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BLの丘
【バレンタインコラボ企画】 5
2010-02-12-Fri  CATEGORY: コラボレーション
バレンタインデー当日の昼前に、「ちょっと買い物に…」と千城に声をかけてみれば、「あぁ、行って来い」と何の質問もされずに家から出された。
いつもどこに行くのか何をするのか誰に会うのか…のしつこさから思えばあまりのあっけなさに少しの違和感を持ったがそのまま薫とケーキ作りを楽しむために本邸に向かった。
薫は本邸の門の前で挙動不審者のようにおろおろとしているところだった。屋敷の造りに驚いていたものの、製作には集中したようで、無事終了して、運転手に楯山の店に運んでもらった。
英人は一旦家に戻り千城と共にディナーに行く準備をした。
…まだ、薫と結城が一緒に来ることを千城には伝えていない…。
何を言われるかとビクビクしながらも、作ったケーキを見てしまえば怒ることはないだろうと思っている。もっとも千城が英人に怒ったことなどないに等しい。

店に着くとすでに結城と薫は到着していた。
ウェィティングルームで待っていてくれたらしい二人は英人たちを視野に入れるとすぐに立ち上がって挨拶をしてきた。
「本日はありがとうございます」
二人とも個展で見かけた時のようにきっちりとしたスーツで身を包んでいた。薫と会っていた間がひらひらのぴんくのエプロン姿だったからなんだかおかしさに笑みがこぼれる。
わざとらしくも聞こえる結城の言葉に、ちらりと千城を見上げれば、まるで全てを知っていたかのように笑顔を浮かべてテーブル席への案内を待った。
用意された席は楯山が気を使ってくれたのだろうと分かる一番奥の、他の客からも離れた場所だった。空間を仕切るように置かれた緑も視線を遮ってくれる。

席に着いてからも千城と結城のさりげないやりとりは止まらなかった。
「も、もしかして、千城ってば薫君たちが来ること、知ってたの?」
英人が千城の何のそつもなく応対する姿に思わず疑問の声を上げればフッと笑われた。いくらゲストに慣れているとはいったって…。二人きりで過ごすはずと思っていた場所に部外者が来れば機嫌も悪くなりそうなのに…。
「もちろん」
「なんでっ?楯山さんには内緒にしてってお願いしておいたのに…」
当然のように答えられれば楯山に対しての信用のなさが浮かんでくる。千城が問うのは覚悟の上だったが黙っていてくれると信じていたのだ。やけになって不貞腐れれば「それは違う」と諭された。
「楯山さんには聞いていない。結城さんと話をしていた時にたまたま、ね」
「だったらそう教えてくれればいいのにっ!」
尚更悪い…。いつだってなんだってこうやって隠しちゃうんだ…。黙っていたことが馬鹿みたい…。
勢いに任せて千城の腕を数度叩けば目の前にいた薫が目をパシパシと瞬かせていた。
英人と千城のやりとりに驚いているようでもあったが、隠していたつもりの自分がしっかりと見破られて、さらにうまく誤魔化されていたことを知る今の英人には薫にまで気を使ってやれる余裕はなかった。

ちょうど良いタイミングで食前酒が届けられ、英人の機嫌を直すように千城が膨れた英人の頬を指先でそっと撫でた。
すでに食事の席は始まっているのだと言いたいのだろう…。薫と結城を前にすればむくれているわけにもいかない。
結城も薫も接客業と変わらない世界にいるだけに会話の作り方が上手だった。
千城もいつもよりもずっと相好が崩れているようで、食事中ずっと穏やかな雰囲気が流れ続けた。
薫は時折見たこともないような形の料理に結城の手助けを受けていて、微笑ましい気分になる。
英人も面倒でやりたくないことは千城に頼んだ。お皿を交換してもらったというほうが正しい。
「ねぇ…」とそっと囁けば分かったように「ちょっと待っていろ」と料理の身を崩してくれる。親の前でこんなことはご法度だが人前で甘えられる空間は一層英人を我が儘にしそうだ。
一通りの食事を終え、届けられたデザートには千城も結城も一瞬言葉を失っていた。
どう見てもこれまで食していた整った料理とは明らかに違ういびつな物が出てきたからだった。
いや、うまくはいっている。形が崩れているとかそんなこともない。デコレーションもそれなりにされてはいるが、『素人作品』とはっきりと分かるものだけに、目の前に出たチョコレートケーキに黙ったのだ。
「もしかして、まさかこれ…」
先に口を開いたのは結城だった。結城はすぐに隣にいる薫を見て、恥ずかしそうに照れている姿を視界に収めれば、これまでにも見たことのない極上の笑みを湛えていた。薫がこの顔を見たかったのだとすぐに分かる。
そこに楯山が顔を出した。
「こんばんは。本日はようこそ」
決まり切った挨拶をしながらも、楯山からこのケーキが自分の店で教えながら作ったものでなく、二人が持ちこんだものだと聞けば、さすがの千城も驚きを隠せなかった。
その態度をみれば英人が楯山と何かをしようとしていたのだと想像していたようだが、人の手を借りずに作り上げたと耳にすれば感動はひとしおだったようで「最高だ」と千城からも声がこぼれた。
多少の脚色(本邸のコックに手伝ってもらっている)はあるにしても、心から喜んでくれたことに英人の心もとても暖かくなった。



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妄想スパイラル SKY様編
 

次の週も1日楯山さんに教わって、そして本番、バレンタインデー当日がやってきた。
 俺は結城さんには買い物に行くと言って家を出た。バレンタインだから……と言うと、結城さんもそれ以上聞いてはこなかった。
 英人に聞いた住所を頼りに行った榛名本邸は……今まで見たことがないほどすごい豪邸で……俺は門の前でついうろうろとしてしまった。表札を確かめようにも門には何も書かれていないし、郵便受けすらない。堂々たる門にはまるでお寺にある仁王像のような厳つい顔の守衛さんが立っていて、俺の方に鋭い視線を向けてくる。もしこの守衛さんに話が通っていなかったら、俺なんかひとたまりもなくつまみ出されてしまいそうだし、よしんばこの門をくぐれたとしても途端に警報が鳴るんじゃないかとか、ドーべルマンかなんかが走ってくるんじゃないかと想像してかなりドキドキした。裏口もあるんだろうけど、敷地がものすごく広くてぐるっと回ったらかなりの時間がかかりそうだったので探すのはやめにした。
 門の前を行ったり来たりしているうちにやっと英人が来た。ほっとした俺を見て英人は可笑しそうに笑っていた。
 家の中も勿論すごかったけれど、驚いたのは厨房だ。教わったレストランよりも広くて、そこで働いている料理人もたくさんいた。俺はちょっと感動しながらも英人と一緒にチョコケーキを作ることに専念した。
ココアパウダーを振りかけて出来上がりだ。デコレーションをどうするか最後まで英人ともめた。何も書かないでいいとか、ホワイトチョコでハートマークとか、いろいろ案は出たけれどどれもこれもなんだかぱっとしない気がして、もうこうなったらでっかく『LOVE』と書こうということになった。丁度4人で4等分にするんだし。ホワイトチョコだと字が目立ちすぎるのでここはやはり大人っぽく同じチョコを使って書くことにした。
 ……我ながら上出来だ。英人と二人で出来映えに満足しつつ、榛名家の運転手に頼んでレストランに持っていってもらった。

 結城さんに怪しまれないように小さなチョコを買って帰り、これ見よがしにクローゼットに仕舞いこんだ。甘ったるい匂いには結城さんも気が付いた筈だが、あえて聞いてはこなかった。
 そして夕方になってから着替えてレストランへと向かった。少し遅れて英人たちもやってきた。結城さんが丁寧にお辞儀して千城さんにお礼を言い、千城さんがそれににこやかに応えると英人はびっくりしたような顔をして千城さんを見た。どうも英人は千城さんに今日俺たちも一緒だということを言っていなかったようで(それすらもサプライズにしたかったのかもしれない)、それをなんで千城さんが知っているのかと訝しんだ。結城さんから聞いたと千城さんが言えば、「知ってるなら知ってるって言ってくれればいいのにっ!」と拗ねたように言いながら千城さんの腕をポカスカ叩いている。千城さんは英人のそんな様子に怒るでもなく、それどころかにっこりして、そのやり取りを楽しんでいるようだった。俺はちょっと眼が点になりながらその様子を見てしまった。この前見た、人を寄せ付けない、圧倒されるような雰囲気の千城さんとはまるで別人のようで……英人が可愛くて堪らない、そんな気持ちがありありと見て取れた。
 俺は見ているのがなんだか照れ臭くなってきて、結城さんに視線を移した。結城さんはもうそんなことはとっくに知っているというように、いつもと同じ穏やかな微笑を浮かべて俺を見つめていた。

 ディナーはとても美味しくて、4人の会話も終始和やかに進んだ。
 そして、いよいよ問題のデザートの時間。俺と英人はちらりとお互いに目配せしあった。バレンタインマル秘チョコケーキ……ちょっといびつだけど俺と英人の愛がたくさん詰まった手作りケーキの登場だ。
 それまで和気あいあいと楽しく会話をしていた結城さんと千城さんが、急に黙ってしまった。……うう……やっぱり形が変だった?……それとも『LOVE』っていうのが……?沈黙が俺の膨らんでいた気持ちをしゅるしゅるとしぼませていく。
「……もしかして……これ……」
 沈黙を破ったのは結城さんで、そう言いながら俺を見た。俺は赤くなって小さく頷いた。
「……英人くんと一緒に……作ったんですけど……」
 結城さんは俺の答えを聞くと、それはもう嬉しそうににっこりと微笑んだ。俺の大好きな、優しくて幸せな気持ちになるその笑顔で結城さんはそっと囁いた。
「……ありがとう。……とっても嬉しいよ」
 俺はそれだけで、凹んだ気持ちがまたすっかり舞い上がってしまった。


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コメント

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究極のケーキ!
コメント甲斐 | URL | 2010-02-12-Fri 11:43 [編集]
相変わらず英人君はテーブルマナーは苦手なんですね。
ワタシも骨付きの肉なんか出てきたら思わず手でつかんで噛み付きたくなりますけどね・・・。優しい恋人が綺麗に(標本にしたいくらいに)切り分けてくれたら、ますます美味しくいただけるんでしょうね~

大人の二人はかわいい恋人が一生懸命作った愛情たっぷりの作品にご満悦なご様子。
多少不恰好でも世界で一番美味しい最高のケーキでしょう。
Re: 究極のケーキ!
コメントたつみきえ | URL | 2010-02-12-Fri 12:23 [編集]
甲斐さま
こちらにもありがとうございます。

> 相変わらず英人君はテーブルマナーは苦手なんですね。
> ワタシも骨付きの肉なんか出てきたら思わず手でつかんで噛み付きたくなりますけどね・・・。優しい恋人が綺麗に(標本にしたいくらいに)切り分けてくれたら、ますます美味しくいただけるんでしょうね~

完璧なまでに処理してくれる千城サンなので、英人は思いっきりお料理を堪能できることと思います。
あまり気取らないレストランの設定のはずだったんですけど(聖と訪れた頃は…)、まぁバレンタインだし、とにかく甘え縋る英人と甘やかす千城を出してみたかっただけです。
でも私が書くとなんでこんなに軟らかくも甘くもなんないんだろう…(反省)

> 大人の二人はかわいい恋人が一生懸命作った愛情たっぷりの作品にご満悦なご様子。
> 多少不恰好でも世界で一番美味しい最高のケーキでしょう。

世界にたった一つしかない最高級のケーキです。
なによりもとにかく『甘い』んでしょうね。
お互い「あーん」ってしているシーンでも書けばよかったかな…と今更ながらに思っています。
まぁ、その辺は読者様の想像ということで…。
コメントありがとうございました。
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