榛名からもらったものはあまりにもたくさんある。
だけど一番の喜びは、たぶんこの指輪だろう。
艶消しを施したプラチナの指輪は中央に英人と千城のイニシャルを象った崩し文字が刻まれた。ファッション性を生かした作りだったが派手さはない。光の加減で崩し文字の部分が陰影をつけるようにし、決して他にはない、世界でたった一つのものだった。
「虫よけかぁ?またいいモン買ってもらったなぁ」
オフィス内で近寄ってきた塚越が目敏く英人の指先に視線を落とした。
ついこの前までなかったものを身につけるのはどこか抵抗があった。しかし、榛名に左手を掴まれて薬指にはめられてしまえば取り外すことなどできない。
指輪をはめてもらった時の感動は言葉にしようがなかった。
僅かに顔を染め、右手で隠すように左手を覆ってしまえば、塚越の後ろから茶化すような神戸の声が聞こえた。
「英人君がデザインしたんだよね」
「オーダーメイドか。しっかし、ヒデトってばこんなものをデザインする力まであるとはな」
隠したはずの左手をグイッと引っ張られて塚越の目の前に晒される。
英人には恥ずかしさしかなかったが、塚越は一つの商品としてしか見ていなかった。
「そのうち店の一軒も持てるようなるんじゃないか?相変わらずいいセンスをしているよ」
塚越に手放しで褒められて尚更顔が赤くなってしまった。
榛名もこの指輪はとても気に入ってくれているようだった。
榛名と離れられるわけではないのに、まだ榛名の隣にいることを躊躇した英人に辛抱強く言って聞かせた。
その中で榛名はいずれグループを捨ててもいいとまで言い出した。それほどまで英人を愛し離す気はないと幾度も伝えられた。
中途半端な思いなどではないと以前にも感じたが、改めて贈られたこの指輪を見ると、悩むことが意味のないもののように思えてくる。
榛名は充分なほど英人を愛し続けたし、今まで以上に英人は榛名とは離れて生きていけないのだと身に染みさせられた。
塚越は英人の手を放すと、それ以上は突っ込んだ話もしてこなかった。
神戸と次の撮影の話になってしまい、英人も自分に与えられた仕事の続きに取り掛かる。
午後からはまた撮影スタジオに移動しなければならなかったし、無駄口を叩いてばかりいられない。
撮影はベビー用品を扱うもので、まだ一歳くらいの子供相手だったせいもあってすんなりとはいかなかった。
泣きじゃくる幼児を見た時に、英人の中で何か弾けるようなものがあった。
母親は必死であやしていたし、すでにスタッフは慣れた様子で時を待っている。
手持ち無沙汰だったから余計に頭が子供に向いてしまった。
…千城は子供を望まないのだろうか…?
英人自身は昔から男にしか興味がなかったせいで結婚や子供を持つということを諦めていた。だがきっと榛名は違うだろう。
長きに渡りグループを支えていく人間として育てられている。次の世代を担う子を作ることが当然と誰もが望んでいるだろうし、第一本人はどう思っているのだろうか。
自分と一緒にいれば、生涯子を持つことはできない。英人と共に一生を終えると榛名は言っていたが、跡取りも持てない環境に本当に満足するのだろうか…。
家路に辿り着いた英人はまた黙ってしまった。
ベッドの中で何をするわけでもなく、榛名と並んで眠りに付く。
榛名は英人の些細な変化だって見逃さない。普段よりも口数の少ない英人を見れば、悩むことがあるのだとすぐに理解したし、問い詰めてもくる。
「今度は何を考えているんだ?」
榛名の口調はあくまでも穏やかだったが、きっと英人がはっきりと口にするまで許してはくれないだろう。
それがわかっているから、英人も素直に言葉に出す。
「千城は子供が欲しいとか思わないの?」
「なんだ、突然」
「なんとなく…。今日、子供を見たから…。きっと千城の親だって跡取りを欲しがる…」
英人は暗に自分と一緒では子供は手に入れられないと伝えたが、榛名はそれがなんだとあしらった。
「企業を継ぐ者など誰だっていい。俺は英人がいれば充分だ」
嬉しい言葉に間違いはなかったが、まだ英人の心には暗い影が差しこんでいた。人の心はやがて変わる。
いつか、いずれ、榛名が自分の血を分けた子供を欲しいと願った時に、英人はどんな態度にでたらいいのだろうか…。
「それに、もう子供ならいる」
榛名は静かに言葉を発しながら英人の髪を梳いた。
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だけど一番の喜びは、たぶんこの指輪だろう。
艶消しを施したプラチナの指輪は中央に英人と千城のイニシャルを象った崩し文字が刻まれた。ファッション性を生かした作りだったが派手さはない。光の加減で崩し文字の部分が陰影をつけるようにし、決して他にはない、世界でたった一つのものだった。
「虫よけかぁ?またいいモン買ってもらったなぁ」
オフィス内で近寄ってきた塚越が目敏く英人の指先に視線を落とした。
ついこの前までなかったものを身につけるのはどこか抵抗があった。しかし、榛名に左手を掴まれて薬指にはめられてしまえば取り外すことなどできない。
指輪をはめてもらった時の感動は言葉にしようがなかった。
僅かに顔を染め、右手で隠すように左手を覆ってしまえば、塚越の後ろから茶化すような神戸の声が聞こえた。
「英人君がデザインしたんだよね」
「オーダーメイドか。しっかし、ヒデトってばこんなものをデザインする力まであるとはな」
隠したはずの左手をグイッと引っ張られて塚越の目の前に晒される。
英人には恥ずかしさしかなかったが、塚越は一つの商品としてしか見ていなかった。
「そのうち店の一軒も持てるようなるんじゃないか?相変わらずいいセンスをしているよ」
塚越に手放しで褒められて尚更顔が赤くなってしまった。
榛名もこの指輪はとても気に入ってくれているようだった。
榛名と離れられるわけではないのに、まだ榛名の隣にいることを躊躇した英人に辛抱強く言って聞かせた。
その中で榛名はいずれグループを捨ててもいいとまで言い出した。それほどまで英人を愛し離す気はないと幾度も伝えられた。
中途半端な思いなどではないと以前にも感じたが、改めて贈られたこの指輪を見ると、悩むことが意味のないもののように思えてくる。
榛名は充分なほど英人を愛し続けたし、今まで以上に英人は榛名とは離れて生きていけないのだと身に染みさせられた。
塚越は英人の手を放すと、それ以上は突っ込んだ話もしてこなかった。
神戸と次の撮影の話になってしまい、英人も自分に与えられた仕事の続きに取り掛かる。
午後からはまた撮影スタジオに移動しなければならなかったし、無駄口を叩いてばかりいられない。
撮影はベビー用品を扱うもので、まだ一歳くらいの子供相手だったせいもあってすんなりとはいかなかった。
泣きじゃくる幼児を見た時に、英人の中で何か弾けるようなものがあった。
母親は必死であやしていたし、すでにスタッフは慣れた様子で時を待っている。
手持ち無沙汰だったから余計に頭が子供に向いてしまった。
…千城は子供を望まないのだろうか…?
英人自身は昔から男にしか興味がなかったせいで結婚や子供を持つということを諦めていた。だがきっと榛名は違うだろう。
長きに渡りグループを支えていく人間として育てられている。次の世代を担う子を作ることが当然と誰もが望んでいるだろうし、第一本人はどう思っているのだろうか。
自分と一緒にいれば、生涯子を持つことはできない。英人と共に一生を終えると榛名は言っていたが、跡取りも持てない環境に本当に満足するのだろうか…。
家路に辿り着いた英人はまた黙ってしまった。
ベッドの中で何をするわけでもなく、榛名と並んで眠りに付く。
榛名は英人の些細な変化だって見逃さない。普段よりも口数の少ない英人を見れば、悩むことがあるのだとすぐに理解したし、問い詰めてもくる。
「今度は何を考えているんだ?」
榛名の口調はあくまでも穏やかだったが、きっと英人がはっきりと口にするまで許してはくれないだろう。
それがわかっているから、英人も素直に言葉に出す。
「千城は子供が欲しいとか思わないの?」
「なんだ、突然」
「なんとなく…。今日、子供を見たから…。きっと千城の親だって跡取りを欲しがる…」
英人は暗に自分と一緒では子供は手に入れられないと伝えたが、榛名はそれがなんだとあしらった。
「企業を継ぐ者など誰だっていい。俺は英人がいれば充分だ」
嬉しい言葉に間違いはなかったが、まだ英人の心には暗い影が差しこんでいた。人の心はやがて変わる。
いつか、いずれ、榛名が自分の血を分けた子供を欲しいと願った時に、英人はどんな態度にでたらいいのだろうか…。
「それに、もう子供ならいる」
榛名は静かに言葉を発しながら英人の髪を梳いた。
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たつみきえ | URL | 2009-11-28-Sat 19:08 [編集]
S様
こんばんは。
なんだか分からないうちに記事が上がっておりました…。
また間違えた…。
>今日はまた更新があってうれしいです♪千城さん爆弾発言ですね!また続きが楽しみです♪
爆弾発言です。
最終回がまた遠のいた…
千城さん、こんな発言しないでちょうだいよ…って嘆く私でした。
誰が聞いたって驚きの言葉ですよ。
なるべく早めに次を書きたいと思います。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
なんだか分からないうちに記事が上がっておりました…。
また間違えた…。
>今日はまた更新があってうれしいです♪千城さん爆弾発言ですね!また続きが楽しみです♪
爆弾発言です。
最終回がまた遠のいた…
千城さん、こんな発言しないでちょうだいよ…って嘆く私でした。
誰が聞いたって驚きの言葉ですよ。
なるべく早めに次を書きたいと思います。
コメントありがとうございました。
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