好きなのかと問われたらハイとも答えられない。けど自分にとって必要な存在なのかと聞かれたら間違いなく「YES」と答えるだろう。
心の拠り所として成り立ち始めたからだ。
鹿沼は雅臣の心をこれでもかと揺す振った。
嫌な過去がよみがえる。あの胸の痛みをまた感じたくない。だから人に気持ちを寄せるのが怖いのに…。
すでに鹿沼に縋っている自分を一生懸命もとに戻そうと言い聞かせていた。傷つくのは嫌だ。
雅臣は何をする気もなくしてしどけなくこたつにうずくまっていた。
シーンと静まり返った部屋が当たり前だったはずなのにその静けさがたまらなく不安にさせる。テレビを付けたところで何一つ頭に入ってこなかった。
自分が何に脅えているのか認めたくなかった。
どこに行ってしまったのだろう。休み中は外に出ないくらいのことを言っていたのに…。
起きてから10分くらいが経っただろうか。
玄関の鍵が閉まっていたことすら知らなかった。
カチャリと解錠する音がして玄関のドアが開く。半開きだった玄関とリビングを繋ぐドアが空気の流れで動いて、帰ってきた鹿沼を招き入れた。
「あ。起きてた?」
明るい声はいつもと変わらない。雅臣を視界に入れると共に万遍の笑みがこぼれる。
ホッとしている自分がいた。
「あけましておめでとうございます」
新年のあいさつなどどうでもよく感じて、なんで自分が起きた時に傍にいてくれなかったのだろうかという自分勝手な我が儘が浮かんだ。
「……め、でと…」
一応、言葉に出してみたつもりだが、到底通じるようなものではないほど掠れて小さくて、そんな声を発してしまった自分に嫌気がさして俯く。
安心したと同時にまた涙が浮かびそうでこんなに感情的になっている自分が信じられなくもあった。
そんな雅臣の姿を見て、表情を曇らせた鹿沼が雅臣の傍に寄った。鹿沼に明らかに様子がおかしいと教えているようなものだ。
「どうしたの?…濡れてる」
雅臣の顔を覗き込んだ鹿沼が、濡れた睫毛に気付いて指を伸ばしてくる。頬を包まれるように持ち上げられて、視線を合わせることが怖くてスッと顔ごと反らした。
心の中まで全部見透かされそうだ。鹿沼は雅臣の欲しいものをくれるだろうと分かるだけに、それに縋ってしまう自分になりたくない。
「醤油が切れちゃったんです。淋しかった?」
「…あくびしたから」
雅臣が起きた時にいなかった理由を告げられ、更に気持ちまで当てられて拗ねた。
「素直じゃないですね」
クスッと笑った鹿沼の顔が近づいてくる。触れるだけの口付けをもらって、余計に淋しさが募った。
…いやだ…、堕ちるのは嫌だ…。
「お雑煮がいいですか?おしるこ?おしるこは即席のになっちゃうけど…」
正月らしいメニューを口ずさみながら鹿沼は言ったけど、そんな食欲もわかなかった。
なんだろう…淋しいほうがうえにたっている。
思わず手を伸ばして「もっと」と強請りそうな自分を押さえるのに必死だった。
こんなふうになる自分がおかしい…。
「雅臣さん?」
何の返事もしない雅臣を怪訝そうにまた鹿沼が見た。
「すみません。黙って出て行っちゃって。すぐに帰ってくるつもりだったから」
自分がどんな顔をしているのか分からないが余程不安そうな顔をしていたのだろう。鹿沼は立ち上がりかけた身体を止めた。
これ以上そばにいられたらもっと寄り添ってしまいそうで、そんな人間になることが怖くて鹿沼にそっと背を向ける。
「こんなに早く起きるとは思わなかったんで。でも嬉しいもんですね。雅臣さんに心配してもらえるなんて」
「…してないもん…」
心配なんてしていない…。自分に言い聞かせるようだった。
背中から抱きしめられたら、虚勢を張っていたものが崩れ落ちていくようだった。
鹿沼の温かさを身体の方が覚えてしまっている。
こらえていたはずなのにぷくっと浮く涙は鹿沼を思ってではないと言いたいのに声ももう出ない。
長いこと、人に甘えることのなかった心が一度味を知ったらその泥沼の中に戻りたがった。
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心の拠り所として成り立ち始めたからだ。
鹿沼は雅臣の心をこれでもかと揺す振った。
嫌な過去がよみがえる。あの胸の痛みをまた感じたくない。だから人に気持ちを寄せるのが怖いのに…。
すでに鹿沼に縋っている自分を一生懸命もとに戻そうと言い聞かせていた。傷つくのは嫌だ。
雅臣は何をする気もなくしてしどけなくこたつにうずくまっていた。
シーンと静まり返った部屋が当たり前だったはずなのにその静けさがたまらなく不安にさせる。テレビを付けたところで何一つ頭に入ってこなかった。
自分が何に脅えているのか認めたくなかった。
どこに行ってしまったのだろう。休み中は外に出ないくらいのことを言っていたのに…。
起きてから10分くらいが経っただろうか。
玄関の鍵が閉まっていたことすら知らなかった。
カチャリと解錠する音がして玄関のドアが開く。半開きだった玄関とリビングを繋ぐドアが空気の流れで動いて、帰ってきた鹿沼を招き入れた。
「あ。起きてた?」
明るい声はいつもと変わらない。雅臣を視界に入れると共に万遍の笑みがこぼれる。
ホッとしている自分がいた。
「あけましておめでとうございます」
新年のあいさつなどどうでもよく感じて、なんで自分が起きた時に傍にいてくれなかったのだろうかという自分勝手な我が儘が浮かんだ。
「……め、でと…」
一応、言葉に出してみたつもりだが、到底通じるようなものではないほど掠れて小さくて、そんな声を発してしまった自分に嫌気がさして俯く。
安心したと同時にまた涙が浮かびそうでこんなに感情的になっている自分が信じられなくもあった。
そんな雅臣の姿を見て、表情を曇らせた鹿沼が雅臣の傍に寄った。鹿沼に明らかに様子がおかしいと教えているようなものだ。
「どうしたの?…濡れてる」
雅臣の顔を覗き込んだ鹿沼が、濡れた睫毛に気付いて指を伸ばしてくる。頬を包まれるように持ち上げられて、視線を合わせることが怖くてスッと顔ごと反らした。
心の中まで全部見透かされそうだ。鹿沼は雅臣の欲しいものをくれるだろうと分かるだけに、それに縋ってしまう自分になりたくない。
「醤油が切れちゃったんです。淋しかった?」
「…あくびしたから」
雅臣が起きた時にいなかった理由を告げられ、更に気持ちまで当てられて拗ねた。
「素直じゃないですね」
クスッと笑った鹿沼の顔が近づいてくる。触れるだけの口付けをもらって、余計に淋しさが募った。
…いやだ…、堕ちるのは嫌だ…。
「お雑煮がいいですか?おしるこ?おしるこは即席のになっちゃうけど…」
正月らしいメニューを口ずさみながら鹿沼は言ったけど、そんな食欲もわかなかった。
なんだろう…淋しいほうがうえにたっている。
思わず手を伸ばして「もっと」と強請りそうな自分を押さえるのに必死だった。
こんなふうになる自分がおかしい…。
「雅臣さん?」
何の返事もしない雅臣を怪訝そうにまた鹿沼が見た。
「すみません。黙って出て行っちゃって。すぐに帰ってくるつもりだったから」
自分がどんな顔をしているのか分からないが余程不安そうな顔をしていたのだろう。鹿沼は立ち上がりかけた身体を止めた。
これ以上そばにいられたらもっと寄り添ってしまいそうで、そんな人間になることが怖くて鹿沼にそっと背を向ける。
「こんなに早く起きるとは思わなかったんで。でも嬉しいもんですね。雅臣さんに心配してもらえるなんて」
「…してないもん…」
心配なんてしていない…。自分に言い聞かせるようだった。
背中から抱きしめられたら、虚勢を張っていたものが崩れ落ちていくようだった。
鹿沼の温かさを身体の方が覚えてしまっている。
こらえていたはずなのにぷくっと浮く涙は鹿沼を思ってではないと言いたいのに声ももう出ない。
長いこと、人に甘えることのなかった心が一度味を知ったらその泥沼の中に戻りたがった。
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たつみきえ | URL | 2010-01-24-Sun 12:49 [編集]
j様
こんにちは。
はじめましてのコメントを残してくださいましてありがとうございます。
とても嬉しいです。励みになります。
こんな駄文を応援してくださる方がいるなんて…
ぜひまた遊びにいらしてください。
拍手コメ、ありがとうございました。
こんにちは。
はじめましてのコメントを残してくださいましてありがとうございます。
とても嬉しいです。励みになります。
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拍手コメ、ありがとうございました。
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