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BLの丘
ちょうどいいサイズ 3
2010-03-28-Sun  CATEGORY: ちょうどいい
あまりにも順調なほど時が流れていく。
決算時期の一番忙しく、そして数字に追われる日々。
これまで全く売り上げの無かった一葉の名が書かれた一覧表に、売り上げを示す花飾りが5個6個と花開いた。
「朝比奈ぁ!!こんな力があったなら、もっと前からがんばれよっ!!!」
一人の売り上げ成績はもちろんのこと、それは営業所の売り上げに直結する。
40歳を前にして営業所長にまで昇り詰めていた磯部(いそべ)は、たった数週間の間に一気に成績を伸ばした従業員に怒声…ならぬ、感激の言葉をかけてきた。
一葉自身、何がどうなっているのかわからないくらいだ。

とりあえず、那智の恋人が出掛けるのに便利だから…という理由で一台のステーションワゴンの購入を決めてくれた。
エコカーやらなんやらと話題になる今、買い替え需要もそれなりにあるらしく、那智の恋人の会社の人間まで関心を示してくれて、数台の相談を受けた後に団体購入(本当にあるのか、こんな制度?!)で納品契約を結んだ。
全てが一葉の名前でとりつけられた契約内容には営業所長も黙る。

そんな時に『お客さんを紹介したい』と安住から連絡が入って一葉は驚いた。
ただの社交辞令と思っていた挨拶が、まさか現実になるとは思ってもいなかったからだ。
一人で足を向けるのはなんだか気が引けて、那智に相談すれば、「馬鹿じゃないの?!」と罵られた。
それくらいの売り上げ、自分でなんとかしろと言いたいらしい…。

売上がどうこうというよりも、安住に会うというほうに緊張していた一葉だったのだけど…。
一葉は以前もらった『安住享利(あずみ きょうり)』と書かれた名刺をしげしげと眺めてしまう。
せっかく作ってくれた機会を無下にするわけにはいかない。

勇気を振り絞って、言われたとおりに再び、あの喫茶店のような事務所へと足を運ぶことにした。
そう、これは仕事なのだ。
午後の一番が良いと言うので、この前同様、近くの定食屋で昼食を済ませてから安住の家へと向かう。
出迎えてくれた安住はあの時と変わらぬ優しい笑顔を向けてくれた。
「わざわざごめんね」
「いえ、こちらこそ…」
さりげない挨拶を交わし、奥へと招かれる。
家の中には老婆がいた。
「お孫さんの車をね…」
安住は一葉を紹介するとその後は口出しをすることもなく全てを一葉に任せてきた。
もちろん『孫』の意思が第一なのでこの場での契約などなかったのだが、一葉にしてみれば紹介してもらっただけでもありがたい。
彼女の口から聞かされるあれやこれといった話の中で、いかに安住に信頼を置いているのかが伺える。
安住に対しての信用があるから一葉の話も聞いてくれるのだろう。
彼の人間性を垣間見たような気がした。

一通りの説明などを済ませ、老婆を見送った後、安住は新しいコーヒーを淹れてくれた。
「一葉ちゃん、まだ時間は大丈夫かな。午前中にお客さんからケーキを頂いてね。ちょうどおやつの時間だね」
説明に夢中になっていて時計など気にしていなかったが、思いのほか時間が経っていた。
あまり長居をするのも申し訳ないようで一度は断ったのだが、安住に再び勧められればそれ以上の言葉を一葉は探せなかった。

安住と会うのは2度目のはずなのに、彼が醸し出す雰囲気は人の心を落ち着かせるものだった。
静かな口調で語られる話題は多く、人を飽きさせない。
そして一葉の話もきちんと聞いてくれる。

「たまにさくらちゃんも来るんだよ。近くに来た時には寄ってね」
那智が『さくらちゃん』なんていう可愛らしい愛称をつけられていることにも驚くが、『一葉ちゃん』と呼ばれることにも照れくささが増す。
親しみやすく、と彼なりの配慮なのだろう。
心地よい時間を過ごし、来た時の緊張もなくなり気分も明るくなって、一葉は春の陽気のような温かな気持ちを抱えて営業所に戻った。

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