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BLの丘
雛鳥の巣立ち 6
2009-12-19-Sat  CATEGORY: 淋しい夜
英人の失踪事件は大多数の人間に影響を及ぼしていたようだ。
連絡の取れなくなった英人に、千城の怒り具合は相当なもののようで、聖の母親は電話越しに「すぐに帰ってきなさい!」と聖を叱っていた。
聖の母としては本邸の養子となった英人を連れ去ったのが息子だったということにかなりの動揺があった。同時に胸を撫で下ろしてもいた。英人に何かあれば本邸へ顔向けができなくなる。
『絶対に英人をその場所から出すなっ!!』
聖の母から電話機を取り上げたような、怒り狂うような千城の声を聞いた時、英人は言いようのない安堵感に包まれていた。

聖は最初、英人とは一緒ではないと答えていたらしい。運転手にしてみたって「送り届けた」というだけで現在の状況など知るはずがない。そこに英人が声をかけてしまったものだからあっという間にバレたというわけだ。
聖は肩を竦め受話器を置くとリビングにあるソファに座った。おいで、と聖の手に誘われるように英人も隣に座った。
「やっぱりそうやってすぐに許しちゃうんだ」
千城を責めるような口調は変わらない。
彼らの関係がどんなものであるのか英人には不安もあったが、今は千城が心配してくれたという事実だけで満たされていた。千城と離れるくらいならどんな過ちだって許せる。
「ごめん…」
「英人が謝ることじゃないじゃん。再会したっていうのは分かるけどいきなりあの態度はないだろ。仮にも英人の目の前でさ」
言いながら聖の腕が伸びてくる。引き寄せられてコツンと額が胸に当たった。髪を梳かれて唇を寄せられる。
「俺も千城さんの前でこうしてやろうかな」
聖の苛々しい台詞に英人のほうがドキっとした。そんなことをされたら千城に本気で嫌われてしまいそうだ。節操のない人間などと思われたくない。
認めたくはないが、聖の腕の中は居心地が良いものに値していた。このまま流されてしまうことへの恐怖もある。慌てて聖を引き離そうとしたが腕の強さに絡め取られた。
「ちょっ、離して」
「なんで?さっきまでいい子にしててくれたのに」
それは感傷に浸っていたからだと気恥ずかしさが込み上げてくる。意志のないままここに辿り着いてしまったが、改めて状況を考えれば非常にマズイ状態だった。気を許していた昨今ではあったけど聖の腕にこうして収まったのは初めてのことと言っていい。
「もう一度キスしてもいい?」
「だ、だめに決まってる…」
さっきの一度が何故英人に許せてしまったのかは自分でも分からない。しかも嫌がることもなく応えてしまったくらいだ。背徳感すらなぜか浮かばなかった。
「ふーん。…でも悔しいから」
焦って俯くより早く、聖は言い終わるか終わらないかのうちにまた英人の唇を塞いでしまった。
「んっ」
与えられる口付けの甘さに飲み込まれそうになってはいたものの、微かな抵抗の中でバタバタと叩いたせいかすぐに避けられた。こんなことが千城に知られたら大変なことになる。聖なら自ら明かしそうだ。
そんな英人の内心を読み取ったかのように聖がクスリと笑みを浮かべた。
「千城さんには黙っててあげる。二人だけの秘密にしておこう」
秘密裏に作られた現実は英人の心の中に微かな温かさを生んでいた。

それから10分と経たないうちに自分たちを送り届けた車が戻ってきた。聖の母にすぐに連れ戻せと言われたらしい。
そして来た時よりもずっと早く(スピードも出ていたが)会場へと舞い戻ることになった。
会場に到着するなり出迎えたスタッフに護衛でもされるかのように両脇を連れられて英人は千城の前へと差し出された。
千城の隣にはまだジョージがいた。ジョージだけではなくその両親と思われる黒人の夫婦と談笑していた。ジョージの眼は最初に見た時のような親しみを感じるものではなくなっていた。明らかに分かる嫉妬の目。千城から英人がどういう存在なのか聞いたのだろう。
千城は英人を見るなりホッと安堵したような表情を浮かべ、そっと頬を撫で髪を擦った。そして苛立ちも見えた。千城を心配させてしまったことを申し訳なく思いながらも、英人も抱きつきたい衝動にかられていた。でも一線を置かれたような仕草に悲しさが再び宿った。
「何故急に出ていったりした?」
英人を咎めるような言葉に心が痛みを告げた。目の前で繰り広げられた光景に英人が傷ついたと分からないのだろうか。
悔しさが心に溢れて、でも口に出せないもどかしさに緩んだ涙腺が滴を作った。
さっきまで舞い上がっていた気分はなんだったのだろう。
「英人?」
「…っ!!」
込み上げる感情に触れられる手をそっと下ろした。訝しげに千城が英人を見下ろす視線が耐えられなくて俯く。
あれほど会いたかった千城なのにいつものようにもっと想いを剥き出しにしてほしいと願うのは我が儘なのだろうか。
状況や立場を考えたら問題になる行動を起こせないのは理解できるが隣にジョージがいる以上何かの確信が欲しかった。
「もう、どこにも行かないから…」
絞り出すような声でようやくそれだけを伝えるとクルッと向きを変えた。ドンと聖の体に当たった。全く気付かなかったがすぐ近くに聖が立っていたのだ。
「千城さん、そんな言い方ないんじゃないの?」
英人の瞳から涙が落ちるのと聖の腕が英人を包むのが同時だった。

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コメント

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コメント甲斐 | URL | 2009-12-19-Sat 13:54 [編集]
そうだそうだ、聖もっと言ってやって!
英人の切ない胸の内とか心情を一番よく分かってくれている彼が口に出せない英人の想いをズバッと言って欲しいです。
(自分以上に理解している聖を嫉妬して千城さんのご機嫌は悪化の一途でしょうけどそんなことはドーデモいいから)
ホントは駆け寄って胸に飛び込んで千城さんの胸で泣きたかったのにねー。
きっと聖とは誰よりもわかりあえる親友になれそうな気がします。
慰めたり頭を撫でていいこいいこしてくれるお”兄ちゃん”日野さんとか、厳しく教えを説く”恩師”神戸さんとか英人くんの回りには、沢山の優しい気持ちが集まってきたなと思うと嬉しくなります。
このままだと恋人の存在感が薄くなっちゃうよ千城さん。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-19-Sat 15:03 [編集]
甲斐様

連コメありがとうございます。
なのに返信一件でごめんなさい。

状況説明にしかならなかった千城編でもご理解いただけたようで良かったです。
育ってきた環境とかあるから色々と気の持ちようも変わってきます。
けど鈍感な千城には変わりないかと…。

> そうだそうだ、聖もっと言ってやって!
> 英人の切ない胸の内とか心情を一番よく分かってくれている彼が口に出せない英人の想いをズバッと言って欲しいです。

はい。次回は言っちゃうと思います。
ただ読者様の期待とかいろんなのを裏切る展開かもしれません。
(ちょっと心が痛い)

> ホントは駆け寄って胸に飛び込んで千城さんの胸で泣きたかったのにねー。

泣きたかったです。ひーちゃんは。

> きっと聖とは誰よりもわかりあえる親友になれそうな気がします。
> 慰めたり頭を撫でていいこいいこしてくれるお”兄ちゃん”日野さんとか、厳しく教えを説く”恩師”神戸さんとか英人くんの回りには、沢山の優しい気持ちが集まってきたなと思うと嬉しくなります。
人間性ですよね。
放っておけないというか。
どうでもよい人間にはくっついてくれる人もどうでもいい人しかいないと思います。

> このままだと恋人の存在感が薄くなっちゃうよ千城さん。
危機感持ってください、千城さんっ!!

コメントありがとうございます。
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