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BLの丘
淋しい夜に泣く声 99
2009-11-29-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
予期していなかった言葉が榛名から零れた時に、英人は何も言えなくなった。
これまで英人だって幾人とも性行為を持っているし、榛名に経験がないとはとても思えない。
だが孕ませた女性がいたと知れば落ち付いてなどいられなかった。
「な…っ」
「冗談だ。英人のことだ。おまえ一人を育てるのに充分なほどの労力を使った。子供などおまえひとりで充分だ」
確かに英人は榛名から見れば何も知らない子供だった。榛名が生きる世界では到底一人で立つことはできなかったし、一歩踏み出そうにも靴の履き方から教えてもらわなければならなかった。
榛名が英人を『育てる』と発言する言葉の意味は理解できても、あからさまに子供扱いされるのは納得いかない。
不貞腐れて背を見せれば、背後でクスリと笑う榛名の表情が見えるようだった。
「悪かったといっているだろう。機嫌を直せ」
「そんな言い方されたらびっくりする。本当にもう子供がいるのかって…っ」
英人の腹に回された腕を振り払おうとするのに力など入らなかった。
拒もうとした言葉も途中で途切れてしまう。びっくりしたのだ。すでに実を結んだ人が居たのかと思って…。自分は決して作ることのできないものを榛名が望んだなら手を引くしかない。

「英人だけでいい。永遠におまえしか求めない。何の心配もしなくていい」
ぎゅっと抱きしめられた。英人が手にできないものは榛名も望まないと、痛んだ心の隙間に榛名の声が染み込んでくる。
『永遠』などという言葉をどこまで信じたら良いかは分からないが、榛名の隣にいられることが満ち足りるものに変わりはなかった。これまでにない精神的な安定と惜しみない愛情をふんだんに与えてくれる。寄り添えることに喜びが生まれる。
榛名は何かを確かめるように英人の左手と榛名の左手を重ねた。
「そうか…子供か…。俺としたことがどうして思いつかなかったんだろう」
ぽつりと呟かれた言葉に深い意味があるようで、今度は何事かと榛名を振り返った。
「養子縁組だ。法律上でも正式な権限が英人に与えられる」
榛名はまるでとても良いことを思いついたと言わんばかりに嬉々としていた。簡単に言い放ったが事の重要性を分かっているのだろうか。
一つの戸籍が動くのだ。英人自身は父が居たと分かったところで姓は別になっていたし、母方の名前を名乗っていたとはいっても現実には見放されているのも同然だが、榛名はそうはいかない。
「何言って…」
「夫婦にはなれなくても戸籍上は共になれるだろう」
「そんな単純なことじゃないんだって」
「英人は嫌なのか?」

問われれば嬉しいことだったが、色々なことが頭の中を巡ってしまう。絶対に黙っていない一族が榛名の後ろには控えている。
どう説明する気でいるのだろうか。いくら成人し何事も自ら動かせるほどの権力を持っていたとしても、榛名が背負うものの大きさを考えれば素直に頷くことなどできはしない。
ただでさえ心配症の英人には、物事を何でも自分の思った通りに叶えてしまう榛名の行動力について行けないところがあった。
そしてこの件も、時が過ぎてみた結果、榛名にうまく丸めこまれて反論の余地もなく英人は従うしかなくなっていた。


「何も心配しなくていい」と榛名はいつも言う。実際、榛名がどう動いているのかは知らないが、野崎に酷く扱われて以来、野崎からも榛名家からも完全に英人は隔離されて守られ続けていた。
この一年は小さな悩みこそあったかもしれないが、非常に穏やかな生活だった。これまでこれほど落ち付いた日々は過ごしたことがなかった。

神戸のオフィスで必要とされる書類等に必要事項を記述し、『暮田』の名前から『榛名』へと姓を変えた英人に、神戸が冗談半分で「記念撮影でもしておく?」と笑いかけた。
悪乗りしたのは塚越で、「特別にタダで撮ってやるぞ」とスタジオのスケジュールまで確認している。
別に結婚したわけではないが、周りからみれば同じことのようで、式を上げられない代わりに写真の一枚くらいと背中を押された。
神戸はまたもや勝手に榛名に話を付けていたし、榛名も特に嫌がる様子はなかったと言われてしまえば英人は相変わらず流されるままだ。

榛名は燕尾服を身に付け、同じではなんだからと英人はタキシードを纏った。優雅さだけが見える雰囲気にも惑わされ、撮影などという場面を体験したことのない英人は緊張しまくって、塚越から何度も「普段通りでいいから」と指摘されてもぎこちなくなってしまう。
全くイメージ通りのものが撮れなかったせいか、挙句の果てには「もうやめよう」と塚越はカメラを三脚から下ろしてしまった。

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終わりにしたい…。まだ書いている最中なので何とも言えませんが、次回を最終回にしたいです。
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