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BLの丘
【バレンタインコラボ企画】 2
2010-02-09-Tue  CATEGORY: コラボレーション
千城は結城を連れて奥の『関係者以外立入禁止』のドアを開けた。
個展に来てもらったのに先に絵を見せないのは失礼と承知しながらも、「話したいことがある」と前置いて断りを入れれば結城は笑顔で頷いてくれた。
英人と薫を残してきてしまったが、英人も人を相手にすることに慣れてきている。同い年くらいの子だったから何かと話題を見つけるだろうと期待した。
千城と結城が顔を合わせるのは4年ぶりのことだった。
もともとは実家同士での付き合いがあったが、榛名家でも結城の両親が他界してからは疎遠になっていた。
アメリカから戻って榛名の中で会社を立ち上げた頃に結城が千城の元を訪ねたのが再会の時だった。最初の取引こそ結城と顔を合わせて行ったが、それ以降は自社の社員に任せてしまった。これといって親しく付き合う趣味などもなかったから故意的に出会いの場を設けてはこなかった。何かあれば電話で用件が済んでしまうくらいだった。
ドアの先は事務所として使われていた。部屋の奥にパーティションで仕切られた応接セットがある。会場にもテーブル席は用意されているが人前で話したい内容ではない。

二人が並んで事務所に入っていけば、二人の風貌にほとんどの人間が一瞬の絶句する間を持った。
千城の姿は見慣れていたが『事務所』というビジネスの世界で普段の威圧感ある表情を崩すことはない。それが笑みを浮かべて会話をしながら入ってきたのだから驚かされる。加えて連れていた隣の男がこれまた目を見張る容姿をしていたからだ。
二人とも180センチを越す長身だったし、こうした会場に相応しいと思える仕立ての良いスーツを身にまとっている。結城にも装飾品に劣ることのない品格が滲み出ていた。事務所にいる人間には滅多に見ることのできない光景といって良かった。

千城は事務所の入り口付近にいた女性にコーヒーの用意を頼み結城を奥のソファへと促した。一瞬の遅れもないようにと動く女性の目は結城を追っていたが手は緊張に震えていた。
千城はソファに座ると、それまでしていた雑談を終わりにして「早速ですが…」と話を切り出した。
「一つは今度開発するタワービルの管理をお願いしたいと思っております。こちらにはテナントも数多く入ることになりますし、上層階には住居としての賃貸物件もあります。工事などのメンテナンスも一括して管理していただける結城さんの会社が一番だと思っていました」
「ありがとうございます。また新しく紹介していただけて光栄です」
結城は恭しく頭を下げてきたが、それだけの話であれば自分が呼ばれる必要性のないことに疑問を持ったようだった。
結城が表向き見せていない訝しさを感じ、本来自分が口を出す必要のないビジネスの話は前置きに過ぎないと千城が話を続けた。
「実は個人的に所有しているビルがあります。今は英人の名義になっていますが管理は全部私が行っておりました。英人のアトリエ用にと買い与えたものなのですが、実際には5階あるうちの1階部分しか使用しておりません。将来のために2階部分は空けておいていただいても3階から5階までを何か有効活用ができないかと思いまして…」
「貸し出しをされるということですか?」
「どちらでも。どうにも人の手が入らないと建物も傷みやすくなりますからね。それにやたらな人間は入れたくないというのがあります」
「分かります。英人さんが出入りする以上…ということですよね」
千城の言わんとすることを汲み取った結城が頷いてくる。できることなら必要以外の人間に英人をあまり会わせたくないのが千城の深層心理だ。
足らない会話の中でも次々と先を見越してくれる結城を、千城は頼りにしていた。
「ええ。賃貸として扱って頂いくのが一番良い手段かと考えていました。その場合にはほとんどの金額を結城さんの方で手にしていただいて結構です。私も無駄に経費をかけ続けるよりは多少でも利益を生み出した方がいい」
英人の為なら金に糸目をつけない千城だったが、利益が出る可能性がある以上、これまでに培った知識が頭を巡った。
本来ならば維持費しかかからないものを、結城の手に渡すことで英人を見守る意味での『人の下』に置ける。ビルに人間が居れば、たとえ英人に会わなくても何かしら空気というものは伝わるだろう。
心配する点は入る人間の身元と対処すべき時点での時間だ。
千城は頷くだけの結城に更に言葉をかけた。
「ビル管理については専門の業者の方が何かと対応に早いものです。そして個人的に頼みたいことは何よりも最優先にしていただきたいこと。特に退去を求める相手などには…。そのための迷惑料と取っていただいても構いません。きっと結城さんのことですから信用のある方を入れてくださると信じておりますが」
千城は少しだけ笑みを湛えながらもスッと眉の端を上げた。
結城がこの話を断れないことを千城は感じていた。結城が今の地位にいるのは過去に『榛名』から多額の金額が動く仕事を手に入れたからに等しい。
さらにまだ誰にも話をしていない物件があることも明かした。これが結城の口からもたらされればまた会社での扱いは変わるだろう。
別に脅しているわけではない。話の内容はあくまでも『依頼』だ。
一呼吸の間を置いてから結城は「畏まりました」と声を漏らした。渋々というようにも迷惑がっている雰囲気も感じられなかった。それどころか人を魅了するような微笑ましい空気を纏わせた。
「お気持ちは良く分かります。きっと私も千城さんの立場なら同じことを申し上げたでしょう」




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妄想スパイラル SKY様編

 それから英人に案内してもらい、絵画を鑑賞した。俺には技術的なこととかその価値だとか、そういうものは何も分からなかったが、それでも英人の絵には心を揺さぶられる何かを感じた。行ったことも見たこともない異国の景色に、どこか懐かしく、安らげるものを感じ、景色の中に描かれた人物がまるで見知った人のようにすら思えた。
「すごいなぁ……」
 しきりに感心する俺に英人が笑いかける。
「薫くんは何か描いたりしないの?」
「俺?描かない……っていうより普通描けないって」
 同年代のよしみで、英人とはいつの間にかもうすっかり打ち解けてしまった。それに……それだけじゃなく、お互いに同性と付き合っているという共通項もあってか、俺は余計に親しみを覚えていた。
「……英人くんは『千城』って呼び捨てなんだね」
 ……あんな怖そうな人をよく呼び捨てで呼べるよなぁ。
「うん、薫くんは何て呼んでるの?」
「俺は信哉さん。上司だし……ちょっと呼び捨ては抵抗が……」
「そうなんだ?たまには呼び捨てで呼んであげてもいいんじゃない?」
「ええええ……恥ずかしいよ……」
 そんな、会社などではとても話せないような話もしながらつらつらと絵を見て周り、一枚の絵の前に来た。それは、親子3人で誕生日らしいケーキを囲んでいる絵で、見ているこちらまでが幸せな気持ちになるような温かい絵だった。
「……この真ん中の子、英人くんだよね?」
「うん……小さい頃のこと、思い出して描いたんだ」
「そっか、とっても嬉しそうだね……このケーキもすんごく美味しそう!」
 俺はそこまで言って、ふと思い出した。
「ね、もうすぐバレンタインだけど、千城さんに何あげるの?」
「うーん……まだ考えてなかったけど……手作りのものにしようかなぁ……」
「えっ?もしかしてケーキとか作れるの!?」
 俺はつい素っ頓狂な声を上げてしまった。
「……作れないこともないけど……」
「すごい!俺、なんちゃってケーキ(作者注:『アンダンテ grazioso』参照)しか作ったことなくって……やっぱ絵とか描ける人って手先が器用なんだよな、うん!」
 俺は興奮して英人の手を握り締めた。
「俺に作り方教えてくれないかな?……俺も信哉さんに手作りのものあげたいんだ!」
 英人は俺の剣幕に少しびっくりしたような顔をしたが、すぐににっこりして言った。
「じゃあさ、この際だからきちんと教えてもらおっか?」
「へ?誰に?」
「フランス料理のコック長にね。昼間の時間なら厨房を貸してくれるんだ」
 英人はこともなげに言った。
「フ、フランス料理?コック長!?……そ、それってなんかすごすぎない?」
「そんなことないよ、とってもいい人だよ?」
 ……そういう意味じゃなくて……。
「あ!バレンタインデーに、そこのレストランでディナー一緒にしない?デザートに、俺たちの作ったケーキ、サプライズで出してもらおうよっ!」
「はあぁ!?」
 俺はつい間抜け面をしてしまった。英人は嬉々として続ける。
「ねえ、そうしよっ?二人で作った方が楽しいし、きっと結城さんも千城もびっくりするし、喜んでくれるよっ?」
「……そ、それはそうかもしれないけど……」
 フランス料理のディナー……なんて……一体いくらかかるんだ!?いつもなら結城さんが出してくれるからお金のことなんか考えたこともなかったけど……ケーキ代とかも別料金取られそうだし……。
 俺の心の声が聞こえたのか、英人は小首を傾げた。
「もしかして、お金のこととか心配してる?大丈夫だよ、俺からも控えめにして、って頼んでおくから!」
 ……そ、そうか……英人もきっと千城さん任せで知らないんだろうなぁ……。
「ねっ?いいでしょ?一緒に作ろう?」
「う、うん……」
可愛らしい顔でねだられて(?)は、頷くしかない。
「じゃあ予約入れておくね?なんだかワクワクするなぁ……」
 英人は嬉しそうに言った。
 ……まあ、いいか。英人もこんなに嬉しそうだし、俺も結城さんに喜んでもらいたいし……それになにしろ初めてのバレンタインなんだしな……。

 そうして俺と英人はバレンタインマル秘チョコケーキ作戦(仮)を開始することになった。


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コメント

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結城さんと千城さん
コメント甲斐 | URL | 2010-02-09-Tue 01:12 [編集]
似たもの同士なんですね。
大切な人への想いやどれだけ独占したいと思っているとか。。。。
Re: 結城さんと千城さん
コメントきえ | URL | 2010-02-09-Tue 07:31 [編集]
甲斐様
連コメありがとうございます。

> 似たもの同士なんですね。
> 大切な人への想いやどれだけ独占したいと思っているとか。。。。

良く似ている二人です。
うちもあまり千城視点がなかったのでたまにはいいかな…と思って書いてみました。
甲斐様と同じように思っている方がそのうちまたもう一人現れますのでどうぞご期待ください。
っていうか、千城ってば相変わらずの過保護ぶりで…
チョコレート並みに甘くしたいのに私が書くと全く甘くならない…(涙)
コメントありがとうございました。
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