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BLの丘
大人の時間 2
2010-03-16-Tue  CATEGORY: 大人の時間
「美琴」と呼ばれて野崎は明らかに分かるように眉間を寄せた。
今年37歳を迎える野崎にとってよばれたくない名称のひとつである。
「ファーストネームで呼ばないで頂きたいと以前にも申し上げたはずですが」
憮然とした野崎に、薄笑みを浮かべたまま気にした様子もなく近付いてきた水谷がデスクの上の空いた所にコトっとグラスを一つ置いた。そしてデスクに山積みにした書類を手で移動して自分が座れるスペースを作る。
「どうして?可愛い名前をつけてもらったって喜べばいいだろう?」
静かなバリトンが響く。
「『可愛い』?そう言われるから嫌なんですよ。女の子みたいじゃないですか…」
野崎の名前は茶道の家元である祖父「瑳琴(さこと)」がつけたものだ。
上に兄がいる。
祖父を始め、誰もが次は女の子が生まれると信じていた。
期待は裏切られたが、名前だけはずっとためたものがつけられた。
『美琴』…。
野崎は一度だってその名を喜ばしいと思ったことはない。
母は望まれても次を産まなかった。

お酒は結構ですと言いたげに、グラスを隅の方へ寄せる。
水谷には何度言っても、野崎を呼ぶ名を変えなかったから半ばあきらめてはいるが…。

水谷はデスクに腰を軽く乗せ、手にしていたグラスを口元で傾けた。
店で飲みながら営業をしている姿は知っているが、裏に下がってきてもいいものかと心配する。
「それより、お店は大丈夫なんですか?」
「あぁ、どうせ客も来ないし、もう明りを消してきた」
「なっ…っ?!」

営業時間などあってないようなものだ。水谷の気分で開けられたり閉められたりする。
これまで勤めていた日野尚治(ひのしょうじ)が辞めて以来、この店の営業状況はあまり芳しくないのが正直なところだが、水谷にすれば、趣味の一つでしかないようだった。
儲けは他の所で補える…。
そう、いままで野崎が目にしていた書類などから…。

水谷は株の取引や不動産の管理など、事業を幅広く持っていた。
何故この場に野崎がいなければいけなくなったのかといえば…、ただのとばっちりといっていい。

英人のビルの3Fを早々に神戸の申し出通り改築し、バーとして使えるようにした。
ところが肝心のバーテンダーが不在だった。
水谷は日野をかっていたし、辞めさせようとしなかった。全面的に日野に任せていたと言っていい。
日野も気の良さから店を辞めることに後ろ髪を引かれていたようだ。
1か月以上、主のいないまま放置され、痺れを切らした千城が「なんとかしろ」と詰め寄ったのが野崎で、水谷に店に出ることを説得した。
水谷がバーテンダーとして店に出ればこの店の存続ができる。
もちろん水谷は店を潰すことも日野を辞めさせることも反対した。
この膨大な事業を一人でバーの営業と共に起てていくのは無理だという話から、何故か野崎が協力するという結果で落ちついた。
『榛名』にいる以上、野崎の知識の豊富さは水谷にとっても魅力だった。
野崎の力添えが貰えるのであれば、日野の一人を手放して自分が店に出てもいい…。
日野を辞めさせるための交換条件と言って良かった。


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コメント

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コメント高谷 | URL | 2010-03-16-Tue 00:13 [編集]
ちーさんとタケルさんのとばっちりはやっぱり野崎さんに来るんですね(^_^;

傍若無人な2人の苦労を労うだけの幸せが訪れることを祈りたいですね(笑)
Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2010-03-16-Tue 07:04 [編集]
高谷様
おはようございます。

> ちーさんとタケルさんのとばっちりはやっぱり野崎さんに来るんですね(^_^;
>
> 傍若無人な2人の苦労を労うだけの幸せが訪れることを祈りたいですね(笑)

とうとう神戸発の無理難題(?)まで背負うことになってしまった野崎です。
千城と神戸のコンビなんて無茶苦茶な要求ばっかりでしょうね。
影で英人と日野がオロオロしていることと思います。
そしてもうひとり…。
野崎はなんでもかんでも押し付けられる可哀想な人…なのかなぁ。
それとも意気揚々と飛びこんでいくんでしょうか。
コメントありがとうございました。
コメントきえ | URL | 2010-03-16-Tue 07:12 [編集]
MO様
おはようございます。

>きえ様、新しいお話を、ありがとうございます。またまた思いもよらなかった新カップル登場?と、ビックリしたのですが、そういうことでしたか・・・皆の幸せの為に。頑張ってお仕事してもらいましょう。きっといつか彼にも幸せが・・・そして、日野のお店は、もうできたんですね♪ 更新が楽しみです。

野崎と水谷ではどっちも冷めた大人っていうイメージでいる私です。
驚かせてしまいましたか…すみません。(でもちょっと楽しい)
縁の下のナントカですよね、野崎サン。
彼がいなかったら、みんなの幸せがないのだと周りの人は気付いてあげなきゃ。
日野のお店はできたよ、っていう話になっております。
『大人の時間』が終わったころにまた日野たちを出せたら…と思ってはおりますが…(う~ん…)
コメントありがとうございました。
閑古鳥?
コメント甲斐 | URL | 2010-03-17-Wed 20:57 [編集]
我侭なんだからー千城さんたら。
それにしてもこのバーは日野ちゃんでもってたんですね。
うんうん、ワタシもこのお店の常連だったら一緒に移るかも~
でも、オーナーさんも捨てがたい。
Re: 閑古鳥?
コメントきえ | URL | 2010-03-17-Wed 23:32 [編集]
甲斐様
こんばんは。

> 我侭なんだからー千城さんたら。
> それにしてもこのバーは日野ちゃんでもってたんですね。
> うんうん、ワタシもこのお店の常連だったら一緒に移るかも~
> でも、オーナーさんも捨てがたい。

閑古鳥が鳴いています。
どんだけ日野に人気があったのでしょう。
これじゃ、神戸サンも気が気ではなくなるかも?!
いつものごとくわがままな千城さんは、一刻も早く『おうちの近く』以外に英人を出したくなかった模様ですね。
ぜひ、交互に通ってあげてください。
閑古鳥が鳴いているお店は貸切状態だと思うので、オーナーは甲斐様専属です。
コメントありがとうございました。
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