながくなるほど自分に自信がなくなる。
人肌が恋しい…。
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満ち足りてくればまた違った悩みが出てくるというのは人の常というもの。
それだけ、英人が充実して仕事をして、千城さんに愛されまくっているのでしょう。
けど、ここへ来て人肌が恋しくなっちゃったんですね。
仕事も恋人も、か。
難しいですね。
いくら気持ちが通じ合っているといってもすれ違いばかりの生活はきついものですからね。
心も身体も淋しい・・・。
久しぶりの日野さんの登場に拍手!
千城さんともしっかり通じ合っていい関係のようですね。英人には「よけいなこと」も伝わってしまうでしょうが、無防備で危ない英人君には必要だと思いますよ。
p.s.
プライベートがいろいろとご多忙とのこと
待っている人がいると思うとせっせと期待に添えないと、と思われるかもしれませんが
末永くどこまでも着いて行きたい!と思っていますから、あまり無理せず更新してくださいね。
それだけ、英人が充実して仕事をして、千城さんに愛されまくっているのでしょう。
けど、ここへ来て人肌が恋しくなっちゃったんですね。
仕事も恋人も、か。
難しいですね。
いくら気持ちが通じ合っているといってもすれ違いばかりの生活はきついものですからね。
心も身体も淋しい・・・。
久しぶりの日野さんの登場に拍手!
千城さんともしっかり通じ合っていい関係のようですね。英人には「よけいなこと」も伝わってしまうでしょうが、無防備で危ない英人君には必要だと思いますよ。
p.s.
プライベートがいろいろとご多忙とのこと
待っている人がいると思うとせっせと期待に添えないと、と思われるかもしれませんが
末永くどこまでも着いて行きたい!と思っていますから、あまり無理せず更新してくださいね。
甲斐様
こんばんは。
神戸は冷たい人になっちゃっていますかね~。
> 満ち足りてくればまた違った悩みが出てくるというのは人の常というもの。
> それだけ、英人が充実して仕事をして、千城さんに愛されまくっているのでしょう。
なかなかうまくいかないこの子たちです。
英人は愛されすぎちゃってちょっと離れただけで淋しがってしまう…
保育園に預けられた子供のようです。
> けど、ここへ来て人肌が恋しくなっちゃったんですね。
ちょっとの期間が空いてこの状態ではパパはどんだけ心配になることやら…。
> 久しぶりの日野さんの登場に拍手!
> 千城さんともしっかり通じ合っていい関係のようですね。英人には「よけいなこと」も伝わってしまうでしょうが、無防備で危ない英人君には必要だと思いますよ。
いつか日野を出したいと思っていながらこのタイミングになりました。
(そして伸びる最終回…)
千城と神戸のような繋がりを英人は求めているので、日野と英人でくっつけようかなって思っています。
榛名のいないときに何が起こることやら…。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
神戸は冷たい人になっちゃっていますかね~。
> 満ち足りてくればまた違った悩みが出てくるというのは人の常というもの。
> それだけ、英人が充実して仕事をして、千城さんに愛されまくっているのでしょう。
なかなかうまくいかないこの子たちです。
英人は愛されすぎちゃってちょっと離れただけで淋しがってしまう…
保育園に預けられた子供のようです。
> けど、ここへ来て人肌が恋しくなっちゃったんですね。
ちょっとの期間が空いてこの状態ではパパはどんだけ心配になることやら…。
> 久しぶりの日野さんの登場に拍手!
> 千城さんともしっかり通じ合っていい関係のようですね。英人には「よけいなこと」も伝わってしまうでしょうが、無防備で危ない英人君には必要だと思いますよ。
いつか日野を出したいと思っていながらこのタイミングになりました。
(そして伸びる最終回…)
千城と神戸のような繋がりを英人は求めているので、日野と英人でくっつけようかなって思っています。
榛名のいないときに何が起こることやら…。
コメントありがとうございました。
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