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BLの丘
雛鳥の巣立ち 5-1
2009-12-18-Fri  CATEGORY: 淋しい夜
いつもいらっしゃってくださるMO様から「ぜひ千城編を」というリクエストを頂きまして書いてみたのは良いのですが…。
ただの状況説明にしかなりませんでした…(/_;) しかもこの一話のみで終了。
MO様、こんなものでどうぞお許しください。


英人がパーティー会場でいづらさを感じるのは理解していた。だからこれまでは常に隣にいて何の不安もないようにしてきていたつもりだし、色々教えてきてもいた。そろそろ慣れてきている頃かという期待もあった。
ただ、不運は続くものである。
続いて応対してしまった外国からのゲストに向けられる言葉は英人には理解できないもので…。
何一つ会話の糸口を探せなかった英人は「飲み物をもらってくる」という言葉を残して会場の隅の方へと寄っていった。
対人面に関してのこれまでのレクチャーが全く意味を成さなかった。
「榛名」が主催するパーティーだけにゲストをおろそかにすることもできず、またその数は膨大だ。
人混みに紛れてしまった英人を不安に思いつつ、千城は英人の消えた方向にさりげなく視線を送り続けた。
人影で相手までは見えなかったが、誰かと会話を始めたらしい。こういった場に少しでも抵抗がなくなってきてくれたのかという嬉しさもありながら、やはり心に巣食うのは嫉妬ばかりだった。
しばらくして聖が寄る姿が見えた。癪には障るがこの際いないよりはマシのボディーガードとしようと千城は思った。
今の聖は英人を不満にさせる行動は起こさない。英人に対する好奇心は相変わらずだが、千城の存在が盾になり立場をわきまえているようだったから安心していた。英人も聖には親近感を持っていたし、むやみに見知らぬ人間に近づかれることを考えればたとえどんな人間でもガードしてくれる人物がいるとは気の休まるものだ。

千城は一組のゲストを相手にしただけで、一度その場を野崎に任せ英人の元へと歩み寄った。
「英人」
背中に声をかけると、パッと振り返った顔が急に綻んでとても可愛い笑顔を向けてくる。この笑顔を見られるだけでひどく安堵した。
抱きしめることはできなくても英人の頬を包むように手を伸ばせば、子猫が寄り添うように擦り付けてくるのが分かる。
英人が「あのね」とこれまで共に居た人物を紹介するように振り返った先に、同じように視線を送ってみれば、黒人男性が驚愕の表情を浮かべて千城を見ていたところだった。まだ20歳くらいだろう。
…この子は確か…。
千城が記憶の中をたどるよりも早くに突然飛び付かれて、千城は驚いた。だが一瞬で繋がった記憶。
アメリカに残した企業を運営する共同経営者の一人、ディビス氏の息子ジョージだった。
最後に会ったのがジュニアハイスクールに入学する前だったから印象はかなり変わっていた。
幼いころもこうしてよく抱っこをしてあげた…と懐かしさに思わず笑みがこぼれる。
「会いたかった…」
「久し振りだな。俺も会えて嬉しいよ」
幾言か挨拶を交わしているうちに、英人がクルッと背を向けて千城は英人を拗ねらせてしまったと戸惑った。
「英人…」
英人に寄ろうとした体が、まだ縋りつかれたままのジョージによって阻まれる。
「ちょっと待ってよ。まだ何も話していないよ」
ジョージに見上げられて一瞬の怯みがそばにいた聖を怒らせた。
「千城さんのバカッ」
何事かと周りにいたゲストが数人振り返る中を、聖が英人を追うのを悔しさで見つめた。それと同時に沸き上がったのはうれしさでもあった。
英人はあからさまに感情を出すことは少なく、特に「嫉妬」という分野に関しては抑え込もうとするところがある。
千城の付き合いの広さも考えてくれているのだろうが、これまでひたすら千城が「英人だけ」と言い続けたこともあったし、あからさまに出られた態度には喜びさえあった。
千城は英人でもこんな何気ない仕草に嫉妬するのだということが分かって単純に嬉しかった。千城の中で日本人以外の人間と交わす抱擁は挨拶の一つでしかない。

今日は淋しい思いばかりさせてしまったから、今夜は存分に甘やかしてやろう。そんな邪な考えを持ちつつ、次々と続くゲストの応対に、気付けば30分以上が経過していた。
パーティールームに視線を巡らせても英人らしい人間は見当たらない。前もって用意させた控室で拗ねているのだろうか。たとえ外に出たとしても聖が追いかけ連れ戻すと高を括っていた。今はクリスマス前でイルミネーションも一番の華やかさを見せている。聖と共に歩かれては腹ただしいだけだが、戻ってきたらどこが綺麗だったか聞いて一緒に出るのもいいだろうと思った。そう思いながら待ち続けても英人は一向に戻ってこなかった。
それだけではなく、携帯電話まで繋がらない。たとえどのような場所に居ても電源だけは絶対に切るなと教えておいたはずなのに、それすら守らない英人に思いの強さを感じたようでもあった。

千城は支配人を呼び付け、使えるだけのスタッフを用意させると庭の隅々まで英人を探させた。建物内のあらゆる場所はもちろん、広々とした庭まで網の目のように張り巡らせて探させるのは容易なことではなくて…。
この時になって英人が会場内のどこにもいないということが判明した。
「聖は?聖はどこに行った?!」
追い掛けたはずの聖が共に居ないはずがない。
詰め寄った立川家の人間も全く聖の行方まで気にしていなかった。慌ただしく動くスタッフと動揺を見せる千城に、一世が「まさか誘拐ではないだろうな」と安否を気遣った。
良からぬ連中に狙われることもある「榛名」は、調査されることも多々ある。表立って養子の件は公表されていないものの、調べられる人間にすれば繋がりは簡単に知ることができ、千城の父は可能性もあると危ぶんだのだ。
英人一人ではその可能性は充分に考えられた。だが聖までがいなくなっていると知り、また待機させていたはずの車が出て行ったと聞けば共に居るのだろうと多少の安心は生まれても、千城の苛立ちは極限まで達していた。
何故説明も聞かずに勝手に飛び出すのか…。一人で悩むなとあれほど言い聞かせたはずなのに、肝心な時ほど英人は殻の中に閉じこもろうとする。ましてや頼った人間が聖など、とても許し難い行為だった。
立川家が保有する運転手と連絡が取れ、郊外の別荘に二人を運んだと連絡が入るなり、千城は鬼のような形相で怒鳴った。
「すぐに連れ戻せっ!!」
英人の携帯電話はおろか、聖の携帯電話まで繋がらない現在、聖の母が焦って別荘に電話をかけたのは言うまでもない。

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コメント | | 2009-12-18-Fri 15:27 [編集]
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Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-18-Fri 15:48 [編集]
T様

こんにちは。
うろうろしていたら発見しました。
早速のコメントありがとうございます。

> あーあ、英人はまた怒られちゃうんですかね? ←パパンに(^^;
> 箱入りにしすぎて、『榛名』の名前の大きさが分ってないとか。

う゛っ…
言われそうです。
でも本心では結構心配していたりして…。
大事な(二番目の)息子が誘拐騒ぎでは…と。
大切に思うからそんな危険個所まで思考がまわったのでしょうか。
どうでもよかったらいい機会だと見捨てそうな父です。

> それにしても、とばっちりな聖のお母さんがいい迷惑ですね。
我が子に翻弄される親はどこにでもいると思います。
きっと「うちの子にかぎって~っっ」と話を聞いた時には叫んだことでしょう。
そして繋がっちゃった電話に卒倒寸前?!

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-18-Fri 21:35 [編集]
MO様

こんばんは。
早速のコメありがとうございます。

>いつも勝手なコメントを送ってしまい、困らせてしまったようで、反省していました。私は、いつも英人に大きな揺ぎ無い愛情を示す千城が好きで、英人に翻弄され焦る千城を読みたいな~って思ってましたので、とっても嬉しいです♪それも こんなに早くアップして下さって、本当に感謝していますm(__)m 千城の焦りと怒りは、相当なものですね。英人、皆を巻き込んで、この事態をどうするのかな?いつも ありがとうございます。

いつも英人バージョンでしか送っていないので千城編を期待してくださること、とても感謝いたします。ただ書けない…
こんなものをあげてしまったことにひたすら頭を下げます…。(あぁ、大丈夫かぁ???と…)
いつも千城を応援してくださいまして本当にありがたいです。
また何かご要望ございましたら、可能な限りお答えしていきたいです。
千城の感情はちょっとは伝わりましたかね???
(本当に全く書けなくて申し訳ない限りでした)

ぜひまたお立ち寄りださい。
コメントありがとうございました。


うろたえる千城さんが見られて嬉しいというか安心したというか・・・
コメント甲斐 | URL | 2009-12-19-Sat 13:33 [編集]
千城視点のお話よかったです。
状況説明にしかならなかったということですが、彼の想いとか考え方の英人との温度差がよくわかりました。

千城さんはまだよく理解できてないってことですよね。
あの場面で、英人が捨てられたような気持ちになるとか自分なんかがそばにいる価値がないと感じるとまで思えない。英人にとってみたら、ハグして頬にチュが軽い挨拶で普通だなんて実感できないとかいろいろ・・・というのがお互いが分っていないギャップみたいなとこで、埋めていかなきゃいけない部分なんでしょうね。
そういうのは、説明するとか教えて分らせるというんじゃなくて日ごろの習慣とか信頼関係とか時間のかかることだから簡単なようで簡単じゃないと思います。
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