「やめろってっ!!」
咄嗟に北本の手を叩き落とした。
今触れられたら自分の心がどんどん迷子になる気がした。
「なんで別れたんだろうってちょっと後悔した。まぁあの頃はちょうど綾と知り合ったばかりの頃で、あの女の家が魅力だったからな」
「二股かけてたってこと?!」
「さすがにそれはしてねぇよ。綾にかかりっきりになって雅にかまってやれなくなるのは分かっていたし。あれだけの生活を送っていたら雅が気付くのなんて時間の問題だろう。おまえ、俺にすっげー夢中だったじゃん」
「うぬぼれてんなっ、ばかっ!!」
ニヤリ笑われて顔が熱くなってくる。
長いこと忘れられなかった理由の一つを挙げられたようだった。
そして過ごした日々を北本も忘れていなかったんだと言われたようで悔しいが嬉しかった。
「俺、付き合った男、おまえだけだったって知ってた?たぶん、おまえにどんどんとのめり込んでいく自分が怖かったっていうのもあったんだと思う。なんだかこの前っから随分とそのこと、考えていたけど。そこにきてあんな写真を叩きつけられたからさ。現実にしてやろうかと思った」
聞きたくない事実を聞かされた気分だ。
今頃になって別れた理由を覆されたくない。
ずっと頭にこびりついていた、さっきまで振り返っていた『幸せだった時』が脳裏を巡っていく。
同時に危機意識が生まれる。
雅臣が逃げられる場所がない。
「俺が雅を抱いたら、あの男っておまえを捨てるような奴?それとも一度の間違いとか言って許すか?」
「な、に、…言って…?」
北本が何の目的をもってここまでやってきたのか…。
改めて口に出されたことに鹿沼の顔がちらついた。
鹿沼のことだから許しはするだろうが絶対に溝ができる。
だいいち自分がそんな状況に耐えられないだろう。
それに今鹿沼から突き離されたら二度と這い上がれないのではないかという心の弱さが表れた。
ここに北本を入れてしまった自分の愚かさも浮かぶ。
北本を否定しながら、二人の男の間で揺れ動いている自分を知ってしまった。
鹿沼が恐れていたのはこれだろう…。
「5年振りに俺を思い出せよ」
「あほっ!!おまえ、自分が結婚しているって分かってんのっ?!」
自分勝手にもほどがある。
そう思うことで自分の中にある感情を消してしまいたかった。こんな最低な男なんだとまた思いたかった。
「もちろん、分かっているよ。だから今日は『昨日の一件を謝罪しに来た』っていう口実がある。うちのカミさんが失礼なことをしただろう」
「謝ってもらったから、もう帰れよっ!おまえとこれ以上話をすることはないっ!!」
「俺はまだ話し足りないんだよ」
伸びてきた手が雅臣の上腕を捕まえた。握力の強さに顔がしかめられる。
力の差ではどうにもならないのは昔から良く知っていた。
今のこの男は弱った草食動物を嘗め始めた獣のようだった。
喰うのではなく、嘗める…。
過去を詫びるような…。
どれだけ北本を憎もうとしても、雅臣はできなかった。
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咄嗟に北本の手を叩き落とした。
今触れられたら自分の心がどんどん迷子になる気がした。
「なんで別れたんだろうってちょっと後悔した。まぁあの頃はちょうど綾と知り合ったばかりの頃で、あの女の家が魅力だったからな」
「二股かけてたってこと?!」
「さすがにそれはしてねぇよ。綾にかかりっきりになって雅にかまってやれなくなるのは分かっていたし。あれだけの生活を送っていたら雅が気付くのなんて時間の問題だろう。おまえ、俺にすっげー夢中だったじゃん」
「うぬぼれてんなっ、ばかっ!!」
ニヤリ笑われて顔が熱くなってくる。
長いこと忘れられなかった理由の一つを挙げられたようだった。
そして過ごした日々を北本も忘れていなかったんだと言われたようで悔しいが嬉しかった。
「俺、付き合った男、おまえだけだったって知ってた?たぶん、おまえにどんどんとのめり込んでいく自分が怖かったっていうのもあったんだと思う。なんだかこの前っから随分とそのこと、考えていたけど。そこにきてあんな写真を叩きつけられたからさ。現実にしてやろうかと思った」
聞きたくない事実を聞かされた気分だ。
今頃になって別れた理由を覆されたくない。
ずっと頭にこびりついていた、さっきまで振り返っていた『幸せだった時』が脳裏を巡っていく。
同時に危機意識が生まれる。
雅臣が逃げられる場所がない。
「俺が雅を抱いたら、あの男っておまえを捨てるような奴?それとも一度の間違いとか言って許すか?」
「な、に、…言って…?」
北本が何の目的をもってここまでやってきたのか…。
改めて口に出されたことに鹿沼の顔がちらついた。
鹿沼のことだから許しはするだろうが絶対に溝ができる。
だいいち自分がそんな状況に耐えられないだろう。
それに今鹿沼から突き離されたら二度と這い上がれないのではないかという心の弱さが表れた。
ここに北本を入れてしまった自分の愚かさも浮かぶ。
北本を否定しながら、二人の男の間で揺れ動いている自分を知ってしまった。
鹿沼が恐れていたのはこれだろう…。
「5年振りに俺を思い出せよ」
「あほっ!!おまえ、自分が結婚しているって分かってんのっ?!」
自分勝手にもほどがある。
そう思うことで自分の中にある感情を消してしまいたかった。こんな最低な男なんだとまた思いたかった。
「もちろん、分かっているよ。だから今日は『昨日の一件を謝罪しに来た』っていう口実がある。うちのカミさんが失礼なことをしただろう」
「謝ってもらったから、もう帰れよっ!おまえとこれ以上話をすることはないっ!!」
「俺はまだ話し足りないんだよ」
伸びてきた手が雅臣の上腕を捕まえた。握力の強さに顔がしかめられる。
力の差ではどうにもならないのは昔から良く知っていた。
今のこの男は弱った草食動物を嘗め始めた獣のようだった。
喰うのではなく、嘗める…。
過去を詫びるような…。
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