突然思いついたSSです。お正月企画ということで。
12月31日の夜に勤務するバーの店舗内でカウントダウンパーティーが始まり、明け方まで客や従業員と無礼講の飲みの席を味わった後、まだ夜も明けない中を帰宅した。
店は元旦、2日、3日と正月休みに入る。特に何をするわけでもないが、客相手の仕事柄、なかなかまとまった休みが取りづらい身としてはきちんとした正月休みがあるだけで充分なくらい満足していた。昨今では元旦から営業という店も少なくない。
日野尚治(ひのしょうじ)は誰が待つわけでもない冷え切った部屋に入ると、まず部屋を暖める準備をしてから熱いシャワーを浴びた。
昼夜逆転した生活も随分長いこと続けてきている。毎年の元旦の過ごし方といえば、風呂上がりに濃い酒をあおりながらご来光を拝んで床に就いていた。いくら無礼講とはいえ、やはり店では気を落ち着けて飲んでなどいられなかったし、自宅で飲む一杯が何よりの至福の時間だった。
昔こそ、馴染んだ友人と初詣など出掛けていたが、生活習慣の違いや付き合う人間の変化などでこの数年は正月から会う人間も減った。
日野は幼い頃に両親を亡くしていた。高校を卒業するまで父の弟の家族と共に過ごした。金銭面のこともあったから進学の道は諦めた。それよりもとにかく早く家を出たかったから働き出したが、いつの間にか流れついたのは今勤めているバーだった。男同士の関係を持つ人たちをもてなす空間は嫌うよりも新鮮さのほうがあった。だからといって好奇心というような目で見るつもりはない。影を抱えた人たちがひたむきに自分や相手と向き合おうとする姿に好感が持てるといったところだろうか。
自分がそういう人間なのかと問われれば『はい』とは答えられない。色々な人間を見ていればいつか傾く日が来るかもしれないが、今のところ男性に興味がないのが本音だ。
日が高くなる前に眠りについてしまおうと布団の中に潜り込む。起きるのは大抵昼過ぎで、ダラダラと過ごして3日間の休みが消えているのが常だった。
夕方になってコンビニに行った帰りにふと覗いた郵便受けに数枚の年賀状が届いていた。
最近は携帯電話のメールで済ませてしまう人間がほとんどで、どこかの店のDMやすでに子を持った友人からの何枚かが届くくらいだ。
部屋に戻り改めて一枚ずつ年賀状を確認していると、見慣れない差出人の名前を2通見つけた。
一通は『榛名千城』とあり、もう一通には『榛名英人』とある。
思わず眉間に皺が寄った日野だった。同じ家に住んでいるはずの二人から何故別々に届くのかが理解できない。
英人からの賀状には簡単に書いたのだと思われる水彩画が描かれていた。輪郭などもちろんないが、描かれているものはバーで働く自分の姿のようだった。明るい色調で描かれているのは正月という時期を気にしたからなのだろうが、雰囲気はよく伝わってくる。
英人の職業が何かも、今は趣味でしか描かない『絵』がある状況も話には聞いていたが、実際に英人の絵を見るのは初めてで『手作り年賀状』に心が温まるのを感じた。下の方につたない文字で「今年もよろしくね」と短い言葉が添えられていた。
対して千城から届いたものは、一瞬何の宣伝かと思うような見つめ合う二人の人間の写真が載っている物で…。よくよく見ればそれが差出人たちの姿なのだと気付く。(リビングに飾ってあるものを使用した模様。日野君はまだ見たことがありません)
「なんだこりゃ」
思わずこぼれた言葉は呆れにも近い。一体どれだけの人間に自分たちのラブラブ振りを見せつけたいっていうんだ…。ただの嫌味かぁ?!
2通も届いた様子では千城がこんなものを送っているとは英人は気付いていないのだろう。
そして千城からの賀状にあった一言は「今年も世話になる」で…。
普通はもうちょっと控え目に「宜しくお願いします」じゃないのか!?
印刷済みの文はどうせ社交辞令なのだろうから、新年早々今年を暗示させるような台詞は書いてほしくなどない。
客と深く関わることは滅多にないが、どうにも放っておけない英人の性格からいつの間にか付き合いは親密なものに変わっている。
何よりこの二人に関わるようになってから自分のライフスタイルも多少の影響を受けていたりする。やってくるときは大概ハリケーン付きだ。
なんだか末恐ろしい言葉を聞いたようで頭を抱えたくなったが、心の中でほんわりとしたものが生まれたのも確かだった。
きっとあの二人は今年、変化を遂げるだろう。
誰かが幸せになってくれるのは嬉しいことに違いない。
そして二人からの年賀状を眺めながら、自分にも良いことが巡ってくる年になればいいなぁとしみじみと思った。
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12月31日の夜に勤務するバーの店舗内でカウントダウンパーティーが始まり、明け方まで客や従業員と無礼講の飲みの席を味わった後、まだ夜も明けない中を帰宅した。
店は元旦、2日、3日と正月休みに入る。特に何をするわけでもないが、客相手の仕事柄、なかなかまとまった休みが取りづらい身としてはきちんとした正月休みがあるだけで充分なくらい満足していた。昨今では元旦から営業という店も少なくない。
日野尚治(ひのしょうじ)は誰が待つわけでもない冷え切った部屋に入ると、まず部屋を暖める準備をしてから熱いシャワーを浴びた。
昼夜逆転した生活も随分長いこと続けてきている。毎年の元旦の過ごし方といえば、風呂上がりに濃い酒をあおりながらご来光を拝んで床に就いていた。いくら無礼講とはいえ、やはり店では気を落ち着けて飲んでなどいられなかったし、自宅で飲む一杯が何よりの至福の時間だった。
昔こそ、馴染んだ友人と初詣など出掛けていたが、生活習慣の違いや付き合う人間の変化などでこの数年は正月から会う人間も減った。
日野は幼い頃に両親を亡くしていた。高校を卒業するまで父の弟の家族と共に過ごした。金銭面のこともあったから進学の道は諦めた。それよりもとにかく早く家を出たかったから働き出したが、いつの間にか流れついたのは今勤めているバーだった。男同士の関係を持つ人たちをもてなす空間は嫌うよりも新鮮さのほうがあった。だからといって好奇心というような目で見るつもりはない。影を抱えた人たちがひたむきに自分や相手と向き合おうとする姿に好感が持てるといったところだろうか。
自分がそういう人間なのかと問われれば『はい』とは答えられない。色々な人間を見ていればいつか傾く日が来るかもしれないが、今のところ男性に興味がないのが本音だ。
日が高くなる前に眠りについてしまおうと布団の中に潜り込む。起きるのは大抵昼過ぎで、ダラダラと過ごして3日間の休みが消えているのが常だった。
夕方になってコンビニに行った帰りにふと覗いた郵便受けに数枚の年賀状が届いていた。
最近は携帯電話のメールで済ませてしまう人間がほとんどで、どこかの店のDMやすでに子を持った友人からの何枚かが届くくらいだ。
部屋に戻り改めて一枚ずつ年賀状を確認していると、見慣れない差出人の名前を2通見つけた。
一通は『榛名千城』とあり、もう一通には『榛名英人』とある。
思わず眉間に皺が寄った日野だった。同じ家に住んでいるはずの二人から何故別々に届くのかが理解できない。
英人からの賀状には簡単に書いたのだと思われる水彩画が描かれていた。輪郭などもちろんないが、描かれているものはバーで働く自分の姿のようだった。明るい色調で描かれているのは正月という時期を気にしたからなのだろうが、雰囲気はよく伝わってくる。
英人の職業が何かも、今は趣味でしか描かない『絵』がある状況も話には聞いていたが、実際に英人の絵を見るのは初めてで『手作り年賀状』に心が温まるのを感じた。下の方につたない文字で「今年もよろしくね」と短い言葉が添えられていた。
対して千城から届いたものは、一瞬何の宣伝かと思うような見つめ合う二人の人間の写真が載っている物で…。よくよく見ればそれが差出人たちの姿なのだと気付く。(リビングに飾ってあるものを使用した模様。日野君はまだ見たことがありません)
「なんだこりゃ」
思わずこぼれた言葉は呆れにも近い。一体どれだけの人間に自分たちのラブラブ振りを見せつけたいっていうんだ…。ただの嫌味かぁ?!
2通も届いた様子では千城がこんなものを送っているとは英人は気付いていないのだろう。
そして千城からの賀状にあった一言は「今年も世話になる」で…。
普通はもうちょっと控え目に「宜しくお願いします」じゃないのか!?
印刷済みの文はどうせ社交辞令なのだろうから、新年早々今年を暗示させるような台詞は書いてほしくなどない。
客と深く関わることは滅多にないが、どうにも放っておけない英人の性格からいつの間にか付き合いは親密なものに変わっている。
何よりこの二人に関わるようになってから自分のライフスタイルも多少の影響を受けていたりする。やってくるときは大概ハリケーン付きだ。
なんだか末恐ろしい言葉を聞いたようで頭を抱えたくなったが、心の中でほんわりとしたものが生まれたのも確かだった。
きっとあの二人は今年、変化を遂げるだろう。
誰かが幸せになってくれるのは嬉しいことに違いない。
そして二人からの年賀状を眺めながら、自分にも良いことが巡ってくる年になればいいなぁとしみじみと思った。
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たつみきえ | URL | 2010-01-02-Sat 20:40 [編集]
t様
>新年明けましておめでとう御座います。今年もきえ様の益々のご活躍とご健康をお祈り申し上げますm(_ _)m そして可愛い日野君も幸せ見つけられたら幸いです^^;
明けましておめでとうございます。
新年早々このような駄文にお付き合いくださいまして感激です。
t様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
英人たちのみならず、今年こそは、脇役にも少しは労いの言葉をかけてやりませんとね…。と思うんですけど…。
私の頭がついていっておりません(汗)
どうぞ今年も宜しくお願いいたします。(なんだかヘンテコリンなレスですみません)
コメントありがとうございました。
>新年明けましておめでとう御座います。今年もきえ様の益々のご活躍とご健康をお祈り申し上げますm(_ _)m そして可愛い日野君も幸せ見つけられたら幸いです^^;
明けましておめでとうございます。
新年早々このような駄文にお付き合いくださいまして感激です。
t様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
英人たちのみならず、今年こそは、脇役にも少しは労いの言葉をかけてやりませんとね…。と思うんですけど…。
私の頭がついていっておりません(汗)
どうぞ今年も宜しくお願いいたします。(なんだかヘンテコリンなレスですみません)
コメントありがとうございました。
たつみきえ | URL | 2010-01-03-Sun 12:20 [編集]
MO様
明けましておめでとうございます。
お正月の最中からお越しいただきましてありがとうございます。
>明けまして おめでとうございます。さっそくの心温まるお話、ありがとうございます。とっても嬉しいです♪ 日野にとって英人は、やっかいだけど ほっておけない存在なんでしょうね。そして千城にとっても、日野に世話を掛けるのは、暗黙の了解で当然の事のようですね。仕事以外で、こんな関係を築けたのは、千城にとっても大収穫なのではないでしょうか?(本人自覚はないでしょうね) 私も、二人の写真の年賀状、欲しいです。何人に出したのかな?日野にも素敵な恋が訪れますように・・・ きえ様、今年も宜しくお願いします。
お正月ということで日野を出してみました♪(あんまり意味ない)
千城は「お友達」とかいう自覚なしで年賀状を出したと思います。しかも「世話になる」って自分のことじゃなくて英人のことを言っていそうで…。英人が仲良くしてくれているからお礼状も兼ねて、なんて思いながら。
自分が日野に世話になることなどないくらいの気持ちでいそうです。
写真入りの年賀状なんて、もらったほうも困りますよね~。
まぁ、宛先はプライベートな方々でしょうが。(でなきゃ千城父が卒倒しそうだわ)
こちらこそぜひまた今年も宜しくお願いいたします。
コメントありがとうございました。
明けましておめでとうございます。
お正月の最中からお越しいただきましてありがとうございます。
>明けまして おめでとうございます。さっそくの心温まるお話、ありがとうございます。とっても嬉しいです♪ 日野にとって英人は、やっかいだけど ほっておけない存在なんでしょうね。そして千城にとっても、日野に世話を掛けるのは、暗黙の了解で当然の事のようですね。仕事以外で、こんな関係を築けたのは、千城にとっても大収穫なのではないでしょうか?(本人自覚はないでしょうね) 私も、二人の写真の年賀状、欲しいです。何人に出したのかな?日野にも素敵な恋が訪れますように・・・ きえ様、今年も宜しくお願いします。
お正月ということで日野を出してみました♪(あんまり意味ない)
千城は「お友達」とかいう自覚なしで年賀状を出したと思います。しかも「世話になる」って自分のことじゃなくて英人のことを言っていそうで…。英人が仲良くしてくれているからお礼状も兼ねて、なんて思いながら。
自分が日野に世話になることなどないくらいの気持ちでいそうです。
写真入りの年賀状なんて、もらったほうも困りますよね~。
まぁ、宛先はプライベートな方々でしょうが。(でなきゃ千城父が卒倒しそうだわ)
こちらこそぜひまた今年も宜しくお願いいたします。
コメントありがとうございました。
年始早々更新があったとは・・・。
嬉しい誤算です。
日野さんの試練はまだまだ続くってことですね。
それにしても千城サンの「今年も世話になる」はあまりにもらしくて笑っちゃいます。
あんだけお世話になって何かと英人との仲を案じてくれてくれたうえ、この後もきっといっぱいお世話になるだろうにね。
実家の優しいお兄さんはいつでもひーちゃんの味方だもんね。
言われた以上にお世話しちゃいますとも!!
嬉しい誤算です。
日野さんの試練はまだまだ続くってことですね。
それにしても千城サンの「今年も世話になる」はあまりにもらしくて笑っちゃいます。
あんだけお世話になって何かと英人との仲を案じてくれてくれたうえ、この後もきっといっぱいお世話になるだろうにね。
実家の優しいお兄さんはいつでもひーちゃんの味方だもんね。
言われた以上にお世話しちゃいますとも!!
甲斐様
こちらにもお越しいただけて嬉しいです。
> 年始早々更新があったとは・・・。
> 嬉しい誤算です。
思いつきで書いちゃいました。
> 日野さんの試練はまだまだ続くってことですね。
> それにしても千城サンの「今年も世話になる」はあまりにもらしくて笑っちゃいます。
> あんだけお世話になって何かと英人との仲を案じてくれてくれたうえ、この後もきっといっぱいお世話になるだろうにね。
> 実家の優しいお兄さんはいつでもひーちゃんの味方だもんね。
> 言われた以上にお世話しちゃいますとも!!
日野君はいいように使われているようでちょっと可哀想に思うこの頃です。
千城ってばすっかり英人の兄弟同然に扱うようになった模様です。日野にしてみたらいい迷惑?!
でもでも放っておけない日野氏なのです。
きっと今年もたくさんお世話しちゃいます!!
今年こそは"お礼"としてお店の1軒くらい持たせてもらいましょう。
英人専用の隠れ部屋も作らなくちゃっ。
コメントありがとうございました。
こちらにもお越しいただけて嬉しいです。
> 年始早々更新があったとは・・・。
> 嬉しい誤算です。
思いつきで書いちゃいました。
> 日野さんの試練はまだまだ続くってことですね。
> それにしても千城サンの「今年も世話になる」はあまりにもらしくて笑っちゃいます。
> あんだけお世話になって何かと英人との仲を案じてくれてくれたうえ、この後もきっといっぱいお世話になるだろうにね。
> 実家の優しいお兄さんはいつでもひーちゃんの味方だもんね。
> 言われた以上にお世話しちゃいますとも!!
日野君はいいように使われているようでちょっと可哀想に思うこの頃です。
千城ってばすっかり英人の兄弟同然に扱うようになった模様です。日野にしてみたらいい迷惑?!
でもでも放っておけない日野氏なのです。
きっと今年もたくさんお世話しちゃいます!!
今年こそは"お礼"としてお店の1軒くらい持たせてもらいましょう。
英人専用の隠れ部屋も作らなくちゃっ。
コメントありがとうございました。
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