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BLの丘
桜の季節 2
2010-04-13-Tue  CATEGORY: 季節SS
貴方のあとを追いたいと何度思ったことだろう…。
残してくれたのは思い出だけで、写真の一枚も何かを書いたメモも手元にはなかった。
何度も振り返ることで貴方を忘れたくなかった。

「ここにいたんだ…」と声をかけられて、あの時できなかったことをしようと近付いた。
抱きしめたかった…。
肌の温もりを、貴方の温かさを感じたい…。

変わっていない。何一つ変わっているところなどないと思えた。
少しだけ目尻が下がって、どんな表情をしたって優しさしか見えないような顔といい、はにかんだように笑う時に右の口端が上がるところとか。
8年の時間があっという間に戻っていく。

「渚(なぎさ)さん…」
思わず呟いた名前に、子犬を連れた男の表情が僅かに曇った。

「やっぱり渚と間違えるんだね…」

一瞬の見間違いが晴れていくようでもあった。
触れかけた手がとまった。

違うのだ…と脳のどこかの部分が点滅した。
渚という男は目の前の男のように悲しそうな顔も辛そうな表情も見せたことなどなかった。
ただ儚かった…。

良く見れば確かに逝ってしまった時よりももっとはっきりとした存在のようだった。
自分が年をとったのと同じように、移り変わるものはある。
それでもあまりにも良く似過ぎていて…。
また消えられるのではないかと不安さえ過った。
散っていく桜の花びらに撒かれてしまうのではないかと…。
「あなたは…?」

「渚のおとうと…。っていっても、双子だけど…」

渚の最期はあっというまだった。
集中治療室に入ってたった4時間という時間でこの世を去ったと聞いた。
交わした会話の中で家族の話も耳にしたことがあった。
双子とは聞いていなかったけど、海外に住む弟がいると。
彼もまた身体が弱く、病院に入院していて、外を歩ける自分は幸せなのだと言っていた…。

「兄が残してくれた日記の中にあなたが居た…。あなたと見た桜のことがたくさん書いてあった。あまり出かけられなかったから、あなたが一緒に見てくれた桜の季節が一番好きだった…って…。毎日…、夏も秋も冬も、また見られるかもしれない桜が兄の夢だった。それは同時に僕の夢にもなった。僕も兄と同じように桜が見たかった…。兄が書いた日記の中に一枚だけあなたの写真があった。知らない世界の中、僕は兄があなたを愛したように恋をしていたんだ。8年もの間、毎日読んでいることが馬鹿みたいだったけど、兄の気持ちが良く分かったからあなたに会いたかった…」

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あと一回で終わるかなぁ…(;一_一)
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コメント

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桜のように儚い人
コメント甲斐 | URL | 2010-04-13-Tue 16:21 [編集]
切ないです。
忘れられない亡き恋人への想いっていう部分、弱いとこなんですよねワタシの。
Re: 桜のように儚い人
コメントきえ | URL | 2010-04-13-Tue 17:43 [編集]
甲斐様
季節もの編にもようこそです。

> 切ないです。
> 忘れられない亡き恋人への想いっていう部分、弱いとこなんですよねワタシの。

本当に、ふと、思いついてしまいました。
桜って切ないです。
我が家のあたりはもう緑色の葉っぱが見えています。
あちこちの地面が桜色です。
色はきれいなのに、地面に落ちた途端、泣きたくなります。
"桜のように儚い人"がまた現れて…。
コメントありがとうございました。
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