狭いユニットバスで身体の全部を洗ってもらって、指一本動かす気力も体力もなくこたつの中に潜り込んだ。
鹿沼の言った冗談にからかわれ、不貞腐れた。いくらなんでも本気でヤり倒す気はなかったようだ。あたりまえか…。
顔だけを出してぼけっとしている脇で、ベッドのシーツやらカバーらをまめにも鹿沼が洗濯してくれている。
取り替えのシーツ等を引っ張り出せば、「ちゃんと替え、もっているんですか?俺なんて朝洗って干して乾かして夜敷いての繰り返しですよ」と驚かれた。
「乾かなかったらどうするの?」
「天気が良い日に洗えばいいじゃないですか」
…梅雨の時期はどうしているんだよ…
付き合うことになろうがなんだろうが、絶対に鹿沼の家には行かないと決め込めば、「家の中を探索しても怒らないでくださいよ」と、ここに流れ込む気でいるらしい。
今まで付き合った男を家に連れ込まなかった理由が分かったような気がした。変に家探しされるのが嫌なのだ。
「なんかやっぱり鹿沼と合いそうにない気がしてきた」
「ここに来られるのが嫌ならうちに来てください。俺、何見られても全然気にしないし。むしろ自分を知ってもらうようで嬉しいです」
鹿沼の口調はいつまでたっても落ち着いていて諭されているような気がする。
拗ねている自分が子供のようで、余計に気が落ち込んできた。
振り返れば大学時代に付き合っていた男とは共に一人暮らしだったしお互いの家にも行き来をしていて楽しかった。
あんな雰囲気がまた作れるというのだろうか…。
「それとね。『鹿沼、鹿沼』って俺のこと苗字で呼ぶのは禁止にしますからね。一回呼ぶごとに一つのお仕置きを考えておきますから」
「そんなこと言われたって突然変えられないよ」
「それくらい意識してください。雅臣さん」
わざとらしく言われる名前にぼうっと燃え上がるように顔が熱くなって、こたつ布団の中に顔を埋める。
ベッドの中で幾度も言わされた名前と呼びかけられた名前を思い出して身体までこたつの熱ではないものに襲われそうだった。
夕方、鹿沼と一緒にキッチンに立っている自分がこれまでと別人になったような気がした。
会社であれこれと仕事の話はしてもプライベートなことを話す機会などそうあるものではない。
性格や物の考え方は承知していても普段の暮らしの中に入ればより違うのだと感じさせられるし、それに対して不満があっても人間を嫌いになる原因にはならないのだと知る。
「なんでぐちゃぐちゃに入れちゃうのっ?!」
「煮えたかどうだかかき混ぜちゃえば最終的には同じですよ」
夕食は海鮮鍋を作ろうという提案に頷いて、鹿沼一人をキッチンに立たせるのは抵抗があったから雅臣も隣にいた。やたらと扉を開けられないためにも…。
具材をカットしていた雅臣の手元から次々と土鍋の中に放り込んでいる鹿沼の姿を見れば思わず文句が出る。
今日はこんなことの繰り返しだった。
雅臣が丁寧に何かをやり遂げようとするところを鹿沼が要領よくサクサクと片付けていく。文句を言おうが、そのたびに今のように結果論を告げられて「でも…」と言いかければ唇を塞がれた。
これまで築き上げてきた”立場”を逆転され、まるで「俺に付いてこい」と言わんばかりの態度に悔しさはあるのに、心底嫌と思えないし納得させられている。あとは気分の問題だけだ。
鹿沼の言うことは理解できてもこればかりは性格なのだ。
普段、雅臣一人しかいない部屋がにぎやかだった。それが苦痛でも嫌でもないし、楽しいと感じているのは確かだ。
そして優しい…。
…このままではやばい…。
雅臣はへんな危機感の中にいた。
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間違えて記事をあげてしまって恐れ多いほどのかたがいらっしゃってくださって…
明日のぶんを早めにあげてしまったとお許しください。
10← →12
鹿沼の言った冗談にからかわれ、不貞腐れた。いくらなんでも本気でヤり倒す気はなかったようだ。あたりまえか…。
顔だけを出してぼけっとしている脇で、ベッドのシーツやらカバーらをまめにも鹿沼が洗濯してくれている。
取り替えのシーツ等を引っ張り出せば、「ちゃんと替え、もっているんですか?俺なんて朝洗って干して乾かして夜敷いての繰り返しですよ」と驚かれた。
「乾かなかったらどうするの?」
「天気が良い日に洗えばいいじゃないですか」
…梅雨の時期はどうしているんだよ…
付き合うことになろうがなんだろうが、絶対に鹿沼の家には行かないと決め込めば、「家の中を探索しても怒らないでくださいよ」と、ここに流れ込む気でいるらしい。
今まで付き合った男を家に連れ込まなかった理由が分かったような気がした。変に家探しされるのが嫌なのだ。
「なんかやっぱり鹿沼と合いそうにない気がしてきた」
「ここに来られるのが嫌ならうちに来てください。俺、何見られても全然気にしないし。むしろ自分を知ってもらうようで嬉しいです」
鹿沼の口調はいつまでたっても落ち着いていて諭されているような気がする。
拗ねている自分が子供のようで、余計に気が落ち込んできた。
振り返れば大学時代に付き合っていた男とは共に一人暮らしだったしお互いの家にも行き来をしていて楽しかった。
あんな雰囲気がまた作れるというのだろうか…。
「それとね。『鹿沼、鹿沼』って俺のこと苗字で呼ぶのは禁止にしますからね。一回呼ぶごとに一つのお仕置きを考えておきますから」
「そんなこと言われたって突然変えられないよ」
「それくらい意識してください。雅臣さん」
わざとらしく言われる名前にぼうっと燃え上がるように顔が熱くなって、こたつ布団の中に顔を埋める。
ベッドの中で幾度も言わされた名前と呼びかけられた名前を思い出して身体までこたつの熱ではないものに襲われそうだった。
夕方、鹿沼と一緒にキッチンに立っている自分がこれまでと別人になったような気がした。
会社であれこれと仕事の話はしてもプライベートなことを話す機会などそうあるものではない。
性格や物の考え方は承知していても普段の暮らしの中に入ればより違うのだと感じさせられるし、それに対して不満があっても人間を嫌いになる原因にはならないのだと知る。
「なんでぐちゃぐちゃに入れちゃうのっ?!」
「煮えたかどうだかかき混ぜちゃえば最終的には同じですよ」
夕食は海鮮鍋を作ろうという提案に頷いて、鹿沼一人をキッチンに立たせるのは抵抗があったから雅臣も隣にいた。やたらと扉を開けられないためにも…。
具材をカットしていた雅臣の手元から次々と土鍋の中に放り込んでいる鹿沼の姿を見れば思わず文句が出る。
今日はこんなことの繰り返しだった。
雅臣が丁寧に何かをやり遂げようとするところを鹿沼が要領よくサクサクと片付けていく。文句を言おうが、そのたびに今のように結果論を告げられて「でも…」と言いかければ唇を塞がれた。
これまで築き上げてきた”立場”を逆転され、まるで「俺に付いてこい」と言わんばかりの態度に悔しさはあるのに、心底嫌と思えないし納得させられている。あとは気分の問題だけだ。
鹿沼の言うことは理解できてもこればかりは性格なのだ。
普段、雅臣一人しかいない部屋がにぎやかだった。それが苦痛でも嫌でもないし、楽しいと感じているのは確かだ。
そして優しい…。
…このままではやばい…。
雅臣はへんな危機感の中にいた。
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明日のぶんを早めにあげてしまったとお許しください。
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明日の分が一足先に読めて嬉しいです♪
毎朝楽しみにしてます☆
これからどうなるのか、次回更新をお待ちしております☆
雅臣くん、素直に鹿沼くんにハマってくれるかな?
毎朝楽しみにしてます☆
これからどうなるのか、次回更新をお待ちしております☆
雅臣くん、素直に鹿沼くんにハマってくれるかな?
メグミ様
こんばんは。
間違えてあげてしまったので明日のぶんはないですっ!!
もうっ気付いた時にはひえぇぇぇっっっって感じでした。
拍手までもらっていて取り消せなかったっっ!!
いつもいらしてくださってありがとうございます。
> 雅臣くん、素直に鹿沼くんにハマってくれるかな?
はまるかっ?!雅臣っ!!
当人たち、まだ年末年始休暇なのです。
ちゃんとしたお節料理が食べられ頃にはアツアツのお鍋も冷え切る仲になってほしい…。
(書く気を失った…)
コメントありがとうございました。
こんばんは。
間違えてあげてしまったので明日のぶんはないですっ!!
もうっ気付いた時にはひえぇぇぇっっっって感じでした。
拍手までもらっていて取り消せなかったっっ!!
いつもいらしてくださってありがとうございます。
> 雅臣くん、素直に鹿沼くんにハマってくれるかな?
はまるかっ?!雅臣っ!!
当人たち、まだ年末年始休暇なのです。
ちゃんとしたお節料理が食べられ頃にはアツアツのお鍋も冷え切る仲になってほしい…。
(書く気を失った…)
コメントありがとうございました。
絆されてるな~
これでつかみは完全にOKですよね。
このまま休暇中に心もすっかりと奪われそうな雰囲気じゃありませんか。
そのまま押し捲るんだ鹿沼くん!
これでつかみは完全にOKですよね。
このまま休暇中に心もすっかりと奪われそうな雰囲気じゃありませんか。
そのまま押し捲るんだ鹿沼くん!
甲斐様
こんにちは。
> 絆されてるな~
> これでつかみは完全にOKですよね。
> このまま休暇中に心もすっかりと奪われそうな雰囲気じゃありませんか。
> そのまま押し捲るんだ鹿沼くん!
雅臣、捕まえられちゃったようです。
キッチンの扉どころか自分の心の扉をあけられちゃったよって感じです。
鹿沼のペースにしっかりはめられちゃっていますね。
このままがんばれるか、鹿沼。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 絆されてるな~
> これでつかみは完全にOKですよね。
> このまま休暇中に心もすっかりと奪われそうな雰囲気じゃありませんか。
> そのまま押し捲るんだ鹿沼くん!
雅臣、捕まえられちゃったようです。
キッチンの扉どころか自分の心の扉をあけられちゃったよって感じです。
鹿沼のペースにしっかりはめられちゃっていますね。
このままがんばれるか、鹿沼。
コメントありがとうございました。
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