野崎は明日も仕事が早くからあるから…と22時を過ぎたところで帰っていった。
店の閉店時間は0時だったから、神戸が日野を待つにもまだ長い時間が残っている。
それに神戸だって翌朝は出社しなければならない。夜遅くまで付き合わせるわけにはいかなかった。
「どーせ、英人君は来ないしさーぁ。どーせならこっちから、もうこなくていいよって電話してあげようかなー。さすがにベッドの中だよね～。電話に出ないかな～ぁ?鳴らし続けてやろうかな～ぁ」
「飲みすぎっ」
カウンターの上に腕を伸ばし、その上に頭を乗せた神戸がたらたらと愚痴をこぼし始めた。
野崎がいなくなれば、日野の客相手の丁寧な口調もどこか崩れる。
神戸も気を許したように身を投げた。

「ねぇ…、あっちのボックス席で少し眠らせてよ。2時間もすればあがりでしょ?」
「神戸さんだって明日仕事でしょ」
「だから先に寝ておくよ」
言いながらも目を閉じている。
飲んで眠ってしまった神戸を2時間ほどの睡眠で起こすのは気の毒だった。そして神戸のこんな発言は一度起こせば朝まで日野を解放しないことを意味している。

戸惑いながらもあまえてくる神戸に興奮を纏った日野はどうするべきかと悩んでしまった。
広く開いた襟元からのぞく肌は酔いを帯びてより一層エロティックにしか見えない。
そんな時、店の奥へと繋がるドアがカチャリと開かれた。
普段は滅多に姿を現すことのないオーナーの水谷が立っていた。
すでに年は50代になってはいるが、鍛えられた筋肉や長く伸ばされて一つにまとめられた黒髪、今でも独身で若いエキスをあちこちから吸い取っているせいか、年齢不詳のところがある。
もともとは彼が切り盛りをしていた店だ。
今では常連の、本当に親しい仲の人間が来ない限り、または日野がいきなり訪れるハリケーンに襲われた時以外に店には顔を出さない。
彼は色々と事業を抱えたようでほとんど裏にかまえた事務所にこもりっきりだった。

「もう今日は店じまいにしよう。こんな日に客はもう来ないよ。光熱費をかけるだけ無駄だからあがっていいよ」
年齢を重ねた落ち着きのあるバリトンが静かな店内に響いた。
それから眠りに付きそうな神戸へと視線を落とす。
「日野くんの客だろ?たまには孝行してやりなよ」

日野の勤務時間は、普通の暮らしをする人間であれば一番寛げる時間だった。
それは当然、「普通の暮らし」をする人間とは合わないことを意味する。

いつも日野は神戸を待たせた。
神戸は文句を言うこともなく、たとえ睡眠時間が短くなろうとも、日野を待ってくれた。

…なんで神戸はそこまでしてくれるのかなぁ…

日野はオーナーに礼を言うと、タクシーを呼んだ。
着替える間も惜しくて、着込んだダウンジャケットで上背を覆い隠し、眠ってしまったはずの神戸の腕を肩に回して運んだ。
眠っていたと思っていた神戸が店を出て一緒に車に乗った途端にぱちっと目を開いた。
「こういう早上がりの方法もあるんだぁ」
嬉々とした表情は酔いも眠気も纏っていない。

タクシーのドアは閉まった。

小悪魔に騙されたことを車内で知った日野だった。

-完-
終わりです。
このあと日野になにが起こったかは読者様の活性化された頭でご想像いただくしかありません。(←無責任)
しかも被害者らしい発言がなかった…(汗)　まぁただの雑談会だったということで…(ごめんなさいm(__;)m)


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いや～楽しかった！楽しかった！
まるでワタシも雑談に参加していたかのように、あるいはカウンターの下に隠れて聞いていたかのようです。

優等生の野崎さんはやっぱり早々に帰宅ですね。だって明日はボスが来ないか遅刻してくるかもしれないしね。かわいい雛が体調崩してとかで。介護休暇？エサを運んだりねー。

若いエキスを吸っている年齢不詳の50代オーナー様。
なんかすごく惹かれます。実業家で趣味（とは書いてませんが）でバーを経営。
そこはかとなく萌えオーラ纏って見えます。
「たまには孝行してやりなよ」だって。さすが年の功？

そして今夜も日野さんは、悪魔に導かれて天国へですか？

甲斐様
おはようございます。

> いや～楽しかった！楽しかった！
> まるでワタシも雑談に参加していたかのように、あるいはカウンターの下に隠れて聞いていたかのようです。

楽しんでいただけましたでしょうか。良かったです～。
こんなつまらない結果に終わったようで気が引けていました(無駄に長くなったくせに…)。

> 優等生の野崎さんはやっぱり早々に帰宅ですね。だって明日はボスが来ないか遅刻してくるかもしれないしね。かわいい雛が体調崩してとかで。介護休暇？エサを運んだりねー。

いつも重役出勤の方がいるので、前もって色々と準備が必要な野崎です。
けど明日は特に…。
介護休暇。←ツボでした(爆)

> 若いエキスを吸っている年齢不詳の50代オーナー様。
> なんかすごく惹かれます。実業家で趣味（とは書いてませんが）でバーを経営。
> そこはかとなく萌えオーラ纏って見えます。
> 「たまには孝行してやりなよ」だって。さすが年の功？

オーナーに萌え頂きましてありがとうございます。
ちょっと渋い系(?)出してみました。
店の奥の事務所、何に使われているのか、事務所。
若い子いたりして…。
本当はお店にいられちゃ困っちゃうのはオーナーだったりして(?!)
いえいえ、若者に気を使ってくれるとても心優しいオーナーです。

> そして今夜も日野さんは、悪魔に導かれて天国へですか？

日野はどんな天国へいったのでしょう。
だってバレンタインデーですから!
コメントありがとうございました。

S様
おはようございます。

>こんばんは～☆彡神戸って小悪魔だったのね～。また、大暴露大会やってくださいね～♪

神戸はいたずら大好きっ子みたいになってきました。
こんなキャラだったっけ???と私も思っていたり…。
いつかまた、こんな席を設けたいと思います。
コメントありがとうございました。

ちぃさま
おはようございます。

>いいっ！神戸さん。どこまで貴方は小悪魔なのっ！？ 日野くん、頑張って！英人を包み込むような余裕は、神戸さんには向けられないと言うか、通用しないんか！勝てないのか。。 100年早いのか。。ヤバい可愛すぎる神戸さん。ぜひ、神戸目線、小悪魔の心理が知りたい！

日野にエールをありがとうございます。
大人の神戸を包むというよりは包まれている日野です。
日野のペースは全く通用しません。
神戸のイメージ、崩れていないですか?
神戸視点のリクエストまでありがとうございます。
小悪魔の心理、ちょっとこわくて書けない…。
ずーっと日野目線ですからね。いつか書きたいです。
コメントありがとうございました。

MO様
こんばんは。

>楽しお話を、ありがとうございました。新たに年齢不詳の素敵なオーナーも登場して、今後も折に触れて「被害者同盟の会」を、お願いしたいです。オーナーの目には、神戸と日野は、どんな風に映ってるのでしょうね～？

駄文にお付き合いくださいましてありがとうございます。
新たなキャラが登場いたしました♪
また何かの機会に書いていきたい「被害者同盟」です。
参加者が増えるのもいいかも?!
日野と神戸はどんな目で見られているんですかね…。
年を重ねているだけに神戸の思惑も見透かされていそうですが。
コメントありがとうございました。