無我夢中で味わった一夜が終わった。
風呂場だけでは収まらず、ベッドの中に戻ってからも二人の接合は続いた。
眠りに付けたのは明け方だった。
雅臣は幸せだと思った。再びこうして誰かに心を寄せられる瞬間。何も考えられないほどぐったりと身体を溺れさせてくれる環境。
まだ、脅えはあるにしても、一時の夢を見ているようだった。
真夜中に雪は止んだようだ。
目が覚めれば一面の銀世界。昨夜見た時よりも随分と積もっていたが、踏み固められたわけではないのでさらさらとしていた。
朝目覚めて、正気に戻った時、雅臣は激しく怒りを露わにした。
雅臣の首筋にはどうやっても隠しようのない鹿沼の噛みついた痕があったからだった。
吸血鬼だってもっと控え目な痕の残し方だろう…。
囲炉裏端に朝食の準備をしてもらいながら、電車が止まっていると耳にした。
「この時期、たまにあるんですよね。昨夜は本当に良く降りましたから…」
仲居さんはすぐに動き出すだろうと、たいして気にした様子もなく、朝食を整えると部屋を去っていった。
この後、チェックアウトをするまでは部屋に誰も訪れないらしい。
鹿沼が気を使って遅めの朝食にしてくれた。
もうすでに8時半になろうとしている。
昼前まで部屋を使えるプランだったから、まだまだこの旅館内でゆったりとできた。
こうやってのんびりと過ごせる空間って、客層によってはうけそうだな…。
なんて雅臣は販売計画を立てていたりしたけど。
再び温泉街をぷらぷらと歩きながら駅までの道のりを過ごした。
来る時は車に乗せられて宿泊先に辿り着いてしまったけど、そう、遠い距離でもない。
何よりも鹿沼と雑談をしながら過ごす時間が楽しくて仕方なかった。
この場所に連れてきてもらえたことを心から感謝した。
自分が生まれ変わったようなこそばゆい感覚に見舞われた。
「ありがとう…」
そう伝えると鹿沼は、珍しく照れたような笑みを浮かべた。
雅臣の首には大判の絆創膏が貼られていた。
好奇心旺盛な女性社員から、「どうでした?」と感想を聞かれながら連休明けの一日が終わろうとしていた。
部屋についてなのかプライベートに関してなのか、質問されるたびにドキッとしてしまう。
もちろん、後者についてははっきりと聞かれても答える気はないが…。
『特別室』という部屋は、かなり興味を惹かれるらしい。
どんな様相だったか伝え、溜め息と感嘆の声を耳にしながら残務処理を手掛ける。
今日は一日中、客さえ途切れればそんな話ばかりだった。
皆、情報はそれなりに耳に入れてはいたものの、実際の意見を聞きたいのだろう。
もうすぐ閉店だという夕食時に、一人の女性が現れた。
20代も前半だと分かる幼さが残る顔立ちだ。ゆるく髪をカールさせ、身体のラインを隠すようなワンピースを着ていた。清楚な雰囲気が前面に出ている。
まだ幼い、1、2歳くらいの子供をベビーカーに乗せ連れていた。
女性社員たちはすでに知った顔のようで、客が入ってくるなり、雅臣の顔を見た。
どうやら、休日の間に雅臣を尋ねて来ていたらしい。
目配せだけで状況を判断した雅臣はカウンターの前へと立った。
何か詳しいことでも聞きたいことがあったのだろうか。
近付いてきた女性客がネームプレートに視線を落とし名前を確認した次の瞬間、ふり上げられた手が雅臣の頬を叩いた。
バシンッという激しい音が店内中に響き渡る。
「このっ、泥棒猫っ!!」
あまりの素早さに、叩かれた痛みも、彼女の発する意味も、雅臣は理解ができなかった。
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風呂場だけでは収まらず、ベッドの中に戻ってからも二人の接合は続いた。
眠りに付けたのは明け方だった。
雅臣は幸せだと思った。再びこうして誰かに心を寄せられる瞬間。何も考えられないほどぐったりと身体を溺れさせてくれる環境。
まだ、脅えはあるにしても、一時の夢を見ているようだった。
真夜中に雪は止んだようだ。
目が覚めれば一面の銀世界。昨夜見た時よりも随分と積もっていたが、踏み固められたわけではないのでさらさらとしていた。
朝目覚めて、正気に戻った時、雅臣は激しく怒りを露わにした。
雅臣の首筋にはどうやっても隠しようのない鹿沼の噛みついた痕があったからだった。
吸血鬼だってもっと控え目な痕の残し方だろう…。
囲炉裏端に朝食の準備をしてもらいながら、電車が止まっていると耳にした。
「この時期、たまにあるんですよね。昨夜は本当に良く降りましたから…」
仲居さんはすぐに動き出すだろうと、たいして気にした様子もなく、朝食を整えると部屋を去っていった。
この後、チェックアウトをするまでは部屋に誰も訪れないらしい。
鹿沼が気を使って遅めの朝食にしてくれた。
もうすでに8時半になろうとしている。
昼前まで部屋を使えるプランだったから、まだまだこの旅館内でゆったりとできた。
こうやってのんびりと過ごせる空間って、客層によってはうけそうだな…。
なんて雅臣は販売計画を立てていたりしたけど。
再び温泉街をぷらぷらと歩きながら駅までの道のりを過ごした。
来る時は車に乗せられて宿泊先に辿り着いてしまったけど、そう、遠い距離でもない。
何よりも鹿沼と雑談をしながら過ごす時間が楽しくて仕方なかった。
この場所に連れてきてもらえたことを心から感謝した。
自分が生まれ変わったようなこそばゆい感覚に見舞われた。
「ありがとう…」
そう伝えると鹿沼は、珍しく照れたような笑みを浮かべた。
雅臣の首には大判の絆創膏が貼られていた。
好奇心旺盛な女性社員から、「どうでした?」と感想を聞かれながら連休明けの一日が終わろうとしていた。
部屋についてなのかプライベートに関してなのか、質問されるたびにドキッとしてしまう。
もちろん、後者についてははっきりと聞かれても答える気はないが…。
『特別室』という部屋は、かなり興味を惹かれるらしい。
どんな様相だったか伝え、溜め息と感嘆の声を耳にしながら残務処理を手掛ける。
今日は一日中、客さえ途切れればそんな話ばかりだった。
皆、情報はそれなりに耳に入れてはいたものの、実際の意見を聞きたいのだろう。
もうすぐ閉店だという夕食時に、一人の女性が現れた。
20代も前半だと分かる幼さが残る顔立ちだ。ゆるく髪をカールさせ、身体のラインを隠すようなワンピースを着ていた。清楚な雰囲気が前面に出ている。
まだ幼い、1、2歳くらいの子供をベビーカーに乗せ連れていた。
女性社員たちはすでに知った顔のようで、客が入ってくるなり、雅臣の顔を見た。
どうやら、休日の間に雅臣を尋ねて来ていたらしい。
目配せだけで状況を判断した雅臣はカウンターの前へと立った。
何か詳しいことでも聞きたいことがあったのだろうか。
近付いてきた女性客がネームプレートに視線を落とし名前を確認した次の瞬間、ふり上げられた手が雅臣の頬を叩いた。
バシンッという激しい音が店内中に響き渡る。
「このっ、泥棒猫っ!!」
あまりの素早さに、叩かれた痛みも、彼女の発する意味も、雅臣は理解ができなかった。
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びっくりです。
そういう台詞いうのは、自分の夫(恋人)を取られた女の常套句ですよね。
ま、まさか、鹿沼くん??
他に誰かいたっけ?
あー、あの陰険な上に湿度高そうで、イヤな感じのアイツ?
そういう台詞いうのは、自分の夫(恋人)を取られた女の常套句ですよね。
ま、まさか、鹿沼くん??
他に誰かいたっけ?
あー、あの陰険な上に湿度高そうで、イヤな感じのアイツ?
甲斐様
こちらにもありがとうございます。
忘れたころに上がってくる雅臣たち…。
> びっくりです。
> そういう台詞いうのは、自分の夫(恋人)を取られた女の常套句ですよね。
> ま、まさか、鹿沼くん??
> 他に誰かいたっけ?
> あー、あの陰険な上に湿度高そうで、イヤな感じのアイツ?
定番のセリフが飛んできました。
登場人物が少ないのであっという間にばれるストーリーです。
でももう長いこと関係ない二人のはずなのにね。
今後雅臣と鹿沼に何が起こっちゃうのかしら???
なるべく早く書きあげたいんですけど…。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございます。
忘れたころに上がってくる雅臣たち…。
> びっくりです。
> そういう台詞いうのは、自分の夫(恋人)を取られた女の常套句ですよね。
> ま、まさか、鹿沼くん??
> 他に誰かいたっけ?
> あー、あの陰険な上に湿度高そうで、イヤな感じのアイツ?
定番のセリフが飛んできました。
登場人物が少ないのであっという間にばれるストーリーです。
でももう長いこと関係ない二人のはずなのにね。
今後雅臣と鹿沼に何が起こっちゃうのかしら???
なるべく早く書きあげたいんですけど…。
コメントありがとうございました。
きえ | URL | 2010-02-26-Fri 07:49 [編集]
MO様
おはようございます。
>せっかく雅臣も、鹿沼と一緒に身も心もリフレッシュしてきたというのに、また過去に引き戻されちゃうんでしょうか?奥さんが、子連れで こんな行動に出るなんて、北本は何を言ったんでしょう?
とっても良い温泉旅行でした。
でも会社に戻ったら、登場しなくていい人間が待っていました。
北本…ってもうばれてるし(汗)
何を言ったんですかね~。
雅臣としてはもう昔のことで鹿沼と仲良くやっていこうと決めた矢先に…。
会社まで押し掛けてくるって、北本も奥さんに愛されているんだなって思うんですけど。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
>せっかく雅臣も、鹿沼と一緒に身も心もリフレッシュしてきたというのに、また過去に引き戻されちゃうんでしょうか?奥さんが、子連れで こんな行動に出るなんて、北本は何を言ったんでしょう?
とっても良い温泉旅行でした。
でも会社に戻ったら、登場しなくていい人間が待っていました。
北本…ってもうばれてるし(汗)
何を言ったんですかね~。
雅臣としてはもう昔のことで鹿沼と仲良くやっていこうと決めた矢先に…。
会社まで押し掛けてくるって、北本も奥さんに愛されているんだなって思うんですけど。
コメントありがとうございました。
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