大晦日の夜が終わろうとしている。29日の夜、初めて雅臣の部屋に上がり込んで以来、鹿沼は雅臣の部屋から帰っていなかった。鹿沼の下着まで洗濯物として堂々と干されている。
年越し蕎麦も鹿沼が作ってくれた。エビ天やかきあげを添えてくれた蕎麦はこの数年の中で一番豪華だった。
それに加えて早目に用意されたおせち料理が、かつてとは違って綺麗に盛りつけられている。
伊達巻卵の切り方も均等だった。
自分の家に誰かがいるということが”普通”になりかけていた。
空気みたいに動く鹿沼の存在は邪魔とも思えない。
自分のことをより知ろうとする姿勢が見えて、それも気分の悪いものではなかった。
こたつに潜り込んだ雅臣の頭を、すぐ隣でひざまくらしてくれている鹿沼の大きな手が髪を梳いた。
「もう眠いんですか?」
紅白歌合戦もまだ終わっていないのに、鹿沼が持ってきてくれた日本酒を口にしてしまえば眠気が一気に襲ってくる。
鹿沼は「自分の前であれば好きなだけ酒を飲んでいい」と言ってくれた。
もともと酒席が嫌いではない雅臣は目の前にあるアルコールのほとんどが口にできる。しかし今後は制約がつきそうだ…。
酔いが回れば回るほど人肌が恋しかった。
「ねむい…」
「うん。じゃあ、今年もお世話になりました。起きたら新年のあいさつをしましょうね」
チュッと額に落された口付けが今年の最後の言葉だった。
抱いて欲しいと思いながら、少し物足りなかったけど雅臣はその場で眠りについてしまった。
「なに、これ…」
心の呟きが音になってあらわれる。
明らかな”不安”だった。
ベッドの中で寝返りをうった先にあるはずの温もりがなかった。
最初の夜こそ気付かずに共に寝たが、次ぐ日も何もしなくても一緒の布団の中にいた。
それがいまはない…。
移り香だけが自分の中に染み込んでいて離れていかない。
けど、本体がないのだ。
まだ明け方の、薄暗い中で、探し求める肉体があった。
「鹿沼?」
ベッドからおりて隣の部屋、リビングに行ってもバスルームに行っても鹿沼の姿がない。
玄関には靴もなかった。
「うそ…」
まるで夢でも見ていたようだった。
睦言を交わし愛されていたと思った瞬間は何だったのだろう。
確かに自分ははっきりとした返事もしてあげられなかった。
曖昧に誤魔化して、答えは『いつか好きになるかも…』というものだった。
そばにいればうざくて、離れてしまえば淋しい…、それが恋人なの…?
人はいなくなるのが当然だと思いながらも、縋っていた自分がいるのが分かる。
失いたくないと思うのは、失った時に知るものなのだろう。
「龍太?」
声に出して呼べる…。それほど親しんだ名前なのに…。
…捨てられる…!!
そう思った瞬間に心臓が口から飛び出しそうなほど激しく高鳴って、目の奥から滴が膨れ上がった。
「りゅうたっ!!」
幾度でもその名を呼んでやろうと思えるくらいに叫んだが返ってくる声はなかった。
たった一日や二日だった。初めて鹿沼の名前を呼んだ日々。
強引に雅臣の心を開き抉るように過去を捨てさせ『鹿沼龍太』という男を植え付けていった。
なのに、甘える腕が今は存在しない…。
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年越し蕎麦も鹿沼が作ってくれた。エビ天やかきあげを添えてくれた蕎麦はこの数年の中で一番豪華だった。
それに加えて早目に用意されたおせち料理が、かつてとは違って綺麗に盛りつけられている。
伊達巻卵の切り方も均等だった。
自分の家に誰かがいるということが”普通”になりかけていた。
空気みたいに動く鹿沼の存在は邪魔とも思えない。
自分のことをより知ろうとする姿勢が見えて、それも気分の悪いものではなかった。
こたつに潜り込んだ雅臣の頭を、すぐ隣でひざまくらしてくれている鹿沼の大きな手が髪を梳いた。
「もう眠いんですか?」
紅白歌合戦もまだ終わっていないのに、鹿沼が持ってきてくれた日本酒を口にしてしまえば眠気が一気に襲ってくる。
鹿沼は「自分の前であれば好きなだけ酒を飲んでいい」と言ってくれた。
もともと酒席が嫌いではない雅臣は目の前にあるアルコールのほとんどが口にできる。しかし今後は制約がつきそうだ…。
酔いが回れば回るほど人肌が恋しかった。
「ねむい…」
「うん。じゃあ、今年もお世話になりました。起きたら新年のあいさつをしましょうね」
チュッと額に落された口付けが今年の最後の言葉だった。
抱いて欲しいと思いながら、少し物足りなかったけど雅臣はその場で眠りについてしまった。
「なに、これ…」
心の呟きが音になってあらわれる。
明らかな”不安”だった。
ベッドの中で寝返りをうった先にあるはずの温もりがなかった。
最初の夜こそ気付かずに共に寝たが、次ぐ日も何もしなくても一緒の布団の中にいた。
それがいまはない…。
移り香だけが自分の中に染み込んでいて離れていかない。
けど、本体がないのだ。
まだ明け方の、薄暗い中で、探し求める肉体があった。
「鹿沼?」
ベッドからおりて隣の部屋、リビングに行ってもバスルームに行っても鹿沼の姿がない。
玄関には靴もなかった。
「うそ…」
まるで夢でも見ていたようだった。
睦言を交わし愛されていたと思った瞬間は何だったのだろう。
確かに自分ははっきりとした返事もしてあげられなかった。
曖昧に誤魔化して、答えは『いつか好きになるかも…』というものだった。
そばにいればうざくて、離れてしまえば淋しい…、それが恋人なの…?
人はいなくなるのが当然だと思いながらも、縋っていた自分がいるのが分かる。
失いたくないと思うのは、失った時に知るものなのだろう。
「龍太?」
声に出して呼べる…。それほど親しんだ名前なのに…。
…捨てられる…!!
そう思った瞬間に心臓が口から飛び出しそうなほど激しく高鳴って、目の奥から滴が膨れ上がった。
「りゅうたっ!!」
幾度でもその名を呼んでやろうと思えるくらいに叫んだが返ってくる声はなかった。
たった一日や二日だった。初めて鹿沼の名前を呼んだ日々。
強引に雅臣の心を開き抉るように過去を捨てさせ『鹿沼龍太』という男を植え付けていった。
なのに、甘える腕が今は存在しない…。
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すっかり植えつけられちゃって・・・。
いや、餌付けか?
どちらにしても、鹿沼なしではいられなくなってませんか?
いい傾向。。。
だけど、どこいったんでしょうねぇ龍太。
いや、餌付けか?
どちらにしても、鹿沼なしではいられなくなってませんか?
いい傾向。。。
だけど、どこいったんでしょうねぇ龍太。
甲斐様
こんばんは。
> すっかり植えつけられちゃって・・・。
> いや、餌付けか?
鹿沼、見事に餌付けにに成功したようです。
やっぱり男の人は食べ物から釣るのがいいんでしょうか。
> どちらにしても、鹿沼なしではいられなくなってませんか?
> いい傾向。。。
> だけど、どこいったんでしょうねぇ龍太。
どんだけお世話を焼いちゃったんでしょうか。
雅臣も四六時中一緒にいた人なんて久しぶりでしたからね。
ズカズカ入り込まれたことで心が振動しているようです。
鹿沼の努力は報われるのか?!
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> すっかり植えつけられちゃって・・・。
> いや、餌付けか?
鹿沼、見事に餌付けにに成功したようです。
やっぱり男の人は食べ物から釣るのがいいんでしょうか。
> どちらにしても、鹿沼なしではいられなくなってませんか?
> いい傾向。。。
> だけど、どこいったんでしょうねぇ龍太。
どんだけお世話を焼いちゃったんでしょうか。
雅臣も四六時中一緒にいた人なんて久しぶりでしたからね。
ズカズカ入り込まれたことで心が振動しているようです。
鹿沼の努力は報われるのか?!
コメントありがとうございました。
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