2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
かけがえのない日々の訪れ 16
2010-02-25-Thu  CATEGORY: かけがえのない日々
こんな寒さの中で何をしているのかと思った。
「えっ?ちょっと…」
慌てて近寄れば、顔を上げた神戸がニッコリと笑う。
「さすが。気付いたんだ」
口調もこれまでと変わらず明るかったが、周りに気を使うのか小声だった。通りからは奥まっているとはいっても人がいると気付かれかねない。
はっきりと分かったわけではなかったが、やはり店を去る時の最後の言動には意味があったようだ。
もっと分かりやすく教えてくれればいいのに…と神戸を待たせてしまったことを申し訳なく思う。

スッと立ち上がった神戸が日野の正面に立つと、コートのポケットから名刺大くらいの厚紙を渡してきた。
良く見れば二つ折りになっていて、開くと中にはシティホテルのカードキーが入っていた。
ホテルは歩いてもここから10分とかからない。

「来るか来ないかは君の意思に任せるよ」
そう言って神戸は一旦言葉を切った。
夜の関係を続けようとする神戸が待っていてくれたことに嬉しさが募るのに、このままこの関係を続けていいのだろうかという悩みも浮かぶ。
思い悩むことに気付いている神戸が真正面から日野の瞳を見つめてくる。
普段並んで立ってもそれほど身長差のない二人だったが、勤務中の日野は靴底に厚みのあるものを履いていたからいつもより神戸を小さく感じた。

「話が途中になっちゃったけど、何であの時、野崎さんの名前なんて出たの?」
二人で交わしていた会話を振り返った神戸が単刀直入に質問をぶつけてきた。聞き方は優しいが黙らせはしないといった意思がうかがえる。
神戸にしてみれば随分な疑問だったのだと言いたげだ。
日野もこの場所に長居はできなかった。
「…この前、ここの、あの辺りで二人が話しているのを見かけたから…。なんだか深刻な話のようだったし…、その…」
あまりにも二人の位置が近かったように見えた…と続けてもいいのだろうか。だから疑ってしまったと…。
日野から説明を受け、神戸も思い当たるところがあったらしい。
「それだけ?」
小さく首を傾げながら更に問われる。
日野は答えず頷いただけだった。同時に視線が足元に落ちれば、盛大な溜め息が神戸からこぼれた。

視界の隅で神戸の手が動く。日野の頬へと伸びた手は、きゅっと頬をつねった。
「ばか」

突然の行動と呆れたような声に驚いたのは日野のほうで、何で?と逆に疑問が瞳に浮かんだ。
「確かに野崎さんとは人に聞かれてはマズイ話ってあるけど、あくまでもビジネスの範囲だからね。それと君とこうしている間に他にも手を出そうなんていう考えは一切ないから。まぁ僕の態度が悪かったとは反省していますけど。僕のことを信じてもらえなかったっていうのも悲しいね。さっきの話、まだからかっているだけと思っているの?」

日野の頬から手を離した神戸が、間合いを詰めてきた。
何をするわけでもない。
沈黙に耐えられず、日野が小さく首を振った。
「…わからない…。…俺、男、初めてなんだ…。だからどういうふうに付き合っていったらとか…」
考えることはたくさんある。そして湧きあがったのは『不安』という言葉…。
神戸に対してはただの遊びと割り切れなさそうな自分がいる。
この世界を見てきて、男とか女とか線を引くつもりはなかったが、やはり初めてのことには抵抗も生まれる。
「知っているよ、そんなこと。初めてって分かってて誘ったのは僕だし。今更なにをいうかなぁ。それに気に入らなかったらこんな付き合いしていないし。嫌悪感があるっていうなら話は別だけどさ。君は気遣いがいいからね。…悪いようにはしないって前に言ったよね?もう忘れちゃった?」

そんなことを言われたっけ…?と振り返る。
セックスを始めるための口実なのだとばかり思っていたけど…。

「君さえその気になってくれたら、隠すことはしないし、君の知りたい全てのことを教えてあげるよ」
柔らかな笑みだった。不安に晒された自分をすくいあげるような大人の強さ。
そして安堵している自分がいた。
「君の全部を守ってあげる…」
たった一言に日野の全てを委ねろという強さがあった。
日野には縋る親も兄弟もいない。

まだ迷いはあったが、日野は今度は首を縦に動かした。
神戸は残った二人の間を埋めると日野に口付けを贈ってきた。
神戸へと転がり落ちていくことに恐怖は増すばかりだが、そばにいたい『何か』がある…。これが彼の『魔性』なのだろうか…。

「待っているから」
とんとんとカードキーを持った手を神戸の指先に叩かれる。
日野に早く店内に戻るよう促しながら、神戸も表の通りへと体を滑らせていった。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
トラックバック0 コメント3
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
そんなことを言われたっけ…? ワタシも忘れてました!
コメント甲斐 | URL | 2010-02-25-Thu 22:48 [編集]
あの小悪魔神戸さんにも健気で可愛いとこがあるんですね。寒い裏口でこっそり待ってるなんて。
いやそのギャアプに萌える?日野さん?

ほっぺたつねって「ばか」だってー
つねりながら艶っぽい目で上目遣いでじーっと見てたと思う。

君の知りたい全てのことを教えてあげるよってどんな全てだろう・・・
自分の全て?それとも、君がまだ知らない快感のすべて?

他にも手を出そうなんていう考えは一切ないから、ということは
セフ/レでも、遊びでも、二股三股でもないっていう熱いて告白ですね。

日野ちゃん天涯孤独なのね。
守ってくれるって、よかったね。頭撫でてくれそう。

待ってるってー
さあさあ、お店で盛り上がってるお二人さんにもすぐに帰ってもらいましょ。
Re: そんなことを言われたっけ…? ワタシも忘れてました!
コメントきえ | URL | 2010-02-26-Fri 07:41 [編集]
甲斐様
おはようございます。
私も忘れていました…(汗)

> あの小悪魔神戸さんにも健気で可愛いとこがあるんですね。寒い裏口でこっそり待ってるなんて。
> いやそのギャアプに萌える?日野さん?

ギャップだらけの神戸になりました!!
もう何が起こってもされても驚かないくらい意外性の高い人間です。

> 君の知りたい全てのことを教えてあげるよってどんな全てだろう・・・
> 自分の全て?それとも、君がまだ知らない快感のすべて?

なんでしょうね。
次は何を教えられちゃうの?日野ちゃん…。
ちょっとビクビク、でもワクワク…してないかな。

> 他にも手を出そうなんていう考えは一切ないから、ということは
> セフ/レでも、遊びでも、二股三股でもないっていう熱いて告白ですね。

一応(一応ってなんだ?!)まじめらしいです。
まぁ神戸にも色々思っているところはあるみたいですけど。
ちゃーんと伝わらなくて日野にへんな妄想をさせたことで言い切ったみたいです。

> 日野ちゃん天涯孤独なのね。
> 守ってくれるって、よかったね。頭撫でてくれそう。
>
> 待ってるってー
> さあさあ、お店で盛り上がってるお二人さんにもすぐに帰ってもらいましょ。

「淋しい~」でちょろっと書いたのですが(他にもどこかで書いたな…)日野は両親を亡くしているんです。
神戸がなでなでしてくれるといいんですけど。
邪魔な二人をとっとと追い出しても閉店時間まではまだまだ…。
こういうときこそ"裏技"使ってさっさと帰っちゃえばいいのに。
真面目な日野ちゃんでした。
コメントありがとうございました。
コメントきえ | URL | 2010-02-26-Fri 07:56 [編集]
MO様
こちらにもありがとうございます。

>神戸は、かなり日野のことが気に入ってたんですね。護ってくれる相手がいるって、心強いし、嬉しいですよね。日野も、自分の気持ちに戸惑いながらも、認めざるを得ないようですね。私達が熱望する「素敵な男達が集うバー」の実現も、もうすぐかな?

意外と(?)真面目な神戸でした。(いや、もともと真面目な人なんですけど)
日野も寄り添える場所を得られて嬉しいはずなんですけど、ちょっとまだ抵抗というか、自身で納得しきれていないところがあるみたいです。
もうゴロゴロって甘えちゃいなさいよって私も神戸も思っていますけど。
うちの子たちはみーんな身体から堕ちていくので…
「素敵な男達が集うバー」
↑このまま店名に…(日野に殴られるかな)
今現在のお店の名前もないので、次こそは名付けたいです。
いつになることやら…。
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.